パテック フィリップに夢中

パテック フィリップ正規取扱店「カサブランカ奈良」のブランド紹介ブログ

クロノグラフ 一覧

腕時計の商品寿命は比較的長い。使われ方次第ではあるが半永久的とも言える(オーナーの元で愛用される)製品としての寿命では無く、我々流通業者が販売をする期間であるデビューから生産中止(ディスコン)までの店頭での販売期間の方の寿命である。時計ビジネスに携わり始めた30年程前より今の方がどのブランドも少し短めになった気はするけれども・・
もちろんパテック フィリップのタイムピースにもこの寿命はあって感覚的ながら長い物は十数年、平均は5年から7年くらいか。短いものはたった一年という短命モデルもある。パテックでは同一モデルの年間生産数はある程度決まっているので寿命が短ければ短いほど市場投入された個体数が限られる。オークションにおけるアンティークウオッチの落札価格がその希少性によるところが最も大きいのは明らかなので、将来のお宝度合いは数量限定モデルの次に来るのが短命モデルと言う考え方も出来る。
本日ご紹介は既に文字盤違いや素材違いで取り上げ済みながらもそんなお宝2点。共通点は今年生産中止発表後に入荷してきた事と短命モデルだった事だ。
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Ref.5710R-001は2016年デビューから2年しか生産されなかった手巻きクロノグラフ。商品詳細は紹介済みの5170G-001(廃番)及び5170P-001(唯一の現行)をご覧いただきたい。ローズゴールドの優し気な色合いに暖か味の有るクリーム系の文字盤上に2カウンターの目玉、このクロノグラフ実にあっさりスッキリしている。ブレゲ数字がカジュアルさを演出するので、さりげなく普段使いという究極に贅沢な一本だと思う。

Ref.5170R-001
ケース径:39.4mm ケース厚:10.9mm ラグ×美錠幅:21×16mm 
防水:3気圧
ケースバリエーション:RG、PT
文字盤:シルバリィ オパーリン ゴールド植字ブレゲ数字インデックス
ストラップ:手縫いシャイニー(艶有)チョコレートブラウンアリゲーター 
バックル:フォールデイング(Fold-over-clasp)
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Caliber CH 29-535 PS:コラムホイール搭載手巻クロノグラフムーブメント
直径:29.6mm 厚み:5.35mm 部品点数:269個 石数:33個 受け:11枚 
パワーリザーブ:最低65時間(クロノグラフ非作動時)クロノグラフ作動中は58時間
テンプ:ジャイロマックス 髭ゼンマイ:ブレゲ巻上ヒゲ
振動数:28,800振動

2018年6月18日現在 店頭在庫あります。価格はお問合せ下さい。

もう一点はわずか一年で今年ディスコンとなったRef.5960/1A-010年次カレンダー搭載フライバッククロノグラフ。昨年まで人気を博した白文字盤5960/1A-001と入れ替わりでデビューしたばかりの黒文字盤。いづれもがスポーツ系のノーチラスとアクアノート以外ではパテック フィリップ唯一のメンズステンレスモデルだった。昨今ノーチラスとアクアノートのスポーツ系の人気が凄すぎて、我々も含めてパテックのステンレスモデルは当たり前の様な錯覚をしているがスポーツシリーズ以外にステンレスモデルは現行でラインナップが無くなってしまった。逆にRef.5960のステンレスバージョン誕生が例外的だったと言うべきで、限定などを除いてステンレスは殆ど作らないブランドがパテックである。その意味でこのディスコンモデルの希少性はとても高い。
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センターローターに垂直クラッチ、さらに年次カレンダーモジュールを組み込めば流石に厚みはそれなりとなる。画像は使い回しですみません。
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Ref.5960/1A-010 年次カレンダー自動巻きクロノグラフ

ケース径:40.5mm ケース厚:13.5mm ラグ×美錠幅:21×16mm 
防水:3気圧
ケースバリエーション:SS、WG
文字盤:エボニーブラックオパーリン ゴールド植字バーインデックス
ブレスレット:両観音クラスプ付きステンレス5連ブレス 抜き打ちピン調節タイプ 

ムーブ画像も使い回しです。
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Caliber CH 28-520 IRM QA 24H:年次カレンダー機構付きコラムホイール搭載フルローター自動巻フライバッククロノグラフムーブメント

直径:33mm 厚み:7.68mm 部品点数:456個 石数:40個 受け:14枚 
パワーリザーブ:最低45時間-最長55時間(クロノグラフ作動時とも)
テンプ:ジャイロマックス 髭ゼンマイ:Spiromax®(Silinvar®製)
振動数:28,800振動
ローター:21金ローター反時計廻り片方向巻上(裏蓋側より)

2018年6月18日現在 店頭在庫あります。価格はお問合せ下さい。


文責:乾

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昨年のバーゼルはこのモデルの話題で随分盛り上がった。音系とカレンダーを除いた2大コンプルケーションともいえるワールドタイムとクロノグラフとの夢の組み合わせ。今まで無かったのが不思議だなと発表時には思ったものだが、実は毎日のようにその原型となった時計を見ていたのだった。本ブログのテキスト的存在の「PATEK PHILIPPE GENEVE」HUBER & BANBERY著のブックカバー掲載のRef.1415HUがそれ。手巻きクロノグラフに初期型のワールドタイムを組み合わせたスペシャルオーダーのユニークピース(製造No862 442)。一番外側のシティディスクは手動で、インナーの24時間リングはリューズの時刻調整と連動して操作する形。現代では別々のLONDRES(LONDON)とパリが同じタイムゾーン。東京はTOKIOとされ隔世の感がある。
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ところでこの時計の解説文には30分計クロノグラフとの記載があるが、どう見てもそれらしき機能は見られない。ただこの時計にはパルスメーター(脈拍計)が2系統も用意されている。外側の220-20目盛が15回の脈を数えて1分間の脈泊数を知るレールで24時間計の内側60-10目盛のレールは5回の脈で1分脈拍を読むチョッとずぼらな脈拍計。他ブランド等の手巻きクロノグラフでパルスメーター付を見てみると30回脈で測定するタイプが多い。想像するにこの時計はタイムゾーン移動の多い医療関係者が積算目的ではなく脈拍測定を主な用途としてクロノグラフ機能を特注で附加したのかもしれない。
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翻って現代版にはやや小ぶりな30分積算計が付きパルスメーターは無い。タイムゾーン移動はリューズではなく10時位置のプッシュボタン一つで短針とシティディスク&24時間ディスクを連動して1時間単位で同時に変更できる。これは1959年にジュネーブの時計師ルイ・コティエ氏が開発・特許化した技術。実に60年近くにわたって使われ続ける実用的な仕組み・・誠に機械式時計の世界は息が長いと言うか何というのか・・
ダイアルセンターは定番ワールドタイムに倣ってギョーシェ装飾が施されている。紋様はシンプルかつ力強くモダンテイスト。ちなみにクロノグラフはパテック最先端の垂直クラッチ搭載のフライバック付き。キャリバーで言えば自動巻CH28-520系なのだが、初見では一瞬手巻きではないかと思ってしまった。それは各プッシュボタンの形状がスクエアかつ上下面がサテン仕上げになっているためだ。この組み合わせは現行ラインナップでは初めてのハズ。まあ30分計が6時位置なのでキャリバーは限られるのだけれど・・
ラグの形状もワールドタイム繋がりでか段差付きのウイングレットラグ。
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尚、クロノ秒針がこの時計では通常秒針として使用可能である。これはパテック開発の優れた垂直クラッチの賜物である。また24時間ディスクとシティディスクの間にある秒スケールは28800振動(4Hz)に合わせて4分の1秒で刻まれている。どうもこの時計ケース形状はクラシカルながら顔は結構モダンである。
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フルローター自動巻きに垂直クラッチという厚みが出る組合せにワールドタイムモジュールを組み込んでいる。それでもムーブ厚さを7.79mmに抑えている。構成部品数343個もあるというのに流石です。実はスペースの都合で30分計の位置がオリジナルから微妙に変更されているらしい。ケース厚さ12.86mmもスクリューバックケースに両面スケルトンなら妥当な厚みか。

Ref.5930G-001 ワールドタイム自動巻フライバッククロノグラフ
ケース径:39.5mm ケース厚:12.86mm ラグ×美錠幅:21×16mm
防水:3気圧
ケースバリエーション:WG
文字盤:ブルーオパーリン ハンドギョーシェ 蓄光塗料付きゴールド植字バーインデックス
ストラップ:マット(艶無し)ネイビーブルーアリゲーター 
バックル:フォールデイング(Fold-over-clasp)
価格:税別 8,040,000円(税込 8,683,200円)2017年8月現在

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チョッと飛び気味になってしまった後ろ姿。

Caliber CH 28-520 HU:ワールドタイム機構付コラムホイール搭載フルローター自動巻フライバッククロノグラフムーブメント

直径:33mm 厚み:7.97mm 部品点数:343個 石数:38個 
パワーリザーブ:最低50時間-最長55時間(クロノグラフ作動時とも)
テンプ:ジャイロマックス 髭ゼンマイ:Spiromax®(Silinvar®製)
振動数:28,800振動
ローター:21金ローター反時計廻り片方向巻上(裏蓋側より)

PATEK PHILIPPE 公式ページ 

文責:乾
参考:Patek Philippe Internaional Magazine Vol Ⅳ No.2
Wristwataches Martin Huber & Alan Banbery P.270




永久カレンダークロノグラフRef.5270の記事でも触れたがパテック フィリップは100年以上にわたるクロノグラフタイムピースの輝かしい歴史を持っている。その一方で厳密に言えばこの分野ではマニュファクチュール(完全自社設計開発生産)のキャリバーを持たずについ最近(2004年)までエボーシュより専用のエンジン供給を受けてきた。1900年代前半にはジュ―渓谷ル・サンティエのヴィクトラン・ピゲ、1929年以降はバルジュー、1986年からはヌーベル・レマニアがサプライヤーの重責を果たしてきた。
しかし2000年代に入るとスオッチグループ傘下のレマニアからの安定供給に危険信号が燈るようになりクロノグラフキャリバーのマニュファクチュール化プロジェクトが進められた。で、最も難しそうな手巻スプリットセコンドクロノグラフを1920年代のエボーシュキャリバーを手本に開発し2005年にRef.5959を発表した。ただしこのキャリバーCal.CH27-525は昔ながらの工房内で限られた熟練職人の手作業によって全工程を2度組される伝統的な製作手法によるため極端に生産数が少なくかつ非常に高額なエンジンである。翌2006年には同じクロノグラフでも非常に現代的である程度の量産が可能ないわゆる″シリーズ生産"型の自動巻クロノグラフCal.CH28-520が開発された。さらに2009年に古典的な美観を備えた手巻シンプルクロノグラフCal.CH29-535が発表されパテックのクロノグラフ自社化は完結した。
今回紹介のRef.5960はこの2番目に開発発表されたCH28-520を始搭載したデビューモデル。発表年2006年のバーゼルはこの画期的なクロノグラフの話題で持ちきりだった。垂直クラッチを備えた自動巻きクロノというベースキャリバー開発だけでも話題性充分なのにパテックはいきなりパワーリザーブと年次カレンダーのモジュールを追加し、プラチナケースに搭載してきた。このモデルはケース形状やダイアルデザイン共にクラシックと対極の現代パテックのモダンテイストで仕上げられた。逆ぞりのベゼル、12時側に弓状に並ぶカレンダー表示窓、30分と12時間のクロノグラフ積算計の同軸表示。さらにはカラーリングもスポーティなレッドやブルーを差し色にする事でそれまでになかったパテックの新しいイメージが打ち出された。
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当初プラチナ以外の素材ではリリースしないと言われていた5960Pは2014年にベストセラーかつ希少モデルのまま生産が中止され、ドロップリンクブレスレットを備えたステンレスモデルの後継機Ref.5960/1Aにそのモテモテ人気も一緒に引き継がれた。そして今春のバーゼルでそのステンレス白文字盤は生産中止となり今回紹介の後継モデル2型がラインナップされた。
まずステンレス新ダイアルの黒文字盤Ref.5960/1A-010。赤針2本以外の針色、カレンダー窓枠、インデックス、文字盤ベース・・見事にまで反転液晶のごとく白が黒に、黒が白に逆転されている。傾向として従来の白が良いとの評価もあるが、個人的には好みの問題で優劣を感じてはいない。
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上画像では針やインデックス等の鏡面部がブラックアウトしているが、実際の色目は下のようになっている。
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で、さらに5960としては3番目の素材WGが追加された。色目はトレンドのブルー。色使いは上のステンレスの黒が青にこれまた忠実に置き換わっている。ただしメタルブレス仕様ではなくどこかで見た事のある明るめのブラウンカーフストラップに個性的なピンバックル(Clevis prong buckle)が装備されている。明らかに文字盤カラーも含めて2015年発表のカラトラバ パイロット トラベルタイムRef.5524Gの流れを汲んでいる。
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こちらもSS黒文字盤同様にインデックス等がブラックアウトしてるので現物と見た目感はかなり異なり視認性は充分にある。バーゼルでの初見の印象は正直「売れるのか?売れないのか?よくわからない」。この点でも5524パイロットトラベルと同類なのだった。価格差は税別717万円と約200万円パイロットより高額である。いづれにしても好き嫌いのハッキリ別れそうな個性的な意欲作だと思う。

Ref.5960/1A-010 年次カレンダー自動巻きクロノグラフ
ケース径:40.5mm ケース厚:13.53mm 
防水:3気圧
ケースバリエーション:SS
文字盤:エボニーブラックオパーリン ゴールド植字バーインデックス
ブレスレット:両観音クラスプ付きステンレス5連ブレス 抜き打ちピン調節タイプ 
尚、参考の商品リリースはコチラから
価格:税別 5,560,000円(税込 6,004,800円)2017年8月現在

Ref.5960/01G-001 年次カレンダー自動巻きクロノグラフ
ケース径:40.5mm ケース厚:13.53mm ラグ×美錠幅:21×16mm
防水:3気圧
ケースバリエーション:WG
文字盤:ブルーバーニッシュド ゴールド植字バーインデックス
ストラップ:ヴィンテージ ブラウン カーフレザー クレビスプロングバックル付きブレスレット 
尚、参考の商品リリースはコチラから
価格:税別 7,170,000円(税込 7,743,600円)2017年8月現在

※以下過去記事より転載
冒頭でも触れたキャリバーCal.CH28-520は、それまで頑なに手巻きの水平クラッチに拘っていたパテックのクロノグラフ史を2006年に塗り替えたエポックメイキングなエンジンである。前年発表の完全自社クロノキャリバーCal.CHR27-525は確かに最初の100%自社製造ではあったが、それまでの伝統的製造手法でコツコツと工房で少量生産される手作り的エンジンであり、搭載されるタイムピースも商品というより作品と呼ばれるのがふさわしいユニークピースばかりだ。対してCal.CH28-520は"シリーズ生産"と呼ばれる或る程度の工場量産をにらんだ商業的エンジンであり、パテックフィリップが新しいクロノグラフの歴史を刻み込むために満を持して誕生させた自信作なのだろう。
パテックの自社クロノキャリバー3兄弟の価格は、その搭載機能や構成部品点数に比例せず、どれだけの手仕事が盛り込まれているかで決定される。金銭感覚抜群で働き者の次男CH28-520 C(自動巻、垂直クラッチ、フライバック、部品点数327点)、次がクラシックだけどハイカラな3男坊のCH29-535 PS(手巻き、水平クラッチ、部品点数269点)、そして金に糸目をつけない同楽な長男CHR27-525 PS(手巻き、水平クラッチ、ラトラパンテ、部品点数252点)の順となる。
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上記画像でローターで隠された部分は3枚の受けがあるが、この部分はどの派生キャリバーもほぼ変化が無い。それに対してテンプ左のPPシールの有る受け、さらに左の複雑なレバー類がレイアウトされた空間は派生キャリバー毎にけっこう異なる。必要なミッションに応じて搭載モジュールがダイアル側で単純にチェンジされるだけでなく裏蓋側の基幹ムーブメントへもアレコレと手が入れられている。

Caliber CH 28-520 IRM QA 24H:年次カレンダー機構付きコラムホイール搭載フルローター自動巻フライバッククロノグラフムーブメント

直径:33mm 厚み:7.68mm 部品点数:456個 石数:40個 受け:14枚 
パワーリザーブ:最低45時間-最長55時間(クロノグラフ作動時とも)
テンプ:ジャイロマックス 髭ゼンマイ:Spiromax®(Silinvar®製)
振動数:28,800振動
ローター:21金ローター反時計廻り片方向巻上(裏蓋側より)
又スピロマックス等のパテック フィリップの革新的素材についてはコチラから

PATEK PHILIPPE 公式ページ 

文責:乾

店頭に中々在庫が持てないグランドコンプリケーションクラス。皆さんご存知だとは思うけれど時価(価格表でPrice on request表示のもの)となっているモデルは100%客注対応でほぼ受注生産に近く、サンプルすら日本には常備されていない。価格設定されているモデルでも生産数が極端に少なくて人気の高い数モデルについては、ある程度の購買実績を積み上げて、手続きを経ないと購入できない。例えばワールドタイムクロワゾネモデルRef.5131や永久カレンダースプリットセコンドクロノグラフRef.5204などがそれにあたり、もちろん在庫することは不可能だ。これら特別なタイムピースは撮影のチャンスもまず無いし、手に取ってじっくり見る事すら叶わないので、掘り下げたご紹介も難しい。このように閉鎖的とも見える現在の販売手法には批判的なご意見もあるが、あくまで個人的とお断りして色んな意味で″仕方がない"と思う部分と下駄履き絶対お断りというメゾン系ブランドが時計業界に一つ位はあっても良いように思っている。
結局グラコンで在庫したり紹介出来たりするのは永久カレンダーか今回紹介の永久カレンダークロノグラフあたりに限られてしまう。それでも前者が1,000万円前後、後者は約1800万円なので気軽にストックは出来る代物ではない。今回も展示会にやってきたサンプルをドタバタと撮影した。
以前にも書いたがパテックを代表する顔はたくさんあるが、手巻きの永久カレンダークロノグラフもその一つだと思う。パテック フィリップ マガジン各号のオークションニュースでは常連のように出品が多い。

まずシリーズ生産された最初の永久カレンダークロノグラフモデルは1941年~1951年(たぶん?)に281個製作されたRef.1518。画像は1943年製作のタイムピースで極めて希少性が高くイエローゴールドの時計としてのオークションレコードCHF6,259,000(=約7億千3百万円余り)で2010年にジュネーブで落札されている。
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ちなみに昨年11月に腕時計の世界最高落札価格は更新されている。これまたRef.1518(下)で、わずか4個体しか確認されていないステンレススチール製である。価格はCHF11,002,000(約12億5400万円余り)ヴィンテージウオッチの価値においては、希少性が材質や機能性をしばしば凌駕するようだ。尚、それまでのレコードホルダーはやはりパテック。ただしヴィンテージではなく2015年にオンリーウォッチ・チャリティー・オークションの為に1点製作されたやはりステンレス仕様のRef.5016Aだった。パテックだけがパテックを超えてゆく状態はいつまで続くのやら・・
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1951年以降は1518と同じレマニアのキャリバー13'''を搭載したRef.2499が登場した。インデックスはアラビア数字からバーになり、6時のカレンダーサークルが力強く大き目になった。2499は85年まで34年間の長きにわたって製作された。生産終了時には記念のプラチナ仕様が2個だけ1987年に製作され、1989年にパテック フィリップ創業150周年にオークション出品された。当時の落札価格がCHF24万(=約2,736万円)だったが2012年に14倍の価格CHF344万(=3億9千万円強)で落札されたのは著名なロックギタリストのエリック・クラプトンが長期間所有していたからである。尚、残るもう一つのプラチナモデルはパテック社のミュージアムピースとして収蔵されている。

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1986年からはレマニアの新しいクロノグラフキャリバーCH27-70系を採用したRef.3970がスタートした。それまでのCal.13'''と異なりうるう年表示と24時間表示がインダイアルに追加された。そんなに古いものではないのに画像が荒くて恐縮です。
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Ref.3970は18年間のロングセラーの後、2004年に後継機種Ref.5970にバトンを渡す。キャリバーCH27-70Qはヌーベルレマニアエボーシュの最後のエンジンとしてそのまま引き継がれたが、ケース形状についてはクラシカルとモダンの融合への挑戦がなされた。まずウイングレットと呼ばれる翼を模した段差付きのラグ形状は1942年発表のRef.1561からインスパイアされたとある。またクロノグラフプッシャー形状も華奢なラウンドから1518時代に採用が多かった少し武骨で大振りなスクエアボタンとなった。ボタン上下面のサテン仕上げが実に渋い。それらとは裏腹に内反りしたベゼルは知る限り2000年代になってからチャレンジングなモデルに共通して採用されている現代パテックの特徴的なデザインである。
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そして2011年、今回紹介のRef. 5270がようやく登場となる。このモデルチェンジではウイングレットラグやコンケーブベゼル等のケースデザインが5970からほぼ継承されたが、エンジンはパテック初の完全自社設計製造のマニュファクチュール度100%の新開発手巻きクロノグラフCal.CH29-535をベースとして永久カレンダーモジュールが組み込まれて搭載された。新キャリバーはポストレマニア時代を背負う自社開発クロノキャリバー3部作の最終発表の集大成キャリバーとして高い完成度を有していると思われる。新エンジンよって文字盤には若干の変更が加えらている。3時と9時のインダイアルがセンター針と横一線ではなくて少し6時側方向に下がった事で、4時のインデックスが歴代モデルで採用されていた短めのバーからピラミッドになった。うるう年が3時の指針から4時半の小窓の数字表示となり、24時間表示も9時の指針から7時半の窓表示された。結果的にインダイアルがすっきりし、視認性が格段に向上した。
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現行のRef.5270の詳細。まずウイングレットラグ。サンプルなので小キズや埃はご勘弁と言う事で・・
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サイドは当然それなりの貫禄。と言っても12.4mmはマザーキャリバーCH29-535PSを積んだRef. 5170(10.9mm厚)に加えること1.5mmで、ムーブメントの厚さ比較でも1.65mm差となっている。ただラグも含めてグラマラスなケースデザインからは数字以上の存在感を受ける。
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スクリュー(捻じ込み)構造のトランスペアレンシイのケースバックからは機械式時計一番の男前?正統派手巻きクロノグラフが堪能できる。各プッシャーと連動して正確無比に動作するレバー類のパフォーマンスは見飽きる事が無い。
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ご多聞に漏れずRef. 2499時代に迎えたスイス機械式時計暗黒時代1960年~80年代前半にはかなり生産数が絞られたようだが、1941年以来絶えることなく生産され続けているパテックの永久カレンダークロノグラフ。日常的に愛用されるシンプルな時刻表示機能に特化した腕時計がその時々の時代背景で様々な表情の流行り廃りを経験するのとは対照的に、贅沢かつ趣味性が強く蒐集指向もある為なのか殆ど顔が変わらずに脈々と作り続けられている永久カレンダークロノはやっぱり安心してお勧めできるパテック フィリップの代表格だと思う。

Ref.5270R-001

ケース径:41mm ケース厚:12.4mm ラグ×美錠幅:21×16mm 
防水:3気圧
ケースバリエーション:RGのみ
文字盤:シルバーリィ オパーリン、ゴールド植字バーインデックス
ストラップ:手縫いマット(艶無)・ダークブラウン・アリゲーター 
バックル:フォールデイング(Fold-over-clasp)
価格:税別 17,920,000円(税込 19,353,600円)2017年8月現在

Caliber CH 29-535 PS Q:手巻クロノグラフ永久カレンダームーブメント
瞬時運針式30分計、昼夜表示、コラムホイール搭載
直径:32mm 厚み:7mm 部品点数:456個 石数:33個 
パワーリザーブ:最低65時間(クロノグラフ非作動時)クロノグラフ作動中は58時間
テンプ:ジャイロマックス 髭ゼンマイ:ブレゲ巻上ヒゲ
振動数:28,800振動

PATEK PHILIPPE 公式ページ 

2017年9月12日現在 ご予約対応となります。

文責:乾

Patek Philippe Internaional Magazine Vol.Ⅱ No.5 P.66 VolⅢ No.3 P.68 No.8 P.70 Vol.Ⅳ No.3 P.68
Wristwataches Martin Huber & Alan Banbery P.305

気がつけばもう8月も後半。今夏は梅雨明け以降で湿気がひどく寝苦しい夜が続いた。ところが盆を過ぎてからは夜が急に涼しくなり早朝足が攣ったり鼻かぜ気味になったりと体調管理が難しく厳しい夏だ。このやけに過ごしにくい粘着質の暑さはまだまだ続きそうなのだが・・皆様いかがお過ごしでしょうか。
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本日紹介は今年の新製品として初紹介となるRef.5170P-001。2010年にパテック フィリップ完全自社開発製造となる初の手巻クロノグラフムーブメントCH29-535PSを搭載してイエローゴールドのメンズモデルとして発売以来ホワイトゴールド、ローズゴールドとバリエーションが発表され今年初のプラチナ素材でのローンチとなった。この顔には既視感をお持ちの方も多いと思う。ケース形状は全く違うが昨年秋に発表されたノーチラス40周年限定モデルとして発表されたWGクロノグラフモデルとプラチナ3針モデルで採用された濃青色にバゲットダイアインデックスのコンビネーション。
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ノーチラスの文字盤には特徴的な横縞ボーダー柄があり、微妙な光の当たり加減によって作り出される魅惑的で多彩な表情に悩殺されっぱなしのノーチラスファンが跡を絶たない。5170PのダイアルはBlue sunburst black gradated 放射状の微細な刷毛目紋様の上に文字盤中心の青から円周部の黒へとグラデーションしている。手法は微妙に違うのだが色目の印象が非常に近くて派生モデルっぽく見える。
一般的に言ってメンズウオッチへのダイアモンド装飾はギラギラ感が押し出され過ぎる事が多く、好きな方はそれが魅力で着けておられる。パテックにおいてもベゼルへのダイアセッティイングモデルは存在感タップリで何処にも誰にも負けない立派なものです。ただ一連のノーチラスと言い、5170Pにしてもじっくり見ないと綺麗なバーインデックスに見えてしまったりする。これが押し出しは要らないが自分で満足できる特別感は欲しい時計ファン、パテックファンの背中を押したようだ。個人的にもベゼルダイアは一生腕に巻く事は無さそうだが、この手のモデルは躊躇なく着用可能だ。
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ダイアインデックスを包み込みダイアルにセットしているWGのホルダー。ショーピースを慌てての撮影なのであまり鮮明ではない。万が一の脱落を防ぐためか天地の爪がガッシリしている。ファセット面が非常に少ないのもキラキラ感を抑えている要因であろう。
今年の新製品で一番気になったこのモデル。バーゼルで始めて見てその文字盤の美しさに吸い込まれそうになった。先日久々にサンプルを見直してもその思いは変わらない。漆黒の艶っぽいアリゲーターストラップもダイアとの相性がすこぶる宜しい。
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ケース厚は10.9mmは薄すぎず暑すぎずバランスが良く端正で完成されたカラトラバクンロクケースに仕上がっている。スクエアのプッシュボタンは安定感があり、リセットボタンの押し加減は風の様に軽やかで癖になりそうな独特のフィーリングを持っている。
パテック社の商品分類ではグランド(超複雑)ではなく普通のコンプリケーション(複雑)に分類されている手巻クロノグラフ。しかしその製造方法はいわゆる″二度組"と言われるグランドコンプリケーションレベルと同じであり、時としてパテック社の関係者もグラコンと勘違いをしていることすらあって、価格的にもCH29系クロノはグラコン扱いで良いように思う。巷ではヌーベル・レマニア社のパテック向け専用手巻きクロノグラフキャリバーCH27-70が搭載された自社製化直前のRef.5070、それもプラチナ(ダイアルは確か濃い目のブルー)の人気が今日でもまだまだ高いそうだ。今回の5170のプラチナも将来そんな伝説のモデルに化ける可能性が有るかもしれない。

Ref.5170P-001

ケース径:39.4mm ケース厚:10.9mm ラグ×美錠幅:21×16mm 
防水:3気圧
ケースバリエーション:PT、RG(ブラック010ホワイト001
文字盤:ブルー サンバースト ブラック グラデーテッド バゲットダイアモンドアワーマーカーインデックス
ストラップ:手縫いシャイニー(艶有)ブリリアントブラックアリゲーター 
バックル:フォールデイング(Fold-over-clasp)
価格:税別 10,500,000円(税込 11,340,000円)2017年8月現在

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以下過去記事より転載
搭載キャリバーは何度見ても惚れ惚れする美人ムーブのCH 29-535 PS。古典的と言われる水平クラッチ(キャリングアーム方式)は美観に優れ、クロノ操作を見る楽しみを与えてくれる。ところがクロノグラフスタート時にドライビングホイール(A、クロノグラフ出車)と常に咬み合っているトランスミッションホイール(B、中間車)が、水平移動してクロノグラフホイール(C、クロノ秒針車)と噛み合う際に、タイミングによって歯先同士がぶつかるとクロノ秒針が針飛びや後退を起こす弱点がキャリングアームにはある。これを解消するためにパテック社ではクロノグラフ輪列(前述のA~C)に特許による新しい歯型曲線を採用している。その他にもコラムホイールカバー(D、偏心シャポー)やレバーやらハンマー等々あっちゃこっちゃに、これでもかと特許技術を投入することで、古典的美観はそのままに時代を先んずる革新的かつ独創的な手巻クロノグラフキャリバーを完成させている。
※パテック社によるCH29-535の解説は→コチラから
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Caliber CH 29-535 PS:コラムホイール搭載手巻クロノグラフムーブメント

直径:29.6mm 厚み:5.35mm 部品点数:269個 石数:33個 受け:11枚 
パワーリザーブ:最低65時間(クロノグラフ非作動時)クロノグラフ作動中は58時間
テンプ:ジャイロマックス 髭ゼンマイ:ブレゲ巻上ヒゲ
振動数:28,800振動

PATEK PHILIPPE 公式ページ 

文責:乾

≪イベントのお知らせ≫
新年早々、1月末に下記展示会の開催をいたします。皆様お気軽にお越しください。
『パテック フィリップ年次カレンダー展示会』
日時:2017年1月20日(金)21日(土)22日(日) 11:00~20:00
会場:店舗2階パテック フィリップ コーナー
詳細はコチラからどうぞ

今回紹介のRef.5905Pは2015年に超人気モデルRef.5960Pの後継機として発表された。
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2016年はパテックにとって話題がてんこ盛りだった。まずノーチラス発売30周年でのシリーズフルモデルチェンジ。そしてパテック フィリップ ブランド史上初めての完全自社開発製造の自動巻クロノグラフムーブメント搭載モデルの発表。フライバック機能を備えクロノグラフ駆動時のトルクロスを押さえ込んだ画期的な垂直クラッチを採用したCal.28-520には最初から2つの派生ムーブメントが用意された。

シンプルなクロノグラフムーブは新生ノーチラスRef.5280に搭載され外装マテリアルを変更しながら現行のRef.5980/1R等で継続している。今秋話題のノーチラス40周年記念限定のWGクロノグラフも同キャリバーが積まれている。
もう一つが年次カレンダーモジュールを積んで非常に先鋭的な顔で発表されたRef.5960Pである。
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この時計も当時まだ奈良の店舗でパテックを触っておらず不勉強だった事もあり、直感的に"好きにはなれない"デザインだった。それまでのパテックにはないスポーティなレイアウトと色遣いの文字盤。恐らくティアリー現社長の好みが相当盛り込まれたと想像できた。プラチナケースだけでも高いのにクロノを積んで900万円近い価格。なんぼパテックでも遊びすぎのダイアルはオイタが過ぎてはしないかと密かに思ったものだ。
ところがいざ市場投入されるや瞬く間に超の付く人気希少モデルになった。その状態が5年は続き、高額商品にもかかわらず2次マーケットではプレミアがつき投資目的買いが正規市場では問題視された。
そして2014年に突然プラチナ製のRef.5960は全て生産中止となり、意表を突く同リファレンスのステンレスモデルがブレス仕様で発表された。このRef.5960/1Aも大変スポーティな文字盤ながら、個人的にはSS素材ならでは生きる元気一杯のダイアルデザインが好印象なモデルだ。
一年ブランクを経て2015年、装いを改め復活したプラチナ製後継機が今回のRef.5905P。デザイン的には2010年に年次カレンダーの新しい顔として登場したRef.5205との共通点が多く、明らかに発展デザインである。具体的には長目のバーインデックスに外周円と内周円で描く古典的なセクター(Section)ダイアルやケースサイドの長細い抉り込み等である。ただRef.5205自体が12時側に弓状に弧を描く″曜日"、″日付"、″月"を表示するRef.5960Pの分家デザインでもあるが・・
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その他初代のRef.5960Pとの違いはPPロゴ直上のパワーリザーブの不採用。6時側の同軸積算計の12時間計を省き単純な60分計のみにする事で視認性が高まりクールでエレガントな二枚目に仕上がっている。クロノグラフのプッシュボタン形状がクラッシックなスクエアに変更され珍しく上下面がポリッシュ仕様となっている。時分針もリーフから少し太目のドーフィンになった。全般としてアバンギャルドなイメージが払拭されてオーソドックスで落ち着いた印象に衣替えされた。その分厚み0.53mm、ケース径で1.5mmサイズアップして押し出しを増しバランスを取っている。どちらが良いかは個人の好みだろう。ただ2011年発表のベゼルダイア仕様の派生モデルRef.5961の文字盤が単色使いなった事から初代の奇抜さは少々やり過ぎとの反省があったと推測している。
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ベゼルの逆ぞり(コンケーブ)とケース横っ面の抉り(手作業と聞いた記憶が・・なぜ機械で出来ないのかずっと疑問。機会が有ればぜひ確認)が現代パテックの最先端モデルである事の証・・・ではあるのだが複雑な曲面がケース全体を覆ってくれて本当にカメラマン泣かせだ。画像ではなく絶対に実機をご覧にいれたい。

Ref.5905P-001 年次カレンダークロノグラフ

ケース径:42mm ケース厚:14.03mm ラグ×美錠幅:22×16mm 
防水:3気圧
ケースバリエーション:PT(別ダイアル有)
文字盤:ブルーサンバースト ゴールド植字バーインデックス
ストラップ:マット(艶無)ネイビーブルー アリゲーター 
価格:税別 85,300,000円(税込 9,212,400円)2016年11月現在


冒頭でも触れたキャリバーCal.CH28-520は、それまで頑なに手巻きの水平クラッチに拘っていたパテックのクロノグラフ史を2006年に塗り替えたエポックメイキングなエンジンである。前年発表の完全自社クロノキャリバーCal.CHR27-525は確かに最初の100%自社製造ではあったが、それまでの伝統的製造手法でコツコツと工房で少量生産される手作り的エンジンであり、搭載されるタイムピースも商品というより作品と呼ばれるのがふさわしいユニークピースばかりだ。対してCal.CH28-520は"シリーズ生産"と呼ばれる或る程度の工場量産をにらんだ商業的エンジンであり、パテックフィリップが新しいクロノグラフの歴史を刻み込むために満を持して誕生させた自信作なのだろう。
パテックの自社クロノキャリバー3兄弟の価格は、その搭載機能や構成部品点数に比例せず、どれだけの手仕事が盛り込まれているかで決定される。金銭感覚抜群で働き者の次男CH28-520 C(自動巻、垂直クラッチ、フライバック、部品点数327点)、次がクラシックだけどハイカラな3男坊のCH29-535 PS(手巻き、水平クラッチ、部品点数269点)、そして金に糸目をつけない同楽な長男CHR27-525 PS(手巻き、水平クラッチ、ラトラパンテ、部品点数252点)の順にお勘定は大変な事になってゆく。
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上記画像でローターで隠された部分は3枚の受けがあるが、この部分はどの派生キャリバーもほぼ変化が無い。それに対してテンプ左のPPシールの有る受け、さらに左の複雑なレバー類がレイアウトされた空間は派生キャリバー毎にけっこう異なる。必要なミッションに応じて搭載モジュールがダイアル側で単純にチェンジされるだけでなく裏蓋側の基幹ムーブメントへもアレコレと手が入れられている。(ほぼ全て過去記事から転載・画像再撮影だが・・ぜんぜんあきまへんナァ~)

Caliber CH 28-520 QA 24H:年次カレンダー機構付きコラムホイール搭載フルローター自動巻フライバッククロノグラフムーブメント

直径:33mm 厚み:7.68mm 部品点数:402個 石数:37個 受け:14枚 
パワーリザーブ:最低45時間-最長55時間(クロノグラフ作動時とも)
テンプ:ジャイロマックス 髭ゼンマイ:Spiromax®(Silinvar®製)
振動数:28,800振動
ローター:21金ローター反時計廻り片方向巻上(裏蓋側より)
又スピロマックス等のパテック フィリップの革新的素材についてはコチラから

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文責:乾
参考:Patek Philippe Internaional Magazine VolⅡ No.7

5月に腕時計最高額を塗り替えて落札されたパテックフィリップのオークション記事を紹介したが、早くもこのハンマープライスが11月12日ジュネーブのオークションで塗り替えられた。1943年製造ステンレスの永久カレンダークロノグラフRef.1518が12億円。
ひょっとしたらのこんなサプライズもパテックならではのオーナーのお楽しみ。今回紹介はそんな可能性を秘めた最新のお宝限定モデル。先日の速報記事でも予想はしていたがまさかこんなに早い入荷とは・・・
パテック フィリップの取り扱い期間が浅い当店にとってめったに発表されないお宝限定は実はハードルがとても高い。実績顧客に限るという販売条件でお客さんまで限定扱いとなる事が多いからだ。でも今回は大変ありがたい事に速やかにご注文を頂き先日入荷。
心待ちにされていたオーナー様にご来店いただき検品前に真空パッケージを開封いただいた。さらにご了解を得て納品前に実機撮影の機会を得た。あぁもう少し立派な鋏を用意しておくべきだった・・
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オーナー様、当店スタッフを含めての第一印象は"重い!"そして期待たがわずカッコよろしい。発注時に現物が見られない不安感を一掃する好印象で正直「ホッ」とした。
まずブルーの色が良い。PP社のHPでの印象はかなり明るめで若々しい印象があったが、落ち着いた深みのある色目。もちろんRef.5711/1A-010ブラック・ブルーほど渋く色気が漂うわけではなく上品な青色だ。
次に賛否両論あった文字盤センター上部の40thアニバーサリーの刻印(エンボス)。これもHPではやたら目立つイメージがあったが、凝視しない限り何となくの模様であって主張は全くしてこない。プレスリリースではカレンダーが少し大ぶりになるとあったが、それの違いはよく分からない。新たに18KWGで用意されたカレンダー窓枠は高級感があって特別なモデルにふさわしい。6時側の同軸クロノグラフ積算計ももちろんダイアルのサイズアップに合わせてリサイズされているが微妙なデザインマジックで間延びが無く落ち着いた仕上がりとなっている。18KWGに縁どられたダイアインデックスも良い意味で主張しすぎず日常での着用をためらわせるものではない。特にバゲットダイアからなる9個のバーインデックスは、既存モデルRef.5724Gのそれよりも長めでバランスが良く好印象である。
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サイズはさすがノーチラス史上最大ケース径44mmなので確かに大きい。ただ並べてみればの話で単独で見ていれば抑えの効いたパテックらしいデカ厚かと・・
横に並べるとトラベルタイムクロノRef.5990/1Aケース径40.5、厚さ12.53mm)が小さく見えてくるのはご愛嬌か。5976の厚さ12.16mmは5990より僅かに薄いのだが、ケース径では3.5mm大きいのでむしろバランスが良く着用感は上回るかもしれない。面白いのは大きくなってもベゼル巾が従来モデルと同寸(約5mm)の為にこの特別なノーチラス号の窓枠は凄くスマートに見える。
しかし重量級だ。プラチナではないかと思うほどヘビーである。全駒状態でなんと312gもある。参考までにノーチラスの主要なブレスモデルを量ってみた。

7118/1A SSレディスノーチラス3針 106g
5711/1A SSメンズノーチラス3針 123g
5990/1A SSトラベルタイムクロノグラフ 162g
5711/1R RGメンズノーチラス3針 191g

残念ながら紹介モデルに最も近似のRef.5980/1Rは手元になく重量不明。尚パテックは各モデルの重量をプレスリリースやカタログ等で明らかにしていないが実は厳重に管理されており、製造工程最終段階では総重量が必ず計量され、ケースやパーツ等に誤素材の混入が無いかチェックしている。さて未入荷の3針プラチナ限定モデルはどのくらい重いのだろうか。素材の比重からすればPTがWGクロノより重そうだが、ケース厚で3.86mm薄いしブレス厚もかなり違うので結構良い勝負?するかも・・
厚み比較画像:左5976WG、右5711SSう~んやっぱり重いのはプラチナか
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1976年オリジナルノーチラス発売時に採用されたコルク製の特別ボックスが忠実に復刻されている。ビックリしたのは現行モデルの通常コレクションボックスよりかなり小ぶり(巾15cm奥行15cm高さ8.2cm)かつ軽量でずいぶんカジュアルな印象。但しヒンジで連結された上下部とも厚さ4.1cm以上のコルク無垢材から削り出された贅沢仕様だ。
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特に通しの限定シリアルは付けられておらず通常通りムーブメントNo.とケースNo.で管理されている。ただ1300本限定の1本である事を保証する限定証明書が発行添付されている。画像では解りにくいがRef.NoやCal.Noなど主要部分はダイアルカラーに通じるメタリックブルー箔押しの難い演出がされている。
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今回ご発注を頂いた顧客様より1976年と2016年が御家族(お二人)それぞれのアニバーサリーイヤーである事を伺った。感慨深いストーリーに浸りながら撮影をさせていただいた。

Nautilus Chronograph Ref.5976/1G-001 40th Anniversary Limited Edition
世界限定1300本

ケース径:44mm(10時ー4時方向)※リューズを含む3時ー9時方向で49.25mm
ケース厚:12.16mm 
防水:12気圧
ケースバリエーション:WG 
文字盤:サンバースト加工にブルーPVD加工 バゲット及びプリンセスダイア付ゴールド植字インデックス
価格:税別 10,510,000円(税込11,350,800円) 2016年11月1日時点

キャリバーは2006年にノーチラス発売30周年を記念して発表されたシリーズ初のクロノグラフモデルRef.5980/1Aに初搭載されたCal.28-520Cを積んでいる。同キャリバーはパテック社初の完全自社開発製造の自動巻きクロノグラフキャリバーで垂直クラッチを採用し、フライバック機能を備えた前衛的なムーブメントである。主時計の秒針は敢えて備えずに駆動時に殆ど主ゼンマイのトルクをロスしないパテックご自慢の垂直クラッチ方式によりクロノ秒針が主秒針として転用可能である。
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Caliber CH 28-520 C フルローター自動巻フライバッククロノグラフムーブメント コラムホイール、垂直クラッチ採用
直径:30mm 厚み:6.63mm(ベースキャリバー5.2mm、カレンダーモジュール1.43mm)
部品点数:327個 石数:35個 
パワーリザーブ:最低45時間-最長55時間(クロノグラフ作動時とも)
テンプ:ジャイロマックス 髭ゼンマイ:Spiromax®(Silinvar®製)
振動数:28,800振動
ローター:21金ローター反時計廻り片方向巻上(裏蓋側より)
又スピロマックス等のパテック フィリップの革新的素材についてはコチラから

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文責:乾

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さて、ほぼ全モデルがいつでも人気品薄のノーチラスは発売30周年を迎えた2006年にフルモデルチェンジがなされている。この再デビュー時ラインナップは3針、プチコン、クロノグラフの3種類が用意された。2010年に年次カレンダーが追加され、2014年発表の5990トラベルタイム クロノグラフがモデル的にも機能的にも最新の製品となる。偶然なのか4年毎に新機軸が発表されている。

ノーチラスは見た目より相当薄く感じる時計であると以前に書いた。確かにフルローター自動巻Cal.324(3.3mm厚)の3針モデルRef.5117やマイクロローター自動巻Cal.240(3.98mm厚)をベースキャリバーとするプチコンRef.5712は本当に薄くて手首へのフィット感の良さは無類と言える。ただフルローターに加えて垂直クラッチを採用したクロノグラフCal.28-520にトラベルタイムのモジュール積むとムーブ厚で7mm近くなりケーシングされればそれなりの厚みが出て来る。ケース厚12.53mmはノーチラス最厚モデルである。
顔はどこまでもモノクロームの世界である。トラベルタイムの昼夜表示2箇所の窓に夜間わずかに濃紺が出て来るのみである。同じようなグレーベース文字盤のプチコンWGや年次カレンダーには月齢ディスクのネイビーやカレンダー等に部分的刺し色として赤が使われているのに対して、あまりにもメカメカしい。ノーチラスの中で最も質実剛健な印象である。
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文字盤上部のサークルは針表示のカレンダー。下部のサークルはクロノグラフ連動の60分積算計。8時位置のスケルトン針がホームタイムを指す。4時位置のHOME窓の紺色夜表示とあわせて午後8時を示している。通常時針は8時のLOCAL窓と合わせ午前10時と読む。このローカル用時針は9時位置のヒンジ(耳)形状の上下に分割されたボタンで1時間単位での前進と後退が可能である。リューズガードを兼ねた3時のヒンジ部分の上側ボタンがクロノグラフのスタート&ストップ。下がリセットボタンだが、クロノグラフ運針中に押せば瞬時に帰零(リセット)し、放せば(リリース)即時再スタートさせられるフライバック機能の制御ボタンでもある。
このフライバックは元々軍用目的に開発された。例えば戦闘チームが分かれて多方面から戦闘任務を遂行する際に、フライバックを利用して簡単に共通の経過時間を共有する為に使われたのである。
では平時の現代においてどう使うかであるが、この時計に関しては極めて正確な秒針として利用する事が可能である。大抵のクロノグラフにはスモールセコンド形式で時計秒針が備えられている。しかしこのRef.5990には時計秒針は見当たらない。パテックが誇る最先端クロノグラフキャリバーCal.CH28-520の垂直クラッチが優れもので、クロノグラフ作動時のエネルギーロスがほとんど無い為に、クロノグラフ秒針を回しっ放しにして通常秒針として使用する事が出来るからだ。その秒針運針時にフライバックを使って秒針をゼロリセットさせれば簡単に秒単位での時刻合わせが可能となる。

細かいことながらRef.5990は他のノーチラスとケース構造が決定的に異なっている。3針のシンプルなRef.5711を始め普通は捻じ込み式の裏スケルトン仕様の裏蓋、本体を構成するミドルケース、このミドルケースとヒンジ(耳)部分で噛み合ってビス留めされるベゼルの3ピース構造となっている。Ref.5990とほぼ同じ12mm強のケース厚が有って同系列のクロノキャリバーCal.CH28-520 Cを積むRef.5980ですらこのスタイルは変わらない。そしてベゼルとミドルケースの隙間には黒くて分厚い防水パッキンがしっかり確認できる。ジェラルド・ジェンタ考案のユニークだがシンプルな構造だ。下画像はRef.5711/1A
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ところがトラベルタイムの2つのボタンを9時側のヒンジ(耳)部にレイアウトする大胆な発想でスタイリッシュなデザインに仕上げられたRef.5990では必然的にヒンジ(耳)を利用したミドルケースとベゼルの固定が不可能となった。そこで3時のリューズ側のヒンジ(耳)部分はベゼルではなくミドルケース側に成形される複雑な構造になっている。2つのクロノグラフプッシュボタンもビスが無いのに便乗して?ヒンジ(耳)寄りに配置されておりシンプルクロノグラフのRef.5980よりも操作性が向上している。通常可視できる前述のパッキンも見えずよりエレガンスな新種のノーチラスと言えそうだ。
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ついでながらノーチラスで最薄のRef.5711と最厚のRef.5990の断面画像を比較。5711ではブレスレットの各駒の厚みがすべて均一だが、5990はケースの厚みとのバランスを取るためにケース本体に向かって段階的に駒が厚くなっている。
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この微妙な駒の厚みでケース寄りのブレス部分は良い意味で若干バングルっぽい剛性感があり、5990の大き目で重たいケース本体をしっかりホールドしている。
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店頭のトラベルタイムのラインナップが充実してゆく。アクアノート トラベルタイムRef.5164がステンレスと今年素材追加されたローズゴールドの2本。2015バーゼルワールドで話題をさらった5524G-001カラトラバ パイロット トラベル タイム。そして今回ご紹介のトラベルタイムクロノのノーチラス。レディス唯一のトラベルタイムRef.7134G(未紹介・2016生産中止)のお宝在庫とあわせるとパテックのトラベルタイムコレクション全7モデルの内5モデルが揃った事になる。在庫切れはRef.5175グランドマスターチャイム(175周年記念限定品・下画像)と2016新作のRef.6300Gだが、これらは残念ながら永久に在庫にならないので暫定でフルラインナップという事になる。
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この原稿は2月の初旬の初入荷時に書き始めたのだが、8ヶ月間アップすることが出来なかった。実は入荷検品で機能的に初期不良を疑わせる症状が見られたために何度かのやり取りを経て、最終的にはスイスパテック社の見解付きで今回の入荷となった。誤解を避けるためにそのいわくつきの詳細は店頭でご説明させていただきたい。

Ref.5990/1A-001 ノーチラストラベルタイムクロノグラフ
ケース径:40.5mm(10-4時) ケース厚:12.53mm 防水:12気圧
ケースバリエーション:SSのみ
文字盤:ブラックグラデーテッド 夜行付ゴールド植字インデックス
ブレスレット:両観音クラスプ付きステンレス3連ブレス 抜き打ちピン調節タイプ 
尚、2014BASEL発表の商品リリースはコチラから
価格:税別 5,990,000円(税込 6,469,200円)2016年7月現在


搭載されるムーブのベースキャリバーCal.CH28-520は、それまで頑なに手巻きの水平クラッチに拘っていたパテックのクロノグラフ史を2006年に塗り替えたエポックメイキングなエンジンである。前年発表の完全自社クロノキャリバーCal.CHR27-525は確かに最初の100%自社製造ではあったが、それまでの伝統的製造手法でコツコツと工房で少量生産される手作り的エンジンであり、搭載されるタイムピースも商品というより作品と呼ばれるのがふさわしいユニークピースばかりだ。対してCal.CH28-520は"シリーズ生産"と呼ばれる或る程度の工場量産をにらんだ商業的エンジンであり、パテックフィリップが新しいクロノグラフの歴史を刻み込むために満を持して誕生させた自信作なのだろう。
パテックの自社クロノキャリバー3兄弟の価格は、その搭載機能や構成部品点数に比例せず、どれだけの手仕事が盛り込まれているかで決定される。金銭感覚抜群で働き者の次男CH28-520 C(自動巻、垂直クラッチ、フライバック、部品点数327点)、次がクラシックだけどハイカラな3男坊のCH29-535 PS(手巻き、水平クラッチ、部品点数269点)、そして金に糸目をつけない同楽な長男CHR27-525 PS(手巻き、水平クラッチ、ラトラパンテ、部品点数252点)の順となる。(5960/1A-001記事より転載)

下画像:本機に積まれるトラベルタイム搭載のCal.CH28-520 C FUS
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下画像:従来型の年次カレンダー搭載Cal.CH28-520 IRM QA 24H

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上記2枚の画像でローターで隠された部分は3枚の受けがあるが、この部分はどの派生キャリバーもほぼ変化が無い。それに対してテンプ左のPPシールの有る受け、さらに左の複雑なレバー類がレイアウトされた空間は派生キャリバー毎にけっこう異なる。必要なミッションに応じて搭載モジュールがダイアル側で単純にチェンジされるだけでなく裏蓋側の基幹ムーブメントへもアレコレと手が入れられている(5960/1A-001記事より転載)

Caliber CH 28-520 C FUS トラベルタイム機構付きコラムホイール搭載フルローター自動巻フライバッククロノグラフムーブメント

直径:31mm 厚み:6.95mm 部品点数:370個 石数:34個 
パワーリザーブ:最低45時間-最長55時間(クロノグラフ作動時とも)
テンプ:ジャイロマックス 髭ゼンマイ:Spiromax®(Silinvar®製)
振動数:28,800振動
ローター:21金ローター反時計廻り片方向巻上(裏蓋側より)
又スピロマックス等のパテック フィリップの革新的素材についてはコチラから

PATEK PHILIPPE 公式ページ 

文責:乾

2016年10月2日現在
5990/1A-001 店頭在庫有ります
(パテック フィリップ在庫管理担当 岡田




第一回パテックフィリップ展には多数ご来場をいただき誠にありがとうございました。準備、実施、片付けとバタバタし久々の更新となった。早いものでブログも立ち上げから1年が過ぎた。本稿が49番目の記事となる。早いのか、遅いのか?

さて今日は先の展示会で開催したトークイベントからネタをいただいて、当日の質疑応答のあったパテックの時計製造方式について少しご紹介したい。
話のきっかけは2005年から始まった完全自社製クロノグラフキャリバー3部作の開発順番の解説だった。なぜ最初に古典的な形式ながらスプリットセコンドを一体として組み込んだ手巻きキャリバーだったのか。これは出来るだけ薄い手巻きスプリットを作れ!というフィリップ スターン会長(当時社長)の厳命に対して、全く新しい設計を起こすのではなく1900年代前半の基幹エボーシュであったヴィクトラン・ピゲによるスプリットセコンドクロノキャリバーを手本に薄さを追求した復刻設計で対応した。結果短期間(数年)で完成したのがCal.CHR27-525である。
下左:Ref.130(1930年)ヴィクトラン・ピゲ製(未記載?)スプリットセコンドクロノグラフ
下右:Cal.CH27-525PS(2005年発表)
確かに似ているがウリと言うわけでもなさそうな・・
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翌2006年、対照的な革新性あふれる自動巻フライバッククロノグラフCal.CH28-520(下左)が発表された。年次カレンダーモジュールを積みパワーリザーブ表示を備えた拡張キャリバーもいきなりデビューさせたのはよほどこのムーブに自信があったのだろう。高度な垂直クラッチ技術によってクロノ秒針のセンターセコンド利用を可能にし、瞬時日送りカレンダーを採用するなど最先端技術はすべて詰め込まれている。
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2009年、一番後発の手巻シンプルクロノグラフがCal.CH29-535(上右)。前者2点と比べて最も簡単でシンプルなムーブメントに見えるが、開発に一番時間が掛けられた。これは自社化直前まで基幹の手巻クロノエボーシュであったヌーベルレマニア社のCH27-70の人気が圧倒的であった為、これを決して真似ることなく圧倒的に凌駕する骨太な自社キャリバーを水平クラッチ等の伝統的な匂いは残しつつ開発するという実に難儀なミッションだったからである。

以上の自社製クロノの開発ストーリーを復習?をした上でやっと本題。
ところで「手巻きのシンプルクロノが自動巻き年次カレンダー付きフライバッククロノより高いのはなぜか」よく聞かれる質問である。部品点数だって高い方が少ないのだから当然の疑問である。この答えが今回の本題であるパテックの2つの製造方式の違いを説明する事と重なる。
自動巻CH28-520は通称"シリーズ生産"と呼ばれる方式で生産される。組み立てには多数の時計師が携わっており、組み立てる部品をその場で仕上げや調整の手を加えることなく製造される。当然パーツが完璧な状態で時計師の手元に届く前提である。あくまで組み立ては手仕事だが分業によるライン生産方式なので効率的な生産が可能でコストパフォーマンスが良い。

これに対して2つの手巻きムーブメントはグランドコンプリケーションコレクションに対してパテックが現在採用している製造方式にて組み上げられている。シリーズ生産と異なるのは一人の時計師が最初から最後まで責任を持って全て組み上げている。シリーズ生産されるものよりバネ系部品が多用されるために組み立て時に微妙な調整が欠かせないらしい。正に高度な技で組み上げてゆき、一旦組みあがったら完全にバラして再度組み上げる"二度組み"を実施している。もちろんこれが出来る時計師も限られているし、モデルによってはほんの数人しか組めないので年間製造数も限られてくる。この手間暇がコストに反映してそれなりのお値段となる。
尚、手巻きクロノのRef.5170はカタログ上でコンプリケーション扱いながら製造は"二度組み"をするチームグラコン扱いとなっている。
すみません。本日は夏休みボケのようなブログになってしまいました。本人の備忘録という事で勘弁ください。

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パテックフィリップは節目で必ずサプライズを用意する。今回紹介のRef.5960もパテックのクロノグラフ完全自社生産移行への第二弾として、2006年に発表された画期的な自動巻クロノグラフキャリバーCal.CH28-520のデビューを飾る為にそれまでのパテックには無かった恐ろしく斬新な装いを纏って登場した。同年のバーゼル会場の話題はコイツに完全にさらわれた感があった。
パテックが上手なのは当時競合各社もこぞって発表した垂直クラッチ(我が国が誇るセイコーが世界初の実用化に成功)方式を採用しただけでなくフライバックを備え時分双方の積算計を6時位置に同軸化してレイアウトした事だろう。此処まででも他社にアドバンテージだが、さらに突き放すのがパテック流でお得意の実用複雑機構である年次カレンダーモジュールを重ねてきた。
当初プラチナケースにアリゲーターストラップで発表され、様々な追加文字盤の変遷を経て、2014年に潔く全モデル生産中止が発表された。そして同年のバーゼルでまさかのサプライズ、さらに実用的なステンレスケース&ブレスで発表されたのが今回紹介のRef.5960/1A-001である。
この初代のプラチナモデルについてはフィリップ スターン会長が別素材での展開をしないと公言していた事もあってか、ともかく再三の価格改定にも関わらず2次マーケットで常にプレミアのつく大ヒットモデルとなった事は記憶に新しい。

この時計の最大の魅力である実用性を列挙すると
①最大55時間のパワリザ付き自動巻き
②垂直クラッチが実現したクロノ秒針の時計秒針使用
③フライバック機能の秒針ゼロリセットで毎分毎に秒レベル調整可能
④当たり前に年次カレンダーは便利
⑤SSモデルには初採用のドロップリンクのメタルブレスで恒常的連続着用実現
てなあたりでしょうか。
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シリーズ初となる淡色系ダイアルは指し色の黒と赤が効いていてこの上なくスポーティだ。文字盤上部に弓上に並ぶ曜日、日付、月の表示は革新系モデルでおなじみの形式でその窓枠ならびにアワーインデックスと時分針には18金素材に多面的なファセットが与えられ、さらに酸化処理でブラックに仕上げられている。この光沢たっぷりな表面感はポリッシュというよりもむしろセラミック系の艶っぽさがある。クロノ(通常秒針兼用)秒針とクロノ積算分針は真っ赤。毎月1日もレッドプリント("赤字"なんて指が裂けても書けません!)となっている凝りようだ。クロノ積算時針とスケルトン(見落としそう!)仕様になったパワーリザーブ表示針も通常時分針とほぼ同じブラックの仕様と思われる。
文字盤面は平滑なシルバーだが6時位置の大ぶりなクロノ積算インダイアル部は外周部の盛り上がりや、一段下がった内側のサークル状エングレーブ(写せておりません)、パテックにしては肉厚気味な転写プリント等の凝った作りである。
尚プラチナからSSへの移行の最大の改良点は時分積算カウンターの内外(時と分サークル)の入れ替えであるが、他にもインデックスや積算カウンターサークル、曜日と月の窓枠追加等々でプラチナより高級感が与えられる結果となってしまった。
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ケースサイドから望むとさすがにコンプリ✖コンプリはそれなりの厚みを感じる。ケース厚13.5mmは意外にもノーチラスシリーズで最厚のトラベルクロノRef.5990を0.57mm上回るが、個人的に腕時計は15mmまでは十分着用可能な厚みと考えている。
ちなみに愛機の中で最厚はボールウオッチの18.9mm。さすがにチタン製だが存在感はステン並みにある。そして最薄はゴールデン・エリプスRef.3738の5.8mmだろうか。ちなみにエリプスは手巻ではなく偏心ローター採用の自動巻極薄Cal.240を搭載し、パテックの現行全コレクション中でも最薄のはず。
良い機会なので2015総合カタログでケース厚13.5mm超を調べてみた。ダイヤベゼルの兄弟機Ref.5961は同じく13.5mm、意外に厚い手巻ラトラパンテRef.5370は13.56mm、逆に意外に薄いのがミニット、永久、トゥールビヨンRef.5207で13.81mm、同ベゼルダイヤRef.5307が13.96mm、少々厚い印象の永久ラトラパンテRef.5204は14.3mm、えっ!わざと厚くしたの?年次クロノRef.5905が14.3mm、そろそろ着用限界か?永久ミニットクロノRef.5208になると15.7mm、そして今年リニューアルされたレトグラ永久ミニット天体系のスカイムーントゥールビヨンRef.6002の17.35mmは彫り物もあってほぼ鑑賞用?
当然最厚は今年市販化モデルとして発表されたグランドマスターチャイムのはずが・・・どっこいまさかのRef.6300はなんと16.1mm。結果的に最厚となるRef.6002はスカイムーン機能が厚さの原因でもなさそうで、単純スカイのセレスティアルRef.6102はたったの10.58mm(薄さに唖然!)しかない。どうやら憶測ながらRef.6002は装飾を生かすために厚めに作られた気配が濃厚だ。いづれにせよ15mm越えがたったの3Ref.しかない複雑時計王国パテックはやはり薄さの追求で群を抜いている。
尚、ムーンフェイズ表示が無いのでカレンダー関連の調整プッシュ(CORRECTER)は3つ。左から月、日付、曜日の順番はダイアル上部の三つ窓レイアウト通りでとても解り良い。

ベゼルはこれまた革新系パテック意匠でおなじみのコンケーブ(逆ゾり)形状が採用されている。ブレスは従来から18金のコンプリケーションウオッチで多用されているドロップリンク5連のしなやかなタイプ。冒頭の全身画像でブレス部をじっくり見ると微妙なしなりが見て取れる。まるでキャタピラのようにしなやかなブレスは短めの弓管のすぐ外から真下にストンと曲がれる構造と相まって装着感が抜群によろしい。

Ref.5960/1A-001 年次カレンダー自動巻きクロノグラフ

ケース径:40.5mm ケース厚:13.5mm ラグ×美錠幅:21×16mm 
防水:3気圧
ケースバリエーション:SSのみ
文字盤:シルバリィ ホワイト ゴールド植字酸化黒色仕上げバーインデックス
ブレスレット:両観音クラスプ付きステンレス5連ブレス 抜き打ちピン調節タイプ 
尚、2014BASEL発表の商品リリースはコチラから
価格:税別 5,730,000円(税込 6,188,400円)2015年7月現在


冒頭でも触れたキャリバーCal.CH28-520は、それまで頑なに手巻きの水平クラッチに拘っていたパテックのクロノグラフ史を2006年に塗り替えたエポックメイキングなエンジンである。前年発表の完全自社クロノキャリバーCal.CHR27-525は確かに最初の100%自社製造ではあったが、それまでの伝統的製造手法でコツコツと工房で少量生産される手作り的エンジンであり、搭載されるタイムピースも商品というより作品と呼ばれるのがふさわしいユニークピースばかりだ。対してCal.CH28-520は"シリーズ生産"と呼ばれる或る程度の工場量産をにらんだ商業的エンジンであり、パテックフィリップが新しいクロノグラフの歴史を刻み込むために満を持して誕生させた自信作なのだろう。
パテックの自社クロノキャリバー3兄弟の価格は、その搭載機能や構成部品点数に比例せず、どれだけの手仕事が盛り込まれているかで決定される。金銭感覚抜群で働き者の次男CH28-520 C(自動巻、垂直クラッチ、フライバック、部品点数327点)、次がクラシックだけどハイカラな3男坊のCH29-535 PS(手巻き、水平クラッチ、部品点数269点)、そして金に糸目をつけない同楽な長男CHR27-525 PS(手巻き、水平クラッチ、ラトラパンテ、部品点数252点)の順となる。
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上記画像でローターで隠された部分は3枚の受けがあるが、この部分はどの派生キャリバーもほぼ変化が無い。それに対してテンプ左のPPシールの有る受け、さらに左の複雑なレバー類がレイアウトされた空間は派生キャリバー毎にけっこう異なる。必要なミッションに応じて搭載モジュールがダイアル側で単純にチェンジされるだけでなく裏蓋側の基幹ムーブメントへもアレコレと手が入れられている。

Caliber CH 28-520 IRM QA 24H:年次カレンダー機構付きコラムホイール搭載フルローター自動巻フライバッククロノグラフムーブメント

直径:33mm 厚み:7.68mm 部品点数:456個 石数:40個 受け:14枚 
パワーリザーブ:最低45時間-最長55時間(クロノグラフ作動時とも)
テンプ:ジャイロマックス 髭ゼンマイ:Spiromax®(Silinvar®製)
振動数:28,800振動
ローター:21金ローター反時計廻り片方向巻上(裏蓋側より)
又スピロマックス等のパテック フィリップの革新的素材についてはコチラから

ビブロ実測値(精度・振り角・ビートエラー)
文字盤上:+1~+2 320°~327° 0.1
 3時下:-3~-1 287°~292° 0.0
検品担当の岩田いわく「クロノ作動時でも精度はもちろん振り角、ビートエラー総てに殆ど変化がありません。他社の垂直クラッチとは別物です」

運針確認時間:58時間運針(クロノグラフ非作動)

PATEK PHILIPPE 公式ページ 

文責:乾
Patek Philippe Internaional Magazine VolⅡ No.8 VolⅢ No.6 及び11

『第一回パテック フィリップ展』のご案内
だいぶ先になりますが今夏のお盆真最中8月11日(木・山の日)~15日(月)に当店初の『パテック フィリップ展』を実施いたします。カサブランカ流の"何か"が違う展示会イベントに出来ないかと日々無い知恵をしぼっております。是非ご期待下さい。詳細等が詰まりましたら順次ご案内申し上げます。

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