パテック フィリップが自動巻を搭載し始めたのは結構奥手だ。本格的な全回転ローター自動巻の業界最速が1931年のロレックス。
PATEK PHILIPPE GENEVE Wristwatches(M.Huber & A.Banbery)213・214ページを見る限り、1953年に特許取得した両方向巻上機構を備えた自社製自動巻Caliber12'''-600AT(1953-1960)を搭載した同年のRef.2526がパテックとしては初お目見えのようだ。
この最初の自動巻ムーブの18金製フルローターが、現在のメインキャリバー324系の21金フルローターと形状的にほぼ同じなのは興味深い。面白いのはこのキャリバーが中三針(センターセコンド)では無くてスモールセコンド仕立な事で、逆に同時代の手巻きCaliber27SC(1949-1970)がセンターセコンド仕様・・・こりゃまた不思議な発見。
今回は既に紹介済の手巻5196、年次5396に連なるクンロク(96)シリーズの実用時計の最右翼である自動巻5296をクローズアップ。
50年代のモデルにはない便利なカレンダーを備えた現代の自動巻5296を、まず手巻5196との比較で見てゆくと・・・
秒針レイアウトとカレンダーの相違を除けば、両者の見た目は酷似している。ケース径でわずかに1mmフルローター付が大きく、一般的にはローターの分だけ増えるはずのケース厚が、たったの0.75mmしか太っていない。
手巻に関してはピアジェのように薄さの限界に挑戦するのではなく、むしろ必要な強度を持たせた上で現実的な厚みを考える。逆に自動巻といえどもケースデザインを考慮して必要な薄さを確保する。結果として両者の厚みはそう変わらない。これがキャリバー設計における厚さに対するパテック フィリップの哲学だと解釈している。
興味深い相違点もある。横顔のシェイプはほぼ同じだが、手巻のサテン仕上げに対してより実用的な自動巻がポリッシュなのは少し意外だ。
また手巻がスナッチのノーマルケースバックで、フルローター自動巻の方がスケルトン。此処だけで較べると、これも絶対にアンバランスなのだが、手巻5196の項で裏蓋を敢えてノーマルにしている理由を想像で記述したように、これは血統書付クンロク御曹司である5196の方の特殊事情だろう。
インデックスは同じに見えるが針は微妙に5296が太いようだ。文字盤のカラーは手巻がほぼシルバーでシャープな印象、自動巻もシルバーの表記だが黄味が少し入った優しいアイボリー調の暖色系の色目、画像には残念ながら微妙な色のニュアンスまで写し込めなかった。
ラグとバックルのサイズは同じだが、ストラップは多少違って5296は甲丸で中央部が肉厚になっていて、なぜかステッチのピッチが粗めだ。気になってカタログでストラップサイズが同じ時計のストラップ設定をチェックしてゆくと驚くほど使い廻しがない。他ブランドとは比較にならないパテックならではの細部への拘りなのだろうか。
不思議なのが仕様的に明らかにコストが異なっているストラップ価格が同素材なら差が無く、さらには結構リーズナブルな事だ。例えばポピュラーなアリゲーターで玉斑(タマフ)で税別27,000円、竹斑(タケフ)が40,000円。折角の世界最高峰パテックの粋な計らいと受け取ってストラップは常にピンピンでいきましょうネ・・・皆さん!
比較のまとめとして、手巻5196はオリジナルのクンロクに出来うる限りコミットメントされており、自動巻5296は実用性を高めつつもエレガントかつコンテンポラリーな現代版クンロクといえそうだ。
Ref.5296G-010
ケース径:38mm ケース厚:8.43mm ラグ×美錠幅:21×16mm 防水:3気圧
ケースバリエーション:WG(別ダイアル有)の他にRG(別ダイアル有)
文字盤:シルバーリィオパーリン ゴールド植字インデックス
ストラップ:シャイニー(艶有)ブラックブラウンアリゲーター
価格:税別 3,040,000円(税込 3,283,200円)2015年7月現在
Caliber 324 S C/390
ムーブメントはパテックを代表する自動巻キャリバー324系のベースキャリバーだ。かつては315、330と同系列のキャリバーが搭載されていたモデルにも現在はこの最新型キャリバーが積まれている。汎用性が非常にあるようで、年次カレンダーとトラベルタイムの大半に加えて、グランドコンプリケーションでも日付がレトログレードするタイプの永久カレンダーはこの派生キャリバーを積んでいる。実用性重視のキャリバーなので頻繁に手が加えられ、その都度キャリバーナンバーが変わったものと思われる。
PATEK PHILIPPE GENEVE Wristwatches(M.Huber & A.Banbery)230ページのCaliber28-255(1970-1980)を両方向巻上タイプの最終機として、次世代新設計の片方向巻上のCaliber310(225・226ページ、1981年?~)が開発されている。どうやらこれが324系のルーツと思われ、瞬時日送りカレンダー機能も付加されている。実機への搭載はCal.335Cとして誕生5年目のノーチラスの2代目ムーブとして1981年に積まれたようだ。とすれば熟成期間すでに30年以上か・・・
直径:27.0mm 厚み:3.3mm 部品点数:213個 石数:29個 受け:6枚
パワーリザーブ:最低35時間~最大45時間
テンプ:ジャイロマックス 髭ゼンマイ:Spiromax®(Silinvar®製)
振動数:28,800振動
ローター:21金ローター反時計廻り片方向巻上(裏蓋側より)
尚、スピロマックス等のパテック フィリップの革新的素材についてはコチラから
PATEK PHILIPPE 公式ページ
文責:乾
※・今回の画像、ダメなときは何度撮り直しても無駄なのは良くわかっているのだが・・・
2016年3月12日現在
5296G-010 店頭在庫有ります
5296R-010 お問い合わせください
(パテック フィリップ在庫管理担当 岡田)