前回のオフィサーの神髄5153が、伝統に忠実な保守系ハンターすると、対照的な革新系ハンターとでも言うべきモデルが2013年発表の5227だ。
グラコンでも、コンプリでもないシンプル極まりない中3針のこのカラトラバウオッチに、パテックは唯一無二の造形のINVISIBLE HINGE(見えない蝶番)を与えている。いわゆる"依怙贔屓"という奴ですヨ!
実際に5227は上の画像の様にダイアルを正面から見る着用状態では、本人ですらヒンジを見ることができない。下の様に裏蓋側から注意深く見てようやくその存在がわかるという代物。
パテック フィリップオーナー向けマガジン Vol.Ⅲ No.9 P15に逸話がある。現社長ティエリー・スターンが2年の開発期間を経て完成したこのモデルを、父の名誉会長フィリップ・スターンに見せた際に、フィリップをしてハンターケースと一瞥で見抜けなかったらしい。
不思議なのは5153では裏蓋内側に隠されていた18金ホールマーク4種セットが、5227では通常モデルのルールに則ってラグ裏4箇所刻印されている。ご丁寧なことに裏蓋外側の仕上げがヘアラインサテンって!おいおい!ひょっとして!ティエリー社長やってくれまんナァ・・
尚、下の画像で裏蓋内側にも蝶番が有るように見えるが映り込みである。刻印等一切なく見事な鏡面(ミラー)仕上げが、与えられた唯一にして充分な装飾である。
しかしながら、初見の印象でこの時計の割高感は否めない。ほぼ同価格の5153がダイアルセンターの手仕上げギョーシェに加えてフォールディングバックル、裏蓋もオレ開閉できまっせ、どうだ!に対して見た目が質素で飛び道具どこにも有りません状態の5227。だが冷静に観察すると、この隠し蝶番、その製作、調整は恐ろしく高度な事が想像できる。なんせこのモデルのみの工作なのでコスパも、きっとえらい事に。隠すレベルを上げれば上げるほど、コストは上がり、見た目は反比例してどんどん押し出しがなくなる。殆ど「四十八茶百鼠(ねずみ)」で裏地に凝らざるを得なかった江戸時代の男のきもの状態か?はたまた伊賀上野は忍者屋敷のどんでん返しか?ある意味贅沢の極みであり、究極のダンディズム。
※手仕事によるケース製造動画は→コチラから
さらにその延長かと思わせる正面からでは解らないメッセージが真横から見て2つ仕込まれている。
まず、ケースサイドにラグに達するエレガントな手彫りの曲線的な溝が施されている。さらに画像ではわかり難いがベゼル及び裏蓋の土手部分も凝った逆ゾリ仕様となっている。これら2つのモチーフは通常ベーシックなカラトラバコレクションに使われる事はなくて、ラグジュアリーなグラコンやコンプリ系の一部のモデルで採用されている。特に前者のケースサイド溝モチーフは、モダン志向でコンテンポラリーなモデル特有のアイコンと思われる。見れば見るほど5227は特別感をINVISIBLEしまくった不思議なスペシャルモデルだ。それゆえ逆に実用性は高く、他人の視線を気にせず普段使いが可能かつ、オーナーの自己満足度が高い本当に通好みの一本である。
ただひとつだけ注文をつけると、個人的には5153とは逆でバックルは、むしろフォールディングの方がよりそのコンセプトに沿うような気がする。多少価格が上がっても、鼻から見た目のコスパとは無縁の高貴なお生まれゆえ・・・
ご参考までに5227のPP社プレスリリースはコチラ
Ref.5227R-001
ケース径:39mm ケース厚:9.24mm ラグ×美錠幅:19×16mm 防水:3気圧
ケースバリエーション:RGの他にYG、WG(別ダイアル有)
文字盤:ラック・アイボリー ゴールド植字インデックス
ストラップ:シャイニー(艶有)ダークチェスナットアリゲーター
価格:税別 3,900,000円(税込 4,212,000円)2015年7月現在
Caliber 324 S C/390
直径:27.0mm 厚み:3.3mm 部品点数:213個 石数:29個 受け:6枚
パワーリザーブ:最低35時間~最大45時間
テンプ:ジャイロマックス 髭ゼンマイ:Spiromax®(Silinvar®製)
振動数:28,800振動
ローター:21金ローター反時計廻り片方向巻上(裏蓋側より)
尚、ムーブについての過去記事はコチラから
又スピロマックス等のパテック フィリップの革新的素材についてはコチラから
PATEK PHILIPPE 公式ページ
文責:乾
2016年3月12日現在
5227R-001 店頭在庫あります
5227J-001 お問い合わせください
(パテック フィリップ在庫管理担当 岡田)
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