新年あけましておめでとうございます。2016年頭のブログは書こう書こうと思いつつ半年前のパテックスタート後、相次いで早々と皆嫁いでしまったクロノグラフ達。昨年末に久々に入荷したのが心待ちにしていた手巻のシンプルクロノグラフ。きっと書き出せばきりが無い事になりそうだが・・・
パシャ、パシャ・・いつのまにかスマホの撮影会になってしまった年末のカサブランカ。しかも文字盤ではなく裏蓋側。スタッフ全員が見惚れてしまう。それほどに美しいパテック フィリップの手巻クロノグラフムーブメント。初入荷のRef.5170は今年発表のWGニューダイアルである漆黒2カウンターの実にシンプルな顔である。スタートストップのプッシャーの感触はしっかり感を保ったしっとり系、リセットは触れれば戻るという春風のように柔らかいタッチである。
意外な事にマニュファクチュールのキングであるパテック フィリップは正確に言えば自社製クロノグラフムーブメントをつい最近まで持たずエボーシュ(素材ムーブメントサプライヤー)を自社の高度な技術で仕上げるスタイルを採用してきた。
まず最初のエボーシュとして1900年代前半にクロノグラフを含む大量のベースムーブメントをパテックに供給していたジュー渓谷ル・サンティエの"ヴィクトラン・ピゲ"が、同社の腕時計黎明期に非常に大きな役割を果たしてきた。著名コレクターのグレイブス氏やパッカード氏の特注複雑時計もピゲ家三代(創業者ヴィクトラン、息子ジャン、孫アンリ・ダニエル)の時計師が中心になって作り上げている。
今回は実機の紹介の前にパテック フィリップの輝かしいクロノグラフの歴史について100年を超えるエボーシュの時代と、近年急速に進められた完全マニュファクチュール化について記しておきたい。
1929年以降のクロノグラフエボーシュはバルジュー社のValjoux23vzに変更され、1941年に記念碑的タイムピースとなる永久カレンダー・ムーンフェイズ・クロノグラフRef.1518が誕生した。その後継モデルRef.2499も伝説的モデルとして人気を博したが、Valjoux23vzのパテック社におけるストックが尽きた1985年に生産終了となった。
次に後続キャリバーの役目をになったのが最終エボーシュとなったヌーベル・レマニア社のパテック専用に特別生産されたキャリバーCH27-70である。1986年発表の永久カレンダークロノグラフRef.3970に初搭載されたヌーベル・レマニアの名キャリバーCH27-70は、様々な派生キャリバーを伴って最終2011年まで26年間活躍する伝説的エボーシュとなった。
少し画像が見辛いが手巻クロノグラフキャリバーというのはどれも良く似ている。そして美しい。機械式時計に初めて接する人でも見惚れてしまう魅力を放っている。これは他エボーシュにも共通だ。ただパテックに特徴的なのは最も古いヴィクトラン・ピゲ時代からずっとコラムホイールをカバー付で採用し続けている事である。
2005年にパテックのクロノグラフは転機を迎える。完全自社開発・製造(マニュファクチュール)の世界最薄コラムホイール式スプリット秒針クロノグラフキャリバーCHR27-525PSを搭載したRef.5959Pが発表される。完全自社化の背景にはヌーベル・レマニア社を傘下に置くスウォッチグループのグループ外企業へのムーブメント供給制限方針があった。元々スプリット秒針クロノグラフ機構をはじめ複雑機構を自社生産していたパテック社にとってエボーシュ調達方式から完全自社生産への切り替えに困難は無かったとフィリップ・スターン名誉会長は語っている。
自社化2年目の2006年には全く趣の異なる自動巻+垂直クラッチの自社製クロノグラフ・キャリバーCH28-520を発表。さらに2009年には前述のレマニア製人気キャリバーCH27-70の後継機として自社製化したCH29-535(冒頭の画像)を発表して自社クロノ3部作をわずか4年で完成。その後は毎年のようにこれらの派生キャリバーを発表し製品化がなされ2012年からは全クロノグラフモデルが自社製となっている。
今回も長々となり実機は後日第2部でご紹介に。それにつけても5170の源流ともいえるレマニア時代の手巻クロノRef.5070、初出の1998年の価格が確か500万円弱だった記憶があり、個人的に販売実績もあった思い入れのあるモデル。借金してでも愛機にしておくべきだった・・・後の祭りはいつもむなしい
→実機編(後半)につづく
文責:乾
主な出典
Wristwataches Martin Huber & Alan Banbery
Patek Philippe International Magazine Volume Ⅲ Number 9
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