2015パテック フィリップのニューモデルで最も注目されたRef.5524カラトラバ パイロット トラベルタイム.。昨年のバーゼル全体でも大きな話題を集めて"Watch of the Basel World 2015"的な扱いだった異色?のモデル。良くも悪くもパテックらしくないルックスに賛否両論がバーゼル訪問前からチラチラ聞こえていた。数年前から先入観を持って現物を初見する弊害が嫌で、一切の事前情報を"見ざる聞かざる"で商談テーブルに就いた。
PPJのN氏から「ハミルトンじゃありません!」と眼前に出されたRef.5524。その独特な風貌に様々なご意見とご感想が寄せられたことが想像できるジャブのようなコメントに苦笑しながら初見の印象は"これはこれで有り"だった。マット調の落ち着いた紺に近いブルーダイアル、同系色の蓄光塗料(スーパールミノバ)が塗布された時分針と無骨なアラビアインデックス、秒針(一部分)も青で統一されている。面白いのは他のトラベルタイム同様に2箇所の昼夜表示のディスクの夜部分が紺色なのだが文字盤と同色の為に夜間は完全に埋もれてしまう。6時位置のカレンダー表示サークルは3日飛ばしでなのでスッキリとした印象。ノーチラスプチコンRef.5712同様に1日だけレッド表示となっている。ケース径42mm、厚さ10.78mmはパテックとしてはデカ厚だがミリタリーテイストのこのタイムピースにはほど良いサイズ感だ。
当初、全くルーツを持たない新機軸モデルと誤解されがちだったが、名称にカラトラバがついていることからも想像できるが遺伝子は1936年にの"Hour-angle" Wristwatch:時角腕時計(サイデロメーター)に遡る。1927年大西洋単独無着陸飛行(チャールズ・リンドバーグ)がなされるなど航空機の急速な発展期に、パイロットが夜間に正確な現在地を知る手立てとして恒星時(サイデラル・タイム)を基準とした正確な時角腕時計が求められた。これらの詳細はパテック社のプレスリリース(難解長文)を参照されたい。
尚、画像上はPATEK PHILIPPE GENEVE(M.HUBER & A. BANBERY)P.252に掲載されているリリースの説明モデルNo.170 383(1936年)である。一番短い針が300°チョイ、分針様の長針が7と8の間、秒針風が34とあり307度34分と読むらしい。時間表示に換算も出来て20時30分16秒となるようだ。ちなみに搭載エボーシュはルクルト製の19リーニュ(約43mm)の大型キャリバーでヴィクトラン・ピゲが手を加えている。
しかしいつも思うのだが時計と天体や天文学との結びつきとはかくも強いものかと・・最も古くは日時計だろうし、大航海時代におけるマリンクロノメーター開発競争等があった。時代が下ってもキャリバー89やスターキャリバー2000、セレスティアルなどなど実用性とはほぼ無縁ながらその機能開発は今なお留まるところを知らないようだ。作り手も買い手も男はマジでロマンチストですナァ・・
最近キャリバー89製作(コチラは楽しい)に関するパテック社の興味深い動画を見たが、その中でも天文知識の学習の重要性が語られている。
その後の技術革新で時角腕時計の出番は急速に無くなってしまうのだが当初はあくまでもアビエーター(飛行機野郎たち)の為の計器(道具)だった。その遺伝子を受け継いだ5524にはパイロットの名が冠されているが、あくまでもオマージュと理解すべきで現代においてはパッセンジャー(搭乗者)の時計としてトラベルタイム機能が与えられている。
ところで5524は顔的には上記の時角腕時計とは似ても似つかぬ顔をしている。むしろP.100掲載の下記左No.169 248(1918年)や右のNo.177 548(1925年)辺りからインスパイアされている様な気がする。分針の形状なども酷似している。恐らく当時の最先端技術開発の花形であったアビエーションワールドのストーリー性豊かなエピソードに連なる"Hour-angle" Wristwatch"を着想のコンセプトに、同時代のミリタリー顔をデザインソースにしたのでは・・
従来のトラベルタイムとの大きな違いはローカルタイムの変更ボタンに特許取得されたロック機構が備わったことだ。一見刻みの入ったボタンなので捻じ込み?っぽいが単純に4分の1周回すことでプッシュ操作可能状態となる。元々この上下2ボタンは押し心地がソフトタッチで時計脱着の際などに気づかぬ内に時刻変更状態になってしまうとの指摘があった。右腕に着用されるレフティーの方は着用中に手首の返りで"あら!不思議?"てなことも起こりえた。Ref.5524ではこの手の不安がスマートに解消されている。
ストラップは青系と相性のよいブラウンのマットカーフレザーにアイボリーステッチとどこまでもアヴィエータースタイルに徹している。極めつけは18金WGのクレビスプロングバックル(Clevis prong buckle:U字型のボルトピン付き連結器具に突き刺すピンで止めるバックル?)と名付けられた新設計のピンバックルでリリースによればパイロットが装着するパラシュート等を固定するハーネスの金具より着想を得ているそうだ。ちなみにこのバックル、通常のピンバックルと同価格なので結構お得感あり。※ストラップ価格は現在スイスに確認中だが別売エクストラサイズ対応は可能なようだ。
Ref.5524G-001 カラトラバ パイロット トラベルタイム
ケース径:42mm(10-4時方向)ケース厚:10.78mm ラグ×美錠幅:21×18mm 防水:30m
ケースバリエーション:WGのみ
文字盤:ブルー バーニッシュド 蓄光塗料付ゴールド植字インデックス
ストラップ:ヴィンテージ ブラウン カーフレザー クレビスプロングバックル付き
価格:税別 5,350,000円(税込 5,778,000円)2015年7月現在
スクリューバックの裏蓋のサファイアクリスタルバックからは入念に仕上げられたムーブメントを鑑賞する事が出来る。フルローター自動巻の裏スケルトンは半分しかムーブメントが可視できないので無理やり感があるのだがパテック フィリップは21金ローターそのものを主役にすべく見事な仕上げを施している。
撮影当日は少々風邪気味(早朝登山サボリ過ぎ?)で後半画像はボロボロでんナァ~
Caliber 324 SC FUS
直径:31.0mm 厚み:4.9mm 部品点数:294個 石数:29個
パワーリザーブ:最低35時間~最大45時間
テンプ:ジャイロマックス 髭ゼンマイ:Spiromax®(Silinvar®製)
振動数:28,800振動 拘束角51°
ローター:21金ローター反時計廻り片方向巻上(裏蓋側より)
尚、ムーブについての過去記事はコチラから
又スピロマックス等のパテック フィリップの革新的素材についてはコチラから
ビブロ実測値(精度・振り角・ビートエラー)
文字盤上:+2~-5 288°~305° 0.1
3時下:+1~-8 263°~284° 0.0
運針確認時間:58時間30分
PATEK PHILIPPE 公式ページ
文責:乾
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