どう読んでも"イーメール"e-mail"としか読めない。何年やっても初級から抜け出せないフランス語かぶれの姐に言わせると仏語の読みは"エマーユ"となるそうだ。ただ厳密にフランス語表記するならば"ÉMAIL"とEの上にラテン系言語に特有のアクセンテギューをつけなければならないはずだ。今回これに気づかされて長年のもやもやが吹っ切れた。そう、英語っぽくしか見えないのはアクセンテギューが無いからだったのだ。ティエリー社長頼むからちゃんと付けて下さいよ。
重箱の隅はほっといて、パテック フィリップのタイムピースにおいて6時位置にインデックスの巾にほぼ合わせて極小で描かれるこの5文字は、水戸黄門の印籠級の扱いがなされている。しかし総てのモデルで6時位置に5文字表記があって、この違いは教えられないと気づかずに見過ごしてしまう方が多い。その非"EMAIL"モデルの5文字表記は"SWISS"となっている。しかしながらこのRef.5116に限らず、今やパテック フィリップのエナメル文字盤モデルは総てが超レアなので店頭で見比べる機会はまず皆無だろう。画像では上がRef.5116のエナメル焼き文字盤、下がRef.5119のホワイトラッカー塗り文字盤。インデックスの黒っぽさに微妙な違いがあるのがわかる程度で文字盤の表面感は全く同じとしか思えない。
エマーユは日本語では"七宝"。七つの宝なのでとても貴重で高い価値を持っている事になる。でも普段使いする鍋やマグカップの表面処理に多用されている琺瑯(ホウロウ:この漢字は絶対書けませんナァ)も原理は同じ・・らしい。
また当店一階で扱っているエントリークラスのボールウオッチのクラシカルな白文字盤が魅力なキャノンボールⅡにはコールドエナメルなる手法がなされている。かくのごとくエナメルは多様性があり根本から勉強をしなければならぬ次第となった。コールドエナメルの良い記事を見つけたので貼っときまして説明は省略御免です。
まず、ウイキペディアでエナメルを引いてみると英語表記は"ENAMEL"であり、陶磁器の釉薬("ゆうやく"よりも"うわぐすり"が解りやすいでんナぁ)とある。正確ににはポーセリン エナメル(porcelain enamel)と言う。そして原材料の名称に留まらず金属表面をその材料で加工する行為もエナメルであり、美術的技法を七宝焼き(仏:Cloisonné:クロワゾネ)と言い、工業的な製法としては琺瑯と呼び一応区別されている。その他にもこれら本来のエナメル特有の光沢感を連想させる塗料やカバン、靴・・等々なんやかやとあって定義が好き勝手に拡大している感があるが、本稿では時計文字盤に限って自ら学びつつ掘り下げての紹介が出来ればと思っている。
ここのところ更新が間延びしたが、公私とも色々あった以上にこのエナメルという奴は奥が実に深そうで取っつきにくかったのが延び延びの原因・・これはやっぱり言い訳やナぁ。
ブログ遅延の為に店頭に出せない金庫のRef5116Rにストレスを抱えながら10日程経った頃に大阪のホテルでパテック フィリップの本黒七宝焼文字盤を拝見する貴重な機会を得た。しかも単純なキズミ(時計師用ルーペ)ではなく、どちらかというと宝石用の照明(通常ライトと蛍光確認用のブラックライト)を備えたカール・ツァイス仕様のレンズ搭載の超高級ルーペを拝借してというおまけつきだった。価格数十万と聞いたこのルーペが凄いのは普通のキズミがレンズ中央部分にのみにしか焦点が合わないのだがレンズ全面に焦点が合ってしまって笑らけるくらい見易かった。正直購入を検討し、色々とググってみるが何とも見当たっていない。どなたかご存知の方おられれば是非ご紹介下され。
たぶん過去にもバーゼルのパテックブース等で黒エナメルは見ているはずなのだが、なんせ頭の中がエナメル、エナメル、エナメル・・状態で見なければ初見と同じだったという事で。
閑話休題、このルーペでみたブラックエナメルダイアルは見事に凹凸や気泡跡などまさしく焼きの痕跡がしっかりあって、これをラッカー(塗り)と見間違える事はド素人でもまず有り得ないだろう。ちなみにこの見分けやすい黒の七宝文字盤の方が白七宝よりも製作が非常に困難との理由で現在はパテック フィリップのほぼ独占状態になっているらしい。パテックHP内の参考記事はコチラ。
次に"七宝焼き"をググれば、かなり色々と詳しく出てきた。ママ引用(青文字)すると以下である。
七宝焼(しっぽうやき)とは金属工芸の一種で伝統工芸技法のひとつ。金、銀、銅、鉄、青銅などの金属製の下地の上に釉薬(ゆうやく:クリスタル、鉱物質の微粉末を水とフノリでペースト状にしたもの)を乗せたものを摂氏800度前後の高温で焼成することによって、融けた釉薬によるガラス様あるいはエナメル様の美しい彩色を施すもの。日本国内では、鉄に釉薬を施したものを、主に琺瑯(ほうろう)と呼ぶ。中国では琺瑯(ほうろう/読み:ファーラン)という。英語では、enamel(エナメル)という。七宝焼の名称の由来には、宝石を材料にして作られるためという説と、桃山時代前後に法華経の七宝ほどに美しい焼き物であるとしてつけられたという説がある。
歴史的には紀元前から始まって発祥は中近東。シルクロードから中国経由で飛鳥時代には日本へやってきていたようだ。ウイキペディアによれば日本、中国そしてヨーロッパにそれぞれ多種の技法があって近似のものも多い。全部紹介出来ないし、したところで引用だらけになるので時計に関するヨーロッパ系のものだけ以下引用する。
ペイントエナメル(painted enamel)
あらかじめ単色で焼き付けたエナメルを下地とし、その上に、筆を使ってさらにエナメル画を描き、焼き付ける技法。人物や植物を描いたミニアチュールが例として挙げられる。
時計文字盤でのミニュアチュールは細密画と言われる手法だったはず。数年前のバーゼル会場のブランパンブースのエントランスにあるイベントスペースで女性細密画師のデモンストレーションを拝見した記憶がある。
シャンルヴェ(champlevé)
土台の金属を彫りこんで、できたくぼみをエナメルで埋めて装飾する技法。初期の頃は、輪郭線の部分をライン状に彫りこんでいた。技術の発達につれて、逆に、面になる部分を彫りこんでエナメルで装飾し、彫り残した金属部分を輪郭線とするようになった。
日本の象嵌七宝に近いらしい。時計文字盤ではたまに見るかナぁ、前述のペイントエナメルや後述するクロワゾネ手法の際に部分的に採用されていた記憶があるような気も・・
クロワゾネ(cloisonné)
土台となる金属の上に、さらに金属線を貼り付けて輪郭線を描き、できた枠内をエナメルで埋めて装飾する技法。シャンルヴェよりさらに細かい表現が可能になる。日本の有線七宝はここに属する。
時計のエナメル文字盤装飾で最も多用されている技法ではないかと思う。忘れられないのは1990年代に奈良の百貨店テナント時代に盛んに販売していたユリスナルダン。数年間にわたり毎年限定でサンマルコというラウンドケース時計の文字盤に往時の天才クロワゾネ職人ミッシェル・ベルモー氏が焼き上げていた風景や海戦(シーバトル)シリーズの限定モデルだ。当然のことながら製作数が少なく各5~50個程度でYG、WGが主でPtもわずかにあったかもしれない。18Kでアリゲーターストラップ仕様で確か200万円前後だったはず。価格については隔世の感あり。これも何で買っとけへんかってん、どアホでんな~
画像が綺麗だったもので、アンティーウオッチマンさんのホームページより借用加工させていただきました。事後承諾ご容赦下さい。そして下は今年のバーゼルのパテックブース一階(あちら風に言えばグランドフロアまたは単に"G"?か)に希少なハンドクラフトとしてショーケースの中に飾られてたクロワゾネのユニークピース。NIKONのコンデジでノーフラッシュだから当然ASA上げてほぼ絞り解放でシャッタースピード稼いで撮った一枚。敏腕レタッチャーの竹山が明日からのスイス出張の為、成田前泊に先程出発した為にディスプレイ用のウオッチリングやら背景やらをフォトショップでにわかレタッチ親父自らが怪しげに加工しております。それゆえ今回は文字盤だけご注目という事でご勘弁ください。
クロワゾネどころかエナメルそのものもド素人とまずお断りした上で、この上下の文字盤は随分印象が異なる。ナルダンのこのピースはたぶん後期型でミッシェル・ベルモさん自身ではなく彼の娘さん(お名前失念)の作と思われるのだが、一個一個の有線(金製)で囲まれた部分がほぼ単色である。ベネチアの観光名所リマト橋下の運河の薄黄緑色の部分と空のもう少し濃い黄緑の2箇所だけは濃い目の緑が塊状に散りばめられて焼結されている。その他は単色のみで彩色の異なりは総て有線で区切る事でなされている。いわば単色の布切れをパッチワークした状態。
それに対してパテックは有線の区切りそのものが非常に少ない。鳥の顔の目の下のパート(区切り)では中央部分が白いが顎はコバルトブルーでその境界は微妙にグラデーションしている。例えば全く同じ文字盤二枚に有線を全く同じ位置に配置できたとしても2色の釉薬を同位置に塗り分ける事はまず不可能だろうし、焼結工程での混ざり合う具合など神のみぞ知る世界ではないのか。もちろんこの顔パートだけではなく殆どの区切りで2色、いや3色もありそうだ。この着色の技法の違いが両者を全く違うクロワゾネエナメルダイアルにしている。パテックの手法では絶対に同じ文字盤が世界に一枚しか存在しない。つまり究極のユニークピースたる由縁が此処にある・・としておこう、ふぅ~なんせ素人ですから断定は禁物。再来月のパテック展でのライブトークイベントも決まった事だし、この辺の推測の整合性を突っ込んでみる事としよう。そうそうなぜ七宝文字盤は黒や濃色の方が白色よりも製造が困難なのかも聞かなあかんしなぁ あぁしんど!
やはり予想通り大長編の気配が漂ってきた。後編では実機紹介となるがこれまた撮影が滅茶苦茶厄介だった。白色の七宝なのでルーペでさえラッカーとの違いは見慣れないとまず無理。はたしてマクロレンズで捉えきれるのか?次回に斯うご期待。
文責:乾
『第一回パテック フィリップ展』のご案内
だいぶ先になりますが今夏のお盆真最中8月11日(木・山の日)~15日(月)に当店初の『パテック フィリップ展』を実施いたします。カサブランカ流の"何か"が違う展示会イベントに出来ないかと日々無い知恵をしぼっております。是非ご期待下さい。詳細等が詰まりましたら順次ご案内申し上げます。
展示会期間中の土日13日14日の両日午後2時から「パテックフィリップに夢中」と題してライブトークイベントを実施いたします。正規輸入元のパテック フィリップ ジャパンからの特別ゲストスタッフを迎えて、突っ込みどころ満載のパテック フィリップの謎に乾はじめ当店スタッフががぶり寄ってゆきます。参加ご希望の場合は席(※本音は寄集めの椅子の都合で)に限りがありますので案内状送付希望を下記からいただき申し込み用紙にお名前等ご記入の上、FAXにてお申込み下さい。
※案内状(7月下旬発送予定)のご希望がございましたら、コチラからお問合せ下さい。