今年の新作で最も期待値が大きかったのがワールドタイム。今春早々に超希少品で少々特殊なクロワゾネ(有線七宝)文字盤のローズゴールドケース1品番を除き全てが生産中止発表になった人気のRef.5130。当然後継モデルが出て当然なのだがローズとホワイトのレザーストラップタイプのみの2本限りは個人的には肩透かしされた感じ。
恐らくプラチナはそのうち追加されるのではないか。ただイエローゴールドはどうなのか?今年の新作でイエロー素材は新しい永久カレンダーRef.5327Jの一点きりである。ちなみにローズは12点もあって、あまりにも差が激しい。
ここで少し脱線して、いくつかの時計ブランドを調べると、はたしてイエローゴールドケースは絶滅危惧種状態である。そんな中で今年APのロイヤルオークが新たにYGをラインナップし直してきたのはニュースですらある。パテックも随分と偏ってきているが、ド定番モデルにはほぼイエローが踏みとどまってる。2016カタログを素材別に追っかけたのが下表。
注:ノーチラスクロノRG/SSコンビ1点はSSとした。プラチナがグラコンで最多の素材であり、全体でもステンレスと同数なのは流石にパテックならではだが、ここまでRGが多いとは正直ビックリ。特にレディースでYG貧弱化が顕著で、YG全14Ref.中でRef.7121Jのブレスとストラップの2型のみしかない。断捨離好きなのに妙に物持ちが良い姐がたまたま取っていた今や貴重な2000年のカタログを開く。
いやぁ~まあイエローだらけ真っ黄色だ。掲載モデルの7割弱がYG。右端には今回紹介の現代ワールドタイムの初代Ref.5110のプラチナとローズが居るがYG・WGが見当たらないので全モデルは掲載されていない。カタログと言っても縦30横70cmの薄手のコート紙の裏表という実に簡便な印刷物で現行カタログとは隔世の感がある。ネプチューンなど今はもう無いシリーズもあったりするので取り合えず別刷りのプライスリストから素材別に拾って見たのが下表。
注:ゴンドーロガブリオレRG/WG1型はWG、ノーチラスとネプチューンのYG/SS2型はSSとした。
全リファレンス数はほぼ同じ。圧倒的なYGにRGを加えて金色系115Ref.(55%)と半分を超えている。この16年で激減したYGの大半はRGとなり一部PT、SSにもシェアを明け渡し、2016年現在はプラチナ・ステンレスが共に約1割でWGと合わせれば銀色系が115Ref(56%)と逆転している。
本題に戻って、ワールドタイム。2016年に生産中止発表となったRef.5130の紹介と多少重複するがおさらいをする。1930年代後半からジュネーブの時計師ルイ・コティエ氏により製作が始まったワールドタイムは前期型として時分針リューズと24時間ディスクの連動操作システムを搭載してスタート。シティディスクは今日の回転ベゼルの様に手動で回していた。その11時ごろに現在時差ありのLONDRES(ロンドン)とPARISがあって当時は同一時間帯に属していた。3時半ごろにはTOKIOとあって中々面白い。下画像:Modèle1415HU(1939)
1950年台に入っても基本は同じでシティディスクを9時位置に設けた第2リューズで回すように若干進化した後期型(1953年~)が作られるようになった。東京はTOKYOとなり、ロンドンもLONDONとなっているがパリとはまだお友達だ。下画像のModèle2523(1955)は今回紹介するRef.5230のデザインソースとされている。
しかしワールドタイムは50年代中頃に生産が終了される。理由は調べたが判然としない。1950年代というのはそれまでのプロペラ機に代わってジェット旅客機が登場し、飛行機輸送が飛躍的に進化していった時代である。ブライトリングナビタイマーが1952年、ロレックスGMTマスターは1957年に登場している。そんな中で1959年にパテック フィリップはルイ・コティエ氏が開発した現在トラベルタイムと呼んでいる画期的な2ボタンによるローカル時針のアップダウンシステムを備えたモデルを発表している。下画像:Réf.2597(左1959,右1962)
個人的想像だがジェット旅客機による航空新時代の到来にふさわしい全く新しいトラベルウオッチを模索していたのがパテックの1950年代後半だったのではないだろうか。そして1969年初代セイコーアストロンで始まるクォーツショックによる約20年間のスイス機械式時計暗黒時代。ようやく1990年頃からの機械式復活期を経て40数年ぶりに2000年にワールドタイム現代版は復刻される。ロンドンとパリには温度差!ではなくて1時間の時差が生じている。画像が荒くてつぶれているが文字盤センターには複雑で美しい格子状のギョーシェが刻まれている。デザイン的には1900年代半ばのオールドワールドタイムに似るがトラベルタイム機構を転用した短針、シティディスクと24時間リングの3者を10時位置のプッシュボタンで連動操作する画期的なシステムを備えるように進化している。詳しくは過去記事を参照。
※画像はPATEK PHILIPPE INTERNATIONAL MAGAZINE Vol.Ⅲ No.01よりRef.5110 PT,YG
人気を博したRef.5110は2006年にエンジンはそのままに時代の要請?から2.5mmのサイズアップを受けRef.5130へとマイナーチェンジされる。外観上の違いはダイアルのギョーシェが放射状の力強いものになり、時針はアップルハンドに分針はドーフィンハンドになった。サイズが大きくなってシティデスクの表示にはユッタリ感が出た。※下画像
そして今年、現代版ワールドタイムとしては第3世代となるRef.5230が発表された。ムーブメントは初代からずっと同じCal.240 HUである。ケースデザインは大きく変更され1940年~50年代に流行したウイングレット(小翼)ラグ(前述の左右にリューズのあるModèle2523参照)を控えめに備え、ベゼルはそれまでの丸味を帯びたものから平面的でエッジの効いた形状となった。さらに好みの分かれるところだがリューズガードが廃止された。ケース径とラグ巾ともに1mm絞られ厚みは逆に0.63mm増して筋肉質で引き締まった印象になった。
ダイアルセンターの手作業のギョーシェはパテック フィリップ ミュージアムの資料を参考に一新され同心円状に様々なサイズのリップ(波状)が大小交互に刻まれており複雑さでは過去一番である。
下画像ではWGが少し白っぽく写ってしまったが、どう見てもWGとRGでセンターギョーシェも含めてインデックスを除く文字盤ベースは全く共通だ。その為にWGモデルはグレイッシュなギョーシェ部に針とインデックスの色目が同化しやすく視認性に少し難がある。時針は非常に特殊な形状だがパテック特有の穴開き針(Pierced hour hand:ピアス針)と紹介されている。分針は第1世代Ref.5110の物にほぼ先祖返りした印象だ。
Ref.5230G-001、5230R-001
ケース径:38.5mm ケース厚:10.23mm
ラグ×美錠幅:20×16mm 防水:3気圧
ケースバリエーション:WG,RG,
文字盤:チャコールグレーラッカー、ハンドギョーシェ ゴールド植字インデックス
ストラップ:シャイニー(艶有り)アリゲーター ブラック(WG)/チョコレートブラウン(RG)
価格:税別 5,190,000円(税込 5,605,200円)2016年11月現在
キャリバー名Cal.240 HU末尾のHUはHeures Universelles(仏:時間 世界)の頭文字だ。ちなみにパテック社のHP内には用語解説ページがあって時々御厄介になっている。1977年開発の極薄型自動巻キャリバー240(厚さ2.53mm)にワールドタイムモジュールを組み込んだ240 HUは3.88mm。これは厚み的には永久カレンダーキャリバーの240 Qと全く同寸である。たった1.35mmの各モジュールに地球やら100年やらが封じ込められている。
Caliber 240 HU
直径:27.5mm 厚み:3.88mm 部品点数:239個 石数:33個
パワーリザーブ:最低48時間
テンプ:ジャイロマックス 髭ゼンマイ:Spiromax®(Silinvar®製)
振動数:21,600振動
ローター:22金マイクロローター反時計廻り片方向巻上(裏蓋側より)
尚、スピロマックス等のパテック フィリップの革新的素材についてはコチラから
PATEK PHILIPPE GENEVE(M.HUBER & A. BANBERY)P.238、242、243
PATEK PHILIPPE 公式ページ
乾
2016年11月29日現在
5230G-001 ご予約対応となっております。
5230R-001 ご予約対応となっております。
(パテック フィリップ在庫管理担当 岡田)