パテック フィリップに夢中

パテック フィリップ正規取扱店「カサブランカ奈良」のブランド紹介ブログ

2019新作 一覧

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8月にはとうとう記事を一度も投稿出来なかった。酷暑のせいか、新型コロナ禍のせいか?はたまたネタ切れか?まあ全部と言えば、全部。言い訳にしかならないが"ストレスフルな夏"であったのは間違いない。おっかなびっくりの出張や面会、外食を再開し始めるも、扉は常に半開き状態で危険と背中合わせを感じつつも天照大御神のように閉じ籠り続ける事も無理が有る。奈良県もクラスターが次々発生し死者8名、累計感染者は500名を超えてしまった。当たり前の対策をしつつ生き残りは運次第という諦観も覚悟するしかないのか・・
6月にSSカラトラバ限定モデル、7月にはグランド・コンプリケーション3モデルの新製品が発表された今年のパテック。てっきり8月にもコンプリケーションかカラトラバ辺りを何点かリリースすると思いきや、その後音沙汰なし。そんな折に入荷して来たのが2019年ニューモデルの手巻クロノグラフRef.5172G。この時計は残念ながら昨年度の入荷予定が見送られた1本。入荷予定新製品が見送られるのは結構珍しいケース。勿論お客様の注文が紐付いていてが原則だけれど。と言う訳で当店初入荷の実機を撮影してご紹介の運びとなった。
パテック フィリップは決してクロノグラフ時計の専業メーカーではない。しかし歴史的にも偉大なクロノグラフを輩出してきた事実があり、中途半端なクロノグラフ専業を謳っているブランドより重厚なアーカイブを持っている。さらに言えば1920年頃から腕時計に搭載された主要な複雑機構(クロノグラフ、ミニット・リピーター、永久カレンダー、ワールドタイム等)の全てに於いて業界のパイオニアであり常にトップランナーとして走り続けてきたと言っても過言ではない。敢えて外したトゥールビヨンについてはあまり過去に製作例が無い様に思う。現行ラインナップに於いてもトゥールビヨン搭載モデルは現行3モデルに今年7月発表の5303Rが加わったに過ぎない。推察するにパテックはトゥールビヨンそのものにさほどの有効性を感じていない様に思う。
トゥールビヨンは1800年前後に仏の天才時計師アブラアム=ルイ・ブレゲが発明したとされ、機械式時計の精度安定を計る為にテンプをキャリッジと呼ばれる籠に収めて一定時間に一定速度で籠自体を回転運動させるという構造になっている。当時は懐中時計時代であり、その携帯精度の平準化には有効とされ、時計開発の歴史を何十年も早めた発見とされている。しかし常に一定の姿勢で携帯されるポケットウォッチと異なり、腕時計は手首に巻く特性上から様々なポジションを取り易いので、コストを掛けてテンプを回転させなくても精度はそもそも平準化しやすい。現代では各ブランドがその技術的優位性を誇示するために製作されている面がある。
ところで他ブランドのトゥールビヨン・キャリッジは通常ダイアル側にオープンワーク仕様で見せる構造になっている。確かに繊細で美しいキャリッジが優雅に回転する様は見栄えがある。だがパテックは伝統的に紫外線によるオイル劣化を嫌って裏蓋側からしか見えない様にしてきた。雲上機構であるトゥールビヨンでさえも見た目よりも実用性を優先するパテックらしい配慮だ。尚、今年発表(正確には昨年のシンガポール・グランド・エキジビションが初出)の5303Rは時計の裏表両面がオープン・アーキテクチャー(全面スケルトン)の為に、敢えて見栄えのする表側にキャリッジが配置された知る限りパテックでは初めての試みだが、サファイアクリスタルに無反射コートならぬ紫外線防止加工を施すというこれまた初耳の対策で悪影響を防いでいる。
さて、脱線はこのくらいにして本題のクロノグラフに話を戻しヒストリーを少しおさらいしてみたい。パテックが手巻クロノグラフをジュー峡谷のヴィクトラン・ピゲからエボーシュ供給を受けて造り始めたのが1920年代半ばである。当時はキャリバーも完成品も名称や品番が無くそれぞれ固有番号で管理されていた。またリューズ1本で操作をするシングルプッシュ方式が採られていた。さぞや良く壊れたのではないかと思われる。1932年のスターン・ファミリーへの事業継承を経て1934年9月には、ジュー峡谷のクロノグラフ専門エボーシュのヴァルジュ―社の23VZをベースにパテック向けにカスタマイズされた専用キャリバー13'''搭載の名機Ref.130が登場している。ツープッシュボタン型は遅くとも1936年製造機には登場している。今回の紹介モデル5172のルーツと言えよう。
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因みに当時からパテックのクロノグラフに共通する仕様であるコラムホイールとそのカバーであるシャポーが採用されていた。このキャリバーは供給が途絶えた3年後の1985年まで搭載され続けた"超"の着くロングライフなエンジンだった。様々な搭載機の中で特に著名でアンティークウオッチ市場で高評価なのが永久カレンダーを組み合わせたRef.1518(1941-1950)とRef.2499系(1951-1985)である。
それ以降の後継キャリバーには同じくジュー峡谷のヌーベル・レマニア社が選ばれ、同社のCal.2320をパテック社自身が大幅にカスタマイズしたCH 27-70が誕生した。これも名機の誉れが高く今現在も追い求められる人気モデルを続出した。やはり永久カレンダーを併せ持ったRef.3970(1986-2004)とその後継機Ref.5970(2004-2011)。そしてシンプルなツーカウンターとヴィンテージテイストの表情を持ち大ぶりなケースを纏ったRef.5070(1998-2009)は記憶に新しい。2000年のYGモデルがたったの税別410万円。でも当時の高級時計相場からすればかなり高目だったが絶対に買っておくべきモデルだった。参考に出来そうな後継機5170( 製造中止モデル)は倍以上の価格設定になっていた。こちらは5172に至るシンプルな手巻クロノクロノグラフの中継ぎ機種的な存在だ。
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そして2009年まで四半世紀に渡り搭載され続けたCH 27-70だが、時代の流れでスウォッチ・グループ傘下に組み込まれていたヌーベル・レマニア社はグループ外へのエボーシュ供給を絶たざるを得ない圧力が掛けられていた。その為に2000年頃からパテック社はクロノグラフの完全マニュファクチュール化計画を進めて2005年には、量産は効かないが古典的な手巻極薄スプリット秒針・クロノグラフ・キャリバーCHR 27-525 PSをリリースした。代表的搭載モデルはRef.5959Pだろう。さらに2006年には実用性に溢れシリーズ生産(量産タイプ)に向く現代的な垂直クラッチを搭載した自動巻フライバック・クロノグラフ・キャリバーCH 28-520系を発表。年次カレンダーがカップリングされた初号機Ref.5960Pは、市場でプレミア価格が横行してしまう大ヒットモデルとなった。14年が経つがつい先日の様に克明に覚えている。
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そして2009年秋にはマニュファクチュール化プロジェクトの総仕上げとなる第三段として手巻のシンプルクロノグラフ・キャリバーCH 29-535 PSが初搭載されたのは、クラシカルな婦人用クッションケースのRef.7071Rだった。同キャリバー搭載のメンズモデルとしては翌年春のバーゼルワールドで正当なラウンドシェイプでRef.5170Jが発表された。幾つかの素材・顔で製造された5170は2019年春に生産中止となり、後継機として今回紹介の5172Gが、その任を引き継いだ次第である。一気のおさらい、あぁ~しんど!5172g_side_a.png

兄貴分であったRef.5170との違いは多々あるが、最も顕著なのはケースと風防ガラスのデザインだろう。段差付きの特徴的なラグは1940年代半ばから60年代にかけて採用されていた歴史がある。最近で2017年発表の永久カレンダーRef.5320Gで久々に採用され、昨年2019年には今回紹介のクロノグラフの他にカラトラバ・ウィークリー・カレンダーRef.5212Aでも採用されている。ただ5212のケースはラグの段差が1段であり、ケースサイドも上画像の様にエッジィな出隅と入隅を伴った出っ張りは無く、少し官能的ともいえるシンプルなカーブ状に仕上げられている。この点永久カレンダー5320はケース形状的に5172とはほぼ同じである。ボックス状のヴィンテージ感漂うサファイア・ガラスが少し特殊な手法でケースに固定されるのは3モデル共通である。ケースサイドの鏡面仕上げは素晴らしい為に平滑面には顔を全く歪まずに映す事が可能だ。
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放射状にギョーシェ装飾された菊の御紋の様な丸形プッシュボタンは、同じエンジンを積む婦人用クロノグラフRef.7150/250が一年先んじて2018年に採用している。デザイン的な出自を探すと1940年代に製造された手巻クロノグラフRef.1463のプッシュボタンに酷似した意匠が見られる。ただラグは一般的な形状であって段差などは無い。
パテックのデザイン的アーカイブの活用には2通りあってクンロクやクロノメトロ・ゴンドーロの様に、ほぼオリジナルモデルのデザインを忠実にトレースする場合が一つ。その他に今回の様に過去採用してきた様々なディティールを組合せる事で新味を作ってしまうやり方が有る。前者では歴史的デザインそのものが売りであり誰もが復刻モデルと認識出来る。後者はアンティーク・パテック愛好家以外の現代パテック・コレクターには全くの新規意匠と映る。温故知新とも言えるし、実に巧妙で賢いが、分厚いアーカイブが存在し、尚且つブランドとして途切れなかった歴史に守られた資料。さらに自ら重厚なミュージアムを運営継続できる膨大なコレクションの収集があってこそ可能な事である。
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文字盤の構成も永久カレンダー5320に共通部分が多い。やや大振りで正対したアラビア数字の植字されたWG製インデックスと注射針形状と呼ばれる太目のWG製時分針にはたっぷりと夜光塗料(一般的にはスーパールミノバと呼ばれる蓄光塗料、パテックは敢えて夜光と表示)が塗布されカジュアルでスポーティな印象を与えている。ダイアルのベースはニス塗装によるブルー文字盤となっており、カラトラバ・パイロット・トラベルタイムRef.5524Gと同じ化粧がなされている。
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もう少し文字盤のディティールがそこはかとなく写り込んで欲しかったが、ただの夜光画像になってしまった。最近ロレックス社の公式インスタグラムを見ていたら、9/3投稿のオイスターパーペチュアル画像に素晴らしい文字盤と蓄光インデックスの競演画像があって感動した。ともかく画像が凄まじく美しい。実物以上に仕上がっているのが良いのか悪いのか。翻って基本パテックはカタログ等印刷物の仕上がりは絶対に現物を超えない。カタログ画像よりはずっと良い公式インスタ画像でもそれは意識されている様な気がする。まるで醜いアヒルを狙っているのかと思ってしまう。しかしまあ稚拙な画像を掲載してしまった。
因みにパテックはじめ現代時計で主流となっている蓄光というのは、光源によって蓄えられた光を発光するが時間と共に照度は弱くなり明け方にはほぼ光れない状態になる。1900年代初頭から1990年以前迄は自発光する夜光塗料が時計には主に使われていた。著名なのは軍用として開発されたパネライのオリジナル・ラジオミールで放射線物質のラジウムを含む塗料がその命名の所以だ。後期にはトリチウム等を含有した塗料が主になる。ヴィンテージ・ロレックスのダイアル6時辺りの"T<25"の表記などが有名。しかし今現在は特殊な透明ケース等に閉じ込めて放射線が洩れない構造にしなければ一切使用できなくなっている。現在この特殊方式に則って採用しているのはボールウオッチやルミノックス等である。夜光は放射性物質の長い半減期の間は昼夜関係なく常に光っている働き者だ。しかしその基本照度は低く、優れた蓄光塗料の最高輝度にはとてもかなわない。実際には一寸先が闇という漆黒でないと見づらい。まあ昔の夜は今よりずっと暗かったはずだ。ミニット・リピーターも実用性があったに違いない。
さて、今回も脱線しまくりのRef.5172G紹介だが、ストラップにも触れないわけにゆかない。2015年にカラトラバ・パイロット・トラベルタイムRef.5524まで滅多に採用される事が無かったパテックでのカーフスキン・ストラップ仕様。昨年度からは5172に加えて55205212など複数のモデルに採用されるようになった。5172の文字盤のニス塗装仕上げに質感・色共にマッチした表面感を出したブルーストラップによって、前身機の5170には全く無かったカジュアルな印象が全面に出て来た。ケース径と厚みが若干増してラグ巾が1mm絞られたのもカジュアル指向だ。ブルーデニムにTシャツでも余裕で大丈夫だろう。制服指向のかっちりしたクラシックなスーツが不振を極めており、ビジネスシーンでの服装のカジュアル化が鮮明だ。コロナ禍と酷暑でそれは益々加速されたようにも思う。隆盛を極めるラグスポ以外のクラシカルで保守的なシリーズの時計にも、カジュアルな装いを用意し始めた老舗メゾンのパテック フィリップの今後に大いに期待したい。そんなカラトラバが今年は出てくる気がしていたのに・・

Ref.5172G-001
ケース径:41mm ケース厚:11.45mm ラグ×美錠幅:20×16mm 
防水:3気圧
ケースバリエーション:WGのみ
文字盤:ニス塗装のブルー 夜光塗料塗布したゴールド植字アラビアインデックス
針:夜光塗料塗布の18金時分針
ストラップ:手縫いブルーカーフスキン 
バックル:18金フォールデイング(Fold-over-clasp)
価格:お問い合わせください
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いつ、どの角度から見ても惚れ惚れする美しい手巻クロノグラフ・ムーブメント。しかし必要十分にしてやり過ぎていない仕上げが施されたがっしりした受けとレバー類からは、繊細ではなく骨太で質実剛健な印象を受ける。実用性に溢れた頼もしいエンジンである。パテックの中ではロングパワーリザーブと言える最小65時間駆動も嬉しい。
また現在手巻クロノグラフ・モデルはカタログ上では、シリーズ生産が原則のコンプリケーション・カテゴリーに分類されているが、このキャリバーの製作方法はグランド・コンプリケーション並みの熟練技術者による2度組みが採用されている。四段時代に歴戦の上段者を撃破し続けた藤井聡太現二冠の様なポテンシャルタップリの素晴らしいムーブメント。パテックファンの所有欲を掻き立てるエンジンでもある。

Caliber CH 29-535 PS:コラムホイール搭載手巻クロノグラフ・ムーブメント
直径:29.6mm 厚み:5.35mm 部品点数:270個 石数:33個 受け:11枚 
パワーリザーブ:最小65時間(クロノグラフ非作動時)クロノグラフ作動中は58時間
テンプ:ジャイロマックス 髭ゼンマイ:ブレゲ巻上ヒゲ
振動数:28,800振動

PATEK PHILIPPE INTERNATONAL MAGAZINE Vol.Ⅱ No.08 Vol.Ⅲ No.11 Vol.Ⅳ No.09
COLLECTING PATEK PHILIPPE WRIST WATCHES Vol.Ⅰ,Ⅱ(Osvaldo Patrizzi他)
文責、撮影:乾 画像修正:藤本

「多分、今年はまだ無理だと思いますが駄目モトでエントリーしときましょう」
パテック フィリップのコレクションには購入しにくいモデルが多々あるが、さらに購入方法が一筋縄でゆかない物もある。正直なところ我々販売店にも明確な基準が掴めているわけでも無い。さらに突っ込んで言えば輸入元であるPPJ(パテック フィリップ ジャパン)のスタッフですら、納期は勿論の事、入荷の可否が薄ぼんやりとしか予想出来ない事も間々ある様だ。
判り易いのは通常のカタログに未掲載の限りなくユニークピース(一点もの)や或いはそれに近い一桁しか製作されないレア・ハンドクラフト群。当然時価であり、現物はショーケースのガラス越しに年一回のスイスの展示会(昨年まではバーゼルワールド)の際にパテックのブース内展示を見るしかない。PPJ経由で注文を入れても大半が却下され極少数しか入荷していないようだ。
次がカタログUPされているが価格設定が、時価となっているグランド・コンプリケーション群。ミニット・リピーターとスプリットセコンド・クロノグラフが代表モデルで、永久カレンダーやトゥールビヨンが追加搭載されたハイブリッドな超複雑モデル等も有る。さらには現代に於いては新月の夜を選んで、人跡未踏地まで赴むかねば感動に浸る事すら難しくなった満天の星座達が生み出す一大叙事詩を、手首の上で真昼でも堪能できる"どこでもプラネタリウム!"の様な天文時計が組み合わさったドラえもんウオッチの様なモデル等もそれである。
アレや、コレや、ソレらの時計達は、注文そのものは一応可能だ。ただ経験的に複数のパテック フィリップのタイムピースを購入している実績の有る店舗からのオーダーでないとまず購入の見込みは無いと思われる。では、どの程度の実績が必要か?という事が判然としない。基準と言うものが無い。しかし無い無い尽くしで、取りつく島もなく溺れる人を見捨てる訳にもゆかず、個人的な独断でロープ付きの浮き輪を投げる事とする。
本数的な実績(同一店舗限定)は、8本から10本程度かと思われる。その内には定価設定有りのグランド・コンプリケーションが2本位(永久カレンダーと永久カレンダー・クロノグラフとか)含まれるのが望ましそうだ。さらにはノーチラス&アクアノート比率が半分以下と言う辺りだろうか。さらに言えば理由の如何を問わず、購入品が間を置かずに夜店の屋台などに並んでいたりすると実に面倒で難儀な話になって・・・1970年代のジャンジャン横町のようなラビリンスに迷い込み生還はおぼつかなくなるのである。
では、皆さんが高い関心を持たれているノーチラス&アクアノートの購入基準はどうか。過去何度かこの難問には触れてきた経緯があるが、コロナがやって来ようが、世界各地でデモの嵐が吹き荒れようが、お問い合わせの電話とメールと来店は引きも切らない。増える一方の狂喜乱舞にして百花繚乱なのである。2015年という微妙な最近にパテックの取り扱いをスタートした当店の最初の2年ぐらいは、今にして思えば"パラダイス"と呼んで差支え無かった。狂喜乱舞の温度が今現在より低温だった事もあるが、運よく知名度の低い天国に辿り着かれた幸運な方がおられた。しかし今は、この2年弱位で天国は、地獄とは言わずとも荒涼な荒野になってしまった。店頭限定での購入希望登録は受け付けているが、過去と将来のパテックご購入実績がお有りの顧客様へ優先的に販売したいので、中々ご登録だけのお客様にまで現在の入荷数では廻らない状況になってしまった。パテック社の方針として生産数を増やす事は考え辛いので、現在の異常人気が落ち着かない限り荒野を襲う嵐の厳しさは増すばかりではなかろうか。ただし、アレやコレやソレやの時価モデルの購入が棒高跳びレベルとすれば、ノーチやアクアはモデルによっては少し高目のハードル程度の高さだと言えなくもない。
毎回の事ながら長い前置きはさておいて、本題に入ろう。前述の棒高跳びレベルにはもう一群あって、定価設定の有るカタログモデルながら、本日冒頭の「駄目モトでエントリーしときましょう」というややこしいモデル。エントリー過程は、もっとややこしい話になるので、僭越な言い方になるが棒高跳びの半分くらいまでよじ登って頂ければご説明申し上げます。そんな意味深な本日の紹介モデルRef.5231J-001YG製ワールドタイム・クロワゾネ文字盤仕様。
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通常の現代ワールドタイム第三世代Ref.5230と何がどう違うのか。結論から言うと品番末尾と見た目が違うだけである。具体的には素材が、5230には設定の無いイエローゴールドである事。次に文字盤センターがギョーシェ装飾ではなくクロワゾネ(有線七宝)と称される特殊なエナメル加工で装飾されている事。最後が時針の形状がパテック特有の穴開き針(Pierced hour hand)では無くてRef.5130(2006~2015年、現代ワールドタイム第二世代)で採用されてファンも多かったアップルハンドが採用されている。分針はリーフハンドでほぼ同じ形状だ。個性的で押出の強いクロワゾネの印象によってレギュラーモデルの5230との相違感が圧倒的で、見落としてしまいそうになるがアップルハンドも特別感の醸成に大きく貢献している。
過去にベースモデルの5230を始め、第2世代5130も紹介してきた。さらにレア・ハンドクラフトの一つであるエナメルも或る程度(完璧に理解出来ているわけでは無いが・・)記述している。まさかの入荷に発注されたお客様同様にビックリして意気込んで撮影し、記事を書き始めたものの、さて一体何を書こうかしらん。
一体全体どうしてこのタイムピースがそれほど希少で追い求められるのか。これは重要な考察になりそうである。思うに幾つかの要素がありそうだ。まずレア・ハンドなのでそもそも年間の製作数が非常に限られる。価格がそこまで高額ではなく、永久カレンダーや手巻クロノグラフより手頃である為に購入を検討をする方が多い。カタログ外のユニークピース・クラスの文字盤全面クロワゾネ2針のシンプル自動巻時計よりも手頃で、購入過程はややハードルが低い(あくまで今回感じた事だが・・コロナが影響したか)。そんなこんな諸事情が有るが、恐らく最大の理由はその歴史に有りそうな気がする。ワールドタイムの父とも言えるジュネーブの時計師ルイ・コティエは、1937年~1965年の間にワールドタイムを400個あまり製作しているのだが、当時製作された世界地図をモチーフにしたクロワゾネ装飾のセンターダイアルを持つヴィンテージな個体が、2000年頃以降のオークションで「そら、もう、なんで?」だったり「・・・・・?」だったりが続いた。いつの世も数寄者のガマ口は、熱気球クラスだという事らしい。

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28年間で400個は平均年産数は約14個。『パテック フィリップ正史』によれば、アンリ・スターンが社長就任した1959年の年産が6,000個とあるので、わずか2.3%に過ぎない。その中でクロワゾネ技法による地球装飾バージョンはどの程度あったのかは判然としない。さらに上図の中央は北米大陸であり、左はユーラシア大陸とアフリカ、さらにオセアニアまでが広く描かれたバージョンとなっていて図柄にはかなりバリエーションがある。現代よりはクロワゾネに携わる職人が多かったと思われるが、手仕事ゆえ量産は利かなかっただろうからモチーフ毎の個体数は限定的と想像される。
単純比較は出来ないが6月1日の為替レート(1CHF≒112円)として、左の1415の売価が約219,000円。49年後の落札額が約3億840万円で単純計算では1,400倍。中央の2523は売価不明ながら1989年にCHF36万(4千万円強)で落札された経緯を持ち、その後23年で約3億1千万円に大化けしている。
2000年に40年以上の時を経て復刻された現代ワールドタイムのRef.5110にはクロワゾネバージョンが用意されなかった。2006年にその第2世代としてRef.5130がデビュー。さらに2年後の2008年に待望の現代版クロワゾネダイアル・バージョン(上画像右端)が蘇った。大西洋を中心に両側にヨーロッパ・アフリカ大陸と南北アメリカ大陸が描かれている。今回紹介の5231とほぼ図柄は重なるが、使用されている七宝釉薬の多彩さでは5231の方が上回っている様に見られる。同モデルでは他にWG・PT素材も製作された。図柄は全て異なっており、PTはメタルブレス仕様で今現在も継続生産販売されているが入手の困難度合いは、やはり棒高跳びの世界となっている。
生産中止YGモデル5131Jの市場価格だが、個体によって非常にばらつきがある様だ。OSVALDO PATRIZZI他の資料では上記の60万ユーロ(約7,400万円)等というとんでもない見積もりもあるが、一方で18,000ユーロ(220万円余り)と言うにわかに信じがたい見積もりもある。ネット検索での国内2次マーケットでは税込1,100~1,200万円辺りが多いようだ。現代ワールドタイムもクロワゾネ仕様になるとプレミア価格にはなっている。ただ、なってはいるもののノーチラスSSの様な狂乱相場ではない。これはやはり実用性の延長にある時計として捉えられるばかりでは無く、嗜好、趣味、鑑賞といった芸術的側面を有している事で、良くも悪くも対象顧客が絞り込まれてしまうからだろう。平たく言えばニッチマーケットの稀少モデルなのであろう。
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さて、クロワゾネ(仏:cloisonné、有線七宝)等のエナメル技法について書きだすとキリがない。そしてまた何度も繰り返しになるが、製作現場をおのれのマナコで確と見た事も無いので資料を探してきて、ふわふわと書き綴っているに過ぎない。上画像の左右を較べると右側で有線の何たるかが何となく判るだろうか。
久々のエナメル紹介なので、製作工程のおさらいを少し。まず文字盤素材(大体18金)
に図柄を描いて(鉛筆なのかペンなのか、良く知らない)、高さ0.5mmの金線(銀、銅の事も)をスケッチに従って、辛気臭く曲げながら接着剤で文字盤に貼り付けてゆく。次にフォンダンと呼ばれる透明の釉薬(粉状ガラスの水溶液)を塗布し摂氏750~800度辺りの決められた温度に熱した窯で焼く。時間は極めて短い様だ。焼結の状態を常に目視して焼き過ぎを防ぐ。この際に文字盤裏側にも透明釉薬の捨て焼をする。これは表側の塗布・焼成を繰り返す事で表裏の膨張率が異なって文字盤が反る事を防止するためである。金線で囲まれた部分に様々な色の釉薬を焼成後の色滲みを想像しながら塗布してゆく。これを焼成するが、釉薬は焼成で目減りするので、何度も塗布と焼成を繰り返して金線の高さまで焼成面を盛り上げてゆく。勿論、この時点で表面は凸凹なので金線もろとも全体を均一にポリッシュ(恐らく砥石と水)する。平滑になったら最後にフォンダン(透明釉薬)を塗布焼成し保護膜を作って完成。
15分、30分等のクォーターインデックスはかなり早い段階で植字されていると思われる。時分針用のセンターの針穴は元々開いているだろうが、焼結後にエナメル層を穿って開け直す必要があるはずだが、クラックが入るリスクがある。その他にも焼成時のトラブルもあるので、エナメル文字盤は歩留まりがとても悪い。ゆえに生産数が限られてしまう。幾多の艱難辛苦を乗り越えて完成した良品文字盤にPATEK PHILIPPE GENEVEのブランドロゴをシリコン転写してお疲れさまとなる。かなり書き込んだ過去記事はコチラから。
日本に於いてシルクロードから伝わった七宝が盛んに作られるようになったのは17世紀と割に遅い。さらに有線七宝は、明治時代になってから急速に技術発展したが、現在は後継者難もあり存続が危ぶまれている。
愛知県には2010年まで七宝町という町があって、現在も僅かに数軒が七宝を製作している。前から信州に行くときにでもどちらかの窯元?さんを訪問して、見学したいものだと思いつつ未だ実現できていない。彼の地の若き有線七宝職人達の挑戦が紹介された動画が有ったのでご興味のある方はコチラから。スイスのクロワゾネダイアルそのものの製作工程動画は、残念ながら適当なものが見つからなかった。

Ref.5231J-001
ケース径:38.5mm ケース厚:10.23mm 
ラグ×美錠幅:20×16mm 防水:3気圧
ケースバリエーション:YGのみ
文字盤:18金文字盤、クロワゾネエナメル(中央にヨーロッパ、アフリカ、アメリカ大陸)
ストラップ:ブリリアント(艶有り)チョコレートブラウン手縫いアリゲーター
バックル:18金YGフォールドオーバークラスプ
価格:お問い合わせください

マイクロローター採用の極薄自動巻Cal.240をもう何度撮影した事だろう。でもこの角度から捉えたのは初めての気がする。初見でどうという事なく、必要な仕上げをぬかりなく極めてまじめに、そう必要にして充分に施されているのはパテックのエンジン全てに共通である。奇をてらっておらず、飽きが来ないのは表の顔だけじゃなくパテックのデザイン哲学の土台なのだろう。
世の中に彼女にしたい美人時計は一杯あるが、雨の日も、晴れの日も、健やかなる時も、病める時も、絶品の糠漬けを作り続けてくれる愛妻時計の趣を持っているのがパテック フィリップの最大の魅力だと思う。
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Caliber 240 HU

直径:27.5mm 厚み:3.88mm 部品点数:239個 石数:33個 
パワーリザーブ:最低48時間
テンプ:ジャイロマックス 髭ゼンマイ:Spiromax®(Silinvar®製)
振動数:21,600振動 
ローター:22金マイクロローター反時計廻り片方向巻上(裏蓋側より)

PATEK PHILIPPE INTERNATONAL MAGAZINE Vol.Ⅱ No.01
PATEK PHILIPPE INTERNATONAL MAGAZINE Vol.Ⅲ No.07
PATEK PHILIPPE THE AUTHORIZED BIOGRAPHY パテック フィリップ正史(Nicholas Foulkes ニコラス・フォークス)
COLLECTING NAUTILUS AND MODERN PATEK PHILIPPE Vol.Ⅲ(Osvaldo Patrizzi他)

文責・撮影:乾 画像提供:PATEK PHILIPPE S.A.

ようやく峠を超えた感がある新型コロナ禍。何も良い事が無かった様だが、パテック フィリップの2020年新作発表が、一旦見送られた事で個人的には助かった事が一つ。昨年秋から今春に渡って悪戦苦闘して連続投稿してきた『パテック フィリップ正史』の為に遅れてしまった2019の新作モデルを今頃でも紹介が出来る。まあコロナのデメリットと拙ブログのメリットでは全く勘定は合わないのだけれど・・・

本日のご紹介は、とてもユニークなカラトラバ・ウィークリー・カレンダーRef.5212A-001。2015年に良くも悪くもパテックらしくないと話題を振りまいたカラトラバ・パイロット・トラベルタイム5524G-001初見時の驚愕と同じ様なファーストインプレッションを覚えた。ただパイロット・トラベルがパテック フィリップ・ジャパンのトップN氏から「ハミルトンじゃありません」と紹介され、巷では"ゼニス?"と噂されたようにパテックらしくないが、何処かで見たような既視感が有り過ぎたのに対して、ウィークリー・カレンダーは中期出張者向けのレンタルマンションカテゴリーの様な既聴感は何処となく感じたが、それまで全く見た事の無い顔をしていた。
これはパテックを始めあらゆるブランドのタイムピースに於いて既視感が全く無いという事であった。しかしながら伝統に則った正統カラトラバケースの品の良さから来るのか個人的には"今迄に見た事も無いパテックなのだが、とてもパテックらしい"と言うパラドクシカルな好印象を初見から抱かせた時計だった。
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ラグは最近のパテックで好んで採用される段差付ラグ。永久カレンダーRef.5320Gや手巻クロノグラフのRef.5172G等は2段仕立てだが、ウィークリー・カレンダーに採用されたスッキリ一段仕様も、この時計の全体から来るカジュアル感には好もしい様な気がする。尚、このラグ形状はPPマガジン(Vol.Ⅳ No.6)のRef.5320紹介記事に記載が有り、PATEK PHILIPPE GENEVE Wristwatchesに掲載されている下画像左のRef.2405(1945年)に辿り着く。1960年代にも結構採用されたデザインで下画像右のシリーズ生産されたらしいクロワゾネ(有線七宝)モデルで顕著なようだ。
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ストラップも最近のパテックお好みのカーフ、しかも明るめのオレンジっぽいギリギリのライトブラウン系統のお色目。少し太めの白っぽくラフなステッチ。アクアとノーチ以外のシリーズではチョッとお久のステンレス素材仕様。と全てのお膳立てはカジュアルだ。
機能は大きく異なるが、ステンレスモデルの前任者とは年次カレンダー・フライバック・クロノグラフRef.5960/1Aの白文字盤(2014-2017)・黒文字盤(2017単年度)の2モデルになる。
しかし、このモデルは元々2006年に画期的にして現代的なパテック社自社開発設計・製作のマニュファクチュール・フライバック・クロノグラフ・キャリバーCal.CH 28-520系を初搭載しプラチナケースを纏ってセンセーショナルなデビューを果たしたRef.5960Pの素材違い・ストラップ仕様違いであって完全なオリジナルモデルとしてステンレス素材で唐突いきなりリリースされたわけでは無かった。しかし素材を問わず5960は売れに売れたクロノグラフモデルだった。特に初期のプラチナモデルは結構長期間に渡りプレミア価格が2次マーケットで発生した。個人的にはそれまでのプレミアパテックというのはアンティーク市場を除いて、現行モデルではノーチラスSS3針Ref.5711/1Aにほぼ絞られていたが、このプラチナ・クロノグラフが今日のプレミアパテック一杯状態の引き金になった印象がある。そう強烈な印象がある。

そういう意味ではラグジュアリースポーツ系でも無く、素材バリエでも無く、SSにもかかわらず限定モデルでも無いウィークリー・カレンダーは現行パテックラインナップに於ける異端児である。発表資料によればRef.5212と言う品番にはルーツがあるとされ、1955年製作のユニークピース(世界に唯一つ)Ref.2512の品番数字順の入替がリファレンスに反映されたとある。このルーツモデルは現在ジュネーブのパテック フィリップ・ミュージアムに所蔵されている。後述するがルーツモデルの品番2512には1952年製と言うのもあって、1955年製モデルの資料が乏しく画像もすぐ見つからず、ミュージアムの資料にも見当たらない。
一体どちらがウィークリー・カレンダーの原点なのか判然としなかった。最終的にPPJからアドバイスで昨年秋発行のPPマガジンVol.Ⅳ No.7の現代ウィークリー・カレンダー紹介記事にて下のルーツモデル画像(左)を得た。既読の記事でありインデックスを貼ってPPマガジン記事まとめエクセルにも書き込んでいるのにこの様だ。コロナで自宅での早飲み・深酒がアルチューハイマ―を進行させたのかもしれない。ともかく色々と厄介でお騒がせな奴だ。
2512_1.png
正確なリファレンスは2512/1となっている。現行パテックの品番概念なら"/1"が末尾に付くと金属ブレスモデルをまず想定するのだけど、何ともシックなストラップ付のドレスウォッチだ。文字盤も漆黒なのでYG製にしては地味な仕上がりでウィークリー・カレンダーRef.5212Aとの類似点は、我が家には未着のアベノマスクの様な小さな段差付きラグが一段仕様になっている点とベゼルがミドルケースに合体する部分が巻き込まれた様な個性的なデザインとなっているケース形状にある。PATEK PHILIPPE GENEVE Wristwatchesの巻末資料にある1952年?製ラージラウンドケースに手巻センターセコンドCal.27 SC搭載モデルの記載があり年号は違うがこのモデルと思われる。過去のタイムピースにまつわる蘊蓄話の年号のあやふやさと言うのは良くある話で、過去ファミリー継承がたったの一度しか無く、資料の散逸が少なかったであろうパテック社ですら避けられぬのだから、他のブランドは推して知るべきだろう。
しかし驚かされるのが時計ケース径で46mmもある。当時の時計としては馬鹿でかいのでユニークピースという事からして、当時の何処ぞの超セレブリティからの特注品だったのかもしれない。尚、PPマガジンVol.Ⅲ No.8のオークションページに、この個体の落札記事(右側画像)が有る。事前見積りを6倍上回る962,500USドル(2020/6/1レートで1億を少し超える!当時のレートでも9千万超)。
ところで、各種資料で簡単に確認できる2512は、YG製スプリットセコンドクロノグラフ(Cal.13''')であり、ダイアルは黒でアラビアインデックス。ミュージアム資料によれば1952年製とあり、1998年に発表された超人気大振り手巻クロノグラフモデルRef.5070のルーツとも記載があり、こちらの説は確かに頷ける。

5070_2512.png
右画像のRef.2512は、ミュージアム公式ブックには1950-1952年(ユニークピースなので2年かけて一個作った?)とあり、左のRef.5070のデザインモチーフになったと記載がある。さらにアンティーク資料(OSVALDO PATRIZZI著)によれば1950年に製作され1952年7月14日にイタリア・トリノの時計店ASTRUA&C.,にて販売されたとある。
枝葉末節はさておき上画像の両者は瓜二つと言って良い。しかし5070の42mmもミレニアム前後頃には充分に大きかったのだが、50年代当時の45mmって異様にでかい。OSVALDO著のキャプションにはAVIATOR'S WRISTWATCHとあってパイロット仕様ならではという事か。尚、30分計の針形状が凝ってますナァ。
脱線ついでに全くの個人的戯れとして想像するに、近似の品番、YGケース+黒文字盤、一段の段付きラグ、ほぼ同寸の巨大なサイズ、製作年代も同じとくれば、相当恰幅の良いイタリアはトリノの大旦那が地元の贔屓時計店を通じて同時、或いは前後して発注された時計達ではないのかと思うのは穿ち過ぎだろうか。まあ、あれやこれや気の済むまで妄想を膨らませる事が出来るのもコロナのメリットと言うべきなのか。
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最近の新製品に採用が多い段付きラグとケース。冷間鍛造で鍛えられたケースを自社で切削加工し全面に複雑なポリッシュ仕上げがなされている。ボックス・タイプのサファイア・ガラスが"風防"を彷彿とさせてヴィンテージテイストを与えている。
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暖かみのあるクリーム系の文字盤色はパテックお得意で、他ブランドがこの系統の色目使いで成功する事があまり無い様に思われる。しかし何と言ってもこのダイアルの最大の特徴は個性タップリの手書き文字に或る。勿論製造過程はシリコンスタンプによる転写方式によるが、原稿は全てパテック社所属デザイナーの描き起しだ。彼の地の人々の手書き文字と言うのは我々日本人から見ると殆ど謎解き象形文字にしか見えない。しかしこの新規描き起こし文字は素晴らしく読みやすく暖か味に溢れている。ヨーロッパ人によるアラビア数字とアルファベットの楷書体?と言えばよいのか。
我らアジア人には年間を50数週で表現したり把握したりはなじみが薄いが、例えばコロナ自粛が一段と緩和されそうな6月1日は23週目となって、文字盤上の26分辺りを指針する。見ようによっては今年も早くも半分間近と焦らせられるという塩梅である。意外に便利なのか、ストレスフルなのか。因みに5~6年に一度53週目の有る年がやってくるらしい(詳細は面倒で不明)が、2020年の本年がそれにあたるらしいので縁あってご購入された方は年末に是非ともお確かめあれ。
そして、個人的にこの文字盤で出色は読み取りの良さである。カレンダーの要素は内側から、曜日、週、月と3本の針表示が有り、3時位置にはノーマルな日付窓表示。さらに時分針とセンター秒針もあって、針は全部で5本ある。これだけのプリント表示と針が有りながら決して視認性は悪くない。これはバトン型アワーインデックスとドフィーヌ形状の時分針(いづれもWG製)両者が酸化処理でマットな漆黒に仕上げられている事と、残るPfinodal(銅合金の一種)製の3針もロジウム・プレート加工されており、非常に文字盤のベースカラーとのコントラストが良好な事による。また各針の長さ設定が絶妙である事も大きく視認性に寄与している。

Ref.5212A-001
ケース径:40mm ケース厚:10.79mm ラグ幅:20mm
防水:30m サファイアクリスタル・バック
ケースバリエーション:SSのみ 
文字盤:シルバー・オパーリン文字盤、転写によるブラック手書き書体
インデックス:4面ファセット酸化ブラック仕上18金WGインデックス
時分針:2面ファセット酸化ブラック仕上18金WGドフィーヌハンド
曜日、週、月の各指針:赤い塗装先端を備えたロジウムプレートPfinodalハンマー型表示針
ストラップ:ハンドステッチ・ライトブラウン・カーフスキン
クラスプ:ステンレス素材のピンバックル

5212A_c.png
解像度一杯いっぱい、愛機Nikon D300ではこれが限界。ウィークリー・カレンダーの売りの一つがこの新キャリバーCal.26-330 S C J SEだ。全くの新設計では無く現行の主力フルローター自動巻エンジンであるCal.324系を徹底的に改良している。大きな改良ポイントは2つ。まずはサファイアクリスタル・バック越しに目を奪われる上記画像の中心部の金色のムカデっぽい奇妙な3番車。従来は4番車(秒針)に付く秒カナをベリリウム製のバネで抑える事で秒針の挙動安定を図っていたが、LIGA製法(独語:X線を利用したフォトリソグラフィ、電解めっき形成での微細加工)によって製造されたバックラッシュ防止機能を持った画期的な歯車を3番車に採用している。歯車一つ一つがバネ構造になっている為にこの歯車には従来のアガキ(微細な隙間)が無い。
Cal.26_330_th_image_b.pngもう一つが自動巻機構の見直し。従来の巻上げシステムの中に新たなクラッチ機構を加え、さらに手巻時に於ける自動巻上げ機構へのダメージを緩和する減速歯車が導入されている。元々熟成度合いが高かったCal.324は信頼度と耐久性、さらにメンテナンス性も高められた。またこれまで採用に積極的でなかったハック(時刻合わせ時の秒針停止機能)が採用されている。携帯精度が恐ろしく良いムーブメントなのでこれは嬉しい。さらに新規のウィークリー・カレンダーは瞬時では無いがトルクをため込んでの半瞬時日送り式が採用されている。尚、リューズ操作で行う日付調整は禁止時間帯の無いエブリタイムストレスフリーとなっている。これら全てが相まって324の派生キャリバー名では無く、Cal.26-330系として新たな名称を与えられた。でも、26.6mmの直径と3.3mmの厚さからの命名発想そのものは1960年頃までパテック社で日常的に採用されていたわけだから"温故知新キャリバー"と言えそうだ。ただこの秀逸新エンジンにも唯一残念があって、何度も触れているが現代自動巻としてはパワーリザーブが少々短い。せめて72時間を近い将来のマイナーチェンジで実現される事を切に願う。
5212A_d.png

Caliber 26-330 S C J SE
自動巻ムーブメント センターセコンド、日付、曜日、週番号表示
直径:27mm 厚み:4.82mm 部品点数:304個 石数:50個
※ケーシング径:26.6mm
パワーリザーブ:最低35時間~最大45時間
テンプ:ジャイロマックス 髭ゼンマイ:Spiromax®(Silinvar®製)
振動数:28,800振動
ローター:21金ローター反時計廻り片方向巻上(裏蓋側より)

PATEK PHILIPPE INTERNATONAL MAGAZINE Vol.Ⅲ No.8
PATEK PHILIPPE INTERNATONAL MAGAZINE Vol.Ⅳ No.7
PATEK PHILIPPE GENEVE Wristwatches (Martin Huber & Alan Banbery)
COLLECTING PATEK PHILIPPE Vol.1(Osvaldo Patrizzi)
文責・撮影:乾 画像提供:PATEK PHILIPPE S.A.

※似たような内容で重複も有りますが、参考ブログ記事はコチラ 

【お知らせ】
最後までお読みいただきまして有難うございます。
先日、パテック社より気になる情報が来ましたのでご紹介いたします。
日本を含め世界に於いて、コロナ禍を悪用した詐欺まがいの悪徳な販売提案事例が散見されているとの事です。特に入手が困難なモデルを餌に、あたかも正規ルートであるかのようなドメインを使用して販売代金をだまし取る手口の様です。疑わしき事案に遭遇されましたら下記あてご確認をされる事をお勧め致します。

パテック フィリップ ジャパン・インフォメーションセンター:03-3255-8109

【お詫びと訂正】2020/6/13
本文中のラグの仕様説明について誤りがありました。当初記載のウイングレットラグでは無く、段差付きラグ(特に固有名称無し)が本モデルラグの仕様となります。6/13付にて訂正加筆致しました。

日々、新型コロナウイルス関連のバッドニュースが相次いでいる中、4月30日から開催されるスイス時計最大の祭典"バーゼル・ワールド"と、それに先立つ4月下旬に開催予定だった"従来の通称ジュネーブ・サロン"の開催も早々と中止が決定された。来年はかつてない無いほど早い1月末の厳冬のバーゼルワールドとなる様だ。今年は久々に2大時計見本市が良い季節に連続開催される事になって、大きな盛り上がりを期待していただけに大変残念だ。新型コロナウイルスのリスク拡大の現状況では致し方ない。
ところで今安全な場所の一つとしてクリーンルームに近い時計のファクトリーが考えられる。白衣を着用し、エアーシャワーを浴びて入室する。高められた室内圧によって常時換気されている。そこそこ隣と距離も或る作業机で指サックを嵌めた手を黙々と動かす時計師達。会話もほぼ無いのでこれほど安全な環境は無さそうだ。ひょっとしたら今年は商品の入荷はスムーズかもしれない。

前回までの"パテック フィリップ正史"要約をモタモタと時間を掛け過ぎて、2019年の新製品紹介が今回からとなってしまった。
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2017年に発表されたジャンボサイズのアクアノートの新色追加モデルRef.5168G-010。ケース素材はホワイトゴールドで変わらないが、何とも大胆なカーキグリーンなる緑色が採用されている。昨年の公式HP上でのモニター画面初見では「個人的にはこれは無い!」の印象だった。好き嫌いがはっきり分かれるモデルで初出のブラック・グラデーションがかかったブルー文字盤に比較してご希望者はかなり少ないだろうと思っていた。バーゼルで実物サンプルを見た印象もほぼ同じで、この色違い2モデルは同じ時計では無い感じがする。
勿論色が違うのだが、最大の違いは"艶"感の有無だ。ブルーはグラデーション効果も有ってダイアルの艶感がしっかりある。通称"トロピカル"と呼ばれ紫外線による劣化に強いコンポジット素材のパテック フィリップ独自の特殊なラバーストラップにも少し艶がある印象だ。対してグリーンの方は、「良くぞ此処まで」と言いたいほど艶が取り除かれている。ストラップの表面加工は同じだと思うが、色目のせいなのか艶っ気が全く感じられない。この緑色は和風では"国防色(古っ!)"、英語では"ミリタリー・グリーン"とも言えそうだが、個人的には或る顧客様がおっしゃった"抹茶色"が一番しっくりする。ただし、このトロピカルストラップは着用を重ねると、どの色でも表面が次第に磨かれ艶が出る。恐らく関心を持たれるのはアウトドア好きでミドルエイジ迄と予想していたが、見方によっては"枯れた"感を求めるご年配の方まで幅広い年齢層に受けが良い。
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バックルは一昨年2018年にデビューしたジャンボサイズ仲間のクロノグラフモデルRef.5968A-001から新規採用が始まったニュータイプの両観音仕様。4か所に増えたキャッチで外れにくいが、両側2か所のプッシュボタンで外しやすい優れモノだ。ただ、やや大きめのボタンが、人によっては着用時に少し手首に不快に接触して着け心地を損ねると言う意見もある。特に旧タイプバックルのご愛用経験の有るオーナー様は気にされる方が多い。
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見慣れてはいるけれど、撮影の度に惚れ直すムーブメントの後ろ姿。21金ローターも地板もやり過ぎていないけれど上質極まりない装飾(ペルラージュやコート・ド・ジュネーブ)が施されている。完全に熟成期を迎えたCal.324系は徐々に昨年発表されたニューキャリバーCal.26-330系に積み替えられると思われる。でも画期的なシステムを盛り込んだ新エンジンには無い信頼感が最終期のエンジンにはあって、これはこれで捨てがたい。

Ref.5168G-010
ケース径:42.2mm(10-4時方向)ケース厚:8.25mm ラグ×美錠幅:22×18mm
防水:120m ねじ込みリューズ仕様
ケースバリエーション:WG(カーキグリーン) WG(ブルー) 
文字盤:カーキグリーンにエンボス加工 夜光塗料付ゴールド植字インデックス
ストラップ:カーキグリーンコンポジット《トロピカル》ラバーストラップ アクアノート フォールドオーバー クラスプ付き
価格:お問い合わせ下さい 


Caliber 324 S C

直径:27mm 厚み:3.3mm 部品点数:213個 石数:29個
パワーリザーブ:最低35時間~最大45時間
テンプ:ジャイロマックス 髭ゼンマイ:Spiromax®(Silinvar®製)
振動数:28,800振動
ローター:21金ローター反時計廻り片方向巻上(裏蓋側より)
尚、ムーブについての過去記事はコチラから

文責・撮影:乾





元号改正に伴う10日間連続の特別なGWは、予想通り眠たくなるくらいの集客状況。そこで、毎年会場で一瞥するだけで二度と再会することのないユニークピース集団を番外編としてご紹介したい。
昨年ぐらいからパテック フィリップでは新製品とともに、これらのレア・ハンドクラフトも動画でバーゼルワールドのスタート頃から公式HP内で配信している。ただ厄介なのは全モデルでなく或る程度抜粋されたモデル紹介であり、すべてを知るためにはバーゼルのパテックブース1階の展示を見るしかない。しかも展示は他のニューモデルのように一般入場者でも眺められるブース外回りのショーウィンドウではなく、ブース内に入場可能な人間しか見る事が出来ない環境に展示されている。その為に顧客様が現物を直接に見た上でオーダーする事は困難である。
では一体どうやって購入するのか?まず購入に当たっては、質と量においてかなり分厚いパテック フィリップの正規購入履歴が必要である。この履歴を重ねる段階で正規販売店とその顧客の間で相互の信頼関係が築かれるだろうし、そのロイヤルカスタマーの好みも熟知する事になるはずである。その前提を元に正規店バイヤーが、ブースを訪れて顧客に成り代わって見込み的な発注をする事になる。まあ画像を撮って送信してと言う方法もあるが時間と時差の関係からあまり現実的では無い。また画像は画像なのでバイヤーの肉眼を信頼してもらうほうが間違いがないだろう。
まあ、そのくらいの信頼関係が築けていなければ、購入は難しいという事だ。かなり理不尽な話に聞こえると思うが、1モデルについて多くても6点程度しか製作されないし、勿論文字通りのユニークピースとして1点のみ製作だってざらにある中で、それぐらいハードルを上げておかなければ製作数と注文数とのバランスがおかしくなってしまうのだろう。
ちなみに過去、日本への入荷実績は勿論あるが、昨年度などは入荷実績が非常に少なかった様だ。また昨年度までは帰国後も注文を出せたが、本年からはバーゼル期間中に受注そのものを締め切る様になってしまった。
本稿は提供画像が全く無いため、すべてiphone7、もしくはSONYα5100(ミラーレス一眼)でのノーフラッシュでの撮影画像で構成した。様々な色温度、光量等々で画質的には厳しいものが多いが我慢して頂くしかない。

5738/50G ゴールデン・エリプス JAPANESE PRINTS (和鳥)のクロワゾネ4部作
最初に動画を見た時に"JAPANESE PRINT"とは一体何なのか。という素朴な疑問を持ったが、文字通り"日本画"の事で、モチーフにはすべて原画がある。明治から昭和にかけて活躍した浮世絵師・木版画絵師"小原古邨(おはら・こそん)"(1877年ー1945年)は明治から昭和にかけて活躍した版画絵師。花鳥をテーマしたものが多く、特に海外で人気を博した。それゆえに日本国内に作品が少なく"知られざる絵師"と称されている。
今年はこれ以外にも"和"のモチーフが多々採用されているのだが、たいてい毎年数点は必ず"和"がテーマになったドームクロック、腕時計や懐中時計が製作されている。本国スイスの題材は当然として、それ以外の国やエリアが毎年常連のように作品化されている感じは無い。フランスをルーツとするカルティエに顕著な中国(シノワ)趣味があるけれども、パテック フィリップには日本への強い指向性があるように思う。ただ、作品によっては我々日本人から見て少し解釈が違うのでは無いか?と思われるビジュアルやネーミングがあって、戸惑いを覚える時もある。

hand_4birds.png
撮像に自信が無いので勢い絵が小さめになるがお許しいただきたい。4パターン全て和鳥である。原作者名で画像検索頂ければいくつかはヒットする。原画は言われなければ版画(浮世絵的手法らしい)とは思えないほど繊細で多彩だ。花、鳥の顔、腹部等に微妙なグラデーションが掛かっている。文字盤を装飾するクロワゾネ(有線七宝)は、金線で囲われた1つのエリアに単色の釉薬が焼き込まれる事が多い。微妙な焼ムラで部分的に色の諧調が変化したりグラデーションっぽくなることもあるだろう。しかしパテック フィリップへ文字盤装飾を提供しているアーティスト(職人:アルチザンとどちらが相応しいのか悩むが・・)達は完全に狙ってこのグラデーション状に複数の釉薬を流し込み焼き上げている。その点では原作の絵師とシンクロしている感じが面白い。本当にチャンスがあれば彼らの工房見学をしてみたい。まあ、門外不出で師弟関係に継承が限られた技の核心部分は見せて貰えないと思うが・・
複雑時計のムーブメント組立、エングレーブ(彫金)、ミニアチュール(細密画)等は様々なブランドのイベントで神技実演を見てきたし、エンドユーザーにもその機会が与えらる事もある。しかし釉薬の着色と焼成の現場を見たと言う話は聞いた事が無い。
尚、ホワイトゴールドケースは現行のゴールデン・エリプスの定番には設定が無い。機械はレア・ハンドクラフトだからという事ではなくゴールデン・エリプスにデフォルトで積まれる極薄自動巻Cal.240。ところで4本とも時間がバラバラである。必ずしも絵の魅力が一番引き出される針ポジションとも言えなさそうだ。一番左の時計のリューズは引き出されているようにも見える。恐らく全部実機で針止めはされておらず輸送時には運針した可能性もある。どうしても展示時に支障のある場合のみ、針ポジションを変えているのかもしれない。美しい野鳥は嫌いじゃないが、全く知識がありませんので鳥名は不明です。どなたか詳しい方がおられましたら是非コメント下さい。

5538G、5539G ミニット・リピーター ブルーアズレージョ OLD VIEWS OF GENEVA (ジュネーブの昔の風景)5部作
例年発行されているRARE HANDCRAFTS ブックによればブルーアズレージョ(BLUE AZULEJO)は16世紀にスペインとポルトガルで始まった青と白の釉薬を用いた磁器タイル装飾技法。アズレージョと言う聞きなれない言葉はポルトガル語ながらその語源はアラビア語にあり、イスラム文化圏にそのルーツがある。ただ青色に特化しているわけではなく、様々な色彩が用いられている。言われてみれば、以前モロッコのカサブランカ空港のモスク風天井にびっしりと極彩色な細かいタイルで描かれた幾何学文様に感動した事があった。確かに高温で乾燥した気候下では単純な壁画ではたちまち劣化するだろうが、高温焼結で彩色された磁器タイルは半永久的な耐久性があると思われる。
blueazlejo_a.png
しかし普通に考えれば、時計の文字盤の場合は何もタイルに書き割しなくてもエナメルで下焼した文字盤に細密画手法(Miniature:ミニアチュール)で彩色して高温で焼き上げる通常のグランフー(Grand Feu)で良いはずだ。私的には見た目に劣る格子状の構造にこだわったのは、建築物等で日常にアズレージョが存在する南欧とイスラム圏のマーケットが、意識されての事なのかもしれない。ミニット・リピーターと見た目にはわからないトゥールビヨンが全て組み込まれていて、時計一個で一戸建てが楽に建ってしまうお値段。説明プレートの冒頭にはセットと書いてありバラ売り御免とも受け取れる。各1個しか製造されない文字通りのユニークピース。
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7000/50R、G レディス ミニット・リピーター Swallow in Flight (燕の飛翔)
日本同様に欧州でも燕は縁起の良い鳥なのだろうか。レディス唯一の定番ミニット・リピーターがラインナップから外されたのが昨年だった。当社の百貨店部門のV.I.P.女性顧客様がジュネーブまで行って発注された思い出深いRef.7000。レア・ハンドクラフトに於いては以前から様々な手法で装飾され、この品番は度々ラインナップされてきた。今年モチーフが昨年とほぼ同じスタイル(ハンドエングレービングによるギョーシェ装飾✚クロワゾネ)とバードモチーフで出品された。しかし鳥と花がパテックのモチーフには非常に多い。
swallow_b.png

5077/100R、G カラトラバ Hummingbirds(ハチドリ)
こちらも例年何かしら出品されるレア・ハンドクラフトの定番?ベゼルとラグにダイヤモンドのジェム・セッティングがなされ、有線七宝(クロワゾネ)でモチーフが表現される。またしても花と鳥だ。そして機械は秒針を省けて高さを取らない極薄自動巻キャリバーのCal.240である。
bards.png

20082M ドームクロック Japanese Cranes (日本の鶴) 995/112J ポケットウオッチ Stag in a Forest(森の雄
赤鹿) 
とても全部は紹介しきれないので、これを最後としたい。左のドームクロックは、これまた日本がモチーフで画像では見えない部分に富士山が描かれている。ずっと鶴の英語訳を知らずにいたがクレーン(CRANE)と言う表現は、言われてみれば解り良いネーミングである。装飾技法としては、あまり聞きなれないLongwy enamel(ロンウィーエナメル)。ググってみればフランスロレーヌ地方のロンウィと言うところで1800年頃から作られている焼き物。特徴が絵柄の背景部分の不規則なクラック。焼成したエナメルをわざと急冷することでクラックさせているという。ちなみにドームクロックは機械式だが巻上げは手巻きではなく、電気モーターでの巻上げ式となっている。個人的には普通に手動巻き上げで良いと思うのだけれど・・

dome&pocket.png
右の懐中時計はミニュアチュール(細密七宝)、有線に対して無線七宝と呼ばれている。さらに大胆な彫金(ハンド・エングレービング)が施されている。モチーフの鹿は我々奈良市民にとっては大変お馴染みである。描かれている鹿は、日本には生息していない大型のアカシカである。
rarehand_books.png
冒頭で少し触れたように、バーゼル会場以外でこれらの特別な作品を見る事は出来ないが、その年のコレクションを網羅した図書"RARE HANDCRAFTS"が刊行されている。その年の作品からインスパイアされた表紙そのものが、レア・ハンドクラフトを意識した凝りまくった装丁で例年楽しみにしている。性質上、ご販売は出来ないが当店パテック フィリップ・コーナーの本棚には数年分を並べておりいつでもご覧いただけます。どうぞお気軽にお越しください。

文責、撮影:乾

人生で改元は2度目だ。当時官房長官だった小渕元首相が"平成"の色紙(だったと思う)を掲げていたのをTVで見たのが昨日のような31年前。今年還暦を迎える身なれば30年周期で元直しをしている事になる。
前回は昭和天皇の崩御、続く大喪の礼で全メディアをはじめエンタテーメントは言うに及ばず、大規模小売業等も軒並み喪に服した後、平成は厳かに始まったように思う。当時は11年少し経験したサラリーマン生活に終止符を打ち、稼業を継ぐために時計業のイロハを勉強し始めた頃で、改元をめぐっての景気の浮き沈みを肌で感じることはなかった。でも、恐らくシビアな景況感だっただろうと思われる。
今回も予想はつかないが当店に限って言えば、今月の店頭状況が非常に悪いのは10連休のGWを乗り切るための節約志向が一つ。もう一つは新元号下での記念的な初買いに備えての買い控えは無いだろうか。特に日常の必需品でもなく趣味性が高い高級腕時計は、その対象になりやすい気がする。
いづれにせよ平成から令和への切替の中には、どこにも自粛ムードは無くどちらかと言えば歓迎のムードであり前回とは大いに異なる。生前のバトンタッチを促された平成天皇は聡明で経済感覚のあるお方だと思う。
さて、2019ニューモデルの最終稿はレディス。ほぼすべてがコスメティックチェンジであり、完全なニューモデルは無かった。

レディス 8型

4899/901G-001 カラトラバ・ハイジュエリー レア・ハンドクラフト
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今年2月に生産中止になったピンクサファイアとダイヤモンドで構成されたピンクトーンのモデルがブルーサファイアで置き換えられたブルートーンモデルがデビュー。ケース、ダイアルとバックルにはダイヤモンド348個とブルーサファイアが354個セットされている。さらに大胆な手彫り(ハンド エングレービング)装飾がなされた真珠母貝(マザーオブパール)で文字盤の約7割近くが構成される贅沢なお仕立て。
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以前にも書いたがパテック フィリップのジェムセッティングは、実用性を重んじる観点からきらめきを引き出す以上に、セット用の爪が衣類等に引っかからない様にスムーズさを優先したセットになっている。またダイヤはデビアス社から調達したトップウェッセルトン・ダイヤモンド(クラリティIF及びFLのみ)が両眼顕微鏡を使用して手作業でセットされる。その際隣り合うジェムのテーブル面の高さと上から見た軸方向を揃えてゆかねばならない大変骨の折れる根気のいる職人技である。
機械はレア・ハンドクラフトモデルの定番エンジンCal.240が素で積まれている。この極薄の自動巻は様々な装飾によって文字盤に厚みの出やすいレア・ハンドクラフトと、とても相性が良い。また鑑賞と言う観点からもセンターローターより美しいと思う。
かなりデコラティブなルックスなので好き嫌いはあると思う。ただ此処まで手作業をして素材にもコストをかけているのにプライシングは魅力的だ。詳しくはお問い合わせください。

4899/901G-001
ケース径:35.8mm ケース厚:7.8mm ラグ×美錠幅:17×14mm 防水:3気圧
      348個のダイヤモンド(1.66カラット)ケース、文字盤、バックルの合計
      354個のブルーサファイア(2.69カラット)ケース、文字盤、バックルの合計
ケースバリエーション:WGのみ 
文字盤:真珠母貝(マザーオブパール)、ダイヤモンドとブルーサファイア付エングレービング入り、18金製文字盤プレー卜
ストラップ:マット・ブルーラベンダー、ラージスクエアのアリゲーター
バックル:ダイヤモンドとブルーサファイア付ピン
価格:お問い合わせください。

Caliber 240
直径:27.5mm 厚み:2.53mm 部品点数:161個 石数:27個
パワーリザーブ:最低48時間
テンプ:ジャイロマックス 髭ゼンマイ:Spiromax®(Silinvar®製)
振動数:21,600振動
ローター:22金マイクロローター反時計廻り片方向巻上(裏蓋側より)


4978/400G-001 ダイヤモンド・リボン・ジュエリー

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こちらもローズゴールド4968/400R-001の生産中止に伴うホワイトゴールド版の生まれ変わりと思いきや、微妙に品番が変わっている。よく見るとムーンフェイズとスモールセコンドが省かれている。それに伴ってだろうか通常エンジンである手巻きのCal.215系からスモセコ位置に癖のある極薄自動巻Cal.240にサクッと積み替えられている。それゆえかケース径が3mm強サイズアップしている。ちなみに2つの機能省略に伴ってカタログ上の分類はコンプリケーションでは無くてカラトラバに組み込まれている。顔はローズゴールドバージョンよりオリジナルの4968に近く感じるのはアラビアインデックス仕様だからか。
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ベゼルからケースサイドにかけては9種類のサイズの異なるダイヤがセットされて美しいスパイラルが描かれている。
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バックル部は従来のものとは異なってつく棒を受ける部分にもブランドロゴのエングレービングでは無くてダイヤがセットされるようになった。積まれたエンジンと言い全体で800個近いダイヤモンドが手作業でセットされている事も考え合わせると、殆どレア・ハンドクラフトと言ってもいいような時計だ。昨年度までのローズゴールドバージョンに較べてケースサイズアップもあってかダイヤの数で約15%、カラットでは28%近く増量されている。にもかかわらず価格は約8%アップに抑えられている。エンジンのスペックアップも考慮すれば、この時計もプライシングが素晴らしい。

Ref.4978/400G-001
ケース径:36.5mm ケース厚:8.23mm 防水:3気圧
      679個のグラデーションサイズのダイヤを渦巻状にセッティング(ケースとダイアル約3.99カラット)
      48個のダイヤ付ラグ(約0.17カラット)
      16個のダイヤ付リューズ(約0.03カラット)
      27個のダイヤ付ピンバックル(約0.21カラット)
      合計770個(約4.4カラット)のダイヤモンド
ケースバリエーション:WGのみ 
文字盤:18金文字盤プレート、全面にダイヤをパヴェ・セッティング、ブルー仕上げの18金植字アラビアインデックス
ストラップ:ブリリアント(艶有り)ダスクブルー 、ラージスクエアのハンドステッチ・アリゲーター
バックル:ダイヤ付ピンバックル
価格:お問い合わせください。

Caliber 240
直径:27.5mm 厚み:2.53mm 部品点数:161個 石数:27個
パワーリザーブ:最低48時間
テンプ:ジャイロマックス 髭ゼンマイ:Spiromax®(Silinvar®製)
振動数:21,600振動
ローター:22金マイクロローター反時計廻り片方向巻上(裏蓋側より)


7118/1200A-001、010、011 レディス ・オートマチック・ノーチラス

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既存ステンレスコレクションのベゼルダイヤバージョン。文字盤カラーの3色展開もその枝番号もすべて同じ。ただノーマルベゼルモデル7118/1Aに較べて、その価格はかなり高目の設定になっている。
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Ref.7118/1200A-001(ブルー)、010(シルバー)、011(グレー)
ケース径:35.2mm(10時ー4時方向) ケース厚:8.62mm 防水:6気圧
ジェムセッティング:ベゼルに56個のダイヤモンド約0.67カラット
ケースバリエーション:SS(ブルーシルバーグレー)の他にRG(別文字盤有) 
文字盤:ブルー・オパーリン シルバー・オパーリン グレー・オパーリン、夜光付ゴールド植字インデックス
価格:お問い合わせください。

Caliber 324 S C
直径:27.0mm 厚み:3.3mm 部品点数:213個 石数:29個 受け:6枚
パワーリザーブ:最低35時間~最大45時間
テンプ:ジャイロマックス 髭ゼンマイ:Spiromax®(Silinvar®製)
振動数:28,800振動
ローター:21金ローター反時計廻り片方向巻上(裏蓋側より)

Ref.7118/1R-001、010 レディス・オートマチック・ノーチラス
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ステンレスのベゼルダイヤバージョン追加と逆パターンで、ローズゴールドでは従来は設定が無かったソリッドなジェムセッティングの無いケースバリエーションが追加された。個人的にはメンズはともかくレディスで18金無垢ブレスレットモデルに全くの石無し設定が必要なのか少々疑問。それよりも興味深いのはその価格設定。詳細はここでは避けるが、或る思いに現地で至りメンズの新製品(特にコスメティックチェンジ)の中にも不思議なプライシングが多々あり、或る思いに確信を持つに至った。まあ現地に行くまで気づかなかった自分自身がおバカでした。

Ref.7118/1R-001(シルバー)、010(ゴールド)
ケース径:35.2mm(10時ー4時方向) ケース厚:8.62mm 防水:6気圧
ケースバリエーション:RG(別文字盤有)の他にSS(ブルーシルバーグレー) 
文字盤:シルバー・オパーリン ゴールド・オパーリン 夜光付ゴールド植字インデックス
価格:お問い合わせください。

Caliber 324 S C
直径:27.0mm 厚み:3.3mm 部品点数:213個 石数:29個 受け:6枚
パワーリザーブ:最低35時間~最大45時間
テンプ:ジャイロマックス 髭ゼンマイ:Spiromax®(Silinvar®製)
振動数:28,800振動
ローター:21金ローター反時計廻り片方向巻上(裏蓋側より)


7300/1450R-001 トゥエンティフォー オートマチック ハイジュエリー

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総ダイヤと言うのはフルパヴェなどとも呼ばれるコテコテのラグジュアリーウオッチ。此処までくるともう受け入れられる人もかなり限られてくる。普通はこの手の時計に視認性はあまり求められ無いのだが,ソリッドなアラビアインデックスとノーマルな針で実用性は高そうだ。
キャリアウーマンに向けて実用性を追い求めて誕生したトゥエンティフォー。シンメトリーなラウンドウオッチにしてメタルブレスレット仕様。シリーズの生い立ちとコンセプトから見て、個人的にはこのタイムピースも少々首を傾けざるを得ない。しかしながら自動巻メカニカル、ラウンドケース、アラビアインデックス、18金、フルパヴェダイヤと並べれば、この時計の目指すマーケットがかなり限定されているという想像に至った。

7300/1450R-001
ケース径:36mm ケース厚:10.05mm 防水:3気圧
ジェム・セッティング:ダイヤモンドをランダム パヴェ・セッティング総計3,238個約17.21カラット     
ケースバリエーション:RGのみ 
文字盤:ゴールド植字アラビアインデックス 18金文字盤プレート
価格:定価設定はございません。お問い合わせください。

Caliber 324 S
直径:27mm 厚み:3.3mm 部品点数:182 石数:29個 受け:6枚
パワーリザーブ:最低45時間
テンプ:ジャイロマックス 髭ゼンマイ:Spiromax®(Silinvar®製)
振動数:28,800振動
ローター:21金ローター反時計廻り片方向巻上(裏蓋側より)

レディスで顕著なのは、非クォーツ化とサイズアップの流れだ。ノーチラスでは随分と整理されたクォーツモデルに取って代わるように、少し大振りな自動巻モデルの充実が図られた。毎年恒例だったアクアノート ルーチェの新色発表が無かった為に、今年のレディスはメカニカルのみとなった。
バーゼル会場で調達してきた英語版の2019年カタログに掲載されているクォーツモデルは、たったの18型しかない。ちなみに2015年には34型もがラインナップされていた。発表される機械式レディスモデルの大半が自動巻(Cal.324系 ケース径27mm、Cal.240系 ケース径27.5mm)なので、いきおい婦人物コレクションの大型化が進む傾向にある。
体格が良くなったと言っても我が国の大和撫子達には小柄な方も多く、出来ればリューズ操作はご勘弁というご意見もあるので、まだまだ小ぶりなクォーツモデルの必要性は有るように思う。少し残念なトレンドだ。
何とかバーゼルからほぼ1か月で新作の全モデルを紹介できた。寡作な今年でこんなに時間がかかるのだから、頼むから来年以降も大量発表は避けて頂きたい。

文責:乾 画像提供:PATEK PHILIPPE SA



さて、やっとメンズ紹介が本稿で終了する。PATEK PHILIPPE SA 提供画像は確かに美しいが、手撮りのリアル感がやっぱり良いのではというのが相方のご意見。恐らく来年は3年ぶりに同伴でのバーゼル詣でになりそうだが、この口うるさい相方は、ひたすら時計を眺めて「ああだ!こうだ!」と批評ではなく単なる好悪をのたまうだけだ。決してメモ取りする訳でもなく、ましてや撮影やその補助なんてとんでもない。むしろ気になるサンプルを独り占めしてジャマされる事すらある。結局一人で撮って、説明はボイスレコーダーで録って、後で聞いてノートに書き下ろす"お一人様状態"は何も変わりそうにない。
さて、今年のメンズ パテック フィリップの一押しはどれだろう。色んなご意見があるだろうが、あくまで個人的には見た目ではノーチラス年次カレンダーのコスメティックチェンジRef.5726/1A-014。機械的にはアラーム・トラベルタイムRef.5520Pと迷うところながら、私的には本稿最後にご紹介するカラトラバ・ウイークリー・カレンダーRef.5212Aを押したい。

5726/1A-014 ノーチラス年次カレンダー
だいぶ前から噂では聞かされていたステンレスブレスレットモデルの従来カラー2色のディスコン、それと置き換えるかのような超人気色ブルー、ブラック・グラデーション文字盤のデビュー。元々それなりの人気モデルではあったが、パテック フィリップ公式HPで公開されるや翌日には朝から電話とメールの対応に追われまくった。結局バーゼル出発前で既に片手で足りないご登録が入り、帰国前には両手を超えてしまった。ブラックブルーマジックが此処までとは予想できなかった。
※提供画像には全体が写っているものが無く、下の横位置画像が文字盤をほぼ取り込んでいる
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で、現物はどうかと言うと"滅茶苦茶に良い!"。正直なところ個人的にコレクションしたいレベルで良い顔をしている。時計とは面白いもので全く同じ文字盤カラーでもケース素材や文字盤内の構成要素(インデックス、針、カレンダーやクロノグラフ等の付加機能の表示)で微妙に違う色に見える事が多々ある。SSノーチラスでは3針の5711/1A、プチコンプリケーション5712/1Aそして新製品年次カレンダー5726/1Aの各ダイアルは全く同じ色で塗装されているが、個人的には少しづつ異なって見えてしまう。
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年次カレンダーのシンメトリックなレイアウトと適度な表示量が相まって何とも言えぬええ感じのお色目がたまりません。

Ref.5726/1A-014
ケース径:40.5mm(10時ー4時方向) ケース厚:11.3mm 
防水:12気圧
バリエーション:SS SS(ブラック・グラデーション文字盤 ストラップ仕様)
文字盤:ブルー、ブラック・グラデーション 蓄光塗料付ゴールド植字インデックス
ブレスレット:両観音クラスプ付きステンレス3連ブレス 抜き打ちピン調節タイプ
価格:お問合せ下さい

Caliber 324 S QA LU 24H/303
自動巻ムーブメント センターセコンド、日付、曜日、月、24時間表示 ムーンフェイズ
直径:33.3mm 厚み:5.78mm 部品点数:347個 石数:34個 受け:10枚 
パワーリザーブ:最低35時間~最大45時間
テンプ:ジャイロマックス 髭ゼンマイ:Spiromax®(Silinvar®製)
振動数:28,800振動 
ローター:21金ローター反時計廻り片方向巻上(裏蓋側より)

5168G-010 アクアノート・ジャンボ3針カレンダー
何とも言えないこの色目。好き嫌いがハッキリ別れるモノほど、のめり込む人のはまり込み度合いも強くなる。時計に限らず嗜好品的なモノに対する感情とはそんなものではないだろうか。
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このカーキグリーンと言う色目は2年前に発表され大きな話題を呼んだデビューモデルのブラック・グラデーションのブルーダイアルとは大いに異なる点が二つある。まず全くグラデーションが無いモノトーンカラーである。もう一点は完全なマット(艶無し)仕上げである事。
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個人的にはステンレス素材でこの文字盤設定であれば、それはえらい争奪戦になっていただろうと思う。一般的にはこのミリタリーイメージ全開の色目は実用性の高いステンレスにこそふさわしいと思うが、プレシャスな18金素材と組み合わせてしまうのがパテック フィリップ流。両素材の価格差がどうこうという問題ではなく、敢えてやってしまうところが凄い。誤解を恐れずに言えば、パテック フィリップだから変な意味で上から目線にはならずに、これもまた一興と受け止めて頂ける顧客層が存在するという事なのだろう。確かにこのモデルに魅せられた或る顧客様が表現された「抹茶色」という和の表現は実に言い得て妙で、酸いも甘いも知り尽くした良い意味で少しだけ"枯れ"感を備えた方にピッタリなのかもしれない。
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ストラップは熱帯地方でも劣化しにくい意味から《トロピカル》の名称で親しまれるラバーを主体としたコンポジット素材。カラーはカーキグリーンでこちらも文字盤同様に完全マット仕上げに徹している。但し、従来の経験から愛用の程にストラップには徐々に艶が出てくると思われる。と此処まで書いて、このストラップカラーに既視感が或る事に気づいた。 顧客様のお一人がアクアノート3針5167A(もちろん黒文字盤)用の付け替えストラップとしてこの色でご購入頂いていた事があった。何故か2018年度のストラップカタログにはメンズでの設定が無くなっていて、レディスのクォーツ3針アクアノート・ルーチェのみ注文可能とされている。さらに記憶を辿れば、確かにルーチェにはこのカーキという文字盤が過去にあったハズだ。うかつにも同系色の既存ストラップがあった事に此処でやっと気づかされた。そしてどちらかと言えばメンズ向けの色目ではないかという事にも。
バックルはアクアノート・ジャンボ・フライバック・クロノグラフやノーチラス永久カレンダー等の最近のモデルに採用されている新しい両観音クラスプが採用され、脱着の安全性と操作感が向上している。

Ref.5168G-001
ケース径:42.2mm(10-4時方向)ケース厚:8.25mm ラグ×美錠幅:22×18mm
防水:120m ねじ込み式リューズ仕様
バリエーション:WGWG(別文字盤有) 
文字盤:カーキグリーン 蓄光塗料付ゴールド植字インデックス
ストラップ:カーキグリーン・コンポジット《トロピカル》ストラップ(ラバー)
クラスプ:アクアノート フォールドオーバー 

Caliber 324 S C
自動巻ムーブメント センターセコンド、日付表示
直径:27mm 厚み:3.3mm 部品点数:213個 石数:29個
パワーリザーブ:最低35時間~最大45時間
テンプ:ジャイロマックス 髭ゼンマイ:Spiromax®(Silinvar®製)
振動数:28,800振動
ローター:21金ローター反時計廻り片方向巻上(裏蓋側より)
尚、ムーブについての過去記事はコチラから

5212A-001 カラトラバ・ウイークリー・カレンダー
この時計の評価は分かれそうである。顔(文字盤)は表示がテンコ盛りで好き嫌いが出そうだし、年間の第何週目という表示に世界中でなじみのある文化圏がどの程度或るのか良くわからないからだ。
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日本には明確な四季がある。落ち葉が寒風に舞って、居酒屋に"おでん、鍋もの始めました"等の品書きが出始めると嫌でも、新年までの短くなった日数を思い煩う日々がやってくる。でも、赤道直下の雨期乾季しかないところなら確かにこの手の時計は実用的かもしれない。特に一周360度で一年の針表示は、直感的に一年間の消化度合いがつかみ易いだろう。55秒辺りを針が指せば、これはこれで気忙しい日々の到来を嫌でも実感させられるだろう。
それで個人的にはどうかと聞かれれば、エンジンを大いに評価したい。ウイークリーカレンダーのモジュール部分では無くて、センターローター自動巻のベースムーブメントCal.324系に多大なる改良が加えられて誕生した新キャリバーCal.26-330系が素晴らしいと思う。
ポイントは3つあって、まずハック(時刻合わせ時の秒針停止機能)を備えた事。従来、日差の出る機械式時計に秒まで合わせる為のハック機能の必要性を疑問視していたパテック フィリップ。しかしシリコン系素材のスピロマックス製髭ゼンマイが殆どのムーブに搭載された今日では、元々優秀な精度を誇ったパテック フィリップのムーブメントは、衝撃や帯磁といったトラブルから来る精度不良とどんどん無縁になって来ている。実際に愛用のCal.324ベースの年次カレンダーは、悪夢の様な落下事件後も日差2秒以内と抜群の精度を保っている。此処まで高精度を保てればハックの意味は充分にあるだろう。
2番目はカレンダー調整の禁止時間帯を無くして24時間いつでもカレンダー変更を可能にした事。この部分はロレックスやブライトリングの自社ムーブメントが先行していたのでキッチリとキャッチアップしてきた感じだ。
最後は使用するオーナー様側には解り難いがメンテナンス性の向上に繋がるテコ入れが多々ムーブメントに加えられた事。中でも特徴的なのがサファイアケースバックからもしっかり視認出来る3番車の形状。従来は歯車に必要不可欠なアガキが引き起こしてしまう秒針のバックラッシュを防ぐ為に4番車のステンレススティール製の秒カナにベリリウム製の摩擦バネを押し付けるスタイルを採用していた。そのためにメンテナンス時には両者の耐久性度合いの優劣から摩耗しやすいベリリウム製押えバネの交換が頻繁に発生していた。

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新キャリバーではLIGAプロセス(X線を用いて微細な部品を形成加工する手法、詳しくは難解すぎて理解に至らず)で作られた全く新しい歯を持つ3番車を採用。従来の一つの歯を二つに分離することで従来のアガキと言う概念がこの歯には無い。また分離された片方の歯がバネの役割を果たすため噛み合う秒カナ(4番車)との摩擦を大きく低減させつつ秒針のバックラッシュを完全になくしている。上のイメージ図(左側)からは何となく歯医者さんを想像させる感じで機能美的なものは無いが、実際に目視可能な右画像の歯車はユニークで機能美もしっかりある。その他にも改良は多々あって主ゼンマイの手動巻き上げ時のムーブメントへのセーフティ機構が随分とスペックアップされている。個人的には一旦アドバンストリサーチで出して話題性を盛り上げれば良いくらい先進的な技術革新テンコ盛りだと思うのですが・・
それにつけても思うのは、セイコーがアンクル・ガンギ製作に採用しているMEMS(メムス)の技術もLIGAプロセスに似ており、従来の微細で高精度な部品作りが工作機械による型抜きや、優秀な職人による手作業と言う物理的かつアナログ的だったものに対して、様々なブランドが化学的などちらかと言うとデジタル的な新手法を駆使して、アナログの権化のような機械式腕時計作りを競っている状況は、アイロニーと言うかユーモアが効いている感じだし、とても素敵なことだと思う。
因みにこのムーブメントは既存の超人気モデルノーチラス3針Ref.5711にもベースキャリバーCal.26-330 S Cとして搭載され始めている。
両機の主要部を上下に並べて比較してみよう。
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上は従来機Cal.324 S C系 、下が新しいCal.26-330系。ローター軸左の下層部に覗く特徴的な3番車の違い以外もじっくり見てゆくと面白い。ローターの固定方法が全く違う、その固定部分の下側の切替車の形状とその固定方法は逆に今までのローター固定仕様と入替った様に見える。
尚、新型機では一般的な自動巻時計が苦手としてきたリューズの手動ゼンマイ高速巻上げ時の高トルクによる巻上げ機構への負荷から来るトラブルをクラッチ形式の見直しや減速歯車を投入することで大きく改善している。

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今後はノーチラスRef.5711のみならず色んなリファレンスでCal.324からCal.26-330への置換えがなされるのだろう。性能は確かに進化形のCal.26-330がよさそうだが、Cal.324には2004年の初出からセンターローター自動巻基幹キャリバーを担ってきた実績と言うアドバンテージがある。車で言えば「新しいエンジンの搭載車は一年間様子を見てから・・」という格言がある。
ただ先に触れたように本当に市場でのテストが必要であればアドバンストリサーチと言う引き出しが有るのだから、パテック フィリップの技術陣はこの新しいキャリバーに相当の自信を持っているのだろう。
そして324の進化としながらも1970年のCal.350に遡る300番代の三桁のキャリバー名称ではなく、同社の自動巻初号機1953年初出Cal.12-600ATの2桁ハイフン3桁スタイルへとまるで先祖帰りしたような名付けをしてきた事は実に興味深い。
やはり300系列のマイナーチェンジではなくて完全なフルモデルチェンジとの意気込みが感じられる。ちなみに26はキャリバーのケーシング径26.6mmから、330は厚さである3.3mmに由来する。但し総径は27mmなので従来機Cal.324と変わらない。
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左がCal.324、右がCal.26-330。画像が小さく見づらいが、TWENTY・NINE 29 で始まる石数の表示が新エンジンでは30石に変更されている。また"高低温下6姿勢での歩度調整済み"の文字刻印のレイアウトも微妙に変わっている。ちなみ基幹ベースキャリバーの総部品数は新しいCal.26-330が212個と1つ少なくなった。
飛躍を遂げた新キャリバーも、熟成を重ねた従来機も、それぞれに素晴らしいのだが、そのパワーリザーブが最長で45時間に留まっている事には少し改善を希望したい。多くの時計愛好家にとって全てのコレクションを日々順繰りに愛用してゆくというよりは、メインの実用モデル数個をその日の気分、服装、場面や会う人などを想定して着替えるというのが現実ではなかろうか。その際に昨今増えてきた自動巻キャリバーの70時間前後のパワーリザーブと言うのは凄く実用性が高い。個人的にはたった1日分程度の延長が凄く便利だと思う。ワインダーの弊害が色々なブランドで指摘されるようになった最近は、なおさらそれが望まれる。

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カレンダー部分のメカニカルなうんちくは有るがパテック フィリップの技術力からしてこの部品数92個からなるウイークリーカレンダーモジュールの設計・製造はそんなに困難だったとは思えない。それよりも機械の事ばかりになったので独特な文字盤について見てゆきたい。
面白いのは暖かみのあるクリーム色っぽい文字盤上に転写された手書き風の文字達だ。実際にパテック フィリップの社内デザイナーが手書きで書き起こし、ティエリー・スターン社長自らが採用を決めたという肝入りの書体である。曜日も月もその天地左右のスペースは同じなのだが描かれる文字数は異なる。そのために同じ文字、例えば"Y"でも様々な横幅の"Y"が出て来て実に面白い。一般に目にする外国の方々の手書き文字と言うのは癖が非常に強くて読みづらく感じる。でもこの書体は習字の楷書レベルに感じるし、何より読みやすく親しみを持てる。そして数字の"7"のお腹に横バーが入っているのも何とも微笑ましい。
書き込むほどに自分自身が、このニューモデルのファンになって来ている。初見でピンと来ずとも、やがて徐々に気になって声を掛けて・・いや、違う。そうではなくて、このモデルもまぎれもなくそんな"パテック マジック"を持ち合わせていると言う事だ。いつしか気に入ってしまう顔や姿かたちは、飽きの来ない恋女房になってしまうと言う訳だ。

Ref.5212A-001
ケース径:40mm ケース厚:10.79mm ラグ幅:20mm
防水:30m サファイアクリスタル・バック
ケースバリエーション:SSのみ 
文字盤:シルバー・オパーリン文字盤、転写によるブラック手書き書体
インデックス:酸化ブラック仕上18金WGインデックス
時分針:酸化ブラック仕上18金WGドフィーヌハンド
ストラップ:ハンドステッチ・ライトブラウン・カーフスキン
クラスプ:ピンバックル 

Caliber 26-330 S C J SE
自動巻ムーブメント センターセコンド、日付、曜日、週番号表示
直径:27mm 厚み:4.82mm 部品点数:304個 石数:50個
※ケーシング径:26.6mm
パワーリザーブ:最低35時間~最大45時間
テンプ:ジャイロマックス 髭ゼンマイ:Spiromax®(Silinvar®製)
振動数:28,800振動
ローター:21金ローター反時計廻り片方向巻上(裏蓋側より)

文責・撮影:乾 画像提供:PATEK PHILIPPE SA 





今年の桜もそろそろ見納め。中々に続編が書けない。ネタはたっぷりあり、店もそんなに多忙でないが何かしら時間が無い。いや、時間の作り方が加齢に従って下手くそになってくるのだろうか。わずかな空き時間を利用して、細切れでもともかく書き進めよう。
尚、本稿の使用画像は全てパテック フィリップ社からの提供画像である。今年は商談室に持ち込んだミラーレスデジタル一眼のホワイトバランス調整に失敗し、ロクな絵が撮れなかった。従来から供給されてきた公式カタログ等に掲載されている時計正面画像は修正されまくりでシズル感がほぼ無く全く好みでは無いのだが、今回入手した画像は修正がなされているものの非常にクオリティが高くバリエーションも結構あって、来年からはサンプル撮影は不要じゃないかと思っている。

Ref.5235/50R-001 レギュレーター・タイプ年次カレンダー
昨年度からパテック フィリップはバーゼルの数日前に新作のチョイ出し(昨年はカラトラバ トラベルタイム ローズゴールド ペアモデル)をやるようになった。今年も3月19日にインスタグラムで今年2月にディスコンになったRef.5235Gレギュレータースタイル年次カレンダーの後継モデルとしてローズゴールド仕立てのRef.5235を、それは心憎いほどに、魅力的に思わせぶりタップリに露出させてきた。画像と動画を見た限りでは、えらく艶っぽい色気のある印象を受けていた。
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現物はかなりギャップがあって、極端に言うと文字盤はほぼダークグレー(グラファイト)とブラックのツートンながら色差があまり無い印象で、黒文字盤と言えなくもない。画像では違いが際立っているが、実際には12時と6時側のインダイアルと文字盤ベースカラーとの色差が非常に少なく(下図:乾撮影、質感ボロボロ)感じる。
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また生産中止になったホワイトゴールドのシルバー系ダイアル同様に3時位置にPATEK PHILIPPE GENEVEロゴが無着色でエングレーブされているが、これまた本当に目立たない。新作ローズはなおさらその感が強いように思う。大半のパテックコレクションで文字盤センター上に位置されるブランドロゴが、右側にオフセットされている事で左右非対称になるパテック フィリップでは珍しいモデルなのだが、目立たぬロゴでほぼシンメトリーウオッチに仕立直しされているようにも思えた。

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最近、腕時計専門誌のクロノスを読んでいて初めて知ったが、時計自体変更が無くて素材やダイアルの変更だけの場合を"コスメティックチェンジ"と言うらしい。言いえて妙な気もするが、個人的にはこの"cosmetic"という言い回しには少し違和感があるものの他にピッタリくる言い方も思い浮かばないので、当分はこの表現を使わせて頂きます。まさしく今年追加のローズゴールドバージョンがコスメティックチェンジ(お化粧直し版)である。
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Ref.5235/50R-001
ケース径:40.5mm ケース厚:10mm ラグ×美錠幅:20×16mm 防水:3気圧
ケースバリエーション:RGWG
文字盤:グラファイト/エボニーブラックのツートーン バーティカル サテンフィニッシュド ホワイト転写インデックス
ストラップ:ハンドステッチ ラージスクエア マット(艶無)ブラックアリゲーター
バックル:PATEK PHILIPPEの刻印付ピン(穴止め式)
価格:お問い合わせください

尚、この時計は少し特殊な専用エンジンを積んでいる。その詳細については過去記事をご参考頂きたい。

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Caliber 31-260 REG QA
年次カレンダー機構搭載マイクロローター自動巻ムーブメント
直径:33mm 厚み:5.08mm 部品点数:313個 石数:31個 受け:10枚
パワーリザーブ:最低38時間~最大48時間
テンプ:ジャイロマックス 髭ゼンマイ:Spiromax®(Silinvar®製)
脱進機:パルソマックスPalsomax® アンクル、ガンギ車共にSilinvar®製
振動数:3.2Hz 23,040振動
ローター:22金ローター反時計廻り片方向巻上(裏蓋側より)


Ref.5231Jー001 ワールドタイム クロワゾネダイアル レアハンドクラフト
2016年にフルモデルチェンジしたワールドタイム。現代ワールドの2代目Ref.5130の円みを帯びたチョッと丸餅が押しつぶされた様なケース形状から1mmケース径をシェイプアップし、クンロクに似たエッジの効いたケースにトラディッショナルなウイングレット(翼状)ラグを持つRef.5230に移行がなされた。
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両者は針もセンターギョーシェ紋様も全く違うし、その他にも細かい差異は多々あるがここでは省く。詳細は過去記事をご覧頂きたい。これらワールドタイムにはセンターギョーシェ部分にグローバルな地図を有線七宝(クロワゾネ)で描かれた特別バージョンの設定があり、代々4桁リファレンス末尾が0でなく1とされてきた。現行では第2世代のままでRef.5131/1P-001のプラチナブレスモデルがあるが、本年は現行の第3世代バージョンにもレザーストラップ仕様でイエローゴールドケースが新たに設定された。センターに描かれる地図モチーフはモデルごとに違っており、今回は大西洋をセンターにヨーロッパ、アフリカそして南北両アメリカがチョイスされている。

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ところでこのモデル初見時に最新世代の5230感がなぜか無かった。帰国後に顧客様と資料をじっくり見ていてご指摘を受けたのが針形状。ありゃりゃ第二世代で採用されていた非常に特徴的な通称アップルハンドではないか。そりゃ古い既視感を覚えたはずだ。
さらに細かい変更点はダイアル外周のシティディスクの都市名で、従来はTokyoと1時間時差のHongkongがBeijingに変更されている。この変更はニューモデルに限らず現行3モデル5230G、5230R、5131/1P-001全てに加えてRef.5930Gワールドタイムクロノグラフも対象で、ランニングチェンジ期間は両方のダイアルが市場に混在することになる。変更理由の詮索は物議を醸しそうなので控えたい。
ところで文字盤の仕様がギョーシェ装飾とは思いっきり異なるがこのモデルもまたコスメティックチェンジと呼んで良いのだろうか。
閑話休題、それでですね皆さんご想像がつくと思われますが、こちらの特別モデルはRef.5131のプラチナブレス同様に買ったり注文したりが中々に困難で、なじみの店を作って相談をするところから始めることになります。目的を果たすために困難を乗り越える過程にこそ楽しみがあるのかも・・・

Ref.5231J-001
ケース径:38.5mm ケース厚:10.23mm 
ラグ×美錠幅:20×16mm 防水:3気圧
ケースバリエーション:YG,
文字盤:センターにクロワゾネ(有線七宝)装飾
ストラップ:ハンドステッチ ラージスクエア(竹符) ブリリアント(艶有) チョコレート・ブラウンアリゲーター
バックル:フォールドオーバー(折畳み式)
価格:お問い合わせください

Caliber 240 HU
ワールドタイム機構搭載マイクロローター自動巻ムーブメント
直径:27.5mm 厚み:3.88mm 部品点数:239個 石数:33個 受け:8枚 
パワーリザーブ:最低48時間
テンプ:ジャイロマックス 髭ゼンマイ:Spiromax®(Silinvar®製)
振動数:21,600振動 
ローター:22金マイクロローター反時計廻り片方向巻上(裏蓋側より)


Ref.5905R-001 年次カレンダー搭載クロノグラフ

コスメティックチェンジバージョンを続ける。これまでプラチナのみで展開していた年次カレンダー・フライバック・クロノグラフ。新たにローズゴールドが加わった。ダイアルは濃いめのブラウン。昨年のペアトラベルタイムもそうだが、どうも素材とダイアルカラーにこの組み合わせが増えてきた。
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この時計のルーツは2006年初出のRef.5960Pにまで遡る。パテック フィリップ独自設計開発製造のクロノグラフムーブメント第2弾CH 28-520系の初搭載モデルとしてセンセーショナルなデビューをした初代は数年間は異常な人気が続いた。そして8年が経過した2014年にプラチナ素材モデルがディスコンとなった代わりにステンレスブレスモデルにリプレースされるという大胆なマイナーチェンジがなされた。
翌年の2015年には素材としてプラチナが復活したが、パワーリザーブ、昼夜表示そして12時間計が省かれたスッキリしたニューフェースのRef.5905Pとして登場した。そのデビュー当時はあまりにも文字盤が"シュッと(関西弁:スッキリしたとかコンシャスなの意味)"としすぎてあまり好みでは無かった。だが良いお値段なのに当社の百貨店部門で、この時計はポツポツと嫁いでゆく。今回のローズは18金で多少お財布的にも優しいし、何より色使いがヤバい。暖か味のあるローズの色味と表面が艶っぽい仕上がりのこげ茶ってのは何とも言えぬ色気があって個人的には秘かに好ましい新作だ。

Ref.5905R-001
ケース径:42mm ケース厚:14.3mm ラグ×美錠幅:22×16mm 防水:3気圧
ケースバリエーション:RGPT別ダイアル有
文字盤:ブラウン・ソレイユ、ブラック・グラデーション
ゴールド植字バーインデックス
ストラップ:ハンドステッチ ラージスクエア(竹符) ブリリアント(艶有)ブラック アリゲーター
バックル:ピン(穴止め) 
価格:お問い合わせください。

Caliber CH 28-520 QA 24H 
年次カレンダー機構 コラムホイール 垂直クラッチ搭載
フルローター自動巻フライバック・クロノグラフムーブメント
直径:33mm 厚み:7.68mm 部品点数:402個 石数:37個 受け:14枚 
パワーリザーブ:最低45時間-最長55時間(クロノグラフ作動時とも)
テンプ:ジャイロマックス 髭ゼンマイ:Spiromax®(Silinvar®製)
振動数:28,800振動
ローター:21金ローター反時計廻り片方向巻上(裏蓋側より)

Ref.5172G-001 手巻クロノグラフ
今年廃番になったプラチナ素材の手巻きクロノグラフRef.5170から品番的に連想されうるバリエーションモデル。エンジンは完全自社設計開発製造(いわゆるマニュファクチュール)の手巻クロノグラフCH 29-535 PS。そして特徴的なラグ形状を持つケースと一段盛り上がったサファイアガラスは一昨年発表され一気に人気永久カレンダーモデルになったRef.5320Gとそっくり。ついでに言うならアラビアインデックスの書体と非常にとんがったペンシルハンド(針)。それらに塗布されている蓄光塗料スーパールミノバの加減もウリふたつだ。
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そして好みが分れるかもなのが、クロノグラフのプッシュボタンの形状。ヌーベルレマニア最終搭載のRef.5070から自社エンジンに積み替えられたRef.5170に至るパテックの手巻きクロノグラフのアイコンとも言えたスクエア形状に上下両面サテンフィニッシュ。ところがニューフェイス5172では小ぶりな丸いプッシュボタンが採用されている。プッシュ面には放射状のギョーシェ装飾がなされてアクセントになっている。
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現行のクロノグラフラインナップではRef5960/01Gや5961系の自動巻フライバッククロノグラフもこの形状のプッシュボタンを持つ。しかし前述もした派生モデルと言えるRef.5905系はケース形状は5960に酷似するがプッシュボタンはスクエアシェイプが採用されているので厳密なルールがあるわけではなさそうだ。さらにもう一つ大事な永久カレンダー5320との共通点が割安に感じる価格設定。詳細はお問い合わせ頂きたいが、なぜかこのケース形状が採用されると同じエンジンを搭載する兄弟モデルより結構お得感があるプライシングとなっている。ストラップはカラトラバ・パイロット・トラベルタイムから採用され始めたカーフスキンの濃紺にかなり太めの白糸がラフな感じでステッチされており、全体の印象はかなりカジュアルな仕上がりとなっている。
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当店でもパテック フィリップの顧客にかなりお若い方が増えてきている状況を考えると、これまでの手巻きクロノモデルは少し古典的な印象があって、50歳半ば以上がターゲットだったのかもしれない。尚、文字盤はニス塗装ブルーとマットな表面感でカラトラバ・パイロット・トラベルのホワイトゴールドと同色の青、ストラップは文字盤に近似な青色で表面感もマットな仕上がりとなっている。しかし、最近のパテックは青が多いなァ~

Ref.5172G-001
ケース径:41mm ケース厚:11.45mm 3気圧防水
ケースバリエーション:WGのみ
裏蓋:サファイアクリスタル・バック
文字盤:ニス塗装ブルー文字盤 タキメーター目盛
蓄光塗料(スーパールミノバ)付きゴールド植字アラビアインデックス
ストラップ:ネイビーブルー・ハンドステッチ・カーフスキン
バックル:フォールドオーバー(折畳み式)
価格:お問い合わせ下さい。

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Caliber CH 29-535 PS:コラムホイール搭載手巻クロノグラフムーブメント
直径:29.6mm 厚み:5.35mm 部品点数:270個 石数:33個 受け:11枚 
パワーリザーブ:最低65時間(クロノグラフ非作動時)クロノグラフ作動中は58時間
テンプ:ジャイロマックス 髭ゼンマイ:ブレゲ巻上ヒゲ
振動数:28,800振動

この調子だと4月中に新製品全部を紹介できるのだろうか。たぶんあと2回は必要で、次回はメンズの完結編を予定。まあ気長によろしくお付き合い下さい。

PATEK PHILIPPE 公式ページ 

文責:乾 画像:PATEK PHILIPPE SA提供(※一部加工有)

バーゼルからは3月26日の火曜日に帰国した。現地3泊4日だが実際には3泊2日?とした方が正しい弾丸ツアー。使い慣れたキャリアKLMでアムステルダム経由バーゼル空港への往路は、オンラインチェックイン時にわずか5万数千円でビジネスにアップグレードで楽々だった。復路も大いに期待したが、これが叶わず昨年末に予約済みのEXIT ROW SHEET(非常口横の離着陸時に客室常務員とお見合いする特別席)。関空からの帰りは、数年前から恒例にしている帰国報告を兼ねた墓参りで大阪市内の菩提寺にワンバウンド。さらに帰路途中の「うなぎの豊川(東花園駅近の本店の方)」で特上うな重を頂き思いっきり″和"モードに切り替えて店に戻った。

予想はしていたが留守中にあっちコッチから、メールや電話で「あのモデルは予約できるか?」「こっちはどうやねん?」かしましくも嬉しいお声がかりを多数頂戴していた。帰国当日は時差ボケひど過ぎで返信しきれず、翌日は定休日ながら出社する羽目になった。ここの処のパテック人気は本当に"うなぎ登り!!"有難いかぎりだ。
長すぎる前置きはこの程度にして、バーゼル訪問記も後日として、とにかくニューモデルをご紹介。

メンズ:時計10型+カフリンクス1型

グランドコンプリケーション

Ref.6300G-010 グランドマスター・チャイム  レア ハンドクラフト


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今年2月に生産中止発表された(黒文字盤)のニューカラーの青文字盤仕様。この手の超絶系やレアハンドクラフトは展示はされているが我々もガラス越しに鑑賞するだけで商談室で手にする事は無い。帰国後6300G新色の画像を取っていない事に気付いたがもう遅いのでPPの提供画像。サボっとるナァ!
ところで下のスペックを書くために調べていたら意外にもこの腕時計がコレクション最厚ではなかった。Ref.6002Gスカイムーン・トゥールビヨンが17.35mmでチャンピンだった。

Ref.6300G-010
ケース径:47.7mm ケース厚:16.07mm 反転機構搭載(リバーシブルウオッチ) 非防水
ケースバリエーション:WGのみ
時刻側文字盤:ブルー・オパーリン ゴールド植字ブレゲ数字インデックス
センターに手仕上げのギヨシェ装飾(クルー・ド・パリ) 
カレンダー側文字盤:ブルー・オパーリン
両面共に18金製文字盤
ストラップ:ブリリアント・ネイビーブルー・アリゲーター
バックル:フォールドオーバー
価格:定価設定はありませんので少しお時間を頂きますが、目安についてはお問い合わせください

Caliber 300 GS AL 36-750 QIS FUS IRM
直径:37mm 厚み:10.7mm 部品点数:1366個 石数:108個
パワーリザーブ:時計機構72時間 チャイム機構30時間
テンプ:ジャイロマックス 髭ゼンマイ:Spiromax®(Silinvar®製)
振動数:25,200振動 手巻きさらに詳細なスペックについては公式HPにて

Ref.5078G-010 ミニットリピーター レアハンドクラフト

5078G_010_600.png※画像はパテックブースのウインドウディスプレイをガラス越しにiPhone7で撮影。撮影環境としては厳しい!
2005年からのロングセラーミニットに新顔が追加された。文字盤は黒本七宝(エナメル加工)をした上からレーザー加工で紋様が浅く刻まれている。過去にこの手法は記憶に無い。あくまで個人的にはあまり好きではないが、簡単には発注のできない激レアモデルである事には間違いない。

なぜか昨年までは無かったRare Handcraftsの表記がカタログに記載されるようになったが、上記2点は人の手でギョーシェマシンやレーザー加工具を操っているとはいえ、純粋な手彫りでは無いし、見た目もレアハンドと言うには個人的に多少違和感が有る。本来のレアハンドは全てがユニークピースのはずで、焼きムラや色ムラ、そして彫りムラ・・とムラッ気が有ってこそな気がする。それぐらいクロワゾネやハンドエングレーブには人の手によるぬくもりが宿っていて、ガラス越しであってもビンビンとそれが伝わって来る。至福のひと時を年に一度味わえる幸せがバーゼル詣の楽しみの一つだ。

Ref.5078G-010
ケース径:38mm ケース厚:110.18mm 非防水
ケースバリエーション:WGのみ
裏蓋:サファイアクリスタルバック ※ノーマルケースバック付属
文字盤:マット仕上げと光沢仕上げの本黒七宝 ゴールド植字 18金製文字盤
ストラップ:ブリリアント・ブラック・アリゲーター
バックル:フォールドオーバー
価格:定価設定はありませんが、少しお時間を頂き目安については問い合わせいたします

Caliber R 27 PS
直径:28mm 厚み:5.05mm 部品点数:342個 石数:39個
パワーリザーブ:最低43-最長48時間
テンプ:ジャイロマックス 髭ゼンマイ:Spiromax®(Silinvar®製)
振動数:21,600振動 
ローター:22金マイクロローター反時計廻り片方向巻上(裏蓋側より)


Ref.5520P-010 アラーム・トラベルタイム
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現行モデルでアラームウオッチは今回黒から青に文字盤チェンジしたグランドマスター・チャイムRef.6300だけである。ここに2番目のアラームウオッチとしてトラベルタイム機構とドッキングさせた非常に実用性の高いタイムピースが完成した。近い将来に実機を撮影したり、記事を作成する可能性が無いとは言わないが簡単では無い気がする。その点では昨年のノーチラス永久カレンダーとは人気の質は異なるだろう。今、書いておかねば・・
この時計で最も感心したのがセーフティ機構と言うか、取扱いでそんなにデリケートにならなくても良い点だ。超絶グランドコンプリのグランドマスター・チャイムは操作上で13のしてはいけないお約束があって、説明する側も聞く側も結構大変らしい。アラームのセットだって15分後とかは無理で最短でも30分以上はあとの時間しかセット不可能だ。まあサイズからしても実際に使用するというよりコレクションして愛でるお宝であろう。それに対してGMT機能+アラームというのは旅のお供としては相性抜群の組合せだ。
言わずもがなデザインは2015年ホワイトゴールドで初出し、昨年ローズゴールドが追加された人気モデルRef.5524に瓜二つだが、ニューモデルに特徴的な4本の角?を説明しよう。時計に向かって左側2本は従来のトラベルタイム操作用プッシュボタン。右側の上はアラームONとOFFをプッシュの度に切り替えて、ON時には12時下の小さ目のベルマーク窓が白くなる。OFFは黒でベルは見えない。このプッシュボタンにもトラベルプッシュ同様に誤作動防止の為に90度回転ロックシステムが採用されている。
文字盤上部にあるチョッと小ぶりなダブルギッシェ窓には特許申請中のアラームセット時間がデジタル表示される。4時位置のリュウズは時計回りでアラーム用ゼンマイを反時計回りで時計本体用のゼンマイを巻き上げる。さらに一段引きでアラームを15分刻みでセットするが、昼夜の判断はダブルギッシェ直下のこれまた小ぶりな●窓が白で昼、夜間はトラベルタイム丸窓同色の紺色となる。尚昼夜は朝と夕いづれも6時で切り替わる。驚く事にこのアラームセットは、例えば1時14分に一分後の1時15分のセットが可能。実際にはセットにもたつくだろうから数分前のセットが現実的だろう。時刻変更と組み合わせて使えばグランドマスター・チャイムには出来ないカップヌードルの3分待ちにだって使える優れものである。防水性もパテックの鳴り物系時計としてはパテック初の3気圧を獲得している。
この鳴り物アラームには時計ケース内側を一周するクラッシックゴングが通常のリピーターの様にムーブ側では無く、ケース側に取り付けられる事で、密閉度の高い防水ケースよる音質の劣化が防がれている。音質はミニットリピーターの2種類の音源の高音側のハンマーがセットされていて35秒から最大40秒間(個体差が有る)でほぼ2秒当たり5回の割でチャイムを打つ。音はゼンマイのトルク変化にかかわらず等間隔で鳴らされる。これはパテックがミニットリピーターで磨き上げてきた遠心ガバナー(フィギュアスケートのスピンで両手を体に密着させるほどに高回転になるのと同原理)技術によるものだ。加えて言えば、高回転するガバナーはどうしても空気摩擦で雑音を発するが、パテックはこれを独自の技術で究極に排除する事で澄み渡ったリピート音を獲得している。この点において他ブランドを圧倒的に凌駕している。と、個人的に思っている。
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※上下画像はいづれもパテックブース外周りの全ムーブメント(圧巻)展示コーナーで搭載するキャリバーNo.をセレクトすると10秒程度流れるデモ動画(下参照)から


通常のシンプルなミニット リピーター ムーブメントの構成部品が大体300個強に対して、Ref.5520のそれは574個というとんでもない構成部品で作り上げられている。それでいて兄弟モデルとも言えるアビエーションスタイルのRef.5524カラトラバ・トラベルタイム(42mm径、10.78mm厚、部品総数294個)とに比較してわずかに大きく収めてきたパテックの技術陣は凄い。採用ケース素材がプラチナでありながらミニットリピーターのエントリーモデルを結構下回る価格がPOR(Price on request)ではなく定価設定されている事も驚異的で、「いつかはパテックの鳴り物を」という方は是非とも検討に値するであろう今年の絶品モデル。

Ref.5520P-010
ケース径:42.2mm ケース厚:11.6mm 防水性:3気圧
ケースバリエーション:PTのみ
裏蓋:サファイアクリスタル・バック ※ノーマルケースバック付属
文字盤:エボニーブラック・ソレイユ 蓄光塗料塗布ゴールド植字アラビアインデックス
ストラップ:マット・ブラック・カーフスキン
バックル:クレヴィス・プロング・ピンバックル
価格:お問い合わせください

Caliber AL 30-660 S C FUS
直径:31mm 厚み:6.6mm 部品点数:574個 石数:52個
パワーリザーブ:最少42時間 最大52時間
テンプ:ジャイロマックス 髭ゼンマイ:Spiromax®(Silinvar®製)
振動数:28,800振動
ローター:21金センターローター反時計廻り片方向巻上(裏蓋側より)

最初は一回で新作をすべて紹介と思っていたが、グランドコンプリケーションだけでふらふらになっとりますので、次回はコンプリケーションからとしたいが、さて一体何回で終われるのやら・・

撮影、文責:乾













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バーゼルワールドまで一週間を切った。例年のことながらソワソワと落ち着かない今日この頃。毎年バーゼル開催初日(本年は3月21日木曜日)にはパテック社の公式HPにて発表されるニューモデルについて即日ブログ記事を書いてきた。実機サンプルの初見前なので過剰な期待モデルがあれば、秀作モデルを見落したりもする。
本当は出発前のPCモニター画像ではなく、現地でいきなりご対面が先入観なしに評価でき、それが一番と思っている。でも、どうしても我慢できずに見てしまうのが人情であり、パテックラバーの性ではある。
しかしながら本年は出来るだけ初見での素直な評価を大事にして変な先入観を排除すべく、敢えて出発前に速報をブログアップしない事にした。
寡作傾向は今年も継続されるのか、大量の生産中止が発表されたカラトラバの再構築はどうなるのか。昨年、久々に新作がリリースされたノーチラスとアクアノートは、また数年間の新作ブランクとなるのか、アニバーサリーとしての創業180周年、トラベルタイム(1959年初出)の60周年はチョッと弱い気がするし昨年パテック唯一のローズゴールドのペアモデルが発表されているし・・・興味の種は尽きないのだ。
でも今年は帰国後に現地での撮影画像も添えて、念入りに新作紹介ブログとバーゼル訪問記を書きたいと思っている。年間のブログ記事で最もアクセスも多いニューモデル紹介、鮮度も大事だが、実機を拝見しながら説明も聞くことで充実した実のある記事にできれば・・と思っております。

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