人生で改元は2度目だ。当時官房長官だった小渕元首相が"平成"の色紙(だったと思う)を掲げていたのをTVで見たのが昨日のような31年前。今年還暦を迎える身なれば30年周期で元直しをしている事になる。
前回は昭和天皇の崩御、続く大喪の礼で全メディアをはじめエンタテーメントは言うに及ばず、大規模小売業等も軒並み喪に服した後、平成は厳かに始まったように思う。当時は11年少し経験したサラリーマン生活に終止符を打ち、稼業を継ぐために時計業のイロハを勉強し始めた頃で、改元をめぐっての景気の浮き沈みを肌で感じることはなかった。でも、恐らくシビアな景況感だっただろうと思われる。
今回も予想はつかないが当店に限って言えば、今月の店頭状況が非常に悪いのは10連休のGWを乗り切るための節約志向が一つ。もう一つは新元号下での記念的な初買いに備えての買い控えは無いだろうか。特に日常の必需品でもなく趣味性が高い高級腕時計は、その対象になりやすい気がする。
いづれにせよ平成から令和への切替の中には、どこにも自粛ムードは無くどちらかと言えば歓迎のムードであり前回とは大いに異なる。生前のバトンタッチを促された平成天皇は聡明で経済感覚のあるお方だと思う。
さて、2019ニューモデルの最終稿はレディス。ほぼすべてがコスメティックチェンジであり、完全なニューモデルは無かった。
レディス 8型
4899/901G-001 カラトラバ・ハイジュエリー レア・ハンドクラフト
今年2月に生産中止になったピンクサファイアとダイヤモンドで構成されたピンクトーンのモデルがブルーサファイアで置き換えられたブルートーンモデルがデビュー。ケース、ダイアルとバックルにはダイヤモンド348個とブルーサファイアが354個セットされている。さらに大胆な手彫り(ハンド エングレービング)装飾がなされた真珠母貝(マザーオブパール)で文字盤の約7割近くが構成される贅沢なお仕立て。
以前にも書いたがパテック フィリップのジェムセッティングは、実用性を重んじる観点からきらめきを引き出す以上に、セット用の爪が衣類等に引っかからない様にスムーズさを優先したセットになっている。またダイヤはデビアス社から調達したトップウェッセルトン・ダイヤモンド(クラリティIF及びFLのみ)が両眼顕微鏡を使用して手作業でセットされる。その際隣り合うジェムのテーブル面の高さと上から見た軸方向を揃えてゆかねばならない大変骨の折れる根気のいる職人技である。
機械はレア・ハンドクラフトモデルの定番エンジンCal.240が素で積まれている。この極薄の自動巻は様々な装飾によって文字盤に厚みの出やすいレア・ハンドクラフトと、とても相性が良い。また鑑賞と言う観点からもセンターローターより美しいと思う。
かなりデコラティブなルックスなので好き嫌いはあると思う。ただ此処まで手作業をして素材にもコストをかけているのにプライシングは魅力的だ。詳しくはお問い合わせください。
4899/901G-001
ケース径:35.8mm ケース厚:7.8mm ラグ×美錠幅:17×14mm 防水:3気圧
348個のダイヤモンド(1.66カラット)ケース、文字盤、バックルの合計
354個のブルーサファイア(2.69カラット)ケース、文字盤、バックルの合計
ケースバリエーション:WGのみ
文字盤:真珠母貝(マザーオブパール)、ダイヤモンドとブルーサファイア付エングレービング入り、18金製文字盤プレー卜
ストラップ:マット・ブルーラベンダー、ラージスクエアのアリゲーター
バックル:ダイヤモンドとブルーサファイア付ピン
価格:お問い合わせください。
Caliber 240
直径:27.5mm 厚み:2.53mm 部品点数:161個 石数:27個
パワーリザーブ:最低48時間
テンプ:ジャイロマックス 髭ゼンマイ:Spiromax®(Silinvar®製)
振動数:21,600振動
ローター:22金マイクロローター反時計廻り片方向巻上(裏蓋側より)
4978/400G-001 ダイヤモンド・リボン・ジュエリー
こちらもローズゴールド4968/400R-001の生産中止に伴うホワイトゴールド版の生まれ変わりと思いきや、微妙に品番が変わっている。よく見るとムーンフェイズとスモールセコンドが省かれている。それに伴ってだろうか通常エンジンである手巻きのCal.215系からスモセコ位置に癖のある極薄自動巻Cal.240にサクッと積み替えられている。それゆえかケース径が3mm強サイズアップしている。ちなみに2つの機能省略に伴ってカタログ上の分類はコンプリケーションでは無くてカラトラバに組み込まれている。顔はローズゴールドバージョンよりオリジナルの4968に近く感じるのはアラビアインデックス仕様だからか。
ベゼルからケースサイドにかけては9種類のサイズの異なるダイヤがセットされて美しいスパイラルが描かれている。
バックル部は従来のものとは異なってつく棒を受ける部分にもブランドロゴのエングレービングでは無くてダイヤがセットされるようになった。積まれたエンジンと言い全体で800個近いダイヤモンドが手作業でセットされている事も考え合わせると、殆どレア・ハンドクラフトと言ってもいいような時計だ。昨年度までのローズゴールドバージョンに較べてケースサイズアップもあってかダイヤの数で約15%、カラットでは28%近く増量されている。にもかかわらず価格は約8%アップに抑えられている。エンジンのスペックアップも考慮すれば、この時計もプライシングが素晴らしい。
Ref.4978/400G-001
ケース径:36.5mm ケース厚:8.23mm 防水:3気圧
679個のグラデーションサイズのダイヤを渦巻状にセッティング(ケースとダイアル約3.99カラット)
48個のダイヤ付ラグ(約0.17カラット)
16個のダイヤ付リューズ(約0.03カラット)
27個のダイヤ付ピンバックル(約0.21カラット)
合計770個(約4.4カラット)のダイヤモンド
ケースバリエーション:WGのみ
文字盤:18金文字盤プレート、全面にダイヤをパヴェ・セッティング、ブルー仕上げの18金植字アラビアインデックス
ストラップ:ブリリアント(艶有り)ダスクブルー 、ラージスクエアのハンドステッチ・アリゲーター
バックル:ダイヤ付ピンバックル
価格:お問い合わせください。
Caliber 240
直径:27.5mm 厚み:2.53mm 部品点数:161個 石数:27個
パワーリザーブ:最低48時間
テンプ:ジャイロマックス 髭ゼンマイ:Spiromax®(Silinvar®製)
振動数:21,600振動
ローター:22金マイクロローター反時計廻り片方向巻上(裏蓋側より)
7118/1200A-001、010、011 レディス ・オートマチック・ノーチラス
既存ステンレスコレクションのベゼルダイヤバージョン。文字盤カラーの3色展開もその枝番号もすべて同じ。ただノーマルベゼルモデル7118/1Aに較べて、その価格はかなり高目の設定になっている。
Ref.7118/1200A-001(ブルー)、010(シルバー)、011(グレー)
ケース径:35.2mm(10時ー4時方向) ケース厚:8.62mm 防水:6気圧
ジェムセッティング:ベゼルに56個のダイヤモンド約0.67カラット
ケースバリエーション:SS(ブルー、シルバー、グレー)の他にRG(別文字盤有)
文字盤:ブルー・オパーリン シルバー・オパーリン グレー・オパーリン、夜光付ゴールド植字インデックス
価格:お問い合わせください。
Caliber 324 S C
直径:27.0mm 厚み:3.3mm 部品点数:213個 石数:29個 受け:6枚
パワーリザーブ:最低35時間~最大45時間
テンプ:ジャイロマックス 髭ゼンマイ:Spiromax®(Silinvar®製)
振動数:28,800振動
ローター:21金ローター反時計廻り片方向巻上(裏蓋側より)
Ref.7118/1R-001、010 レディス・オートマチック・ノーチラス
ステンレスのベゼルダイヤバージョン追加と逆パターンで、ローズゴールドでは従来は設定が無かったソリッドなジェムセッティングの無いケースバリエーションが追加された。個人的にはメンズはともかくレディスで18金無垢ブレスレットモデルに全くの石無し設定が必要なのか少々疑問。それよりも興味深いのはその価格設定。詳細はここでは避けるが、或る思いに現地で至りメンズの新製品(特にコスメティックチェンジ)の中にも不思議なプライシングが多々あり、或る思いに確信を持つに至った。まあ現地に行くまで気づかなかった自分自身がおバカでした。
Ref.7118/1R-001(シルバー)、010(ゴールド)
ケース径:35.2mm(10時ー4時方向) ケース厚:8.62mm 防水:6気圧
ケースバリエーション:RG(別文字盤有)の他にSS(ブルー、シルバー、グレー)
文字盤:シルバー・オパーリン ゴールド・オパーリン 夜光付ゴールド植字インデックス
価格:お問い合わせください。
Caliber 324 S C
直径:27.0mm 厚み:3.3mm 部品点数:213個 石数:29個 受け:6枚
パワーリザーブ:最低35時間~最大45時間
テンプ:ジャイロマックス 髭ゼンマイ:Spiromax®(Silinvar®製)
振動数:28,800振動
ローター:21金ローター反時計廻り片方向巻上(裏蓋側より)
7300/1450R-001 トゥエンティフォー オートマチック ハイジュエリー
総ダイヤと言うのはフルパヴェなどとも呼ばれるコテコテのラグジュアリーウオッチ。此処までくるともう受け入れられる人もかなり限られてくる。普通はこの手の時計に視認性はあまり求められ無いのだが,ソリッドなアラビアインデックスとノーマルな針で実用性は高そうだ。
キャリアウーマンに向けて実用性を追い求めて誕生したトゥエンティフォー。シンメトリーなラウンドウオッチにしてメタルブレスレット仕様。シリーズの生い立ちとコンセプトから見て、個人的にはこのタイムピースも少々首を傾けざるを得ない。しかしながら自動巻メカニカル、ラウンドケース、アラビアインデックス、18金、フルパヴェダイヤと並べれば、この時計の目指すマーケットがかなり限定されているという想像に至った。
7300/1450R-001
ケース径:36mm ケース厚:10.05mm 防水:3気圧
ジェム・セッティング:ダイヤモンドをランダム パヴェ・セッティング総計3,238個約17.21カラット
ケースバリエーション:RGのみ
文字盤:ゴールド植字アラビアインデックス 18金文字盤プレート
価格:定価設定はございません。お問い合わせください。
Caliber 324 S
直径:27mm 厚み:3.3mm 部品点数:182 石数:29個 受け:6枚
パワーリザーブ:最低45時間
テンプ:ジャイロマックス 髭ゼンマイ:Spiromax®(Silinvar®製)
振動数:28,800振動
ローター:21金ローター反時計廻り片方向巻上(裏蓋側より)
レディスで顕著なのは、非クォーツ化とサイズアップの流れだ。ノーチラスでは随分と整理されたクォーツモデルに取って代わるように、少し大振りな自動巻モデルの充実が図られた。毎年恒例だったアクアノート ルーチェの新色発表が無かった為に、今年のレディスはメカニカルのみとなった。
バーゼル会場で調達してきた英語版の2019年カタログに掲載されているクォーツモデルは、たったの18型しかない。ちなみに2015年には34型もがラインナップされていた。発表される機械式レディスモデルの大半が自動巻(Cal.324系 ケース径27mm、Cal.240系 ケース径27.5mm)なので、いきおい婦人物コレクションの大型化が進む傾向にある。
体格が良くなったと言っても我が国の大和撫子達には小柄な方も多く、出来ればリューズ操作はご勘弁というご意見もあるので、まだまだ小ぶりなクォーツモデルの必要性は有るように思う。少し残念なトレンドだ。
何とかバーゼルからほぼ1か月で新作の全モデルを紹介できた。寡作な今年でこんなに時間がかかるのだから、頼むから来年以降も大量発表は避けて頂きたい。
文責:乾 画像提供:PATEK PHILIPPE SA