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パテック フィリップ正規取扱店「カサブランカ奈良」のブランド紹介ブログ

パテック フィリップ正史要約最終回-ティエリー・スターン時代へ

今回も随分と日が空いてしまった。例年2月前半は商売が暇な時期という事で、各ブランドが展示会やらミーティング、イベント等を仕込んで来るので、やたらと出張が多い。特に今年は1月下旬から4週連続で東京往復をした為、まとまった時間が取れなかった。
それは言い訳であって、いよいよ残り僅かになってきた正史のまとめは、ほぼ直近20年間の出来事なのだが、何だかとっても書き辛いのが遅延の大きな理由だ。この時期はフィリップからティエリーへの権限移譲がなされた大切な時期なのだが、フィリップ自身は徐々に黒子を決め込んで行く。かといってティエリーの色が全面に出てくるにはまだ少し移行期間が必要だという事もあるのだろう。
フィリップの敷いたレールに乗っかって生産体制の垂直統合化がより一層進化した時期とは言い過ぎだが、景況に多少の波は有っても高級機械式時計市場への追い風が常に吹いていた良い時代だった。20世紀までのピンチとチャンスがジェットコースターのようにやってきた波乱と背中合わせではない比較的順風満帆な20年を語っても、面白みには欠けてしまうのは止むを得ないかも知れない。
大きなトピックスとしては2009年にパテック フィリップ社独自の品質基準であるパテック フィリップ・シール(以下PPシール)を発表・採用し、それまでの基準として採用していたジュネーブ・シールの使用中止がある。そもそもジュネーブ・シールは1886年にジュネーブ市議会が同地で製造された機械式ムーブメントの製造技術を保護するために「ジュネーブ天文台の時計作動検査に関する法律」を可決した事に始まるとウィキペディアにはある。基準は12条からなり認定されたムーブの地板にはジュネーブ州の紋章の刻印がなされた。
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高級機械式腕時計のお墨付きとしてCOSC(Controle Officiel Suisse des Chronometres)いわゆるクロノメーターと並ぶ2大基準であることは有名だ。
実はパテック社が、ジュネーブ・シールに関しては最長にして最大の擁護者であり、記憶違いでなければ高級時計ブランドの中で、検査や認定過程を経ずに全ての機械式ムーブメントにジュネーブ・シールを自社の製造過程で刻印が許可された唯一のブランドであると聞いた。逆にクロノメーター基準に関してパテックは過去全く基準として採用していないのは興味深い。実際随分長きに渡って-3秒~+2秒を出荷基準としている彼らにとって費用と時間を掛けてCOSCを取りに行くメリットは無いのだろう。
さて、なぜ独りよがりにも聞こえそうな自社基準PPシールなのか?フィリップ・スターンは、いくつかの理由を挙げている。まずジュネーブ・シール基準の最終見直し年度は、半世紀以上も前の1957年であまりにも時代にそぐわない基準になっている。ムーブメントの美的基準が中心で、時計精度の規定が無い事。さらにジュネーブ州内での製造・調整という制限が、現在のスイス時計産業の製造拠点分布の現状にはそぐわない事。

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個人的には、COSCもジュネーブ・シールもさらに新参のカルテ・フルリエ(2004年にショパールやパルミジャーニ等が共同設立した独立検定機関)も今日ではあまり意味を成さないと思っている。そのいづれもがコストが掛かっていて時計の価格に乗っかっている。国産も含めて中堅以上のブランドの機械は相当に高精度なので文字盤に記入されるデザイン要素だけの様な気がする。確かに見慣れたロレックスのダイアルに「SUPERLATIVE CHRONOMETER OFFICIALLY CERTIFIED」の文字列が無ければデザイン的に落ち着かないのかも知れない。でも100%クロノメーター宣言したブライトリングもCOSCが購入の決め手になっているとはとても思えない。
PPシールについては消費者や購買者へでは無くて、ブランド自身の製品基準コミットメントの意味合いが強いと思っている。
その路線を貫く事が、同社をあらゆる部品の内製化(マニュファクチュール度合いの向上)へと向かわせる事となった。2001年"カラム社"買収(ハイエンドなケース製造スペシャリストでスタッフ80名)、2006年"ポリアート社"取得(ポリッシング専門工房でスタッフ60名)、同年SHG社に投資(高度ジェムセッティング工房でスタッフ50名強)。これらの事業体はジュネーブから車で1~2時間のル・クレ・デュ・ロクルの近代的工場に収容されている。その他にも本社工場の直近にはケースとブレスの製造拠点としてペルリー工房を2003年から稼働している。
スターンファミリーのルーツは1932年にジャガー・ルクルトと競ってブランドを入手したスターン兄弟文字盤製作所の買収に遡る。2004年に古くからの名門ダイアルサプライヤーであった"フルッキガー&フィス社"(1860年創業)が財政難に陥っているのを救済すべく買収し、70名の職人を得て文字盤製造事業復活を果たした。尚、現在社名を"フルッキガー文字盤会社"として年産12万枚のダイアルを生産している。パテック社以外の著名ブランドへも供給がなされている。ちなみにパテックの文字盤はインデックスのプレス成型仕上げが一切採用されていない。シリコン転写の文字付けは勿論あるが、立体的なインデックスや装飾は全て手作業によるアップリケ(植字)仕上げである。2012年に現地見学の機会を得たが、文字盤工場と言うのは作業内容が判り易いので無茶苦茶に面白い。是非再訪の機会を得たいものだ。
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上画像:2009年にPPシール発表に際して撮影されたスターン親子
さて、結構有名な事業継承の逸話は2006年のクリスマスの出来事である。一時行方不明となっていたウォッチが巧妙に仕込まれたUS10ドル金貨をフィリップ・スターンからコイントスで受け取ったティエリー・スターンへと事業は引き継がれた。まさか作り話ではなかろうが、少々芝居がかっていてこのくだりは飛ばして先を急ぎたい。※但し、
実際の社長就任は2009年だった。
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新社長ティエリーの最初の大仕事は、2014年のブランド創業175周年記念イベントであり、その象徴は7年の歳月を要して開発された超複雑の音鳴り系の怪物傑作時計グランドマスター・チャイムRef.5175に尽きる。たった7本しか製造されなかったが、現在現行コレクションとしてカタログ掲載されているRef.6300Gとして販売されている。時価で2億円以上する高額時計ながら多数の注文があると言うから驚きだ。相当な購入実績が無いとまず入手は困難だろう。因みに昨年11月のオンリーウォッチ(2年に一度の難病治療目的のチャリティーオークション)にパテックは、ステンレス素材のグランドマスター・チャイムRef.6300A-010を出品。同オークションでの最高落札モデル常連であるパテックは、今回も3,100万スイスフラン(落札前日終値レートで34億弱)という腕時計史上最高額で落札されている。しかも最後まで競り合ったのが30歳前後の方々という事であり、あまりに凄すぎて言葉を失ってしまう。

二つ目のティエリーの成果は、2012年ドバイを皮切りに世界主要5都市で開催された"パテック フィリップ・ウォッチアート・グランド・エグジビション"である。昨年秋のシンガポールが記憶には新しく、真っ赤なアクアノートに興味を抱かれた方も多いと思う。
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出来れば個人的に弾丸ツアーで訪問したかったのだが、都合がつかず断念した。
「レベルの高い時計愛好家が多いとされる日本(東京)が近い将来選択されても不思議はないので大いに期待したい・・」
とパテック フィリップ ジャパンのスタッフに昨年話していたのだが、2022年東京での開催が正式に決定された。会場や日程は未定ながら、絵画館で実施された2014年の175周年記念イベントの数倍の規模での開催となる。前例に従えば日本の正規販売店の最重要顧客向けに限定モデルが用意される事は間違いないだろう。この特別なモデルの争奪戦は凄い事になるだろう。パテックによる購入希望顧客の選択基準は全く想像出来ないが、全くの私見として昨今のスポーツモデルへの人気集中があまりにも酷い傾向なので、各シリーズを偏らずにバランスの良いコレクションを収集している方にご販売が出来ればと思っている。


最後はさらなる工場の拡張で"新社屋PP6"の名称で現在の本社工場に隣接して2015年から工事が始まり既に完成している。床面積5万平方メートルの5階建てで建物の長辺が200mという巨大建造物だ。これで少しは人気モデルが増産されるという事は無く、主に部品製造とレアハンドクラフトの工房や時計技術者の教育やトレーニング施設として使われる様だ。人と物の両面でさらに自社化を推進するための新社屋のようである。こちらも是非とも現地見学をしてみたい。

尻切れトンボの様な最終回になってしまったが、最後にご案内したいのが"パテック フィリップ正史"の巻末にある三つの付表である。一つ目は時計品番(リファレンス)索引で、品番管理が始まった1932年のRef.96から2015年迄の全モデルを網羅している。品番で追っかければ、キャリバー・発表年(初出)・製造素材が一目でわかる。二つ目はキャリバーナンバー毎にどの時計に搭載されていたのかが一目瞭然だ。三つ目はやはり1932年から各年に発表製造された時計の品番が網羅されている。製造終了年度が記されていないのが残念だけれど非常に便利な資料である。
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5カ月強に渡った正史の要約は、正直なところ何度か挫折しそうだった。でも経営者のビジョン(信念)とたゆまぬ努力がブランドや企業を構築するという当たり前すぎるが、自分自身も含めて中々出来ていない事をスターンファミリーから再認識させられた貴重な経験となった。長文にお付き合い頂きありがとうございました。


文責:乾

参考・引用:PATEK PHILIPPE THE AUTHORIZED BIOGRAPHY パテック フィリップ正史(Nicholas Foulkes ニコラス・フォークス)
「パテック フィリップ正史(日本語版)」は正規販売店にて購入可能です。在庫の有無は各自ご確認下さい。税別24,200円
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