毎春、時計に関わる全ての人々が心を弾ませる各ブランドの新製品発表。昨年は新型コロナのために未発表としたパテック フィリップ、とりあえずオンラインで発表したブランドなどバラバラな対応であった。ともかくリアルな実機を手に取れる展示会は全て蒸発してしまった。
その当時、翌年2021年の今春もリアル開催が不可能となると誰が想像していただろう。一向に衰えを見せない人類の脅威は、今年も我々の楽しみを早々と奪ってしまった。
ウォッチーズ&ワンダーズと言うジュネーブでのSIHHの発展系の展示会に、パテック フィリップやロレックス等のバーゼルワールドの中核ブランドが新規参加して開催される予定だったが、昨年秋頃にリアル開催不可能の決定がなされ、各ブランドともオンラインでの新製品発表を模索進化させる事となった。我が国の感染状況も予断を許さないが世界の現況からして、来年度も現地開催ができるのかどうか、誰にもわからないまさに非常事態な状況である。
パテックに関して言えば、昨年度はまさに手探りで夏ごろから小出しに何度か分けて新製品発表をした。ただ現実性のあったレディースモデルの新製品に対して、メンズは数千万円以上の非常に特殊な雲上モデルのみの発表であり、多くのパテックファンにとって事実上、新製品発表の無い欲求不満の溜まる一年であった。

今年はウォッチーズ&ワンダーズ初日の4月7日に同ブランドの最も人気のあるシリーズのノーチラスの4モデルを新製品として発表した。さらに4月12日にはカラトラバやコンプリケーションで5モデルを追加発表した。すべてオンラインであり実機を見られない状況でのインプレッションを今回は考察してみたい。尚、スペック等の商品詳細はリンクを貼った当店HPを参照願いたい。

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まず最初にノーチラス4モデルのうち超絶人気のステンレスモデル5711のシンプルな3針モデル5711/1A-014とステンレスながらバゲットダイヤをベゼルに敷き詰めると言うパテックでは"快挙?、壮挙?、暴挙?"と言うしかない特殊モデル5711/1300A-001の2型。採用されているオリーブグリーンの文字盤は、今年の時計業界の大トレンドだがおよそ一般的な色目とは言い難い。記憶の限りでパテックのグリーンダイヤルは、かなり前のレディース・アクアノート・ルーチェと一昨年ダイヤルカラーバリエーションが追加されたアクアノート《ジャンボ》WGカーキグリーンの2モデル。現行ラインナップでもある後者は、"抹茶"と言う表現がピッタリな艶感とは全く無縁なマットな文字盤とコンポジット(ラバー)ストラップの構成で初見時に、あまりの個性の強さに購買希望者が絞られる印象を受けたが、新作人気が落ち着いた2年後の今現在もコンスタントにご注文が有り、同モデル初出でより一般受けするブラック・グラデーションのブルー文字盤と受注数はほぼ変わらない。個人的予測が見事に裏切られている。
新作オリーブグリーンの色目はモニターで見る限り、濃淡のレベルと艶の有無が判然としない。ただアクアノート《ジャンボ》のカーキグリーンの様なアクの強さでは無くオールマイティに着用者を選ばない安心感を感じる。いつでもパテックは紙でもWEBでも現物が必ずあらゆる媒体表現を凌駕するので、モニターでさえ充分な魅力を発揮しているオリーブの現物は相当な美味しさを期待出来そうだ。

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ベゼル仕様違いの5711/1300A-001も時計としては素材も含め全く同じスペックながら異色度合いは過去記憶に無いレベルだ。SS素材にダイヤセットは永らく時計業界では御法度であった。その理由は素材特性的にジェムセッティングが困難とされてきた。しかし本音は素材的に低価格であるステンレスのジェムセットモデルの実現化が18金WGやプラチナ素材の同様モデルを駆逐するのではという恐れからであった。その禁を破って最初にパンドラの箱を開けたのは、確かショーメだった様に思うが、物凄くうろ覚えに過ぎない。その直後からメジャーなカルティエをはじめ様々なレディースウォッチではSSケースにダイヤセットが、瞬く間に当たり前の仕様となった。パテックもこの潮流で1999年にSSのレクタングラーケースの両サイドにダイヤを配したTwenty~4®︎を発表。昨年文字盤等のマイナーチェンジを受けたが今なお現行バリバリのロング&ベストセラーモデルに育っている。
だがメンズウォッチにおいて、インデックスはともかくベゼルにダイヤがセットされるステンレスモデルは作例は有るものの今日でもメジャーとは言えない。もちろんパテックとしてもブランド初の事であり、しかも存在感あり過ぎな大粒バゲットダイヤモンドをセットしてきたのは異例中の異例である。還暦も過ぎた個人的にはこの組み合わせに違和感がないわけではない。しかし時計業界の最高峰ブランドであるパテック フィリップにとっては成立してしまう組み合わせなのだろう。早々とお問い合わせが殺到している。仮に著名であってもミドルレンジブランドが近似モデルを発表しても全く市場の反応は見込めないであろう。
ちなみにこれらオリーブグリーン・ダイヤルの2モデルについては今年度のみの生産と発表されており、通常の新製品発表と言うより特殊な限定モデル的意味合いを持つように思う。発表直後から様々なお問い合わせやご注文が殺到しているが、入荷量が全く不明なのでどこまでご対応できるかは、例によって例のごとくご勘弁頂きたい。

5990/1R-001ノーチラス・トラベルタイム・フライバック・クロノグラフは、ステンレスバージョンで既に現行の人気モデルとしてラインナップされているが、今回素材追加としてローズゴールドバージョンが追加発表された。

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文字盤はブルー・ソレイユと呼ばれる青文字盤が採用されている。これまた個人的には赤味のあるローズの色目と青の組み合わせはかなり個性的であって、我々日本人にとってはちょっと勇気の要る選択と思われる。ところが現行ラインナップにある自動巻クロノグラフのノーチラスのSSとRGのコンビネーションモデル5980/1AR−001が近似のブルー文字盤でありながら一定の人気を保ち続けている事からすれば、生産量次第では人気の希少ノーチラスとなるのかもしれない。

レディース・ノーチラスからも1モデル7118/1450R-001が発表された。メンズに既に総ダイヤモデル5719/10G-001が用意されている事からすれば、もっと早くリリースされるべきモデルだと思う。

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価格的にもそれなりに凄いのだが、時計と言うよりもこの手のものはジュエリーに時計がついているものなので特に紹介のしようもない。ただ従来の7118モデルには6時位置にカレンダーが付くが、当然?のごとくこのハイジュエリー・モデルでは省略されている。ついでに秒針すら無くても良かった気がする。

続けて4月12日に発表されたニューモデルについても書き連ねようと思ったが、ノーチラスだけで想定以上の文章量となってしまったので、やっとこさ補強されたカラトラバや画期的な永久カレンダー等については、改めて後日の紹介にしたいと思う。

文責:乾 画像:パテック フィリップ