パテック フィリップに夢中

パテック フィリップ正規取扱店「カサブランカ奈良」のブランド紹介ブログ

2022新作 一覧

昨年は短い秋が素早く過ぎ去って、早い冬が始まった。この国はいつの間にか四季では無くて、厳しく長い夏と冬の狭間に駆け足の様な春と秋が申し訳程度に顔を出す様になってしまった。そんな貴重な"秋"の新製品第二段。ちんたら書いていたら厳寒期になり、いつの間にやら年さえ越えてしまった。今回はクロノグラフを共通項として4本のグランドを含むコンプリケーションのご紹介。発進と停止機構で経過時間を計る平たく言えばストップウォッチという代表的な複雑時計機能に関して、パテック社は長らく自社ではなく敢えて信頼できるエボーシュ(ムーブメント供給専門会社)から手巻のクロノグラフ・ムーブメントを調達してきた。詳しくは過去記事でも紹介したが、1900年前半はヴィクトラン・ピゲ、1929年以降はバルジュー社、1986年からはヌーベル・レマニア社から特別で専用のクロノグラフ・キャリバーの供給を2011年まで約100年間に渡って受け続けてきた。そしてクロノグラフに関しては自動巻に手を染める事をパテックは頑なに拒んできた。
しかし1990年代からスイス時計業界内の諸事情で多数の時計メーカーがムーブメントの自社開発と生産を進める事になった。この諸事情とその影響を詳しく書き出すとキリが無いので止めておく。クロノグラフ系キャリバーのみ外部調達していたパテック社も自社製のクロノグラフ・ムーブメントの開発・設計に乗り出し、2005年以降3兄弟とも言えそうな性格の異なる3つのムーブメントを僅か4年間で発表し現在に至っている。今回紹介するクロノグラフ達の搭載キャリバーもその3兄弟全部が使い分けられている。この役割と分担をわきまえたようなキャスティングが大変に心地よい。

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アクアノート・ルーチェ《レインボー》クロノグラフは、レディス初の自動巻仕立てのクロノグラフである。アクアノートのメンズでRef.5968なる人気クロノグラフモデルが既にあって、品番頭の5がレディス御用達"7"始まりに変更となっている。時計そのものは全く同じでクロノ3兄弟の内、2006年発表の次男のCH 28-520が搭載されている。フライバック方式と呼ばれるクロノグラフ作動時に一旦ストップする事なしにいきなりリセットし、そのリセットボタンのリリースと同時に再スタートさせる特別なクロノグラフ機能が採用されている。このクロノグラフ作動のオン・オフを担うのは現代的な垂直クラッチと呼ばれる方式で、伝達時のトルクロスが非常に軽減されておりクロノ秒針を常時作動させて時計秒針として使用する事も出来る。センター・フルローター形式の自動巻仕様の実に先進的で実用性抜群のエンジンだ。現行クロノグラフ・ラインナップで最も多用されているキャリバーでもある。
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でもこんな油臭い話はこの時計には似合わない。さてさて"レインボー"なる宝飾時計の装飾表現を普及させたのは恐らくロレックスだろう。ミレニアムイヤーだった2000年より前か後かも定かでは無いが、確かクロノグラフのレジェンドである"コスモグラフデイトナ"で初採用だった気がする。でもその後追いで様々な他ブランドが、次々というレベルでは採用していない気がする中で、パテックでの商品化は個人的に意外で少し違和感もある。ベゼルへのジェムセッティングは内側ダイヤと外側マルチカラー・サファイヤの2重取り巻きで、デイトナの一重の大胆なグラデーション・サファイヤ使いとはさすがに一線を隔している。インデックスはアクアノートお馴染みのアラビア数字18金植字に加えて、短いバーインデックスがマルチカラーのサファイヤバゲットカット仕様となっている。時計の性格からカレンダーの不採用は妥当だろう。デフォルトの真っ赤なストラップに加えて2色のコンポジット(ラバー)ストラップが付属していて公式HPカタログで確認可能だ。良いお値段なのだけれど発表直後からお問い合わせは多い。しかし立ち上がりの入荷数が極めて少ないようで初入荷はいつの事やらと覚悟している。

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従来からラインナップされていたワールドタイム・クロノグラフRef.5930と時計的には全く同じで兄弟モデルである。しかしケースは新規開発で少し1.5mm大きく、わずかに0.11mm薄い。注目すべきは何と言っても素材がステンレスである事で、昨今のパテックが地味?に仕掛けているトレンドに連なるとても気になるニューフェイスである。5935A_001_b_800.png

ダイアルカラーはローズゴールドめっきのオパーリンに《カーボン》モチーフとされている。この何とも表現しずらいモダンなヴィンテージローズとも、光沢感タップリなサーモンピンク、はたまたオレンジっぽいピンクなどと言葉遊びを繰り出しても伝えようが無い。さほどに複雑な色目をモニターの画像だけで想像出来ようもないのでネタバレすれば、幸運にも現物を手に取って凝視する機会を得たからなのだ。ところで文字盤中央部の一松格子文様(《カーボン》と表現されている)モチーフを見た瞬間に思い出されたのは2019年秋に落成したパテック社の最新工場PP6を記念して製作されたSSカラトラバの記念限定モデルRef.6007である。てっきりこれが初出と思っていた。とこらが或るWEB記事で気付かされたが、このモチーフは2013年の5004Tが初出、さらに2017年の5208Tにも既に採用されていた。この2モデルは奇数年度に開催されるチャリティーオークション『オンリーウォッチ』出品用に特別製作されるユニークピース(一点モノ)であり、通常パテックが採用しない素材であるチタンがオンリーウォッチには好んで用いられている。尚、2022年の今年は偶数年で別のオークション『チルドレンアクション』に永久カレンダー・クロノグラフRef.5270のやっぱりチタン製が寄贈出品され11月7日に970万スイスフラン(同日レート買い換算146.63円:約14億2,231万円)で落札されている。一点モノに販売時価も付けようが無いが、全く個人的にカタログ掲載モデル的に見積もればプラチナ製のRef.5270P同レベルの2000万円台後半、仮に3000万円として50倍近いとんでもないプレミアプライス、モンスター井上もビックリ!というところか。

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寄り道、脱線から話を戻そう。90度角度を変えて筋目ギョーシェ彫りされたタイル状格子モチーフの演出はかなり凄い。公式HPの画像ではイマイチそこが伝わって来ない。例えば微妙な角度で文字盤を上から俯瞰すると全く市松が消滅し、まるで平やすりの表面様にしか見えなかったりする。その状態ではダイアル外周のシティリングは光沢を発して輝き、内側の平やすり部は完全なマット状に沈むが、12時側のブランドロゴの転写スペースと6時側のクロノグラフ30分計インダイアル部は艶めき燦然と輝いており、コントラストに惚れ惚れする。これ以上書くと実機編でのネタが無くなるが、ともかくこの時計の魅力は文字盤に尽きる。そして素材がステンレスなので当然軽い。初出の5930はホワイトゴールド、第2世代の現行5930がプラチナなので当たり前に軽いのだけれど、文字盤とカーフストラップのライトウェイトなイメージの色目使いも、特別な軽やかさを5935に与えている気がする。上述のアクアノートルーチェ・クロノグラフと見た目がまったく異なるが、ベースキャリバーは同じでパテック自社製クロノグラフムーブメント第2弾のCH 28-520系にワールドタイムモジュールがトッピングされている。個人的には今回発表の全8モデル中で最もお気に入りの一本だ。

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グリーントレンドはまだまだ健在の様である。サボりサボり書いている内に年末が過ぎ新年になってしまったが、全身に渋いオリーブグリーンを纏ったこの超絶グランド・コンプリケーションの発表が、一瞬!咋春だったか、ついこの間の秋だったかのか混乱してしまった。新緑に連なるお色目が春にこそふさわしいと言う先入観のしわざかもしれない。さほどに今春の緑軍団4モデルのインパクトは大きかった。
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さてさてグランド・コンプリケーションに於いて品番末尾が"4"で終わるモデルは生産も限られ調達ハードルが非常に高い印象がある。このモデルもその気配が濃厚だ。だが今回もそうであるようにコスメティックチェンジを過去何度も繰り返してきたこの手巻の永久カレンダー・スプリットセコンド・クロノグラフは中々販売がかなわないけれど、しばしば目にする不思議なモデルだ。全てお客様の着用やご持参によるご愛用品を結構な頻度で拝見している。希望小売価格設定モデルではあるので、未設定の時価(P.O.R./Price On Request)モデル達とは生産個数レベルにかなり差が有るのかもしれない。でもご縁が無いナァ。
エンジンは前述の2022年度チャリティーオークションモデル5270Tにも採用されたベースキャリバーCH 29-535系に永久カレンダーモジュールを積み上げるのは同じながら、さらにクロノグラフ部分にスプリットセコンド機構が組み込まれた部品点数496点の超複雑なムーブメントである。実機を見ていないので断言できないが、この緑色は結構渋めで落ち着きが感じられる。スプリットセコンドではないシンプルなクロノグラフに永久カレンダ-が合体したプラチナ素材の現行モデル5270Pの鮮やかな発色のグリーンカラーとは全く異なりそうだ。勿論好き好きであって、選択技が増えた事は喜ばしい。ただし価格は18金であってもスプリットセコンドバージョンが約1.5倍とお値段も"超"がつく。

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最後の一本は非常に珍しいレフティ用の手巻クロノグラフである。現行のパテックとして左利き専用モデルは唯一だし、他ブランドを見渡してもたまにシンプルな3針タイプでのレフティは稀に散見されるもクロノグラフは記憶にない。パッと見た感じは上述の5204の色違い?、でもよく見ればダイアルのレイアウトは天地が逆さまだったり、カレンダー表示の窓位置が異なったり、プッシュボタン数が違ったりと顔つきの似て非なる他人同士である。
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素材はプラチナでケース側面の形状が独特、ラグからラグ迄全体が一段下がるように彫り込まれている。今春発表の新作で画期的な10分の1秒計測で話題を集めたクロノグラフRef.5470Pを始め時価カテゴリーな超複雑モデルでは結構おなじみのデザインだ。搭載エンジンは2005年発表のクロノグラフムーブメントとしては初めて100%自社開発・製造(マニュファクチュール)された世界最薄コラムホイール式スプリット秒針クロノグラフキャリバーCHR 27-525系に永久カレンダーが組込まれている。従来からこのムーブメントは右利き用モデルとしてRef.5372などに積まれてきた実績が有るのだが、今回は半回転180度グルっと廻し込んでサウスポー仕様として5373に搭載されたわけだ。
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う~ん・・、チョッと笑えてしまう。手塚漫画のBLACK JACKで、内臓がすべて左右逆に生まれ付いたクランケを手術する際に要領を得ず、機転を利かせたピノコが差し出したミラーで左右を戻してオペを続けたくだりを思い出してしまった。この機械の設計は非常にクラシカルだ。1900年代前半のヴィクトラン・ピゲ時代のパテック社御用達エボーシュをお手本に、スプリットセコンド・クロノグラフを設計段階から組み込んだベースキャリバーとして2005年に誕生した。自社製クロノグラフムーブメント第一弾を一番複雑なタイプから取り掛かるあたり、いかにもパテックらしい。
でも個人的には単純にムーブメントを180度廻すのではなく、同一設計をアシンメトリーに組み直して12時と6時の日付カレンダーと月齢表示は上下反転させず、何よりもスクエアシェイプのスタート・ストップ用プッシュボタンは8時ではなくて10時位置で仕上げて欲しかった。なぜ?って、スタートとストップのプッシュ操作は基本的に親指で支えて人差し指で押したいから・・レフティの為に箸置きは右に、ナイフは左に、フォークは右に・・とお願いしたいナァ。とびきりの超高額モデルなのだから縦置きに設計開発されたエンジンを単純に横に置き換える様なケチくさい事はせずに、変更設計を加えた専用エンジンが相応しいと思うのだけれど・・。それゆえに今春のWatches & Wonders 直後に発表された10分の1秒クロノグラフ(高度でダイナミックな変更設計が与えられ、5373Pより若干リーズナブルな)5470Pに個人的軍配をあげたい。

さて、コロナ禍は新製品の発表スケジュールさえも見直しを迫っているかのようだ。春のリアルな新作発表の場を失った最初の年2020年は超絶を含むグランド・コンプリケーションやPP6新工場落成記念限定カラトラバ等の特殊なモデルが少な目に時期もバラバラに発表され我々正規店もWEB確認だけの全くの五里霧中状態だった。
一昨年2021年もリアル開催は無理で発表時期も数回に分けられたが、パテック社はその状況をあらかじめ覚悟して戦略的に小出しに発表をしたように思う。そして今年2022年はかつての聖地であったバーゼルから他のビッグブランド数社と共にジュネーブの《​Watches & Wonders Geneva 2021》にて2年ぶりのリアルな新作発表会が実施された。日本からの渡航がまだまだハードルが高かった時期でもあり、勇気あるジャーナリストとごく僅かな販売店も現地参加をしたように聞いている。
我々は開催と時を同じくして東京のパテック フィリップ ジャパンでリアルサンプルを初見する機会を得た。そしててっきり今年はそれで終わりで五月雨式のまとまった追加発表は無いとばかりに思っていた。しかしもう皆さんご存じのように昨年10月18日に秋の新作軍、それも魅力溢れすぎる超強力なモデルが8型もお披露目されたのだ。欧米を中心に春のジュネーブを訪問した正規店は多々あったはずだ。2021年の様に初夏や夏にトランプのカードを配る様な発表が今年は無かったが、春のリアルと秋のバーチャルの年2回(半年間隔)が今後スタンダードとなるのだろうか。それともコロナをまだまだ慎重にとらえて半年間様子を見た結果の答えが今回の秋の8モデルなのか。個人的には恐らく前者だと思っている。慢性的な品不足はコロナ下でさらに拍車がかかり、現物を店頭で確認する事が難しい現状で、皆さまにはフラストレーションでしかないが納品時に初めてご対面が恒常化している。コロナはあらゆる消費や購買をWEBを通じてモニターで見るだけで行うという新形態を加速した。どちら側も「オンラインでもええやん!」というスキームをいつの間にやら受入れているように感じるのだ。そう考えれば春と秋の分散発表も楽しみに思えてくる自分自身が一早くデジタルの奴隷になっているのかもしれない。

文責:乾
画像:パテック フィリップ

追記-本稿の書出しは昨年11月初旬だった。諸事情で中々書きあぐねて気づけば年末ギリギリとなってしまった。さらにグズグズと校正をしている内に年越しの公開になってしまった。それゆに本文中のタイムリーでない表現もあるがご容赦願いたい。
まだまだ書きはじめだった11月中旬には完全に意表をつかれたジュエリー使いのメンズの豪華版グランド・コンプリケーション4点が発表された。それらは今後のご紹介となるが、拙ブログで書き綴るレベルを超えている様な気もする。2022年は何とも多作の年であった。トータル25モデルは昨年の22より3つ多い。手元のあやしい備忘録でコロナ前の2019年ニューモデル数が23点なので特別に増えてはいないが、印象として豊作感を感じる。しかもハイジュエリー由来の超のつく高額モデルがドンドンやってきて、バブルの匂いがした昨年でもあった。お一人様で寂しく沈み込んでいった日本円相場のあおりで3回の価格改定があり、年初比較で20%以上の値上がりとなったが、さらなる値上げ期待があるのか加熱したブランド人気に陰りは全くない。今年は日本初開催となるグランド・エキジビションが6月中旬に東京で開催される。ブランド認知の裾野はさらに広がり、その価値も一層の高まりが予想される。ああパテックよ、おまえは一体どこまで行こうととしているのか・・。







いやいや驚愕の8モデルである。クロノグラフ5型にノーチラス3型がパテックの仕訳けだが、どうしても人気シリーズのノーチラス4型をひと塊としたい。アクアノート・ルーチェのハイジュエリーモデル追加がひとつ。そして2019年初出のウィークリー・カレンダーRef.5212A、2021年の年次カレンダーRef.4947/1Aと年次カレンダー・フライバック・クロノRef.5905/1Aへ地味に続くステンレス素材コンプリケーションの流れにも1モデルが用意された。さらには異なるクロノグラフムーブメントをベースにして同一機能を有するグランド・コンプリケーションの超絶モデルも忘れず2型。この面倒臭い分類がしっくりと腑に落ちやすい。と言う勝手な個人的仕訳けで、まずは取っ付きも良いノーチラス4モデルの画像ファーストインプレッションにお付き合い頂きたい。

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ついに、やっと、と色んな思いが全てのノーチラスファンにありそうな3針カレンダー・濃青色系ダイアル・銀色のケース&ブレスの復活モデル。2021年2月の定番旧モデルRef.5711/1A-010の生産中止発表から1年8カ月。特別で超レアなワンショット生産だった最終オリーブグリーン文字盤Ref.5711/1A-014と1300A-001やティファニー・ブルーダイアルの流通限定Ref.5711/1A-018等で2021年は常に話題提供がなされた5711だった。個人的にはこのタイミングと18金素材での復活はありありだと思う。しばらくノーチラスへのSS素材投入は無かろうと予想していたからだ。それゆえ後述する5990がSS素材のままダイアルチェンジでリバイバルされたのは少し意外だった。まあこれはあとで・・
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新旧を実機で見較べる(どれだけ運の良い人だろう・・)と言うのが超難関なので、PP公式HPカタログ画像同士を左右で比較してみた。3700/1Aという遺伝子が共通なのでお互いに実によく似ているのは当たり前。でもたった1mmの微妙なケース径の違いは例え実機比較でも難しそうだ。僅か0.1mm違いの厚さはもっと無理だろう。それくらい形状はウリだ。ケースの色目は新作の画像がやたら白っぽい。パテックは大半のWGケースにロジウムの仕上げメッキを施さないので実機はもう少し黄味がかって見えるはずだ。それにしても新作は画像修正が丁寧過ぎてシャドウが殆ど無く平板で高級感に欠けて見えるのは残念だ。文字盤カラーは先代のブラック・ブルーに対し新作はブルーソレイユのブラック・グラデーション。少し暗めで複雑な色目からスッキリした濃青色系になった様に見える。横ボーダーの凹凸部の天地巾はほぼ均等だったが、ニューフェイスでは広い凸部と狭めな凹部へと変更されたように見えるのは気のせいか。明らかに異なるのはブランドロゴ廻りで、2本のボーダー凸部にシンプルに転写プリントされていたのが新作ではロゴプリント専用スペースが設えられている。ただこの仕様は過去の撮影画像を確認してゆくと2016年頃にランニングチェンジされた様である。上の5711/1AのPP画像は初期型と思われる。時分針と18金植字インデックスの蓄光型夜光塗料スーパールミノバの色目はグリーン系の標準的な物から白さが際立つタイプになり、インデックスへの塗布面積も広げられ視認性が向上している。昨今の夜光系塗料の進化によるものだろう。インデックスそのものの形状もごく僅かにずんぐりした印象を受けるが、これも気のせいだろうか。またカレンダー窓も単純な面取り枠無しから高級感の有る18金窓枠付きとなっている。知る限りだがこの仕様は2016年のシリーズ発売40周年の記念限定モデルで初採用されたものだ。尚、昨年の特別な5711最終モデルのオリーブ・グリーンダイアルモデルも窓枠(恐らく18金)仕様が採用されていた。カレンダーの日付フォントも先代初期型とは異なっていて天地が短く若干太文字となって読み取りが良くなった。こちらもノーチラス40周年で採用されたフォントが踏襲されているとの事だ。
ノーチラスの初代は1976年初出の3700/1A。当時としてはケース径40mmの非常に大きい時計で"ジャンボ"と呼ばれた。厚みは色々調べたがどうも判然としない。天才デザイナーのジェンタが採用した2ピース構造のケースで極薄の8mm程度だった様だ。先代5711/1Aもこの初代3700/1Aに近しい風貌が与えられていたが、新作の5811はさらにその意識が強い様だ。それはケース構造を現代的な3ピースから先祖返りの様に2ピースに戻した点にある。かつての3700/1Aもそうであったように2ピース構造ケースには裏蓋が無い。その為にリューズを抜いてムーブメントを裏側から取り出せない。そこでジョイントリューズ(継手巻芯)を採用し、リューズを引っこ抜いて文字盤側から機械を取り出すしかなかった。以前のパテックはこのリューズ構造を採用するモデルが多くて、時刻合わせの際に「引き出そうとしたらリューズが突然抜けてビックリした」というご相談が結構あった。しかし今回の5811は2ピース採用ながらジョイントリューズではなく新たな工夫(特許なので詳細不明)でリューズを安全に外せるらしい。だた努力の2ピース採用がたった0.1mmしか薄さ確保に貢献していないのはチョッと残念。
ムーブメントは先代の5711でも最後期に324 S Cからランニングチェンジで換装されていた最新型自動巻エンジン26-330 S Cが搭載されている。ハック(時刻合わせ時秒針停止)機能と日付早送り操作の禁止時間帯撤廃の両機能を併せ持った非常に実用性の高いパテック自慢の基幹ムーブメントだ。
予想に違わず10/18の日本時間16時にPP公式HPで発表後、SNSでの拡散効果も有ってか新作情報は瞬く間に広がった様で、閉店時間までずっと店の電話は鳴りっぱなしだった。1回線ゆえ多々ご迷惑をおかけした・・はず?。そしてその7~8割の方が5811に強いご興味を示されていた。初日にして需給バランスは大崩れなのであった。素材的に先代5711SSの倍近くする18金素材となっても、このモデルへの渇望感は何ら解決がなされないわけだ。いっその事プラチナでも良かったのではないかとも思うけれど、かつて知る限り定番ノーチラスにプラチナ採用は無かったし、2016年のシリーズ発売40周年に記念限定モデル5711/1P-001がプラチナでリリースされているのでパテックとして素材哲学的なハードルが有るのかもしれない。まあ仮に発表されれば、同じように激しい争奪戦でしょうが・・。パテック随一の"トロフィーウォッチ(説明不要の便利な言い回し、いつ誰が広めた?)"としてこの時計はこれ以上今は掘り下げようも無いので、いづれ実機にて続編としたい。
※今回新作についてはモニター初見印象のみとし、スペックの記載は実機編に譲る事にした。

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通称"プチコン"は、SSブレス仕様と18金WGとRGにストラップ仕様の計3モデル展開が現行ラインナップだ。このRGモデルに同色系色目違いのダイアル(ブラウン・ソレイユ&ブラック・グラデーション)を採用しメタルブレス仕様としたバリエーションモデルが今新作だ。でもね、モニターの文字盤色は2021年に鬼籍入りした3針のRG素材5711/1R(ブラック・ブラウン)に似ているし、8mm台の薄いケース厚のゴールドブレス仕様のノーチラスが今新作のみとなるので、5711/1R買いそびれ組の受け皿モデルにもなりそうな気がする。
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昨年3針の5711のディスコンが発表されて以来、5712/1AプチコンSSの連鎖?廃番の噂が絶えないが、パテックサイドからは一切そんな話は出ていない。でも今回RGブレス仕様が追加ラインナップされて勝手な憶測をするに来春のSS生産中止とWGブレス仕様追加の発表はあるのかもしれない。
この新作も予想を遥かに上回るご希望がある。ずっと日本市場では銀色系が金色より人気だったが、各ブランドでイエローゴールドからローズ(ピンクやレッドも含めて)ゴールドへの置換が進んでからは、18金素材の人気に於いてローズがホワイトを上回ってきている感がある。伸展著しかった巨大マーケットの中国本土攻略の為に赤味系18金素材投入を各ブランドがこぞって競った結果のトレンドかもしれない。
この新作モデルは完全なコスメティックチェンジの為、さらなる詳細は実機でご紹介したい。

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2つ目の紹介を上述のプチコンRGブレスとどっちを先にするか迷ったのが、同じく完全なコスメティックチェンジモデルのSSノーチラス5990。この復活モデルは完全に予想外だった。
2014年にブランド初組合せのフライバック・クロノグラフ&トラベルタイムのダブルコンプリケーションを搭載して発表された。デカ厚時計ブームのトレンドともマッチして瞬く間に人気を博した。特に本年春の生産中止に向けてここ数年尻上がりに人気が高騰し大量の注文残を抱えて鬼籍入りした。現在は2021年に素材違いで投入されたローズゴールドのブレスレットモデル5990/1Rが唯一のラインナップだった。今回半年のブランクを挟みダイアルを初代のグレー系からブルー系へと変更してSS素材で再登板となった。
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左が今回の新作、右が初代のディスコンモデル。お間違いなく。と言ううくらいダイアル周りは微細な変更が無さそうだ。両画像とも出典はPP公式カタログだが、前述の3針モデル同様にケースとブレス部分への画像修正度合いはかなり異なっている。此処だけ見較べれば別モデルにしか見えない。個人的には立体感を感じる右の初代画像が好みだ。そんな事はどうでも良いがブラック・グラデーションのブルーソレイユ(新作011)かブラック・グラデーション(初代001)かは実に悩ましい。一般的にノーチラスの青系ダイアルは鉄板人気なので新作に軍配が上がりそうだが、それに乗っかるパテックはチョッとずるい気もする。
前述したようにあまりにも高騰しすぎている人気を考慮すれば5811の様に今後ノーチラスにSS素材は敢えて投入しないのでは無いかと予想していた。それ故の2021年度の5990RGモデル発表と理解していた。しかし今新作には見事に裏切られたわけだ。自信がグラついているが、ひょっとしたら今後も価格がかなり高額になる複雑機能モデルはステンレス素材でもラインナップが続くのかもしれない。そう考えれば前段のプチコン5712ステンモデルの廃番が現実味を帯びてくる。それにしても税込600万円を超える充分高額な時計なのだが・・。
そしてこの高額な5990SS新作にもご希望は殺到している。当店の場合、新作メンズノーチラスの人気順は5811/1G、5990/1A、5712/1Rとなるがあまり大差がない。そしてどれもが供給が追い付かず潤沢に販売できない事も共通している。

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今回発表のノーチラスの紅一点。既存ラインナップの自動巻3針カレンダーモデルのベゼルとインデックスに貴石をジェムセットしたコスメティックチェンジの新作。ジュエリーには疎いので初見はサファイアかトルマリン系の石かと思ったが、スペックにはガーネット科(属がしっくりかなァ)のスペサルタイトなる聞き始めの宝石とある。多彩な色目が有るようで、ルビー様の黒味を帯びた赤色を《コニャック》、シトリン様の文字通り《シャンパン》カラーを両端にしてベゼルは68個のバゲットカットによるダブルのグラデーションから構成されている。インデックスは濃色側の《コニャック》カラーのスペサルタイトを単なるバゲットでは無く"オジーブ"型なる縦長の樽型にカットし、18金の土台に天地留めしてセッティングされている。オジーブ型をググれば、ゴシック建築における特徴的な様式デザインで仏語で尖塔アーチとある。形状的にはロケットや口紅の様なトンガリらしいがわかったようで良く判らない。スペサルタイトはドイツ・バイエルン州シュペッサルト郡での発見が石名の由来。スペサルティンガーネットとも呼ばれ様々なオレンジカラーが有り、黄色味が強い(聞いた事が有りそうな)マンダリンガーネットなども含まれるとある。尚、ガーネットの和名は柘榴(ザクロ)石であり、インデックスや12・6時部のベゼルにセットされている《コニャック》色部はさもありなんである。
ソリッドベゼルやブリリアントダイヤベゼルの7118レギュラーモデルと時計スペックは共通で、搭載ムーブメントはCal.324 S C。なぜか新型換装エンジンCal.26-330 S Cへの積替えがレディス・ノーチラスはのんびりの様だ。リューズは捻じ込みと勘違いしがちだが、非捻じ込みで6気圧防水。少しでもリューズ操作を簡単にという配慮なのだろう。ケース厚は8.62mmでなぜかメンズの3針5711&5811(8.3&8.2mm)、プチコン5712(8.52mm)や永久カレンダー5740(8.42mm)よりも若干ながら厚い。妹分のレディスノーチラス・クォーツモデル7010系がたったの6.9mmなのだから自動巻も頑張って8mmチョイに仕上げて欲しい。
さすがにメンズの新作3兄弟?の熱狂ぶりは無いけれども、予想以上にお問い合わせはある。そしてこの手の時計は入荷が非常に少ない傾向があるのでコンスタントな納品が難しい気がする。ガーネットは比較的手頃な宝石だとしてもグラデーション表現の為の色合わせが必須の調達は簡単では無いだろう。これは次回紹介予定のアクアノート・ルーチェのレインボーでも同じことが言えそうだ。

ところで新作メンズ3型のバックルは刷新されている。正確にはバックルそのものではなくてバックルに連なるブレスレット末端部の駒に仕込まれたエクステンション構造が新たに備わったのだ。駒の裏側の微妙な出っ張りを押して2mm引き出せるので両側で4mmまでワンタッチで調整可能となった。
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画像の右側が未調整で出っ張りはプッシュされていない。左側はプッシュして2mm引き出した状態だ。縮める際はただ単に押し込むだけで大丈夫だ。実に簡単である。でも時計脱着時に間違って延ばしたり、意図せず縮めたりは大丈夫なのだろうか。オンラインショッピングの普及と共にエンドユーザー自身によるサイズ調整やストラップ脱着交換を可能にするシステム開発・搭載が様々なブランドで試みられている。カルティエのサントスブレス等はその代表例だろう。パテックはメタルブレスの微調整用に1.5駒のエキストラサイズリンクを別売で用意している。古い考え方かも知れぬがこれだけ高額のラグジュアリーでエレガントな時計はリアル店舗で調整もなんもかんも任せて頂きたいのだ。新機構はあくまで大汗をかいた時に引っ張って緩めるエマージェンシーとして使ってもらいたいのだ。
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表側とサイドビューも撮って見た。お断りしておくが新作ノーチラスはまだ入荷していない。ごく最近入荷の従来品ノーチラスモデルに既に換装搭載されて初入荷したものをタイミング良く気付いて撮影したというわけだ。チラリと覗けるムーブメントをヒントにリファレンスを2つに絞れたアナタは正当かつ深刻なパテックホリックで御同輩と呼ばせて頂きたい。バックル近辺と言うのは普通は自分以外まず見えない。でも自分自身は結構よく目にする部分だ。好き嫌いと断りつつも個人的にはこの見え様はいただけない。さらに言えば汚れゴミの付着が気になり、隙間から構造内部への侵入での不具合を心配してしまう。さらに画像右側のサイドビューからはエクステンション部を仕込んだエンドピースの結構な厚みが確認できる。続きの2駒目はテーパー状となって厚いエンドピースと薄いレギュラー駒の橋渡しをしている。しっかり特許の両側プッシュの新型クラスプ部そのものも旧型より微妙に厚く中央部が少し膨らんでごつくなった感がある。これまた新旧のバックルの着け心地を較べられるオーナーはとても限られるだろうが、ケースだけでなくブレスの薄さもノーチラスの大事な持ち味なのでガチガチに固めてゆくのもナァと思ってしまう。スポーツロレックスのオイスターブレス・バックルも同じ変遷をたどってはいるが・・。

先日読んだクロノス日本版最新号(2022 no.103 P.27)に、来日した世界的に著名な時計評論家ギズベルト.L.ブルーナー氏と広田編集長の対談記事があり、興味深い下りが有った。原文のまま記すと「・・かつて、パテック フィリップのフィリップ・スターンにこう聞かれたよ。ノーチラスがまったく売れないのでどうすればいいのかと。ロイヤルオークにしたって、かつては値引の対象だった」。現在のラグジュアリースポーツの2大巨頭のファンの方の殆どが、2000年以降に興味を持ち始められた50代半ば迄の世代となっている。その方々には想像も出来ないかも知れないが最強トロフィーウオッチ達にも不遇の時代が存在し、結構長く続いていたのだ。1990年代初めに時計業界入りした頃、ロイヤルオークは常時委託で貸出しされ日々目にしていた。ノーチラスでさえも始終開催していた自前の展示販売会に当時の輸入元が無造作に持ち込んでいた。ただ当時もステンレス3針の3800/1Aだけは滅多に入荷しない稀少モデルだった。SSデイトナも同じ状況で、この二つのリファレンスだけが例外的に特殊であり、今から考えればのんびりまったりと実に平和な時代だった。

本稿もいつも通り長文で脱線しばしとなった。お宝ノーチラスが一気に4型ゆえにお赦しいただきたい。次回は残る複雑系中心に残る4モデルをサクッと紹介してみたい。

画像:パテック フィリップ
文責、撮影:乾



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まさかこのミノルタをブログ用に撮影する事になろうとは思わなかった。記憶に定かではないが祖父が存命だった1970年代頃、実家で愛用されていたファミリーカメラで、当時のミノルタはニコンやキャノンを上回る国産カメラ最高峰ブランドだった。現在は法人そのものが存続しておらず、ソニーにそのカメラ事業の遺伝子は受け継がれている。この35mm銀塩フィルムカメラが小学生だった私に写真の面白さを目覚めさせてくれたのだった。もう今は壊れてしまいガラクタに過ぎないが断捨離がかなわず今に至っている。
なぜこんなかび臭いぼろカメラを紹介するのかは、もうお判りであろう。今春パテックがリリースした新製品に採用され非常に大きな話題を巻き起こした文字盤のデザイン的ルーツとされたからだ。ザラザラでデコボコなまるで像の皮膚を思わせる黒いカメラボディを模したダイアルはパテックだけで無く他ブランドも含め全くの初見である。
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いやいや何とも斬新でダイナミックな面構えである。本来はカメラ本体をしっかり保持して、手振れを防ぐための滑り止め表面加工なのである。外装の為の専用仕上げを普段触れる事が出来ない内側のパーツである文字盤に施すという意外性が、今までに無かった不思議な魅力を生み出した。昨今のパテックが好んで採用しているアラビア数字フォントのインデックス、並びにシリンジなる聞きなれない表現の注射器形状の時分針もアナログ時代のカメライメージと妙にマッチしている。蓄光タイプの夜光塗料が施されたインデックスと時分針、転写プリントのブランドロゴとカレンダー日付、(恐らく?)焼付け塗装仕上げであろう秒針、これらすべての色が見事に統一されている。モニターの画像では分かりづらいが、その色目はヴィンテージコンセプトにふさわしい微妙な紫外線焼けを感じるエイジングカラーとなっている。渋くてにくい。
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先程、黒いカメラボディと書いたが、正確に真っ黒なのは凸凹仕様の最外周部のみであって、センター部の複雑なダークグレーから外側に向かってグラデーションしながら濃度を増して真っ黒へと変容している。このブラック・グラデーションと呼ばれる塗装職人の熟練の手技は、これまた昨今のパテックで多々見られる流行りの文字盤芸だ。尚、このグラデーションは文字盤に光が当てられた状態で正面から向き合うと最大の見え方となる。ところが暗めの室内で斜め45度辺りから見ると凹凸の無い平板で均一な黒い別人の顔を見せる。撮影し忘れたけど・・怪しく魅惑的な表情変化だ。一見すると新機軸で意表を突いた表面加工ばかりに眼がゆくが、シンプルでありながら深くて高度な技を駆使する文字盤へのこだわりはパテック伝統のお家芸だろう。
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何ともあまいフォーカス、何処にもピントが合っていない。ご容赦いただいて特徴的な横顔の紹介。ベゼル装飾としておなじみのクルー・ド・パリ(ミラミッド文様の繰返し)をケースサイドに使っているのは現行モデルではグランドマスター・チャイムRef.6300とワールドタイム・ミニット・リピーターRef.5531の超絶系グランドコンプリケーション2モデルのみ。今新作5226は時計機能としては3針カレンダーのいわゆるベーシックとかエントリーと言うべき入口的なモデルである。にもかかわらずブランドの最上位レベルの外装仕様が与えられている。特筆すべきはこの手作業のギョシェマシンによるクルー・ド・パリ装飾がケース外周に途切れなく全周に渡って施されている事だ。それが為にストラップを固定する4つのラグは特殊仕様としてケースバックと一体型で鍛造削り出しで作られている。この仕様でなつかしく思い出すのはクルー・ド・パリつながりのカラトラバの名作Ref.5119(生産中止)である。ただし同機では華奢なラグがケースバックにロウ付けされていた。
凝った造りの今作のケースは完全な新規設計で、クラシックな装飾が施されながらもとてもカジュアルな印象である。まったく新しい仕上げのダイアルやインデックスなどもカジュアル路線であり、デフォルトで装着されるヌバック仕上げのカーフストラップが一層そのイメージを高めている。また同梱されるファブリック柄を型押しした黒いカーフストラップは汚れが目立ちにくい点で個人的にはお勧めだ。
100年ぶりのパンデミックである新型コロナ下でビジネスシーンでのドレスコードが大きくカジュアル方向に振れた影響もあってか、腕時計デザインもスポーティーやカジュアルがより一層求められている様に思う。ラグジュアリースポーツの雄であるノーチラス等がその代表選手なのだが、オーセンティックでドレスアップ御用達であったカラトラバにも今作の様な提案がされるようになった。よくある事ながら今回紹介の5226も初見では、さほど自分自身の琴線に触れる時計では無かった。むしろ同じデザインコンセプトのダブルコンプリケーションである年次カレンダー・トラベルタイムRef.5326に完成度の高さを感じていた。でも個人的な諸事情で腕に負担の少ない軽量で、近頃仕事着にしている作務衣にも合うバタ臭過ぎない時計として5226は気になって来ている時計だ。でも結構なお値段以上に人気のハードルが高すぎて当分コレクションになる事は無さそうだ。最後に引きの画像で時計全体をご覧頂いて・・
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Ref.5226G-001
ケース径:40mm ケース厚:8.53mm ラグ×美錠幅:21×16mm 防水:3気圧
ケースバリエーション:、WGのみ 
文字盤:ブラック・グラデーションのテクスチャード・ラック・アントラサイト
インデックス:夜光付ゴールド植字アラビア数字
ストラップ:手縫いヌバック仕上げベージュ・カーフスキン(装着)、 手縫いエンボス加工ファブリック柄ブラック・カーフスキン(同梱) ピンバックル
価格:お問い合わせください

Caliber 26-330 S C
画像はパテック公式のものである。すっかり撮り忘れていた。このムーブメントは2019年初出のウィークリィー・カレンダーRef.5212でお目見えした。基幹自動巻エンジンCal.324に大改造を加えて、名称も刷新されて新型は無理でも新世代エンジンとは名乗れそうな画期的ムーブメントだ。判り易い2大特徴は、パテックがずっと採用に及び腰だったハック(時刻調整時秒針停止)機能の搭載、ならびにカレンダー早送り操作時における禁止時間帯の撤廃である。その他詳細は繰り返しになるので過去記事(後半部分)をご覧頂きたい。
この新世代エンジンは、従来のCal.324を搭載していたノーチラスやアクアノートのシンプルモデルに現在どんどん換装されているが、全くのニューモデルに(複雑機能の無い)ベースムーブメント状態で積まれるのは今回の5226が初めてだ。だから後ろ姿の撮影はマストだったのだ。でも27mmのムーブメントを40mmのケースで包むと裏ベゼルとガラス部分のバランスがチョッと厳しい。パテックの流儀でベゼル部への刻印も一切ないので余計だ。個人的には他ブランドも含めて、そろそろ何でもかんでも裏スケルトンは見直すべき時期だと思う。
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直径:27.0mm 厚み:3.3mm 部品点数:212個 石数:30個 受け:6枚
パワーリザーブ:最小35時間、最大45時間
テンプ:ジャイロマックス 髭ゼンマイ:Spiromax®(Silinvar®製)
振動数:28,800振動
ローター:21金ローター反時計廻り片方向巻上(裏蓋側より)
尚、ムーブについての過去関連記事はコチラから

文責 撮影:乾 画像修正:新田

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最初にお断りから、現物は上の画像の何十倍も素敵な芸術品だ。鏡面仕上げの時分針はわざと真っ黒(ブラックアウト)に写してパテックのロゴに重ねた。日本列島を始め中国・東南アジアをカバーするユーラシア大陸極東部と豪州大陸や島しょ部を出来るだけ露出したかったからだ。しかし創意工夫も鋭意努力も報われず何とも頂けない結果だ。でも今年発表の新製品のワールドタイム・クロワゾネが今年度早速入荷し、撮影出来た幸運を喜ばずにはいられない。地道にコツコツと(購入店の)浮気をせず、フラれてもフラれても求愛をし続けるドン・キホーテのようにいつかはクロワゾネと思い続けていただいた顧客様に感謝申し上げるよりない。相当登り応えのある秀峰である事には間違いないが、登っても登っても見えてこない山頂、或いは辿り着けないピークではけっして無いと思っている。
今作に連なる現代クロワゾネ文字盤ワールドタイムの始まりは2008年発表のRef.5131からで、2019年には後継モデルの5231がYG素材でリリースされた。その詳細は入荷のご縁があって2020年6月にブログアップしている。再読すると結構書き込んでいるし、画像も数段見栄えがして、自らの過去記事がトラウマになるなんて。はて?今更、何を綴ればよいのやら。
少しだけ歴史的なおさらいをすると・・パテックにおけるワールドタイムには結構長い休眠期間があった。記憶違いでなければ1966年から1999年までの三十数年間は生産された様子が無い。ワールドタイムと同系列上にあると個人的には思っているトラベルタイムにもほぼ重なる空白期間があった。同じような空白期間はミニット・リピーターにも有るが、二十数年(1958年頃~1981年)で少し短い。いづれも1969年セイコー・初代アストロンから始まったクォーツショック等によるスイス機械式時計受難の時期と重なる。ところが永久カレンダーとクロノグラフ、特にその競演たる永久カレンダー・クロノグラフには、生産量の減少はあったが明確な空白期間は見当たらない。これらの違いは何なのだろう。それぞれのコンプリケーション(複雑機能)に対する市場の需要度合いの違いでは無さそうだと思っている。
この20世紀後半の約40年間というのは世界大戦の荒廃から勝者も敗者も関わりなく復興発展し、グローバリゼーションが急速に伸展して、相対的に地球がどんどん小さくなった時期である。腕時計の実用性からすれば永久カレンダー・クロノグラフよりもGMT機能(ワールドタイムやトラベルタイム)こそがずっと求められたはずだ。これはパテックに限った話では無いと思うが、この機械式時計受難ひいてはスイス時計産業暗黒時代でも少数ながら腕時計愛好家は存在し、実用面では無く趣味的かつ審美的に選択されたのが永久カレンダー・クロノグラフだったのだろう。逆にミニット・リピーターは浮世離れが凄すぎたのかもしれない。それでも1980年代にはGMT系に先駆けてミニット・リピーターの再生産が始まっている。これは当時の経営トップであったフィリップ・スターン氏の戦略的な狼煙だったと思っている。機械式複雑時計などが壊滅的な状況下でこそ目立つハイエンドモデルの提案でブランドの孤高化を狙ったのだろう。まったく上手く説明出来ないが自分自身は腑に落ちているので・・
さてパテックがそれまでに無い完全な新規実用的カレンダー機能として年次カレンダーを発表したのが1996年。その後実用的なリバイバル機能として1997年にはトラベルタイムが、2000年にはやっとワールドタイムの現代版が発表された。1990年代からミレニアムを経て2010年くらいまではスイス機械式時計の復興期であり、各ブランドが20世紀前半に自らが確立していた機械式時計の技術レベルにキャッチアップに勤しんだ20年弱だった。一方で携帯電話の萌芽と発展、さらにはスマートフォンの誕生と普及時期ともほぼシンクロしているのが興味深い。アナログな時計本来の実用性が益々薄れていったのと相反して、一旦冬眠状態にあった機械式時計の様々な機能が見直され復活し充実した。なんか逆説的で皮肉っぽいがクォーツショックを乗り越えて復活出来た機械式時計に取って、そもそも携帯やスマホは共存するもので、もはや敵対したり置き換わったりするものでは無かったのだろう。恐らくアップルウオッチも同類であって、実用的側面を超越した存在価値を獲得した高価格帯の機械式時計の近未来は明るい・・・と個人的には確信している。

今回の撮影画像はどれもが眠くてシャキっと感がないのだけれど自業自得なのでしょうがない。でも他には無いから嫌でも使わざるを得ない。クロワゾネ(有線七宝)等のエナメル技法は滅多に拝める機会はない。だから僅かな機会が有れば、それはもう穴が開くほど観察をする。まずは肉眼とキズミ(ルーペ)で色々な角度の光を当てながら見る。さらに撮影した画像を拡大して見るのだが、いつも答えは同じで"実際の工房で一から十まで全作業工程をつぶさに見なければ本当のところは判らない!"という事だ。パテック社の公開資料やインターナショナルマガジンの記事、一般の様々なウンチクやら情報などは大変参考にはなってもどこまでも百聞であって、工房での一見には遥かに及ばないのだ。現在の自分自身のコンディションでは物理的にそれは難しいけれども、そもそも社外のエナメル職人が請け負って自身のアトリエで孤高(ナイショで?)に製作される事も多い特殊すぎる文字盤。その製作工程がそう簡単に誰でも見られるとも思えない。仮にPP社での内製化が進んでいたとしても全てをつぶさに見せてくれるとも思い難い。
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カメラによる撮像は時として肉眼で見る実像を上回る。正確には上回る様な気がするだけで、実際には肉眼には絶対にかなわないと思っている。それどころか時々誤解を生むような表現を呈する事もある。上画像はクロワゾネエナメル部分の表面感を捉える為に撮ったもの。手仕事ならではの焼けムラを狙ったものだ。それなりのムラは撮れたけれども、色々と問題がある。クロワゾネ部分の外周部分の細い金の土手?5時から7時辺りに汚れ状の青色の釉薬の塗りムラらしきものが見えるが原因不明の映り込みであり、現物ではありえない。また昼夜ディスクの夜間部分の地色も美しい濃青色に画像上は見えるが、実際には黒色である。ところが白い昼間部分に転写プリントされた数字は見た通りの青だ。ちなみにその外側のシティーリングの各都市名も青っぽく見えるが黒で正解。ダイアルの特殊な表情を追い求めたライティングが意図しない虚実混沌を生んでしまった。
しかしパテックのシリコン転写プリントの肉厚仕上がりにはいつも感心してしまう。上の画像からもそれは見て取れるが、"これは空飛ぶ絨毯か?"としか思えないのが下画像のPATEK PHILIPPE GENEVEロゴだ。真っ青な太平洋に純白の転写プリントの筏が浮かんでいるようにしか見えない。
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それぞれのアルファベット文字の下にくっきりと影が見える。単純に海を表現した青色釉薬が焼結した表面に直接転写印字しても影など出来るはずが無い。これはクロワゾネ七宝による彩色工程終了後に仕上げとしてフォンダンと呼ばれる透明釉薬の焼結と研磨をおこない分厚い透明な表面層を作り、その上からロゴを転写して作られた巧妙なマジックなのだ。カタログや公式HPの商品紹介画像でもこの部分は表現されていない。上の画像でもかなり拡大して初めて気づいた。パテックの七宝系文字盤をじっくり手に取って見る機会は我々もけっして多くないが、今後の大事な観察ポイントで間違いないだろう。尚、のっぺりした印象の表面感ながらオーソドックスなライティングをした下画像では、ほぼ忠実な色表現となっている。
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北海道が樺太サハリンと陸続き、本州も四国も九州も分裂前とは、有史以前の古地図ですか? 当たり前の事ながら大胆すぎるデフォルメがクロワゾネの表現では必須となる。勿論手作業による金線の輪郭も個体ごとに微妙に異なるだろう。緑色の平野部分から黄色さらには茶色の山地へと溶け合った釉薬のグラデーション表現も一点一点が焼き上がり次第であって、当の七宝職人(作家と言うべきか)さえもその想像には限界がありそうだ。
ところで今作の東南アジアとオセアニアのみにフォーカスしたモチーフは記憶の限り初見である。今やとんでもない落札額が当たり前になった1950年前後のアンティークなワールドタイム・クロワゾネ地図シリーズ。実に多様なエリアがモチーフにされてきた印象があったが、改めて色々繰ってみると実は手元の資料ではそんなに多彩では無さそうだ。
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①ユーラシア大陸とアフリカに加えてオセアニアという広域、③ヨーロッパ全域、④北米大陸、以上3エリアの個体が多いようだ。②南米大陸など他のバージョンもありそうだがあまり見かけない。そもそも当時生産された個体数が30年弱で約400個とされているので同じ個体を色んな資料で何度も見ている印象だ。興味深いのはこれらアンティーク時代には見掛けなかったエリアが現代ワールドタイム・クロワゾネには採用されている事だ。
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2008年発表の⑤Ref.5131Jは、過去見た事有りそうで記憶にない大西洋を中心に右にヨーロッパとアフリカ、左に南北アメリカが描かれた。翌2009年発表のWG素材バリエーションの⑥Ref.5131Gは往年のユーラシア、アフリカとオセアニアだったが、2015年の⑦RGのバージョンでは太平洋を挟んでアジア、オセアニアと南北アメリカ。2017年にPT素材の金属ブレスレット仕様で追加された⑧Ref.5131/1Pは意表を突く北極を中心に北米とユーラシアの両大陸北方が初めてモチーフとされた。そして最新の⑨Ref.5231でも大西洋を中心に右にヨーロッパとアフリカ、左に南北アメリカのモチーフがYG素材でまず発表された。だが今回紹介の⑩WG素材バリエーションでは東南アジア+オセアニアというお初のモチーフが選ばれた。日本国民としては日本列島が12時の直下という主役的な位置取りは心地よい。相対するオーストラリアのポジションも悪くないだろう。ただ中国は内陸部で切られていてかすかに微妙な印象だ。大層かもしれないが地政学的には少し課題が残る地図取りではないかと心配してしまう。台湾という島の存在も"目立っても、そうでなくても"気を揉みそうで居心地の悪さがある。ともかく地球上をどこでも好き放題に切り取れる平和な時代が続く事を祈らずにいられない。

レア・ハンドクラフトのテーマは、いつも苦労する事になる。タイムピースよりもアートピースの側面が強いからだろうか。書き手以上に読み手はさらにつらいのかもしれない。ワールドタイムのクロワゾネ地図シリーズもエリアのモチーフは見掛ける資料以上に実は多彩な様だ。先日パテック社の公式インスタグラムはメキシコエリアにフォーカスしたクロワゾネのアンティーク置き時計を紹介していた。このように全貌と言うものは掴みようが無い気がする。恐らく大半のパテックの関係者ですらそれは難しいのではないか。勿論地図シリーズ以外にも動植物や風景などバリエーションは一杯ある。うろ覚えだけれども・・ジュネーブのミュージアムにも大量に展示されていた記憶は無い。いつかどこかで嫌になるほどお目にかかれる機会というのは、たぶん無いのだろうなァ。

Ref.5231G-001
ケース径:38.5mm ケース厚:10.23mm 
ラグ×美錠幅:20×16mm 防水:3気圧
ケースバリエーション:WGのみ
文字盤:18金文字盤、クロワゾネ七宝エナメル(中央にオセアニア・東南アジア)
ストラップ:マット(艶無し)ネイビーブルー手縫いアリゲーター
バックル:18金WGフォールドオーバークラスプ
価格:お問い合わせください

Caliber 240 HU

直径:27.5mm 厚み:3.88mm 部品点数:239個 石数:33個 
パワーリザーブ:最低48時間
テンプ:ジャイロマックス 髭ゼンマイ:Spiromax®(Silinvar®製)
振動数:21,600振動 
ローター:22金マイクロローター反時計廻り片方向巻上(裏蓋側より)

PATEK PHILIPPE INTERNATONAL MAGAZINE Vol.Ⅱ No.01
Wristwatches Martin Huber & Alan Banbery
文責・撮影:乾






よくもまあ今年はカラーの切り口で、ここまで大胆に新製品を分類してきたものだ。本稿は今回が最終回で"青の時代"と予告していたけれど、パテック側からは特にブルーを強調した説明は無かった。でも個人的にはその青がもっとも今年の新作で際立った色目の括りでは無いかと思っている。この自己流区分けでは、ワールドタイムの前回紹介したご婦人は緑に、今回登場の男性お二人は青のメンバーになってもらった。そして4月6日に後出しの様に発表された10分の1秒クロノグラフも見事な"青の時代"の人だろう。

青という色は現代時計に於いて定番色である。パテックも非常に多くのモデルで採用している。ところで2000年前後以降はデイトナを筆頭にクロノグラフ人気が続いた。5年程前からはノーチラス&ロイヤルオークに代表されるラグジュアリースポーツの人気が現在進行形で過熱している。これら全部ひっくるめてスポーティーな時計達なので比率は知らぬが各ブランド共にブラックが一番多用されていると思う。しかしパテックにはシリーズを問わず黒が少なく、青がとても多い様に思う。思う・・ではあかんなァ・・最新カタログ2021-2022のウォッチをアナログ的に"正"の字を数えるハメに・・

予想通り青>黒(グレー系含む)だったが、思った以上にり黒が健闘していた。緑の10本は微妙な感じ、これ以上増やすのはどうかなあ。その他が半分以下も少し意外だった。結果的にパテックに於けるブルーが大勢力である事は間違いない。恐らくこの点は他ブランドと一線を画していると思うが、どなたかお時間があればロレックスやAPあたりを分析いただければ嬉しい。
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さて、本題の新作紹介は東南アジア・オセアニアという身近なエリアがくっきりと有線七宝で描かれたワールドタイム5231G(上画像左)からスタート。今春生産中止となったRGの素材コスメティックチェンジでWGになった事で、外装とシティーリングの色馴染みが良くなった。マットなアリゲーターストラップとクロワゾネ部分の大半を占める海洋のブルーも同色。結果、非常にスッキリと落ち着いた趣を得て、レアハンドの七宝部分が強調されている。日本がセンターの針軸に邪魔されずに主役位置の12時下に配されているのも立派なサムライ(ブルー)ウオッチの資格を満たしている。おじいさん(ひとごとでは無い)の天眼鏡の様なリンゴ針もワールドタイムのDNAを放っている。書き進める内に立場的には不可能ながら、この時計は欲しくなった。せめて指をくわえて撮影がしたい。どなたか運の良い方のご購入を祈るのみだ。
クロワゾネダイアルのワールドタイムはご購入ハードルが非常に高く、そのプロセスは少々ややこしいので店頭で応談してのご説明が必要だろう。これに対して通常品という表現が適切かどうかは解らないがワールドタイムは18金のRG・WG両素材ともに今春生産中止となった。この空席を埋める素材コスメティックチェンジが5230P(上画像右)プラチナ製ワールドタイムである。文字盤全体を好ましい青一色でまとめ昼夜表示リングの昼間12時間部分のみシルバー系でアクセントとした表現は、現行のレディスモデルRef.7130Gと同じであり、視認性ではディスコンになったダイアル2トーンタイプに劣るがスッキリ度は高い。現代ワールドタイムでは過去にも色んなモデルでスッキリ同色系ダイアルが採用されていた。ただ意外にもプラチナケースでこの単色的な文字盤の色使いは初出ではないか。個人的には青いストラップとのまとまりの良さで大変好ましい仕上がりだと思う。ただ昨今パテックが好んで採用するヌバック仕上げのカーフストラップに乱暴な表現ながらタコ糸でお母さんが縫いましたか?という極太白ハンドステッチ。この仕様はとてもカジュアルでエイジも下がるので個人的に着けるなら艶有りのネイビーアリゲーターに変更したい。尚、ダイアルセンター部のギョーシェ装飾は柔らかくマイルドなパターンで、2000年発表の先々代ワールドタイムRef.5110のプラチナバージョンのサーキュラーパターンがベースと思われる。またこの新作もブラック・グラデーション加工がなされ、シティリング最外周部に向かって視認性は増してゆく仕様だ。今年の新作がどれも個性が強く、いわゆる普通のパテックが無い印象の中で、本作は一番安心感がある一本では無いだろうか。クロワゾネ5231の入手はとても無理なのでコッチを検討したくなるが、今はどのモデルであっても当分の間、売って貰えない感じがする。齢も年だし、躰も体だし、時計道楽も終活間近か。

Ref.5231G-001
ケース径:38.5mm ケース厚:10.23mm 
ラグ×美錠幅:20×16mm 防水:3気圧
ケースバリエーション:WGのみ
文字盤:18金文字盤、クロワゾネエナメル(中央にオセアニア、東南アジア)、4つのゴールド・パイヨン・インデックス(12,3,6,9時)
ストラップ:マット(艶無し)ネイビーブルー手縫いアリゲーター
バックル:18金WGフォールドオーバークラスプ
価格:お問い合わせください

Ref.5230P-001
ケース径:38.5mm ケース厚:10.23mm 
ラグ×美錠幅:20×16mm 防水:3気圧
ケースバリエーション:PTのみ
文字盤:18金文字盤、ブルー、手仕上げギヨシェ装飾によるサーキュラー・パターン
ストラップ:ネイビーブルー手縫いカーフスキン
バックル:PTフォールドオーバークラスプ
価格:お問い合わせください

Caliber 240 HU:自動巻ワールドタイム (5231G,5230P共通)
直径:27.5mm 厚み:3.88mm 部品点数:239個 石数:33個 
パワーリザーブ:最低48時間
テンプ:ジャイロマックス 髭ゼンマイ:Spiromax®(Silinvar®製)
振動数:21,600振動 
ローター:22金マイクロローター反時計廻り片方向巻上(裏蓋側より)

お次はダイヤを纏ったジュエリーウォッチのメンズとレディス。メンズRef.5374/300P(下画像左)は既存の永久カレンダー・ミニット・リピーターによくもまあ此処まで贅沢にジェムセッティングしますか、という逸品だ。これをコスメティックチェンジと言って良いのかは微妙な気がする。歴代既存モデルはエナメル文字盤だが、本作はラッカーのブルーにこれまたブラック・グラデーション。サンプルが無い為にモニター確認となるが、青と言うよりは紺色っぽく見える。グラデーションも確かに美しいけれど、こう多いと「グラデーションにあらずんば文字盤にあらず!」チト食傷気味になってしまう。超絶系のダブルコンプリケーションなので機械は説明しだすとキリがない。外観は見た目通りだ。文字盤最外周部の土手(フランジ)にもバゲットカット・ダイヤモンドが隙間なくセットされブルーサファイアのバゲットカット・インデックスが存在感タップリに配されている。リーフ形状の分針が、厚みのあるインデックスの上を通っているけれども既存モデルとたったの0.08mmしかケースが厚くない。さすがにパテックなのか。構造的に普通なのか。良く解らない。音響的には堅い音質になると言われているプラチナ製ケースに覆いつくすようなジェム・セッティング。でもレアなカセドラル・ゴングを搭載しているので、機会が有れば是非ともその深く余韻の有る音色を視聴してみたい。でも販売出来そうな気配すら感じる事が難しいトンデモ雲上コンプリケーションである。

Ref.5374/300P-001
ケース径:42mm ケース厚:12.28mm 
ラグ×美錠幅:22×16mm 防水:非防水(湿気・埃にのみ対処)
ジェム・セッティング:合計228個のバゲットカット・ダイヤモンド(11.62ct)13個のバゲットカット・サファイヤ(0.72ct)
ケースバリエーション:PT
※サファイヤクリスタル・バックと通常のケースバックが共に付属
文字盤:18金文字盤、カラーはブラック・グラデーションのラック・ブルー、サファイヤ・インデックス
ストラップ:ブリリアント・ダスクブルー手縫いアリゲーター
バックル:ダイヤモンド付PTフォールドオーバークラスプ
価格:お問い合わせください

Caliber R 27 Q::永久カレンダー・ミニット・リピーター
直径:28mm 厚み:6.9mm 部品点数:467個 石数:39個 
パワーリザーブ:最小38時間 最大48時間
テンプ:ジャイロマックス 髭ゼンマイ:Spiromax®(Silinvar®製)
振動数:21,600振動 
ローター:22金マイクロローター反時計廻り片方向巻上(裏蓋側より)
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お次のレディスモデルもコスメティックチェンジながら、見た事なさそうなムーンフェイズ搭載コンプリケーションのRef.7121/200G。同一品番としては2013年初出で今春生産中止発表の7121J(下中)、近似モデルでは2012年初出でやはり今春生産中止されたダイヤモンド・リボン4968R(下右)がある。これらの時計のルーツは今や知る人も少ないと思われるがムーンフェイズを4時位置に、スモールセコンドを8時位置に配されたアシンメトリー顔のRef.4858(1例、下左)等である。確か2000年代前半頃に購入し、今も手元に有って見直したがあらためて顔もサイズも素晴らしい。
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※上画像の4858Gは適当な画像が無くて撮影したが、非常につらい絵なので荒探しお断り!
当時は手巻きムーブメント搭載のレディスモデルが沢山あったが、今や絶滅危惧種となり今作7121/200Gは天然記念物ものの手巻きモデルだ。この手のノンカレンダーで非日常的なジュエリー盛りだくさんの時計は、自動巻でもクォーツでもなく手巻きが一番だと思っている。滅多に着けないだろうし、出番があっても数時間のパーティー等が想定されるので、使い勝手で自動巻との差が無い。手巻のシンプルな機構はトラブルも少ないし、薄くドレッシーな仕上がりになるし、何より購入や維持の費用的にも優る。クォーツも薄くて便利だが、いざ出陣!と言う時にバッテリー上がりを経験している方の何と多い事か。
パテックらしいなと思うのは、ベゼルに66個(約0.52ct)のダイヤを大人しく埋め込んでいた従来の7121Jとケース厚8.35mmが全く同寸な事だ。約2倍の132個(約1.09ct)のダイヤに《ダンテール》と呼ばれるレース状の華やかなセッティングを施しているにも関わらずだ。
文字盤はシンプルなブルー・ソレイユでブラック・グラデーションは無し。ホッと。ストラップも捻りは無く、明るめのブルーの艶有りアリゲーター。勿論ハンドステッチも同色。「安心できるパテックらしいココイチ用ドレスウオッチの完成です!(ん、何処かで聞いたような・・)」。若々しさ溢れる色目だけれど、思いきってシニアのご婦人にもぜひ挑戦して欲しい一本だ。

Ref.7121/200G-001
ケース径:33.mm ケース厚:8.35mm ラグ×美錠幅:16×14mm
防水:3気圧 132個のダイヤ付ベゼル(約1.09ct.)
ケースバリエーション:WGのみ 
文字盤:ブルー・ソレイユ 18金植字ブレゲ数字インデックス
ストラップ:ハンドステッチのブリリアント(艶有)ブルー・アリゲーター
バックル:18KWGピンバックル
価格:お問合せ下さい

Caliber:215 PS LU
直径:21.9mm 厚み:3.00mm 部品点数:157個 石数:18個 
パワーリザーブ:最小39時間-最大44時間 手巻き
テンプ:ジャイロマックス 髭ゼンマイ:Spiromax®(Silinvar®製)
振動数:28,800振動

WATCHES AND WONDERS GENEVA終了翌日の4月6日に、1点だけ発表されたスポーティーで見た事有りそうな普通の顔。しかし中身はとんでもないクロノグラフがRef.5470Pだ。ベースキャリバーは前回紹介した永久カレンダー・クロノグラフ5270Pと同じ手巻クロノグラフ・ムーブメントCH 29-535である。この名機を素のままナ~ンにも手を加えずに積んだシンプルクロノグラフRef.5170(生産終了)のオーナーとしては秘かに「どうだ!してやったり!」気分なのだ。品番2桁目だけアップしてるのも車格違いを同じ手法で表わす輸入車のようでこそばゆいナァ。しかし、この4番目の弟はとてもかなわないパフォーマンスを持っている。パテック フィリップ初の10振動ムーブメントが採用されて10分の1秒精度でのクロノグラフ計測が可能となったのだ。通常のセンタークロノ秒針(60秒で一周)に加えてセンター同軸で真っ赤な1/10秒針(12秒で一周)がセカセカと廻る。長男格の5170等は現代機械式時計の標準的振動数8振動である。長距離走でこっちがトラックを8回しか周っていない間に一番若い弟5470は10周も走っているわけだ。歩数にして28,800歩と36,000歩の差であり、もうこれは高校総体クラスとオリンピックぐらいの違いがあるという事になる。でもその調子で1日走ると691,200歩と864,000歩となり、その差は172,800歩。1年間ずっと運針すれば、その差は62,899,200となる。機械式時計の心臓である脱進機構(アンクル+ガンギ車)は常に摩擦との戦いに明け暮れている。1秒ではたった1往復2ビート差でも年数を重ねれば大変な負荷となる。プロ野球の先発が100球を目途に降板するのを無制限に投げさせるようなものなのだ。でも毎シーズンオフにトミージョーンズ手術を受けられないように、時計の分解掃除も毎年は現実的じゃないし、そもそもシーズンオフなど無い。
一般的にハイビート(高振動)と言われる機械式時計は、これまでにも沢山発表されてきた。10振動を超えるモデルもいくつかは有ったように思う。しかし、今現在市販可能な量産モデルを実現しているのはゼニスとセイコーしか知らない。前者のあまりにも著名なエンジンであるエルプリメロは1999年迄ロレックスのデイトナに搭載されていた。しかもロレックス社はわざわざ8振動にロービートチューンし、精度よりも耐久性を優先する同社のモノ創りに拘っていた。セイコーは現在グランドセイコーの機械式の大多数のモデルでハイビートを採用しているが、ノーマルの8振動機に較べて定期オーバーホール間隔は、我々の経験で確実に短い様に思う。
さて、パテックの挑戦的ハイビートマシンの耐久性はどうなのか。この答えは最低3年から5年を待たねばわからない。ただ今回の5470は多数の新規特許申請を含む新しいテクノロジーを満載しながらも、パテック独自の《アドバンストリサーチ(前衛的技術を市場で試験してチョーダイ!)》ではなく通常の新製品として発表されている。この同社技術陣の自信は、2011年に《アドバンストリサーチ》モデル年次カレンダーRef.5550P(限定300個)で検証済みの調速機構Oscillomax®(テンプ+脱進機+髭ゼンマイ全てをシリコン製材料でパッケージ)を搭載して、核心エリアの摩擦諸問題解決の目途をつけた事が大きそうだ。
ただ
通常の新製品とは言っても年産数はごく僅かだろう。もちろん価格も時価であり、その予価は片手を超えている。当然500万はあり得ないし、かといって5億は高すぎますので・・。でもこの価格は少々高い様に感じている。キャリバーの部品点数を見てみよう。シンプルクロノグラフ5170が270個、永久カレンダー・クロノグラフ5270はなんと驚きの456個、スプリットセコンド・クロノグラフ5370が意外と少な目312個、そして1/10秒シングルプッシュボタン・クロノグラフ5470が396個。この比較はあまり意味が無さそうだ。恐らく二度組をするグランド・コンプリケーションの中にも生産の難易度と年産数で大きな違いが有り、価格設定も様々なのだと無理やり納得しておこう。でも高い。個人的にはどんなに高くても4000万円ぐらいかと思っていた。甘かった。
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この顔は好みだ。自分で着用するにはいささか若々しすぎて恥ずかしいが、嫌みの全くないストレートなスポーティーウオッチだ。当然だろうがエナメルでもグラデーションでも無い単一色の濃いブルーのニス塗装に、パテックが定番に好んで多用する盛り上がって見えるけれどもダイアルを彫り込んでいるミニットインデックス(ゴールド・パール仕様)。同じくブレゲ数字アプライド仕様の18KWGアワーインデックス。スーパールミノバ塗布のリーフ時分針。スモールセコンド、クロノグラフ30分計と文字盤最外周部の1/10秒の各インデックスはレール(シュマン・ド・フェール)で白くシリコン転写されている。それら全てがオーソドックスでクラシックの極みだが全く古臭くなく何故かフレッシュ。そして白いレール上の時字12ヶ所の赤、超軽量のシリコン製1/10秒クロノグラフ針の赤、6時上の"1/10 SECOND"の赤。これらアクセント・レッドの控えめであるが故の効きの素晴らしさ。ストラップはパテック的最新トレンドのファブリック柄のエンボス加工カーフ。ダイアルと統一の濃い青に手縫いの赤いステッチが、単純だけれどこれまた好もしい組み合わせ。
ケースは一つ上の兄貴?であるスプリットセコンド・クロノグラフ5370Pと同じ形状だ。どちらかと言えばクラシックなスタイルだが、時計全体ではその気配はあまり感じられず10代後半の若者でも似合いそうなモデルだ。そう、そこなんです。この時計の唯一の弱点は見た目と価格のギャップが凄すぎるという事なのだ。
ところでPP公式HPに今年11月7日ジュネーブで開催予定のチャリティーオークション用ユニークピースとして永久カレンダー・クロノグラフRef.5270の初チタンバージョンが掲載発表されていた。文字盤カラーはエメラルドグリーンのソレイユでブラック・グラデーションは無し。これもまたとてつもないハンマープライスになるのだろう。
この伝で行くと今回の5470こそユニークピース向けの外観であり、チタンは勿論だがステンレスが最適素材ではないだろうか。色目は黒か黒に限りなく近いグレー。差し色は赤でもオレンジでもイエローでも・・グリーンだけは止めときましょう。
本題に戻してまとめ。このお気に入りクロノグラフだが、購入を許可されても価格的に買えないし、仮に宝くじが当たっても恐らく買いきれない代物だろう。実際に購入可能と思われる顧客様も価格で躊躇された。グランドマスター・チャイムRef.6300を本気で希望する方もである。現物を見た事が無いと断った上で、かなりの時計上級者でとてつもないパテックコレクターか、総資産額よくわかりませんという超絶セレブの出る物は取り敢えず全部買い。そのあたりしか想像できないが、既に日本でも結構な注文が入っているというから驚く。
取り敢えずカタログモデルなので来春スイス・ジュネーブ、もしくは同年6月東京でのグランド・エキジビションでガラス越しなら見られそうな気はする。出来れば1/10秒針の高速運針と併せて現物を是非一度見てみたいものだ。

Ref.5470P-001: 1/10秒シングルプッシュボタン・クロノグラフ
ケース径:41mm ケース厚:13.68mm ラグ×美錠幅:22×16mm
※サファイヤクリスタル・バックと通常のケースバックが共に付属
防水:3気圧
ケースバリエーション:PT
文字盤:ブルーのニス塗装、ゴールド植字ブレゲ数字インデックス
ストラップ:エンボス加工ファブリック柄のネイビーブルー手縫いカーフスキン 
バックル:PTフォールドオーバークラスプ(Fold-over-clasp)
価格:お問合せください

Caliber CH 29-535 PS 1/10:センター 1/10 秒計測モジュール搭載手巻クロノグラフ・ムーブメント
瞬時運針式30分計、コラムホイール搭載
直径:29.6mm 厚み:6.96mm 部品点数:396個 石数:38個 
パワーリザーブ:最小48時間(クロノグラフ非作動時)
テンプ:ジャイロマックス
振動数:36,000振動

しつこいが後書きを少し。文章を書き起こすのはいつも結構しんどいが、その時計を理解し自分なりの評価をするには一番だと思っている。でも今年の新作は発表時のモニターでの印象と四苦八苦して書き終えた現在の評価はあまり変わっていない。残念な事ながら自分好みの時計は無かった。まあ販売対象顧客層をかなり若く置いている様なのでこれは仕方ない。直感的に40~45歳以下と想像している。ちなみに自宅のタニタの体重計は、我が体内年齢を48歳と嬉しい表示をしてくれるがそれでも追い着かない。また特徴的で大胆な緑色もあくまで個人的には厳しい。しかし従来の長い目で次世代をも睨んでの時計選びだけでは無く、超高額ブランドであっても"旬"を纏うという今シーズン時計の提案もあるのだと思い知らされた。ただパテックの現状では将来の入荷を待っている間に旬が"瞬!"になって仕舞わないかが少々心配ではある。
今年も昨年同様、既にニューモデルの入荷は徐々に始まっている。いつものように撮影が出来れば、その都度実機紹介編を起稿してゆきたい。

文責:乾
画像:パテック フィリップ

※来る6月1日より本年2回目の価格改定が実施されます。急激な円安基調を受けて約10%の値上げとなります。悪しからずご理解・ご了承下さい。

このところ雨が多い。そしてその度に近隣の山々の新緑は濃さを増す。奈良はゆったりとした大きな盆地で低い標高の里山に囲まれているので、目に優しい緑が豊富だ。透過光による明るく若々しい黄緑から、水が滴り落ちるような分厚く光沢感のある艶っぽい深緑色まで、そのバリエーションは本当に豊かだ。そして呼応するようかの様に今年のパテックも昨年に引き続き緑軍団の大行進が続く。
パテックのグリーンカラー採用は、記憶の限りでは18年前の2004年のアクアノート・ルーチェのデビューに遡る。それまでには無かったストラップとダイアルカラーをマッチさせたカラフルな6色のレディス向けダイヤベゼルのステンレスウオッチの一色が少し暗めなオリーブっぽいグリーンカラー(アドベンチャラス・カーキ)だった。
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ベーシックカラーの白、黒、紺はともかく、緑を含めレンガ色と青色は衝撃的でコンサバな自分自身の抵抗感は大きかった。時は移って2019年にメンズ・アクアノートの3針モデルRef.5168にカーキグリーンが新色として追加された。コロナ禍時代に突入し1年経った昨年2021年には、様々な緑色モデル5型が投入されてグリーン王国化が鮮明になった様に思う。そして今年の3月末に追加されたのがメンズとレディスの各2モデル計4モデルだ。以下それらの印象を紹介してゆきたい。

正直なところ、このモデルへのお問い合わせが予想以上に多くて戸惑った。同日発表の12モデルの中でも超高額な2000万円を軽く超えているグランド・コンプリケーションの永久カレンダー・手巻クロノグラフRef.5270P-014。パテックお得意にして代表モデルであるこのダブルコンプリケーションのルーツは1940年代頭まで遡れる。ただエンジンを切り口に辿るとエボーシュ(ヌーベル・レマニア)の供給と決別し、2009年にRef.7071に搭載発表した初の自社開発設計の完全マニュファクチュールの手巻クロノグラフ・ムーブメントCal.CH 29-535系がルーツとなる。そして永久カレンダー機能を付加して初代Ref.5270が2011年に発表された。今年のコスメティックチェンジモデルは2018年に素材追加されたプラチナ製モデルのダイアルとストラップ変更だが、現物はフルモデルチェンジ?ぐらい見た目の印象が異なった。
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比較画像はインデックス形状がほぼ同じである現行のイエローゴールドモデル。最も判り易い新作の特徴はダイアルとストラップのカラーが統一されて見える事だ。実は現物を目の前にしても騙されてしまったが、ストラップは緑では無く黒で、太目の手縫いステッチだけが鮮やかなグリーンである。でも説明が無ければずっと緑色のストラップと思い続けていただろう。げに錯覚とは恐ろしい。実際に緑色に染めれば紫外線での退色などもあるので黒との組み合わせがずっと現実的だ。グリーントレンドは数年経つが、個人的に慣れた感じは無く今作もインパクトは強烈だ。そして文字盤のスポーティーさが新鮮だ。ポイントは3つあって、伝統的に採用されてきたタキメーターやパルスメーター表示を止めてレール状のシェマン・ド・フェールと呼ばれる分インデックスとシンプルな秒インデックスの2重サークルがダイアル最外周部にスッキリ表示された事。これによって3時から9時までのアワーインデックスが現行の極小タイプ(3・9時)やピラミダルな正方形(4・6・7・8時)から視認性が格段に向上した長短交じりのバーインデックスになった。二点目は3・6・9時のサブダイアルに採用されているアラビア数字の書体が少しクラシカルな筆記体からシャープで若々しいゴシック体に変更された点だ。最後は時分針の形状が落ち着いた細めのリーフ(葉)から、しっかりファセットを効かせたエッジィな太目のドフィーヌへと変更されてスポーティーな印象を高めている。繰り返しになるが同じ時計でありながら若々しくとてもスポーティーなニューフェイスと言って良いだろう。価格設定の有るシリーズ生産モデルながらプラチナ素材でもあり年産数はかなり少なそうだ。超高額だがご希望にお答えするのは相当時間が掛かりそうだ。

Ref.5270P-014:永久カレンダー搭載クロノグラフ
ケース径:41mm ケース厚:12.4mm ラグ×美錠幅:21×16mm
※サファイヤクリスタル・バックと通常のケースバックが共に付属
防水:3気圧
ケースバリエーション:PTYGRG
文字盤:ブラック・グラデーションのラック・グリーン、ゴールド植字バーインデックス
ストラップ:手縫いラージスクエア(竹斑)、ブリリアント(艶有)・ブラック・アリゲーター 
バックル:フォールデイング(Fold-over-clasp)
価格:お問合せください

Caliber CH 29-535 PS Q:永久カレンダー搭載、手巻クロノグラフムーブメント
瞬時運針式30分計、昼夜表示、コラムホイール搭載
直径:32mm 厚み:7mm 部品点数:456個 石数:33個 
パワーリザーブ:最低65時間(クロノグラフ非作動時)クロノグラフ作動中は58時間
テンプ:ジャイロマックス 髭ゼンマイ:ブレゲ巻上ヒゲ
振動数:28,800振動


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「WEBの画像ではサッパリ良し悪しが判らないので、現物を見たら印象を聞きたい」ご興味を持たれた方から出張前に要望が多かったのがダイアル&ストラップのコスメティックチェンジモデルの年次カレンダーRef.5205R。で、現物はどうか。えっ!ダークグレーですか。というのが第一印象。それくらいこの緑は深い色目。前述の永久クロノ5270もそうだが最近のパテックが多用しているブラック・グラデーションが、この時計には強烈に効いている。物凄く変な言い回しだが、モニター画像とは違う印象なのだけれどモニターで見た通りで間違いない。現物を見てからはそうとしか思えないような気がする。今までのパテックには全く無かった深い深いオリーブグリーン。好き嫌いはありそうで、お若い方には少々渋すぎるかもしれない。枯れ始めた自分には良さげだが、後述の理由で無理っぽい。尚ストラップもパティナ加工なる古色?仕上げにエイジングっぽいステッチが手縫いされており、この時計はかなり上級なコーデを要求されそうだ。チョイ悪のシニアおやじがお洒落な無精ひげを生やして、ダメージ加工のデニムにヨレが多少きた最高級の海島綿製オフホワイトシャツをパンツアウトでさりげなく着る。仕上げはペルソナ製グリーンのサングラスで決まり。間違ってもレイバンはやめた方が良さそうだ。車は縦目のヴィンテージ・メルセデスの出来ればホワイト系のコンバーチブルで・・

Ref.5205R-011:年次カレンダー
ケース径:40.0mm ケース厚:11.36mm ラグ×美錠幅:20×16mm 
防水:3気圧
ケースバリエーション:RGWG
文字盤:外周に向かって濃くなるブラック・グラデーションのオリーブグリーン・ソレイユ、ファセット仕上げ植字インデックス
ストラップ:手縫いラージスクエア(竹斑)、手作業でパティナ加工を施した2トーン・オリーブグリーン・アリゲーター 
バックル:ピンバックル
価格:お問合せください

Caliber 324 S QA LU 24H/206:自動巻年次カレンダー
直径:32.6mm 厚み:5.78mm 部品点数:356個 石数:34個 受け:10枚 
パワーリザーブ:最低35時間~最大45時間
テンプ:ジャイロマックス 髭ゼンマイ:Spiromax®(Silinvar®製)
振動数:28,800振動 
ローター:21金ローター反時計廻り片方向巻上(裏蓋側より)


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パテック的にはこのレディスモデルは、ワールドタイムの括りに分類されている。でも個人的には緑の仲間として今回の紹介としたい。2013年にそれまでのWGモデルへの素材追加として発表されたのがRef.7130R-001。上の画像とウリだがシティリングの都市名が確か2度ほど変更され、その都度枝番が新しくなって2019年の最終形の013番となり今春生産中止。RG素材はそのままにトレンドのグリーンを纏った後継機種が今回の発表モデルだ。青を基調にした既存継続のWG素材モデルRef.7130G-016と同様の色使いでダイアルとストラップがほぼ緑である。昼夜表示リング部のお昼間12時間の半円のみ差し色の白。しかし今作ではストラップにカーフが初採用され手縫いで太目の目立つ白いステッチングがなされている事と、グリーンのほぼ反対色っぽいRGケースでコントラストが効かされている事で、これ迄に見た事の無い全くの新製品の様に仕上がっている。物凄く個性の強さをこの時計に感じるのは、緑という色目のせいだろう。誤解無きように繰り返すが、緑は好きな色目である。でもコーディネートがとても難しいカラーだと思っている。我が親世代には国防色と言われ、世界中で陸軍御用達の定番ミリタリーカラーだ。ハンティング用サファリジャケットもゲームフィッシング用の防水加工オイルドジャケット(英国バーブァ社が代表)もみんな深いグリーンである。緑成す惑星のカモフラージュ用行動服がアースカラーの代表である緑色なのは至極当然だ。自然を想起する癒し系でもあるが、戦いや狩りという非日常的色合いでもあって、自身のワードローブにも登山用を除けばTシャツとネクタイぐらいしかグリーンは無い。時計はだいぶ前にイタリアのカジュアルウオッチ(I.T.A.)を持っていたが、誰かにあげてしまった。そもそも緑文字盤の高級時計の記憶はロレックス、ピアジェ等で半貴石マラカイト(孔雀石)を文字盤に使ったジュエリーウオッチぐらいしか知らず、一般的だという印象が無い。此処数年の緑の大行進はパテック社をはじめグリーンカラーの文字盤着色技術の飛躍によるらしい。いつの時代も目新しい物に人々は飛びつくが、アパレルと違って時計との付き合いは一生になる。次世代への継承も普通に有る。前回のピンクよりもずっと、そして次回紹介予定のブルーよりもはるかに個性際立つカラーとしてじっくり検討すべき色目だろう。

Ref.7130R-014
ケース径:36mm ケース厚:8.83mm
※62個のダイヤ付ベゼル(約0.85カラット) 
ラグ×美錠幅:18×14mm 防水:3気圧
ケースバリエーション:RGWG
文字盤:18金文字盤、オリーブグリーン(中央部に手仕上げギヨシェ装飾)、ゴールド植字インデックス
ストラップ:ブリリアント・オリーブグリーン手縫いカーフスキン
バックル:18金RGピンバックル ※27個のダイヤ付(約0.21カラット)
価格:お問い合わせください

Caliber 240 HU:自動巻ワールドタイム
直径:27.5mm 厚み:3.88mm 部品点数:239個 石数:33個 
パワーリザーブ:最低48時間
テンプ:ジャイロマックス 髭ゼンマイ:Spiromax®(Silinvar®製)
振動数:21,600振動 
ローター:22金マイクロローター反時計廻り片方向巻上(裏蓋側より)

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緑の4本目、気分はもうほとんど青虫だ。レディスコレクションのエントリーモデルと言うべきSS+クォーツの傑作定番トゥエンティフォー第2世代のダイアルカラー追加モデルとなる。1999年に全くのニューモデルとして現代女性が24時間を共に過ごすデイリーウォッチをコンセプトに発表されたレディス市場への切込み隊長的存在だった。今日、その役目は自動巻でカレンダーを備えた視認性抜群のより実用的な新しいトゥエンティフォーRef.7300がになっている。それでも旬の緑色を追加展開するのは、より求めやすい価格帯に加えてリューズ操作を嫌う女性が少なからずいるからだろうか。
実機サンプルの印象だが、この時計もかなり文字盤の色目はダークだ。個人的には上で紹介済の年次カレンダーRef.5205R-011とペア?と思ったほど深いグリーン。この時計こそモニター画像との色の乖離がかなりある様におもう。妹分?の7300に咋春文字盤追加されたオリーブグリーンと同色で、モニターの比較でも当然同じ色に見えるが、現物は全く違う(ように見える)。"同床異夢"ならぬ"同色異見"なんて熟語は無いが、文字盤の形状・面積・インデックス等々が引き起こすいたずらが時としてある。素材が若々しさを感じさせるステンレスなので芽吹きを思わせるもう少し明るめの緑に見えた方が、このマンシェットスタイルの時計には似つかわしい気もするが、どうだろう。もちろん落ち着いた品格を求めるマネージメント職にあるキャリアウーマン(今時死語ですか?)には相性抜群かもしれない。

Ref.4910/1200A-011
ケース径:25.1×30mm ケース厚:6.8mm
※36個のダイヤ付ベゼル(約0.42カラット)防水:3気圧
ケースバリエーション:SS(別途001010)、RG
文字盤:オリーブグリーン・ソレイユ、夜光付ゴールド植字インデックス
価格:お問い合わせください

E 15:クォーツ
直径:15×13mm 厚み:1.8mm 部品点数:57個 石数:6個 
電池寿命:約3年

PATEK PHILIPPE INTERNATONAL MAGAZINE Vol.Ⅳ No.4
文責:乾 画像:パテック フィリップ

追記:次回は、ピカソじゃないけど"青の時代"5作品で新作は最終回としたいナァ・・




「たぶん3月29日の夕方にはPP社公式HPで見られるはずです」随分たくさんの顧客にアドバイスした今年の新製品情報。最終開催となってしまった2019年のバーゼルワールドでは開催初日の前日夕方(スイスは午前の始業時間)にWEB公開されていたので、てっきり今年がPP社にとって初出展となるWatches & Wonders Geneveに於いても前日公開を予想した。しかしながら、しっかりと裏をかかれて素直に開催初日3月30日の公開だった。
本来であれば現地に赴き、興奮と混沌の時計の祭典の空気にどっぷり浸かって新作サンプルとご対面するのだが、ここ数年は大多数の関係者がWEBで見るしかない異常事態が続いている。ただ今年はやっとリアル開催と有って、一部の猛者は現地へ突撃を敢行している様だ。自分自身はというと、もう一人で好き勝手に海外をウロウロする事が色々難しいコンディションなので、それはもう相当の覚悟がいる。
ただありがたい事に、今年はスイスと会期を合わせる形でパテック フィリップ・ジャパン(PPJ)が東京神田のオフィスで新製品の提案をサンプル実機を用いて実施してくれる運びとなった事だ。まあ東京日帰りも「無茶したらあかんで!」とご心配を多々頂いた事には感謝しかない。で、先日行ってきました。一年半ぶり、満開の桜の中、冷たい雨降る東京に、寒さに震えながら・・

今年のニューモデルはまず3月30日に12型、後追いで4月6日に1型の合計13型が発表された。詳細のご紹介は実機が運良く入荷した際に、じっくり見て撮って掘り下げるとして、まずはファーストインプレッションが薄れぬ内に備忘録を兼ねて書き留めておきたい。

今年の新作はテーマ別にグループ化されている。最初の2モデルはクルー・ド・パリ装飾された外装とアンティークなカメラのボディ表面をモチーフにしたヴィンテージ・ルックな文字盤を特徴的な共通項とした兄弟モデルとして括れそうだ。まずは兄貴分格で今年一番の話題作の年次カレンダー・トラベルタイムRef.5326G-001からご紹介。
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バーゼルワールドではサンプルを撮影していたが、今の体ではとても無理なので画像はPP公式の物。年次カレンダーとトラベルタイムはそれぞれ今日のパテックを代表する人気の複雑機能だが、両者を組み合わせて統合したモデルは完全な初物となる。採用ムーブメントは昨年発表され注目を集めた腕時計初のインライン表示永久カレンダーRef.5236P用に設計・搭載されたユニークなエンジンをベースに様々な新規特許を組み込んで専用設計された興味津々な機械だ。またケース(側)もデザインアーカイブを採用しながらも完全におニューであり、中身と見た目の新規性では今年随一の時計だ。
HP画像を見た印象から、ラグ形状の圧倒的な存在感とブランドを問わず見た事の無い文字盤表面感の2点が実機確認ポイントだった。結果的にはラグを含めケース形状は非常にうまくまとめられている。ダイアルもルーペでは荒れた月面のようで迫力が凄いが、肉眼ではとても好もしく格好良い。
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ヌバック仕上げのカーフスキンストラップがデフォルトで装着されて出荷されるが、個人的には付属で同梱されるファブリック柄の黒いカーフストラップが我々日本人には馴染みそうに思う。尚、このギミック?とも思える手の込んだ耐久性の或る牛革だが見た目は布ベルトの初見は、2020年初夏に発表された新工場落成記念限定モデルRef.6007Aである。よく似た手口に昨年発表されたグランド・コンプリケーションに5204R-011がある。そちらはアリゲーターパターンのカーフストラップ。要するに型押し(パテック的にはエンボス加工)カーフである。これらは世界的な保護トレンドの流れで、爬虫類の商業利用はいけません。保護しましょうね。という事らしいのだが、クロコダイルもアリゲーターも(傷だらけの)野生個体の使用ではなく養殖物を使用しているはずだ。なぜ普及家畜の牛は良くて、爬虫類が駄目なのか、素直な疑問にどなたか応えて欲しい。
で、この時計の評価だが今年の金メダルとしたい。操作感は確かめようがなかったが機械的に一番惹かれるし、部分部分ではどうかと思える外装も全体で俯瞰すると非常にカッコよくまとまっている。決して安い価格では無いが、機械・外装・文字盤の作り込みを考慮すればバーゲンプライスではなかろうか。ただ年齢的に自分自信で着用は残念ながら無理だ。ターゲットエイジは50歳が上限ではなかろうか。あっ!勿論自称50歳って事で・・

Ref.5326G-001
ケース径:41mm ケース厚:11.07mm 防水:3気圧
ケースバリエーション:WGのみ
文字盤:ブラック・グラデーションのテクスチャード・ラック・アントラサイト文字盤、 夜光付ゴールド植字アラビアインデックス
ストラップ:ヌバック仕上げベージュの手縫いカーフスキン(出荷時)、ファブリック柄をエンボス加工したブラック・カーフスキン(同梱付属)
バックル:WGフォールディング(Fold-over-clasp)
価格:お問い合わせください

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Caliber 31‑260 PS QA LU FUS 24H
自動巻年次カレンダー・トラベルタイム
ストップ・セコンド機能付き
直径:33mm 厚み:5.6mm(基本キャリバー 2.6 mm、年次カレンダー・トラベルタイム・モジュール3 mm)
部品点数:409個 石数:47個
パワーリザーブ:最小38時間、最大48時間
ローター:PT製マイクロローター反時計廻り片方向巻上(裏蓋側より)
テンプ:ジャイロマックス 髭ゼンマイ:Spiromax®(Silinvar®製)
振動数:28,800振動

ここ数年カラトラバの見直しが進みコレクションがどんどんシュリンクしていく中で、昨年は全く新しいロングパワーリザーブの手巻キャリバーを開発・搭載した新作Ref.6119が発表された。今年もわずか1型1素材ながら選択技が増えた事は素直に喜ばしい。
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この時計は前述の新機軸コンプリケーション年次カレンダー・トラベルタイムRef.5326のデザインバリエーション的な要素が前面に出ていて、個人的にはカラトラバ感が非常に希薄だ。素材は同じWGで価格は約半分である。勿論パテックの購入検討者が価格差で3針モデルしか買えないはずは無いので、あくまでシンプル好みの方への提案なのだろう。でも個人的にカラトラバは保守的でいて欲しいという願望が強いので、どうもこの新しい5226がすんなりと受け入れられない。価格設定がインビジブルヒンジによるハンターケースのカラトラバRef.5227と同じなので、そちらに惹かれてしまう。これもやはり齢のせいによる老害だろうか。ケース径40mmは今や若干コンパクト、厚さ8.53mmは薄い時計である。しかし現物には引き締まり過ぎ感は無い。特に厚さは10mm以下とは思えない。たぶんクルー・ド・パリ装飾によるケースサイドの存在感がしっかりと有るからだろう。文字盤はヴィンテージ・テイストで、恐らくはメカニカル時代のカメラボディの外装からイメージされている。この顔については少し心配していた悪目立ちも無く、非常に好感が持てる。ただ、ここも兄貴分モデルの年次カレンダー・トラベルタイムRef.5326のダブルギッシェスタイルのカレンダー窓やらローカル&ホーム表示等が盛り込まれている方がメカニカル感があって、ダイアルとしてよりふさわしい気がする。こちらの3針モデルにも前述の黒いファブリック柄のカーフストラップが付属しており、安心の組合せかと思う。
ところでこのモデルに搭載されるエンジンは、フルローター自動巻のCal.26-330 S Cである。長らく主力ムーブメントであったCal.324系を大改良して2019年にウィークリー・カレンダーRef.5212のベースムーブメントとしてデビューした次世代エンジンである。デビュー直後に超人気モデルのノーチラス3針モデルRef.5711で既搭載のCal.324系からランニングチェンジで積み替えが進められた。パテックでこのような品番不変のエンジン換装というのは非常に稀ではないか。そして今年2月にRG素材ディスコンでRef.5711が全廃となった今現在、この新型エンジンを積むのはデビューモデルのRef.5212と昨年発表のアクアノート・ルーチェRGのRef.5268/200の2モデルで、今年のRef.5226を加えてたった3モデルしかない。どれも文字盤も素材もバリエーション無しである。どうでもいい事ながら本格生産開始から3年を経て、えらく少ない様に思う。前述のカラトラバRef.5227やアクアノートの代表3針モデルRef.5167やレディス・ノーチラス機械式Ref.7118等は、とっくに積み替えられていても良さそうなのに・・
紹介した2モデル以外の3月30日発表残り10モデルは全てがコスメティックチェンジと呼ばれる何かしらのバリエーションモデルである。この点で今年は少し新味に欠けるナァという印象はぬぐえない。チョッと残念だ。

Ref.5226G-001
ケース径:40mm ケース厚:8.53mm 防水:3気圧
ケースバリエーション:WGのみ
文字盤:ブラック・グラデーションのテクスチャード・ラック・アントラサイト文字盤、 夜光付ゴールド植字アラビアインデックス
ストラップ:ヌバック仕上げベージュのカーフスキン(出荷時)、ファブリック柄をエンボス加工したブラック・カーフスキン(同梱付属)
バックル:WGピンバックル
価格:お問い合わせください

Caliber 26-330 S C
自動巻3針カレンダー、ストップ・セコンド機能付きセンター秒針
直径:27mm 厚み:3.30mm 部品点数:212個 石数:30個
※ケーシング径:26.6mm
パワーリザーブ:最小35時間、最大45時間
テンプ:ジャイロマックス 髭ゼンマイ:Spiromax®(Silinvar®製)
振動数:28,800振動
ローター:21金ローター反時計廻り片方向巻上(裏蓋側より)

今年2月に生産中止となった人気永久カレンダーの文字盤変更バリエーションの後継モデル。次に紹介する手巻クロノグラフと併せて現代的なヴィンテージ・スタイルとして全く同色のダイアルを与えられた双子的モデルとして括れそうだ。
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画像でご覧の通りダイアルカラーが先代のクリーム色のラック(ラッカー塗装)から、ローズゴールドめっきのオパーリンへと変更された。実に単純なコスメティックチェンジなのだが時計の印象はかなり異なる。銀色ケースにピンク系文字盤の組合せは過去パテックでは多数採用されており、直近では本年生産が中止された永久カレンダー搭載クロノグラフRef.5270Pがあった。2018年の新作で個人的一押しモデルだったが、当店では僅かしか販売がかなわなかった。いつもの事だが生産中止になると問い合わせが増える。"だからあれほど言ったのに!"と毎度悔しい思いをする。今年の新しいピンクの色目にはモニターでの初見時に少し不安を抱いていた。出来たら5270と同じであってくれと願っていた。現物の色目は異なっていたが、不安を一掃してくれる素敵なピンクだった。色は言葉で表現が難しいが、ご心配なく大丈夫です。裏切りませんので・・

Ref.5320Gー010
ケース径:40mm ケース厚:11.13mm ラグ×美錠幅:20×16mm 
防水:3気圧
ケースバリエーション:WGのみ
文字盤: ローズゴールドめっきのオパーリン、夜光付アントラサイトのゴールド植字アラビアインデックス
ストラップ:手縫いブリリアント(艶有)・チョコレートブラウン・アリゲーター
バックル:WGフォールディング(Fold-over-clasp)
価格:お問い合わせください

Caliber 324 S Q
フルローター自動巻永久カレンダー
直径:32mm 厚み:4.97mm 部品点数:367個 石数:29個
パワーリザーブ:最小35時間、最大45時間
テンプ:ジャイロマックス 髭ゼンマイ:Spiromax®(Silinvar®製)
振動数:28,800振動
ローター:21金ローター反時計廻り片方向巻上(裏蓋側より)

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上の画像で見ると左のブルーカラー現行モデルの色違いにしか見えない。だが現物は別の時計に見えるのがダイアルバリエーション追加の手巻クロノグラフRef.5172だ。思うに現行モデルが濃色ダイアルに白色のタキメーターやインダイアルのレール表示に対して、新作はヴィンテージなローズピンクダイアルにマットブラックでの各表示。明暗が逆の組合せとなっている。現物を見比べるとこの違いが両者を別物に仕立てている事がわかる。ストラップも現行が文字盤同色でカジュアルな青いヌバック調のカーフだが、新作ではオーソドックスな茶系のアリゲーターとされたのも両者の趣を大きく隔てている。面白い事に4・8時位置に小さな円形のインデックスが追加配置されているのが、モニターでは判り易いが現物比較ではその違いに気付き難かった。ケース形状は前述の永久カレンダーと共通で、往年のデザインによる段付きラグとボックス型のサファイアクリスタルが特徴的だ。針形状は此処まで4モデル全てにレトロなシリンジ(注射器)型が採用されている。世界的なワクチン接種トレンドとは無関係だろう。個人的にピンクの新作クロノは現行の青よりも少しアッパーエイジの方にお勧めしたい。

Ref.5172G-010
ケース径:41mm ケース厚:11.45mm ラグ×美錠幅:20×16mm 
防水:3気圧
ケースバリエーション:WG(別文字盤有)のみ
文字盤:ローズゴールドめっきのオパーリン、夜光付アントラサイトのゴールド植字アラビアインデックス
ストラップ:手縫いブリリアント(艶有)・チョコレートブラウン・アリゲーター 
バックル:18金フォールディング(Fold-over-clasp)
価格:お問い合わせください

Caliber CH 29-535 PS:コラムホイール搭載手巻クロノグラフ・ムーブメント
直径:29.6mm 厚み:5.35mm 部品点数:270個 石数:33個 受け:11枚 
パワーリザーブ:最小65時間(クロノグラフ非作動時)クロノグラフ作動中は58時間
テンプ:ジャイロマックス 髭ゼンマイ:ブレゲ巻上ヒゲ
振動数:28,800振動

続いて緑の新作軍団を書き連ねようかと思ったが、このところ雑事にかまけて遅筆が酷いので次回へ刻むことにした。なるべく間を置かないようにしたい。

文責:乾
画像:パテック フィリップ

サスティナブルやSDGs等への取り組みは実行し続けなければあまり意味がない。現在多数の時計ブランドがこぞって標榜し始めているが、単なるトレンドを一時的に取り入れているに過ぎない感じがする。当店でも取り扱いがある某ブランドもその一つかもしれない。海洋に漂う魚網や何やらかんやらの自然に帰らぬゴミをユーザー参加清掃イベントも含めて集め、コスト(CO2出ませんか?)を掛け再生素材化して納品用のコレクションボックスを作っている。しかしこれが正直何ともショボい。ご納品時に複雑で少し悲しく、申し訳ない様な気分になるのは私だけだろうか。この調子でゆくと透明なプラスチック製のベゼルプロテクター等も、そのうち鶏卵パックの様なババ色なのかジジ色なのかの再生紙で作られる様になるのだろうか。でもかつては紙製だった保証書はプラスチックカードに変更されたままだ。もう"保証書"という呼び方もはなはだ怪しく、現物にはワランティーカード("保証札"で和訳はいいかナ)とある。何となくずっとギャランティーだと思っていたが、両者の意味には結構な乖離があって、馴染みの少ない英語ワランティーが正しそうだ。ちなみにパテックはA4サイズ大のしっかりした今や稀少な紙製である。さらに言えばGuarantyでもWarrantyでもなくCerticate of Origine(仏語併記)とある。意味的には証明書原本となりそうだ。確かに真正品である事をスイスのパテック社が証明しますという意味合い。そして付け足しの様に最下部に但し書きで正規販売店の店名がある場合は、販売日を基準に保証します。何とも古風なものである。因みに正規販売店名は世界標準的には店名をハンコ押印する。ただ日本の場合はPPJが店名をタイプアップで記載する店舗も多い。当店は前者、四国の百貨店テナント部門は後者である。今世紀に入る前迄は殆どのブランドが紙製であり、せっせと店判を押印したものだった。もしくはギャラ請求はがきにご記入頂き、ブランドから紙製ギャラをご自宅宛て郵送も多かった。これもあれも過去のものになりつつある。
イ、イカン、自分では齢を取ったつもりがさほどないが、懐古趣味というか、つい過ぎし日を振り返ってしまう今日この頃・・。いやいや、過ぎし日や在りし日の事は、近隣のメモリアルホールさんにでもお任せして、人は前を向いて歩んでいかなければ生きている価値も意味も無い。だから今年の新製品予測なのだった。今書かねばならないし、今しか書けない。ずっと先の様だが、Watches & Wonders Geneva 2022 の初日である3月30日の前日辺りにはパテック社が公式HPでの新製品発表をしそうなので、今しかない。もう一ヶ月チョッと、アッと言う間のタイミングが、"今"なのだ。

まず手始めに皆さんが最も興味のあるノーチラスから始めよう。何をおいても昨年定番がディスコンになり、緑やら水色やらで話題を振りまいた3針Ref.5711のSS後継モデルが今春リリースされるか否かだが、ステンレス素材でというのはかなり難しい様に思う。まだ可能性が有るのは18金、それもSSに置き換わる色目としてWGならどうだろうかと想像している。意表をついてYGもあるかもしれない。RGはつい先日公式HPから旅立って逝かれたばかりなのでまず無い。コロナ過で全世界的に売れ過ぎ感の強くなったパテックは、ノーチ&アクア市場の過熱を煽るSS素材新規投入をしばらく見合わせそうな気がするのだ。品番はRef.6711?とかが新たに与えられそうだが、ケースとダイアルの微妙なデザイン変更だけで済ませるのか。踏み込んでロングパワーリザーブ化された新規開発の自動巻ムーブメントが搭載されるのか。興味津々である。でも5711後継機種についてのこの様な見方は些か楽観的で、多分来年度以降、恐らく数年後、最長で2026年のノーチラス発売50周年まで引っ張られる可能性も状況次第では有るかもしれない。ただ、ひょっとしたらが来年6月に延期されたGrand Exhibition Tokyoに向けて日本市場限定モデルとしてメンズ5711/1Aサムライブルーダイアル、レディス7118/1200AナデシコピンクMOPダイアル、各100本なんていうドリームウオッチ、まさか出ないだろうナァ。
では、ノーチラスの期待出来そうな新製品は何か。まず、昨年同様しつこい様だが永久カレンダー5740のRG素材追加が個人的最右翼。同様ながら年次カレンダー5726にもRGブレスは追加されて不思議が無い。昨年クロノグラフ5990にRGブレスが追加され今春早々とSSブレス5990/1Aが公式カタログから消えた事実から想起される予想である。プチコン5712はどうか。現在はRGWGもレザーストラップ仕様があるので確率は低い。そもそもSSの5712/1Aがディスコンになってからの話だろうと思う。むしろレディスのSS素材でのプチコン、例えば7112/1200A?とかの方が有りそうだ。そろそろダイヤ装飾のバリエーションだけではつまらないと思いませんか。女性からの要望もありそうに思うが、どうだ。
アクアノートはどうなるか。昨年男女とも結構な新規や追加があった。特にレディスは後継モデルを含め多数のニューモデルが投入された。従って新製品は一旦、今年はお休みの気がする。尚、3針SSシンプルモデルの5167A1Aは来年辺りのディスコンになっても不思議が無いと思っている。
いづれにせよ、パテック社はノーチ&アクアの深追いにはリスクが伴うと判断しているようなので、来年度以降先の事は人気の加熱状況次第という所が大きそうで非常に流動的ではないか。
さてカラトラバである。昨年Ref.6119というクルー・ド・パリ装飾ベゼルのロングパワーリザーブ手巻新エンジン搭載の意欲作を発表。早くも超人気モデルになっている。これまた昨年の繰り言になるが、2019年初頭にディスコンとなったベストセラーRef.5296自動巻シンプルカレンダーが空き家のままなのだ。ここが2年間音沙汰なしというのが解せない。現代の実用的腕時計に於いて、いの一番、一丁目一番地に持って来るべき時計なのだ。ましてやノーチラス5711が鬼籍に入った今、メンズのフルローター自動巻カレンダー3針はカラトラバでは5227となるが、玄人好みのハンターケースであり一般的とは言えない。あとはアクアノート51675168、いづれも人気絶大ではあるが前者にSSブレスが用意されているもコンポジットというラバーストラップ仕様が殆どでラグスポイメージが前面に出ており、これまた個人的には一般的で万人受けする時計デザインでは無いと見ている。やはり欠けている。腕時計の王者パテックには必須の実用的アイテムが、今現在欠けているのだ。タイミング的には昨年と予測したが、手巻の6119をリリースしたので恐らく今年ではないか。ただ前述のノーチラスでも触れたが、仮にロングパワーリザーブ新キャリバーの開発と関連していれば来年以降に持ち越しも充分ありえる。
エリプスとゴンドーロ。エリプスは変更無し、仮にあってもレアハンド系のとんでもないモデルだろうか。ゴンドーロはこれまた昨年同様で、ともかくメンズ不在の解消。具体的には出番を失っているレクタングラ―のCal.25-2128-20に再登場頂きたい。
多岐に渡るコンプリケーションの予測は非常に難しい。何がどうなるのかサッパリわからない。昨年ディスコンになった年次カレンダーの元祖系フェイスRef.5146シリーズの後釜が今の顔に刷新され6146で出てくるぐらいしか思いつかない。でもなんか無さそうな気がする。ウィークリー・カレンダー5212Aの素材バリエーションで18金RGモデルがブラック系のダイアルで来たら相当に色っぽく格好良い感じになりそうだ。忘れてならないのはコンプリケーションのSS素材モデル。2019年初出で前述の5212Aが、そのトレンドの狼煙的モデルだった。そしてその流れを決定づけたのは昨年の年次カレンダー・フライバック・クロノグラフにSS素材追加された5905/1Aだ。これでもかのトレンドカラー緑色を文字盤に纏わせてのデビューはインパクト大だった。アクアノートのブレスレットと見まがうブレス形状に今後のSS素材の担い手はノーチ&アクアでは無く、コンプリケーションなのだと大見えを切って来たのだという気にさせられた。さて、何が来るのか。シンプルな年次カレンダーという選択もあろうが普通に考えれば、パイロット・トラベルタイムかワールドタイムではないか。ただ前者だとして5524Aや5524/1Aというのはデザイン的にSS素材との親和性が良すぎるし、同色系の既存WGモデル5524Gが立ち位置を怪しくしてソワソワしそうであまりピンと来ない。やはり有りそうなのはワールドタイム、しかも現代ワールドタイム第4世代としてRef.5330A、同じく/1A等のリファレンスで18金に先駆けて颯爽と登場なんていうシナリオが有ったら面白い。勿論ケース・文字盤・針等のデザイン全てが刷新されるべきだろう。願わくば年若い顧客層にフォーカスしたアバンギャルドな味付けであって欲しい。
グランド・コンプリケーションは従来機種のリプレースメント以外は予測不可能であって、完全に当てずっぽうの個人的に出して欲しい願望レベルでしか語れない。ずばり指針表示タイプ永久カレンダーの小径サイズの復活。かつてのRef.5140よ、もう一度である。まず個人的に欲しかったというのが先に有る。現行の5327は我々アジア人には若干大きい。特にクラシカルな顔を好む方向けのモデルだけに余計その思いがある。でも中国市場では大振りが好まれるそうだし、北米と中国の2大マーケットを睨めばチョッとリバイバル的モデルは無理っぽいのか。レディスは昨年レアハンドっぽい装飾でリリースされたRef.7000の後継とも言うべきミニット・リピーターRef.7040/250のシンプルバージョン7040Rとかは出て欲しい。旧来の7000Rの音の量・質の良さがもう一度ミニマライズな佇まいでラインナップされないかと願う。そしてまだまだ需要が追い付てこないかもしれないが、自社キャリバー搭載スプリットセコンド・クロノグラフの名機Ref.5959をレディス向けにリバイバル出来ないだろうか。品番はRef.7979とかになるのだろうか。

いやはや全く売る当ても無いモデルを含めて好き勝手、言いたい放題だ。春が近い。若草山に行ってフィッテンチッドを浴び過ぎたわけでも無いのにセロトニンやらアドレナリンなんぞが悪さをしでかしてくれたのだろうか。節分はとうに終わり、ひな祭りがすぐそこだ。梅は満開で桃の蕾が、今や遅しと待ち構えているのだ。もちろんジュネーブにも春はすぐやって来る。待ち遠しさを募らせながら、アアでも無い、キットこうだと千々に思いを巡らせる最高に楽しい日々が今年もやって来ている。だが年によっては出回る事がある噂レベルの新製品怪情報も、今年は全く聞こえてこない。ノーチラスの耳の様なPPJスタッフの口はもとより抉じ開けようがない。そんなことで毎年思い描く願望的ニューモデルは2割もビンゴしない。まあそのレベルの読み飛ばす戯言として本稿はお読み頂ければ幸いである。さて、皆さんの予測は?

文責:乾

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