サスティナブルやSDGs等への取り組みは実行し続けなければあまり意味がない。現在多数の時計ブランドがこぞって標榜し始めているが、単なるトレンドを一時的に取り入れているに過ぎない感じがする。当店でも取り扱いがある某ブランドもその一つかもしれない。海洋に漂う魚網や何やらかんやらの自然に帰らぬゴミをユーザー参加清掃イベントも含めて集め、コスト(CO2出ませんか?)を掛け再生素材化して納品用のコレクションボックスを作っている。しかしこれが正直何ともショボい。ご納品時に複雑で少し悲しく、申し訳ない様な気分になるのは私だけだろうか。この調子でゆくと透明なプラスチック製のベゼルプロテクター等も、そのうち鶏卵パックの様なババ色なのかジジ色なのかの再生紙で作られる様になるのだろうか。でもかつては紙製だった保証書はプラスチックカードに変更されたままだ。もう"保証書"という呼び方もはなはだ怪しく、現物にはワランティーカード("保証札"で和訳はいいかナ)とある。何となくずっとギャランティーだと思っていたが、両者の意味には結構な乖離があって、馴染みの少ない英語ワランティーが正しそうだ。ちなみにパテックはA4サイズ大のしっかりした今や稀少な紙製である。さらに言えばGuarantyでもWarrantyでもなくCerticate of Origine(仏語併記)とある。意味的には証明書原本となりそうだ。確かに真正品である事をスイスのパテック社が証明しますという意味合い。そして付け足しの様に最下部に但し書きで正規販売店の店名がある場合は、販売日を基準に保証します。何とも古風なものである。因みに正規販売店名は世界標準的には店名をハンコ押印する。ただ日本の場合はPPJが店名をタイプアップで記載する店舗も多い。当店は前者、四国の百貨店テナント部門は後者である。今世紀に入る前迄は殆どのブランドが紙製であり、せっせと店判を押印したものだった。もしくはギャラ請求はがきにご記入頂き、ブランドから紙製ギャラをご自宅宛て郵送も多かった。これもあれも過去のものになりつつある。
イ、イカン、自分では齢を取ったつもりがさほどないが、懐古趣味というか、つい過ぎし日を振り返ってしまう今日この頃・・。いやいや、過ぎし日や在りし日の事は、近隣のメモリアルホールさんにでもお任せして、人は前を向いて歩んでいかなければ生きている価値も意味も無い。だから今年の新製品予測なのだった。今書かねばならないし、今しか書けない。ずっと先の様だが、Watches & Wonders Geneva 2022 の初日である3月30日の前日辺りにはパテック社が公式HPでの新製品発表をしそうなので、今しかない。もう一ヶ月チョッと、アッと言う間のタイミングが、"今"なのだ。
まず手始めに皆さんが最も興味のあるノーチラスから始めよう。何をおいても昨年定番がディスコンになり、緑やら水色やらで話題を振りまいた3針Ref.5711のSS後継モデルが今春リリースされるか否かだが、ステンレス素材でというのはかなり難しい様に思う。まだ可能性が有るのは18金、それもSSに置き換わる色目としてWGならどうだろうかと想像している。意表をついてYGもあるかもしれない。RGはつい先日公式HPから旅立って逝かれたばかりなのでまず無い。コロナ過で全世界的に売れ過ぎ感の強くなったパテックは、ノーチ&アクア市場の過熱を煽るSS素材新規投入をしばらく見合わせそうな気がするのだ。品番はRef.6711?とかが新たに与えられそうだが、ケースとダイアルの微妙なデザイン変更だけで済ませるのか。踏み込んでロングパワーリザーブ化された新規開発の自動巻ムーブメントが搭載されるのか。興味津々である。でも5711後継機種についてのこの様な見方は些か楽観的で、多分来年度以降、恐らく数年後、最長で2026年のノーチラス発売50周年まで引っ張られる可能性も状況次第では有るかもしれない。ただ、ひょっとしたらが来年6月に延期されたGrand Exhibition Tokyoに向けて日本市場限定モデルとしてメンズ5711/1Aサムライブルーダイアル、レディス7118/1200AナデシコピンクMOPダイアル、各100本なんていうドリームウオッチ、まさか出ないだろうナァ。
では、ノーチラスの期待出来そうな新製品は何か。まず、昨年同様しつこい様だが永久カレンダー5740のRG素材追加が個人的最右翼。同様ながら年次カレンダー5726にもRGブレスは追加されて不思議が無い。昨年クロノグラフ5990にRGブレスが追加され今春早々とSSブレス5990/1Aが公式カタログから消えた事実から想起される予想である。プチコン5712はどうか。現在はRGもWGもレザーストラップ仕様があるので確率は低い。そもそもSSの5712/1Aがディスコンになってからの話だろうと思う。むしろレディスのSS素材でのプチコン、例えば7112/1200A?とかの方が有りそうだ。そろそろダイヤ装飾のバリエーションだけではつまらないと思いませんか。女性からの要望もありそうに思うが、どうだ。
アクアノートはどうなるか。昨年男女とも結構な新規や追加があった。特にレディスは後継モデルを含め多数のニューモデルが投入された。従って新製品は一旦、今年はお休みの気がする。尚、3針SSシンプルモデルの5167Aと1Aは来年辺りのディスコンになっても不思議が無いと思っている。
いづれにせよ、パテック社はノーチ&アクアの深追いにはリスクが伴うと判断しているようなので、来年度以降先の事は人気の加熱状況次第という所が大きそうで非常に流動的ではないか。
さてカラトラバである。昨年Ref.6119というクルー・ド・パリ装飾ベゼルのロングパワーリザーブ手巻新エンジン搭載の意欲作を発表。早くも超人気モデルになっている。これまた昨年の繰り言になるが、2019年初頭にディスコンとなったベストセラーRef.5296自動巻シンプルカレンダーが空き家のままなのだ。ここが2年間音沙汰なしというのが解せない。現代の実用的腕時計に於いて、いの一番、一丁目一番地に持って来るべき時計なのだ。ましてやノーチラス5711が鬼籍に入った今、メンズのフルローター自動巻カレンダー3針はカラトラバでは5227となるが、玄人好みのハンターケースであり一般的とは言えない。あとはアクアノート5167と5168、いづれも人気絶大ではあるが前者にSSブレスが用意されているもコンポジットというラバーストラップ仕様が殆どでラグスポイメージが前面に出ており、これまた個人的には一般的で万人受けする時計デザインでは無いと見ている。やはり欠けている。腕時計の王者パテックには必須の実用的アイテムが、今現在欠けているのだ。タイミング的には昨年と予測したが、手巻の6119をリリースしたので恐らく今年ではないか。ただ前述のノーチラスでも触れたが、仮にロングパワーリザーブ新キャリバーの開発と関連していれば来年以降に持ち越しも充分ありえる。
エリプスとゴンドーロ。エリプスは変更無し、仮にあってもレアハンド系のとんでもないモデルだろうか。ゴンドーロはこれまた昨年同様で、ともかくメンズ不在の解消。具体的には出番を失っているレクタングラ―のCal.25-21や28-20に再登場頂きたい。
多岐に渡るコンプリケーションの予測は非常に難しい。何がどうなるのかサッパリわからない。昨年ディスコンになった年次カレンダーの元祖系フェイスRef.5146シリーズの後釜が今の顔に刷新され6146で出てくるぐらいしか思いつかない。でもなんか無さそうな気がする。ウィークリー・カレンダー5212Aの素材バリエーションで18金RGモデルがブラック系のダイアルで来たら相当に色っぽく格好良い感じになりそうだ。忘れてならないのはコンプリケーションのSS素材モデル。2019年初出で前述の5212Aが、そのトレンドの狼煙的モデルだった。そしてその流れを決定づけたのは昨年の年次カレンダー・フライバック・クロノグラフにSS素材追加された5905/1Aだ。これでもかのトレンドカラー緑色を文字盤に纏わせてのデビューはインパクト大だった。アクアノートのブレスレットと見まがうブレス形状に今後のSS素材の担い手はノーチ&アクアでは無く、コンプリケーションなのだと大見えを切って来たのだという気にさせられた。さて、何が来るのか。シンプルな年次カレンダーという選択もあろうが普通に考えれば、パイロット・トラベルタイムかワールドタイムではないか。ただ前者だとして5524Aや5524/1Aというのはデザイン的にSS素材との親和性が良すぎるし、同色系の既存WGモデル5524Gが立ち位置を怪しくしてソワソワしそうであまりピンと来ない。やはり有りそうなのはワールドタイム、しかも現代ワールドタイム第4世代としてRef.5330A、同じく/1A等のリファレンスで18金に先駆けて颯爽と登場なんていうシナリオが有ったら面白い。勿論ケース・文字盤・針等のデザイン全てが刷新されるべきだろう。願わくば年若い顧客層にフォーカスしたアバンギャルドな味付けであって欲しい。
グランド・コンプリケーションは従来機種のリプレースメント以外は予測不可能であって、完全に当てずっぽうの個人的に出して欲しい願望レベルでしか語れない。ずばり指針表示タイプ永久カレンダーの小径サイズの復活。かつてのRef.5140よ、もう一度である。まず個人的に欲しかったというのが先に有る。現行の5327は我々アジア人には若干大きい。特にクラシカルな顔を好む方向けのモデルだけに余計その思いがある。でも中国市場では大振りが好まれるそうだし、北米と中国の2大マーケットを睨めばチョッとリバイバル的モデルは無理っぽいのか。レディスは昨年レアハンドっぽい装飾でリリースされたRef.7000の後継とも言うべきミニット・リピーターRef.7040/250のシンプルバージョン7040Rとかは出て欲しい。旧来の7000Rの音の量・質の良さがもう一度ミニマライズな佇まいでラインナップされないかと願う。そしてまだまだ需要が追い付てこないかもしれないが、自社キャリバー搭載スプリットセコンド・クロノグラフの名機Ref.5959をレディス向けにリバイバル出来ないだろうか。品番はRef.7979とかになるのだろうか。
いやはや全く売る当ても無いモデルを含めて好き勝手、言いたい放題だ。春が近い。若草山に行ってフィッテンチッドを浴び過ぎたわけでも無いのにセロトニンやらアドレナリンなんぞが悪さをしでかしてくれたのだろうか。節分はとうに終わり、ひな祭りがすぐそこだ。梅は満開で桃の蕾が、今や遅しと待ち構えているのだ。もちろんジュネーブにも春はすぐやって来る。待ち遠しさを募らせながら、アアでも無い、キットこうだと千々に思いを巡らせる最高に楽しい日々が今年もやって来ている。だが年によっては出回る事がある噂レベルの新製品怪情報も、今年は全く聞こえてこない。ノーチラスの耳の様なPPJスタッフの口はもとより抉じ開けようがない。そんなことで毎年思い描く願望的ニューモデルは2割もビンゴしない。まあそのレベルの読み飛ばす戯言として本稿はお読み頂ければ幸いである。さて、皆さんの予測は?
文責:乾
"レディーファースト"は"淑女を優先する"で良かろうが、パテックが言うところの"レディス・ファースト"とはどう解釈すればいいのか。過去に遭遇したこの"レディス・ファースト"なる表現は、まず2009年リリースのRef.7071レディス・ファースト・クロノグラフだ。2005年から同年に渡ってパテック社が渾身の精力を込めて設計・開発し発表したマニュファクチュール・クロノグラフ・キャリバー3兄弟の末っ子Cal.CH 29-535 PS(手巻)を、紳士モデルに先駆け淑女向けに先行搭載した注目のモデル。
パテック フィリップ インターナショナルマガジンの記事『クロノグラフの系譜』で著名時計評論家ジズベルト・ブリュナー氏は、同モデルで採用されたクッションケースが、パテック社が腕時計クロノグラフ製作を始めた20世紀初頭に腕時計の隆盛を推し進めたのが,、実は女性であった事へのオマージュとしている。そして《女性のために創作された初のクロノグラフ「レディス・ファースト・クロノグラフ」は、決して偶然ではないのである。》と結んでいる。

左:Ref.7071(2009-2016)レディス・ファースト・クロノグラフ
中:Ref.7140(2012-)現行のレディス・ファースト・パーペチュアル・カレンダー
右:レディス ペンダント時計(1898)から腕時計に換装(1925)された紳士初の永久カレンダー 、背景は販売以降のカルテの様な個体履歴(ウンウン、見た事アルアルという方は、しっかりパテックホリックと言えましょう)
そしてもう一つが上画像中央の2012年初出で現行モデルの永久カレンダーRef.7140である。カタログには"レディス・ファースト・パーペチュアル・カレンダー"とある。個人的には20世紀の何処かでクロノか永久のご婦人モデルが全く無かったかどうか疑わしいと思っているが、具体例を知らない。ただ記憶に有るのは1898年に女性用ペンダント時計としてスタートした上画像右の永久カレンダー97 975(Ref.無き時代でムーブメントNo.での識別表示)である。この個体は37年後の1925年に紳士用としては初の永久カレンダー腕時計へと換装され1927年に販売されている。19世紀末迄は懐中時計全盛期で1900年代初頭の紳士用腕時計の黎明期をへて、第一次世界大戦(2014-1918)が一気にポッケから手首へメンズウオッチスタイルを飛躍・完成させた。当時のパテック社は懐中時代の栄光からリストウオッチへのスクラップ&ビルドに遅れを取ったが、"男装の麗人"の様な裏技かもしれぬが、ともかく紳士用の複雑機能を搭載した腕時計をデビューさせ、業界最前線へ一生懸命キャッチアップを目指していたのだろう。
リピーター付きリストウオッチにも2011年にレディス・ファーストの足跡があって、"レディス・ファースト"は何も昨日今日に始まった事ではなく、パテックの社史に於いて数多くの事例が創業間もない頃から多々見られる。

微妙に締まりのない若干ボケ気味な画像。障害気味の手指のせいにするのか。はたまたこの娘(こ)への愛情不足なのか。不思議なもので惚れ込んだ時計は何故か自画自賛レベルで撮像出来る事が多い。しかも短時間かつ、その殆どがファーストカット。理由は不明にして、今後も判らない予感がする。数十年前のまだまだ我がお尻の青い頃に、ひとめぼれする事しばしあり、間髪置かずファーストコンタクト出来ていれば・・矢沢の永ちゃんの「時間よ~止まれ ♪ 」ではなく、頼むから誰か「時間よ~戻れ ♪ 」としてくれないものか悔やまれてならない。おのれの奥手ゆえならぬ、度胸の無さを棚に上げて・・
脱線復旧、閑話休題、画像話をもう少し。だいぶ前の事だがプロカメラマン某氏に、東京のスタジオで腕時計撮影指南を受けた事がある。この経験で今日まで残っている収穫はニコンの少々ボディの長く重たい愛用マクロレンズのみしかない。その際に何より知りたかったのは鏡面仕上げのインデックスと針を如何にしてブラックアウトさせずに撮る照明技術だった。彼らは一般的にBALKAR社製ストロボを照明機材として単発で、時には複数で使用するのだが、瞬間的に閃光するタイプなので尻の青さとは無関係に素人には付き合えそうな気がしなかった。お昼前の「腹が減っては・・」という微妙な時間帯に訪問したのも反省材料だった。今は知らず、当時は時計を撮らせれば "右に・・" と本人が言う人も空腹には抗えず、指南もそこそこに某氏行きつけの天ぷら屋へ二人して遁走し、もちろん氏の"左側一歩下がって・・"は言うまでもない。うろ覚えながら屋号は『天悦』だったかと。丼から今にもこぼれてしまいそうな大振りな海老やら空飛ぶ絨毯の様な海苔や大葉が見事に盛り上げられた特性天丼の軍門に下る仕業となったのだ。本来の目的とは異なったが、互いに"食"というストロボに於いては大いにシンクロ出来たのだった。旨い物の前で、人は時に諍うが、至福の時間を共有し互いの距離を縮める経験を皆さん誰しもお持ちであろう。美人時計を前にしてか今回の脱線は、アッチこっちへと忙しい。

さて、上の画像で具体的に説明すると左側が今回記事で採用した撮像。インデックスの12時の上部辺りが僅かに鏡面仕上げと判らなくもない。光源は馬鹿の一つ覚えなのか、疑似餌釣りの信念針みたいなのか、ともかく被写体の真上いわゆる天から(やっぱり釣りが好きやねん!テンカラってわかる?)の1光源(岩崎アイランプPRS300W)ツケッパのみで10年以上撮り続けている。リューズとクロノグラフプッシュボタンの天辺辺りにハイライトが来て、インデックスと時分針やクロノグラフ秒針には真っ暗にした部屋の黒味が写り込んでいる。右側も同じ設定だが白いレフ板(大層な、ただの余っていたスチレンボードの切れっぱし)で上部からの単光源をほんわかとダイアルに当ててやった撮像。時字("ときじ"と読む、インデックスの事)と針の鏡面は判り易くはなっても全体が白っちゃけて、物凄く薄い乳白色の膜で覆われた様になり、そのままではチョッと使えそうで使えない。時と場合と助っ人の有無によってはこれらを合体し良い所取りして合成画像とする事も有るが、今回はギブアップした。さすがにリューズだけはフォトショ君に押し込んでもらったのが上の上の画像。ストップセコンド(ハック)も無いのになんでリューズを出臍で撮る(上の画像)のか。撮影は通常、仕入の着荷直後、検品前に行う。スタジオとは名ばかりのストック部屋の一角で真空パックをおもむろに開封し、無傷かつ無塵、ゼンマイトルク限りなく"0"状態でリューズを引いて希望時刻付近で若干バックさせる裏技で秒針停止がかなう。自動巻の場合は輸送中に巻上がるトルク除去の為に数時間お寝んねさせる、大半のパテックは手巻ムーブメントでもほんの少しの揺すりで運針する。尚、現行のロレックスは自動巻でも手動巻上げをある程度しないと動き出さない。どっちが良いという話ではなく両社のモノ創りへの姿勢が出ていると思う。仙人の様に悟りも得ず、俗人の我が身には60秒ジャストでの停止はその時々の心の乱れるままにして儘なら無い。プロの様に撮影助手など居ようはずも無く、ひたすら孤独な時間が続く。ああでも無い、こうでも無いとひねくり廻し何度撮り直しても、大抵がしょっぱなのファーストカットの採用が多いのは何故か?往々にして1カットたったの15分程度で一発OK、バッチリ終了、「よっしゃ、次行こうか」が結構有るのがノーチ&アクア。関西人が北海道のニセコや富良野辺りに行って、ひたすらパウダー&ドライな最高級雪質のお陰なのに、おのれの足前が上ったと勘違いするが如しである。サテンベゼルに加えて、ダークかつ無光沢な色遣いを纏ったボーダーとエンボスが、若き日に目にした北の大地の雪の結晶、或いはダイヤモンドダストに見まがえてしまう。
ローカル線は昨今、廃線が相次ぐ。本稿もいよいよ本線に戻らねば。で、7150とのファーストコンタクトは2018年のバーゼルワールドのPPブース。当時は毎年の事で多少マンネリも感じていた春のスイス詣でだった。今、思えば何と貴重で大切な時間だったのか。今年も公式なキャンセル案内は無いが、PPに取って初となるジュネーブ開催となるはずのリアル展示会は恐らく無理だろう。仮に実施されても、行って良いのやら・・「行きはよいよい、帰りはコロナ」では洒落にならない。2018年は確か一人でバーゼル市内のB&Bに逗留し、滞在期間中市内トラム乗り放題の優待チケットでメッセ会場に通って数ブランドの商談をしたり、空き時間は気儘に美術館巡りなどの一人遊びを満喫した年だった。さてさて7150だ。初見の印象はハッキリくっきりしていて「ベゼルにダイヤが無ければメンズで大ヒットしそうなのに・・」と思いつつケースバックばかり見ていた。

コチラも少々キレの無い画像。赤い丸2か所は本来はどちらも下側の受けの様にダークに写っている。左上のコラムホイールに被せられた帽子のような偏芯シャポーはレフ板で銀色に写し込んだ別画像を合成している。この2箇所と各マイナスねじの頭は鏡面仕上げになっているので、この様なややこしい事になっている。ま、そんな事はどうでもよろしい。この娘のバックシャンで見惚れて頂きたいのは38mm径ケースぎゅうぎゅうに詰まっているムーブメントの凝縮感である。全くの後付けではなく、ムーブメントが先に有って、パツパツのボンデージな専用ケースが用意されたものである。エンジンとボディのこの上なく幸せなマリアージュとも言えよう。大柄な体格の割に小ぶりかつクラシカルな時計を好む性分なので、38mmは女性も着用可能なメンズであって欲しいサイズだ。昨今、パテックのメンズ・コンプリケーションのバゲットダイヤベゼルモデルはどれもこれも人気が高いが、7150の様なブリリアントであれ、人気のバゲットであれケース表面にダイヤモンド仕様は、この齢になっても何かしらこっぱずかしくてよう着けられまへんのや。愛機5170Pの河島英五の歌のように"目立たぬ~♪"ダイヤインデックスがせいぜいですわ。"時代おくれ"な奴なんですわ。
最近、この珠玉のタイムピースに時代がやっと追いついてきた様な気がしている。"おくれ"とは真逆でデビューが少々早かったのではないかと思えるのだ。お恥ずかしい話ながら、リリース3年目の2021年後半に当店初のご販売をした。それ故の実機撮影成就なのだ。サイズ感に加えて淑女が機械式複雑時計のメカニカルな顔をデザイン的に抵抗なく受け止められる様になってきた。そしてそのスピードは加速してゆくのではと思わせられる。

"菊の御紋?"と見間違うクラシックなプッシャー頭のエングレーブ。勿論、デザインアーカイブは有る。チョッと今すぐ出てこないだけ。絞りを開放値に近づけてリューズとリセットプッシャーのみフォーカスし廻りをほぼボカした。腕にハンディが残っても三脚を使って、レリーズでシャッターを切る置き撮りは何とかこなせる。やはり撮影は楽しい。

デビアス社から提供された最上級ダイヤがセットされた尾錠(美錠とも)。ダイヤベゼルはまだまだともかく、さすがにこのバックルでの男性着用は14mm巾のサイズも含め、一般的とは言えず、そっち系のややこしい話になりそうだ。やはりこの時計は正真正銘の淑女専用機なのだと得心した。
さて、年の初めから長々ダラダラと書きなぐってきたが、本稿は時計そのものの詳細には迫れていない。でも今年はこんな感じでその時計の最もクローズアップしたい部分にフォーカスを当てて紹介してゆけたらと思っている。今回の7150の場合は、ムーブメント先に有りての専用ケースのベターハーフ設計が、生み出した後ろ姿の濃密な凝縮感がまず筆頭である。淑女のためのレディス・ファーストかも知れぬが、機会が有れば紳士諸君にも一見を是非お勧めしたいタイムピースだ。
Ref.7150/250R-001 2018年~
ケース径:38mm ケース厚:10.59mm ラグ×美錠幅:20×14mm
防水:3気圧
ケースバリエーション:RGのみ 72個のダイヤ付ベゼル(約0.78カラット)
文字盤:シルバー・オパーリン パルスメーター目盛 ゴールド植字ブレゲ数字インデックス
針:18金時分針
ストラップ:ラージ・スクエア手縫いシャイニー・ミンクグレー・アリゲーターストラップ
バックル:27個のダイヤ(約0.21カラット)付18金ピンバックル
価格:お問い合わせください
Caliber CH 29-535 PS:コラムホイール搭載手巻クロノグラフ・ムーブメント
直径:29.6mm 厚み:5.35mm 部品点数:270個 石数:33個 受け:11枚
パワーリザーブ:最小65時間(クロノグラフ非作動時)クロノグラフ作動中は58時間
テンプ:ジャイロマックス 髭ゼンマイ:ブレゲ巻上ヒゲ
振動数:28,800振動
文責・撮影:乾
出典
Wristwataches Martin Huber & Alan Banbery
Patek Philippe International Magazine Volume Ⅲ Number 2
追記:1月の下旬にPP公式HPより5711/1R-001、5990/1A-001が蒸発しているのを確認。その時期ネット上に出回っていた真贋不明な生産中止情報と合致していたので、それらの蒸発自体に驚きは無かった。ただ知りうる限り通常2月上旬の正規店への公式通達前に突如雲隠れは経験が無い。前者のノーチ3針RGブレスは予想通りだが、後者のノーチSSトラベルクロノは若干の予感は有っても蒸発タイミングが解せない。なぜなら恐らくと思われるその他の鬼籍入り候補が、渡し賃が心もとないのか"三途の川"を渡れないで公式の川辺に踏み止まっている様だからだ。あくまで私見ながら、まだら模様と表現すればいいのだろうか。ICUあたりで生死の境を彷徨っているのだろうか。それとも公式通達そのものが今年からは無くなって、お願いだからHP見て気づいてネ!というメッセージなのだろうか。まあ、時が来ればわかるだろう。