「たぶん3月29日の夕方にはPP社公式HPで見られるはずです」随分たくさんの顧客にアドバイスした今年の新製品情報。最終開催となってしまった2019年のバーゼルワールドでは開催初日の前日夕方(スイスは午前の始業時間)にWEB公開されていたので、てっきり今年がPP社にとって初出展となるWatches & Wonders Geneveに於いても前日公開を予想した。しかしながら、しっかりと裏をかかれて素直に開催初日3月30日の公開だった。
本来であれば現地に赴き、興奮と混沌の時計の祭典の空気にどっぷり浸かって新作サンプルとご対面するのだが、ここ数年は大多数の関係者がWEBで見るしかない異常事態が続いている。ただ今年はやっとリアル開催と有って、一部の猛者は現地へ突撃を敢行している様だ。自分自身はというと、もう一人で好き勝手に海外をウロウロする事が色々難しいコンディションなので、それはもう相当の覚悟がいる。
ただありがたい事に、今年はスイスと会期を合わせる形でパテック フィリップ・ジャパン(PPJ)が東京神田のオフィスで新製品の提案をサンプル実機を用いて実施してくれる運びとなった事だ。まあ東京日帰りも「無茶したらあかんで!」とご心配を多々頂いた事には感謝しかない。で、先日行ってきました。一年半ぶり、満開の桜の中、冷たい雨降る東京に、寒さに震えながら・・
今年のニューモデルはまず3月30日に12型、後追いで4月6日に1型の合計13型が発表された。詳細のご紹介は実機が運良く入荷した際に、じっくり見て撮って掘り下げるとして、まずはファーストインプレッションが薄れぬ内に備忘録を兼ねて書き留めておきたい。
今年の新作はテーマ別にグループ化されている。最初の2モデルはクルー・ド・パリ装飾された外装とアンティークなカメラのボディ表面をモチーフにしたヴィンテージ・ルックな文字盤を特徴的な共通項とした兄弟モデルとして括れそうだ。まずは兄貴分格で今年一番の話題作の年次カレンダー・トラベルタイムRef.5326G-001からご紹介。
バーゼルワールドではサンプルを撮影していたが、今の体ではとても無理なので画像はPP公式の物。年次カレンダーとトラベルタイムはそれぞれ今日のパテックを代表する人気の複雑機能だが、両者を組み合わせて統合したモデルは完全な初物となる。採用ムーブメントは昨年発表され注目を集めた腕時計初のインライン表示永久カレンダーRef.5236P用に設計・搭載されたユニークなエンジンをベースに様々な新規特許を組み込んで専用設計された興味津々な機械だ。またケース(側)もデザインアーカイブを採用しながらも完全におニューであり、中身と見た目の新規性では今年随一の時計だ。
HP画像を見た印象から、ラグ形状の圧倒的な存在感とブランドを問わず見た事の無い文字盤表面感の2点が実機確認ポイントだった。結果的にはラグを含めケース形状は非常にうまくまとめられている。ダイアルもルーペでは荒れた月面のようで迫力が凄いが、肉眼ではとても好もしく格好良い。
ヌバック仕上げのカーフスキンストラップがデフォルトで装着されて出荷されるが、個人的には付属で同梱されるファブリック柄の黒いカーフストラップが我々日本人には馴染みそうに思う。尚、このギミック?とも思える手の込んだ耐久性の或る牛革だが見た目は布ベルトの初見は、2020年初夏に発表された新工場落成記念限定モデルRef.6007Aである。よく似た手口に昨年発表されたグランド・コンプリケーションに5204R-011がある。そちらはアリゲーターパターンのカーフストラップ。要するに型押し(パテック的にはエンボス加工)カーフである。これらは世界的な保護トレンドの流れで、爬虫類の商業利用はいけません。保護しましょうね。という事らしいのだが、クロコダイルもアリゲーターも(傷だらけの)野生個体の使用ではなく養殖物を使用しているはずだ。なぜ普及家畜の牛は良くて、爬虫類が駄目なのか、素直な疑問にどなたか応えて欲しい。
で、この時計の評価だが今年の金メダルとしたい。操作感は確かめようがなかったが機械的に一番惹かれるし、部分部分ではどうかと思える外装も全体で俯瞰すると非常にカッコよくまとまっている。決して安い価格では無いが、機械・外装・文字盤の作り込みを考慮すればバーゲンプライスではなかろうか。ただ年齢的に自分自信で着用は残念ながら無理だ。ターゲットエイジは50歳が上限ではなかろうか。あっ!勿論自称50歳って事で・・
Ref.5326G-001
ケース径:41mm ケース厚:11.07mm 防水:3気圧
ケースバリエーション:WGのみ
文字盤:ブラック・グラデーションのテクスチャード・ラック・アントラサイト文字盤、 夜光付ゴールド植字アラビアインデックス
ストラップ:ヌバック仕上げベージュの手縫いカーフスキン(出荷時)、ファブリック柄をエンボス加工したブラック・カーフスキン(同梱付属)
バックル:WGフォールディング(Fold-over-clasp)
価格:お問い合わせください
ここ数年カラトラバの見直しが進みコレクションがどんどんシュリンクしていく中で、昨年は全く新しいロングパワーリザーブの手巻キャリバーを開発・搭載した新作Ref.6119が発表された。今年もわずか1型1素材ながら選択技が増えた事は素直に喜ばしい。
この時計は前述の新機軸コンプリケーション年次カレンダー・トラベルタイムRef.5326のデザインバリエーション的な要素が前面に出ていて、個人的にはカラトラバ感が非常に希薄だ。素材は同じWGで価格は約半分である。勿論パテックの購入検討者が価格差で3針モデルしか買えないはずは無いので、あくまでシンプル好みの方への提案なのだろう。でも個人的にカラトラバは保守的でいて欲しいという願望が強いので、どうもこの新しい5226がすんなりと受け入れられない。価格設定がインビジブルヒンジによるハンターケースのカラトラバRef.5227と同じなので、そちらに惹かれてしまう。これもやはり齢のせいによる老害だろうか。ケース径40mmは今や若干コンパクト、厚さ8.53mmは薄い時計である。しかし現物には引き締まり過ぎ感は無い。特に厚さは10mm以下とは思えない。たぶんクルー・ド・パリ装飾によるケースサイドの存在感がしっかりと有るからだろう。文字盤はヴィンテージ・テイストで、恐らくはメカニカル時代のカメラボディの外装からイメージされている。この顔については少し心配していた悪目立ちも無く、非常に好感が持てる。ただ、ここも兄貴分モデルの年次カレンダー・トラベルタイムRef.5326のダブルギッシェスタイルのカレンダー窓やらローカル&ホーム表示等が盛り込まれている方がメカニカル感があって、ダイアルとしてよりふさわしい気がする。こちらの3針モデルにも前述の黒いファブリック柄のカーフストラップが付属しており、安心の組合せかと思う。
ところでこのモデルに搭載されるエンジンは、フルローター自動巻のCal.26-330 S Cである。長らく主力ムーブメントであったCal.324系を大改良して2019年にウィークリー・カレンダーRef.5212のベースムーブメントとしてデビューした次世代エンジンである。デビュー直後に超人気モデルのノーチラス3針モデルRef.5711で既搭載のCal.324系からランニングチェンジで積み替えが進められた。パテックでこのような品番不変のエンジン換装というのは非常に稀ではないか。そして今年2月にRG素材ディスコンでRef.5711が全廃となった今現在、この新型エンジンを積むのはデビューモデルのRef.5212と昨年発表のアクアノート・ルーチェRGのRef.5268/200の2モデルで、今年のRef.5226を加えてたった3モデルしかない。どれも文字盤も素材もバリエーション無しである。どうでもいい事ながら本格生産開始から3年を経て、えらく少ない様に思う。前述のカラトラバRef.5227やアクアノートの代表3針モデルRef.5167やレディス・ノーチラス機械式Ref.7118等は、とっくに積み替えられていても良さそうなのに・・
紹介した2モデル以外の3月30日発表残り10モデルは全てがコスメティックチェンジと呼ばれる何かしらのバリエーションモデルである。この点で今年は少し新味に欠けるナァという印象はぬぐえない。チョッと残念だ。
Ref.5226G-001
ケース径:40mm ケース厚:8.53mm 防水:3気圧
ケースバリエーション:WGのみ
文字盤:ブラック・グラデーションのテクスチャード・ラック・アントラサイト文字盤、 夜光付ゴールド植字アラビアインデックス
ストラップ:ヌバック仕上げベージュのカーフスキン(出荷時)、ファブリック柄をエンボス加工したブラック・カーフスキン(同梱付属)
バックル:WGピンバックル
価格:お問い合わせください
Caliber 26-330 S C
自動巻3針カレンダー、ストップ・セコンド機能付きセンター秒針
直径:27mm 厚み:3.30mm 部品点数:212個 石数:30個
※ケーシング径:26.6mm
パワーリザーブ:最小35時間、最大45時間
テンプ:ジャイロマックス 髭ゼンマイ:Spiromax®(Silinvar®製)
振動数:28,800振動
ローター:21金ローター反時計廻り片方向巻上(裏蓋側より)
今年2月に生産中止となった人気永久カレンダーの文字盤変更バリエーションの後継モデル。次に紹介する手巻クロノグラフと併せて現代的なヴィンテージ・スタイルとして全く同色のダイアルを与えられた双子的モデルとして括れそうだ。
画像でご覧の通りダイアルカラーが先代のクリーム色のラック(ラッカー塗装)から、ローズゴールドめっきのオパーリンへと変更された。実に単純なコスメティックチェンジなのだが時計の印象はかなり異なる。銀色ケースにピンク系文字盤の組合せは過去パテックでは多数採用されており、直近では本年生産が中止された永久カレンダー搭載クロノグラフRef.5270Pがあった。2018年の新作で個人的一押しモデルだったが、当店では僅かしか販売がかなわなかった。いつもの事だが生産中止になると問い合わせが増える。"だからあれほど言ったのに!"と毎度悔しい思いをする。今年の新しいピンクの色目にはモニターでの初見時に少し不安を抱いていた。出来たら5270と同じであってくれと願っていた。現物の色目は異なっていたが、不安を一掃してくれる素敵なピンクだった。色は言葉で表現が難しいが、ご心配なく大丈夫です。裏切りませんので・・
Ref.5320Gー010
ケース径:40mm ケース厚:11.13mm ラグ×美錠幅:20×16mm
防水:3気圧
ケースバリエーション:WGのみ
文字盤: ローズゴールドめっきのオパーリン、夜光付アントラサイトのゴールド植字アラビアインデックス
ストラップ:手縫いブリリアント(艶有)・チョコレートブラウン・アリゲーター
バックル:WGフォールディング(Fold-over-clasp)
価格:お問い合わせください
Caliber 324 S Q
フルローター自動巻永久カレンダー
直径:32mm 厚み:4.97mm 部品点数:367個 石数:29個
パワーリザーブ:最小35時間、最大45時間
テンプ:ジャイロマックス 髭ゼンマイ:Spiromax®(Silinvar®製)
振動数:28,800振動
ローター:21金ローター反時計廻り片方向巻上(裏蓋側より)
上の画像で見ると左のブルーカラー現行モデルの色違いにしか見えない。だが現物は別の時計に見えるのがダイアルバリエーション追加の手巻クロノグラフRef.5172だ。思うに現行モデルが濃色ダイアルに白色のタキメーターやインダイアルのレール表示に対して、新作はヴィンテージなローズピンクダイアルにマットブラックでの各表示。明暗が逆の組合せとなっている。現物を見比べるとこの違いが両者を別物に仕立てている事がわかる。ストラップも現行が文字盤同色でカジュアルな青いヌバック調のカーフだが、新作ではオーソドックスな茶系のアリゲーターとされたのも両者の趣を大きく隔てている。面白い事に4・8時位置に小さな円形のインデックスが追加配置されているのが、モニターでは判り易いが現物比較ではその違いに気付き難かった。ケース形状は前述の永久カレンダーと共通で、往年のデザインによる段付きラグとボックス型のサファイアクリスタルが特徴的だ。針形状は此処まで4モデル全てにレトロなシリンジ(注射器)型が採用されている。世界的なワクチン接種トレンドとは無関係だろう。個人的にピンクの新作クロノは現行の青よりも少しアッパーエイジの方にお勧めしたい。
Ref.5172G-010
ケース径:41mm ケース厚:11.45mm ラグ×美錠幅:20×16mm
防水:3気圧
ケースバリエーション:WG(別文字盤有)のみ
文字盤:ローズゴールドめっきのオパーリン、夜光付アントラサイトのゴールド植字アラビアインデックス
ストラップ:手縫いブリリアント(艶有)・チョコレートブラウン・アリゲーター
バックル:18金フォールディング(Fold-over-clasp)
価格:お問い合わせください
Caliber CH 29-535 PS:コラムホイール搭載手巻クロノグラフ・ムーブメント
直径:29.6mm 厚み:5.35mm 部品点数:270個 石数:33個 受け:11枚
パワーリザーブ:最小65時間(クロノグラフ非作動時)クロノグラフ作動中は58時間
テンプ:ジャイロマックス 髭ゼンマイ:ブレゲ巻上ヒゲ
振動数:28,800振動
続いて緑の新作軍団を書き連ねようかと思ったが、このところ雑事にかまけて遅筆が酷いので次回へ刻むことにした。なるべく間を置かないようにしたい。
文責:乾
画像:パテック フィリップ
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