パテック フィリップに夢中

パテック フィリップ正規取扱店「カサブランカ奈良」のブランド紹介ブログ
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新世代手巻カラトラバ6119G

ほんの僅か前、そうたった5年程前まで初めてのパテックにカラトラバの選択は当たり前だった。勿論ラグジュアリースポーツモデル人気は10年以上前からずっと継続し、加熱加速しているのでノーチラスとアクアノートからパテックを始める方も非常に多い。ただパテックと言う山に登るのではなく、ノーチラス丘陵とアクアノート渓谷のみをひたすらトレッキングするばかりでは少し残念なのである。"木を見て森を見ず"とも言えようか。
話を戻そう。このパテックと言う偉大な独立峰を登るに際して、拙いけれど個人的な登山経験からすれば、それはもうクラシックな代表的登山道であるカラトラバ尾根登山ルートを登るのが王道かつ最良の選択に間違いない。従来この表口的登山口は門戸が広く、ベテランは勿論、ビギナーでも優しくアプローチが可能だったのだが、この5年程で年間の入山者数に制限が掛かるが如く、展開モデル数が大いに絞られてしまった。理由は良く解らない。パテック社からの公式見解も無いし、個人的で勝手な推測も特に無い。気がつけばゴンドーロとあわせてカラトラバが絶滅の危機に瀕していたわけだ。
ところで毎年パテックが発行しているユーザー向けカタログの巻頭にザックリとウオッチの展開モデル数が記されている。2018年版(2019年1月迄)ではその数200とある。手元にある一番古い2015年版も200である。ところが2019年版は一気に減って160となり、2020-2021年版(コロナ禍で合版された)と2022年版では150と記されている。一体何が減ったのか。性懲りもせず"正の字"を書く事に・・
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今回は数えた甲斐があった。まずはパテックカタログ巻頭文の記載モデル数の実に"ええ加減!"な事。234(2015)と183(2018)が200個はまとめ過ぎだし、137個(2022)を150個で済ませるのも乱暴だ。それにしても改めてビックリしたのがたったの137モデルしかカタログアップされていない事。一体いつの間にであり、気がついたら知らぬ間に、7年で半分強まで減らして、いやいや100モデル近くもお見送りした記憶も無いままに・・
TVの誰かさんに「ボーッとカタログ見てるんじゃねーョ!」と怒られそうだが、パテックはずるい。比較した5冊のカタログで一番掲載品番の多い2015年版が一番薄い。正確には50モデルも減った2018年版も同じ厚みだが時計のレイアウトにかなりゆとりをもたせてページ数を稼いでいる。この膨らし粉を効かせた様なゆとりっ子政策は2019年版からはさらに露骨となり、新作や重要モデルはお一人様/1ページなるゆるゆるの掲載手法が取られるようになった。この結果商品掲載ページだけに限れば2019年は84P、たったの137モデル掲載の2022年は驚愕の96Pとなっている。対して234モデルも載っていた2015年は60Pしかないのだ。ず、ずるい。姑息に過ぎるでは無いか。尚、2015年版時代のギュウギュウ詰め時計画像原寸での羅列レイアウトがカタログ的には絶対見易く使い勝手も良かった。

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上はカラトラバ主要モデルでの新旧カタログ比較で、左側見開きは18モデルすし詰め状態の2015年版。右は5品番がソーシャルディスタンス?状態の2022年版で世相を反映しすぎている。
ではこのモデル数の減少に伴って生産数も減じたかと言えば、それは無いはずだ。現在非公表ながらパテック社の年産数は66,000本あたりだろうと言われている。長きに渡るパテックとのお付き合いの中で知りうる限り減産話は聞いた事が無く、記憶違いでなければ2006年には35,000本ぐらいと聞いたはずで、ゆっくり着実に増産傾向のはずだ。つまり1モデル当たりの平均生産個数はここずっと年々増えていなければおかしい。
次にこの7年間で各シリーズの構成本数(シェア)はどうなったかをみてみよう。アクアノート以外は全部実数は減っている。でもグランド・コンプリケーション、コンプリケーションとトゥエンティフォーのシェアは紆余曲折あれどもあまり変化はない。人気のノーチラスは約4%シェアアップ。アクアノートは大躍進のシェア倍増だ。実数も13→17モデルと唯一増えている。割を食ったシェアダウン組はゴンドーロ&エリプスが7.4%→4.4%と割合は軽微なようでも17→6本は激減で、もう後が無い崖っぷちだ。そして哀れなるかなカラトラバはシェアで半減の8%、モデル数で39→11本!。ゴンドーロとカラトラバには手巻モデルが多かったという理由はあるけれども、個人的にはシンプルウオッチハラスメント?の横行を疑わざるを得ない。
そんなこんなを考えると、トータル年産数が減らない中でシェアが増えたノーチラスとアクアノートは年間の供給量が相当増え続けている可能性がある。はぼ間違いなく1モデル当たりの供給数は増えているはずだ。モデル当たりの年産数上限が有るらしいのでひたすら増産は無理でも加熱一方の需要過多にパテック社も結構対応をしているという事だろう。
でも繰り返しになるが短期間に4割も品番を整理し年産数は変わらずか微増で、需要はうなぎ登りで年々ヒートアップ。昨年はスイスからの出荷数を世界の販売数が上回り、その結果どこもかしこも店頭在庫がシュリンクという異常事態。これはブランドとしては黄金時代到来だと言えよう。勿論、我々販売店もその恩恵に浴していない事はないが、有難く貴重な配給品をせっせと流通している感じで、やはり今は戦時下なのかなあと時々思ってしまう。いやもう罰当たりな事です。

カタログ分析の脱線が長くなった。本題に戻って今や超希少品種であるカラトラバの昨年度デビューRef.6119の紹介である。今や肩身の狭い狭い手巻きである。既存エンジン流用では無く全くの新設計開発の手巻きムーブメントである。待ち焦がれたロングパワーリザーブ採用である。もうまぶたから溢れるモノを止められないのである。十数年前に買いそびれたRef.3919(33mm径)のまごう事なき直系の孫である。栄養事情が良いせいかちょっとガタイは大きい(39mm径)のである。
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この孫機6119のスタミナは凄い。ひとたび巻き上げれば最小でも3日間弱の65時間も働き続けてくれる。祖父3919や父5119(36mm径)世代は2日間弱の最小39時間から最大44時間でバテていた。ただし巻上げの手間はそれなりに面倒である。日々愛用するファーストウオッチなら追い巻上げは大抵毎朝でその巻上げ回数に新旧ムーブメントでの差はなく、平日の使い勝手に大差は無いだろう。スタミナの差が露見するのは週末で土日の2日間を放置すると週明けの月曜の出勤前には旧世代ムーブメントは止まっているはずだ。一からの巻上げに加えて時刻合わせが必要だ。現行の孫世代6119のスタミナタップリの新エンジンは平日の朝より巻上げ回数が増えるだけで運針は継続している。ただ今機の様なカレンダー機能の無い手巻き時計が、カレンダー必須搭載される自動巻時計にビジネス用途で勝るとは思えない。かつての8日間持続の瞬時DAY&DATE送りカレンダー搭載のレクタングラ―ウオッチRef.5200は手巻きであってもその存在理由が明快だった。今回の手巻きロングパワーリザーブ仕様も個人的は歓迎だが、客観的に言えばセンター3針カレンダースタイルの自動巻でのロングパワーリザーブの開発が必須かつ急務かと思う。後発になるので出来ればセイコーがハイビートでも実現している80時間程度は最低でも欲しいのだ。これを満たすカラトラバ・コレクション(Ref.6296とか?)を一日も早くラインナップして欲しい。Ref.5296の2019年春のディスコン以来、欠員のまま次世代型リプレースメントモデルのラインナップされない理由が全く不明である。
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受けに施されたコート・ド・ジュネーブ(畑の畝状のストライプ模様)仕上げの美しさを最大限に見せつける仕様を持つ手巻ムーブメントCal.30-255 PS。ケーシング径30.4mm(総径は31mm)✖厚さ2.55mmが名称の由来で、最近パテックで良く採用されるいにしえのネーミング方法だ。例えば1976年デビューの初代ノーチラスRef.3700/1にジャガールクルトからエボーシュ供給で搭載されたムーブメントがCal.28-255 Cとされた如くである。旧世代搭載機Cal.215は時計を駆動する主ゼンマイの巻上げを担当する丸穴車と角穴車(香箱と一体)が剥き出しのレイアウトだった。1970年代半ばから今日に至るまで延々と50年近く搭載されており、裏スケルトンの概念が一般的では無かった時代に設計されたヴィンテージ・エンジンなので当時の競合機も似たような仕様であった。今日でも古臭さを感じないが化石的な風貌になってしまった。裏スケルトンがパテックの標準仕様?になった今日ではテンプや磨き上げた装飾性の高い特殊な歯車以外はほとんど受けで隠して見せない様になった。でもチャイナドレスのスリットのごとくほんのチョットだけ切り欠き部(上画像で5時と9時辺り)を設けて2つの香箱車をチラ見せしている。人間同様に露出部分が有ればボディを磨き上げる必要があるわけだ。でもこの後ろ姿は知る限りパテックで初見であり、他ブランドでも近似の仕様を知らない。特にこれ見よがしな見せ方でも無く、とても?パテックらしいそっけなさが見飽きる事も無くて良いのかもしれない。さて2個の香箱(バレル)活用のロングパワーリザーブ化には一般的に2つの方式がある。ただひたすら運針駆動の延命を目指すタイプが一つ目。それとは異なりパテックが本ムーブメントで採用したのは、駆動時間を多少犠牲にしても2個のバレルから同時にゼンマイトルクを貰って調速並びに運針の各機構をより安定した精度で駆動する事を目指したシステムである。まぁパテックなら絶対コッチだなという安心の設計だ。
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もう少しキレ良く撮ったつもりだった眠たい画像。上の上の画像とあわせて見較べて欲しい。12時-6時方向の縦サテン仕上げのグレー文字盤が光の当たり方でシルバーからグレー、さらには黒に近いダークグレーと鼠八百のごとく実に多様なねずみ色を楽しませてくれる。それに対して6時位置のスモールセコンド(小秒針)には非常に細かい同心円仕上げ(サーキュレーションフィニッシュ)が施されているが、光をどの様に当ててみてもほぼ安定した同色のライトグレーを呈す。この文字盤のミステリアスで多彩な表情は実機でご覧いただくともっと興味深く、この時計の最大の魅力だと思っている。尚、素材違いのローズゴールドバージョンは文字盤全体がアイボリーっぽい均一なグレイン仕上げ(非常に細かい粒状なザラっとした仕上げ?)なので何のマジックも無くシンプルでストレートな印象だ。本当に両者は同じモデルなのだろうか。凝った素振りを全く見せないで文字盤に拘り尽くすパテックでは良くある事だけれど・・
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上と似たような絵ながらもう少し深掘りを。この時計で真っ先に飛び込んで来るデザインメッセージはクルー・ド・パリ(仏clous de paris)とかホブネイル・パターン(英hobnail pattern)と呼ばれる2重のピラミッド形状のベゼル装飾だ。clous及びhobnailの意味は"靴底に施される鋲"とある。仏語の方は"パリの敷き石"と言う訳もある。この装飾に出くわす度に語源的にいつもスッキリはしないが気にしない。何もパテックの専売特許の装飾意匠では無いし、パテックに限っても6119の直系血族のみばかりでなく最高峰モデルのグランド・マスターチャイムや今春発表のヴィンテージ・ルックの年次カレンダー・トラベルタイム5326Gなどにも採用される一般的な装飾技法である。しかしながらカラトラバと言えばRef.96(クンロク)系という固定概念を1980年代に覆し、新たな大黒柱に成るべく誕生してきたのがクルー・ド・パリを纏ったRef.3919だった。そのインパクトは強烈で我がオールドファン世代でクルー・ド・パリと言われれば3919,5119となる。"イチキュウ"と言う通称は無いけれどもクンロクと並び立つ存在感を覚えてしまう。
デジャブのようなクルー・ド・パリ装飾の押出しがあまりにも強烈なので"19系"御曹司と誰もが納得させられるが、実は"96系"のDNAが今作6119には圧倒的に多くみられる。まずインデックスは"19系"お約束のシリコン転写のローマンインデックスでは無く"96系"に多用されるエッジの効いたファセットで構成されるオビュ(仏:砲弾)型18金素材のアプライド(植字)タイプである。時分針も"96系"のイメージに連なるドフィーヌ(パリのシテ島に存在する特異な地形から)ハンドだ。但しファセット(面取り)は少し複雑になっている。ケース形状に至っては直線的でロー付けされたラグが目立つオフィサーケースを特徴とする"19系"とは全く異なり、冷間鍛造と切削加工でケース一体として生み出された優美で色気すら漂うラグとケースからはクンロクの正統な後継者の匂いしかしない。
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ケースの横っ面を見てみよう。上の撮像が7年ものキャリアを積んだものとは思えないが、ハンディキャップも抱えているので見逃して貰いたい。今更感心するのも変だが初心の頃の丁寧さが下の比較画像の出来映えから伝わる。
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撮影アングルの違いで6119にはクルー・ド・パリが少しも写り込んでいないし、5196は反リューズ側だったりで絵の統一感はないが、6119と5196の横顔を見ればその血統の濃さは一目瞭然だ。ところで5196ケースサイドのへアラインのサテン仕上げが好もしく感じるのは何故だろう。好き嫌いだけかもしれないがシンプルでベーシックな時計にはポリッシュよりも相応しい様な気がする。
さて繰り言の様になるが、今回じっくりと6119を見ていて気づいたのは、品番的にはいかにも5119の後継っぽいが、実は5196の跡継ぎがベゼル部分だけ冬眠中のクルー・ド・パリ装飾を纏ったとも言えそうな事だ。苗字の異なる近親者が養子縁組で家名を受け継いだ様な感じか。ひょっとするとカラトラバの手巻きシンプル腕時計は"96"を品番末尾に備える本家本元的モデルの復活がしばらく無いかもしれない。それまでは代表的2モデルの良いとこ取りした6119がずっと一人二役で頑張るのだろうか。

Ref.6119G-001
ケース径:39mm ケース厚:8.08mm ラグ×尾錠巾:21×16mm 防水:3気圧
ケースバリエーション:WGRG
文字盤:縦サテン仕上げグレー。 ゴールド植字インデックス
ストラップ:手縫い風アリゲーター・バンド、ブリリアント・ブラック、 ピンバックル。
価格:お問い合わせください

Caliber 30-255 PS
手巻 スモールセコンド
直径:31mm ケーシング径:30.4mm 厚さ:2.55mm 部品点数:164個 石数:27個 
パワーリザーブ:最小65時間
テンプ:ジャイロマックス 髭ゼンマイ:Spiromax®(Silinvar®製)
振動数:28,800振動

撮影、文責:乾

※Ref.96系、19系をカラトラバを代表する2系列としたが1932年の誕生以来、1934年の96Dは96ケースにクルー・ド・パリベゼルを備えた6119のルーツ的存在だし、1972年の3520Dは19系の元祖的モデルだ。シンプルなカラトラバは詳細に見てゆくと実に多様な近似モデルが存在する。本稿ではその辺りはバッサリ割愛して主観的に判り易くした。

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