まさかこのミノルタをブログ用に撮影する事になろうとは思わなかった。記憶に定かではないが祖父が存命だった1970年代頃、実家で愛用されていたファミリーカメラで、当時のミノルタはニコンやキャノンを上回る国産カメラ最高峰ブランドだった。現在は法人そのものが存続しておらず、ソニーにそのカメラ事業の遺伝子は受け継がれている。この35mm銀塩フィルムカメラが小学生だった私に写真の面白さを目覚めさせてくれたのだった。もう今は壊れてしまいガラクタに過ぎないが断捨離がかなわず今に至っている。
なぜこんなかび臭いぼろカメラを紹介するのかは、もうお判りであろう。今春パテックがリリースした新製品に採用され非常に大きな話題を巻き起こした文字盤のデザイン的ルーツとされたからだ。ザラザラでデコボコなまるで像の皮膚を思わせる黒いカメラボディを模したダイアルはパテックだけで無く他ブランドも含め全くの初見である。
いやいや何とも斬新でダイナミックな面構えである。本来はカメラ本体をしっかり保持して、手振れを防ぐための滑り止め表面加工なのである。外装の為の専用仕上げを普段触れる事が出来ない内側のパーツである文字盤に施すという意外性が、今までに無かった不思議な魅力を生み出した。昨今のパテックが好んで採用しているアラビア数字フォントのインデックス、並びにシリンジなる聞きなれない表現の注射器形状の時分針もアナログ時代のカメライメージと妙にマッチしている。蓄光タイプの夜光塗料が施されたインデックスと時分針、転写プリントのブランドロゴとカレンダー日付、(恐らく?)焼付け塗装仕上げであろう秒針、これらすべての色が見事に統一されている。モニターの画像では分かりづらいが、その色目はヴィンテージコンセプトにふさわしい微妙な紫外線焼けを感じるエイジングカラーとなっている。渋くてにくい。
先程、黒いカメラボディと書いたが、正確に真っ黒なのは凸凹仕様の最外周部のみであって、センター部の複雑なダークグレーから外側に向かってグラデーションしながら濃度を増して真っ黒へと変容している。このブラック・グラデーションと呼ばれる塗装職人の熟練の手技は、これまた昨今のパテックで多々見られる流行りの文字盤芸だ。尚、このグラデーションは文字盤に光が当てられた状態で正面から向き合うと最大の見え方となる。ところが暗めの室内で斜め45度辺りから見ると凹凸の無い平板で均一な黒い別人の顔を見せる。撮影し忘れたけど・・怪しく魅惑的な表情変化だ。一見すると新機軸で意表を突いた表面加工ばかりに眼がゆくが、シンプルでありながら深くて高度な技を駆使する文字盤へのこだわりはパテック伝統のお家芸だろう。
何ともあまいフォーカス、何処にもピントが合っていない。ご容赦いただいて特徴的な横顔の紹介。ベゼル装飾としておなじみのクルー・ド・パリ(ミラミッド文様の繰返し)をケースサイドに使っているのは現行モデルではグランドマスター・チャイムRef.6300とワールドタイム・ミニット・リピーターRef.5531の超絶系グランドコンプリケーション2モデルのみ。今新作5226は時計機能としては3針カレンダーのいわゆるベーシックとかエントリーと言うべき入口的なモデルである。にもかかわらずブランドの最上位レベルの外装仕様が与えられている。特筆すべきはこの手作業のギョシェマシンによるクルー・ド・パリ装飾がケース外周に途切れなく全周に渡って施されている事だ。それが為にストラップを固定する4つのラグは特殊仕様としてケースバックと一体型で鍛造削り出しで作られている。この仕様でなつかしく思い出すのはクルー・ド・パリつながりのカラトラバの名作Ref.5119(生産中止)である。ただし同機では華奢なラグがケースバックにロウ付けされていた。
凝った造りの今作のケースは完全な新規設計で、クラシックな装飾が施されながらもとてもカジュアルな印象である。まったく新しい仕上げのダイアルやインデックスなどもカジュアル路線であり、デフォルトで装着されるヌバック仕上げのカーフストラップが一層そのイメージを高めている。また同梱されるファブリック柄を型押しした黒いカーフストラップは汚れが目立ちにくい点で個人的にはお勧めだ。
100年ぶりのパンデミックである新型コロナ下でビジネスシーンでのドレスコードが大きくカジュアル方向に振れた影響もあってか、腕時計デザインもスポーティーやカジュアルがより一層求められている様に思う。ラグジュアリースポーツの雄であるノーチラス等がその代表選手なのだが、オーセンティックでドレスアップ御用達であったカラトラバにも今作の様な提案がされるようになった。よくある事ながら今回紹介の5226も初見では、さほど自分自身の琴線に触れる時計では無かった。むしろ同じデザインコンセプトのダブルコンプリケーションである年次カレンダー・トラベルタイムRef.5326に完成度の高さを感じていた。でも個人的な諸事情で腕に負担の少ない軽量で、近頃仕事着にしている作務衣にも合うバタ臭過ぎない時計として5226は気になって来ている時計だ。でも結構なお値段以上に人気のハードルが高すぎて当分コレクションになる事は無さそうだ。最後に引きの画像で時計全体をご覧頂いて・・
Ref.5226G-001
ケース径:40mm ケース厚:8.53mm ラグ×美錠幅:21×16mm 防水:3気圧
ケースバリエーション:、WGのみ
文字盤:ブラック・グラデーションのテクスチャード・ラック・アントラサイト
インデックス:夜光付ゴールド植字アラビア数字
ストラップ:手縫いヌバック仕上げベージュ・カーフスキン(装着)、 手縫いエンボス加工ファブリック柄ブラック・カーフスキン(同梱) ピンバックル
価格:お問い合わせください
Caliber 26-330 S C
画像はパテック公式のものである。すっかり撮り忘れていた。このムーブメントは2019年初出のウィークリィー・カレンダーRef.5212でお目見えした。基幹自動巻エンジンCal.324に大改造を加えて、名称も刷新されて新型は無理でも新世代エンジンとは名乗れそうな画期的ムーブメントだ。判り易い2大特徴は、パテックがずっと採用に及び腰だったハック(時刻調整時秒針停止)機能の搭載、ならびにカレンダー早送り操作時における禁止時間帯の撤廃である。その他詳細は繰り返しになるので過去記事(後半部分)をご覧頂きたい。
この新世代エンジンは、従来のCal.324を搭載していたノーチラスやアクアノートのシンプルモデルに現在どんどん換装されているが、全くのニューモデルに(複雑機能の無い)ベースムーブメント状態で積まれるのは今回の5226が初めてだ。だから後ろ姿の撮影はマストだったのだ。でも27mmのムーブメントを40mmのケースで包むと裏ベゼルとガラス部分のバランスがチョッと厳しい。パテックの流儀でベゼル部への刻印も一切ないので余計だ。個人的には他ブランドも含めて、そろそろ何でもかんでも裏スケルトンは見直すべき時期だと思う。
直径:27.0mm 厚み:3.3mm 部品点数:212個 石数:30個 受け:6枚
パワーリザーブ:最小35時間、最大45時間
テンプ:ジャイロマックス 髭ゼンマイ:Spiromax®(Silinvar®製)
振動数:28,800振動
ローター:21金ローター反時計廻り片方向巻上(裏蓋側より)
尚、ムーブについての過去関連記事はコチラから
文責 撮影:乾 画像修正:新田
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