パテック フィリップに夢中

パテック フィリップ正規取扱店「カサブランカ奈良」のブランド紹介ブログ

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「トリスを飲んでHawaiiへ行こう!」は1961年の寿屋(現サントリー)のキャンペーン広告コピー。当時僅か2歳児に過ぎなかったが、なぜか鮮烈な記憶で残っている。当時若干20歳で新人ドリンカーとなられた先輩方も早80代半ばであり、現役バリバリの吞兵衛世代の方々には全く意味不明のエピソードだろう。だが今回紹介の最新型ワールドタイムの実機操作中、至極当然に「パテックを持ってHawaiiに行こう!」と思いついたので、ここはお付き合いいただくしかない。実はスイスには職業がら毎年のように通ったが、過去の海外訪問地は多くない。実はハワイも未訪問でビックリされたりする。ずっと南国の楽園には食指が動かなかったが、最近は食わず嫌いは止めて一度は訪れてみようかなどとも思っていた。そこにこの飛んでもないワールドタイムの出現である。行きも帰りもこの時計の醍醐味を手っ取り早く味う為に日本から日付変更線をまたいでの旅となると、最短の五つ星クラスの目的地は間違いなくHawaiiという事になるだろう。余談ながら還暦越えの今日まで"Hawaii"ではなくずっと"Hawai"で末尾の i は一個だと信じていた。実機撮影時点ですら「パテックはひょっとしたら大変なミステイクをしでかしたのではないかと・・」本気でドキドキと心配したほどだ。そんなわけでRef.5330は興味深いその出自は後回しにして、約70点の新規追加パーツが組み込まれ特許取得された手品の様なカレンダー機能を真っ先に見てゆきたい。

10時位置のワンプッシュスタイルで短針を時計回りに進ませる。と同時にシティリングと24時間リングは反時計回りに一方通行で回し続けるのがおなじみのパテック方式。その実用的なワンウェイスタイルにカレンダー機能はそもそも馴染まないと思っていた。仮にカレンダー機能を付加するならば他ブランドの様に逆進用プッシュボタンを8時位置辺りに追加するしかないと信じていた。その為に実機を操作するまでは必要に応じてのカレンダーの早送り操作も覚悟をしていた。正直便利なのか面倒なのかという疑心暗鬼すらあった。と、こ、ろ、が、である。松田優作の「なんじゃぁ~、こりゃ~」だったのである。さすがに永久や年次等の特殊なカレンダーウオッチではないので小の月超えにはケアが必要だが、時差修正に関しての日付変更は全自動ノーケアの無頓着でいられる。実機を操作すればシンプルな僅かなルールで成り立っている事が判り、素直に理解できる。まず一つ目のルール、日付は24時間リングのお月様マーク(0時=24時)が時計真上の12時位置に来れば翌日に進む。ところがシティリングの日付変更線マーク(AUCKLANDの"N"あたりの赤いドット)がその12時位置を超える際には前日に戻る。そして1959年にワールドタイムの魔術師と呼びたいジュネーブの著名時計師ルイ・コティエ氏考案の特許であるワンプッシュ一方向回転時差修正機構がこれらをまとめて制御する。一方向とは地球の自転方向で北極側から見て反時計回りだ。考案から60数年後にベストマッチングなカレンダー機構とペアリングするとは大御所も想像出来なかっただろう。実際に画像で説明を試みよう。ただ解り難い、説明下手、100%自信ありまへん。
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サイズ的にとても見づらくてご容赦、一応クリックで拡大します。左側はシティリングの天辺はTOKYOなのでタイムゾーンは日本時間。時計の時分針は12時正午を指している状態。しかし赤い"TOKYO"は実に見難い。日の丸限定にちなんだ赤が濃い目の紫に実に良く溶け込むのだ。画像右側の10時位置なら充分見やすいが、上方からの光源でシャドウ気味になる12時位置で読みづらいTOKYOはこの時計の数少ない弱点だ。それはさておきボタン4PUSHでタイムゾーンは4時間分進むので午後4時のMIDWAY、右側状態になる。ところが午後3時のAUCKLANDとMIDWAYの間には、これまた見づらい極小の赤丸で示された日付変更線マークがあって最後の1PUSHでバックデイトした日付は6日となる。文字盤最外周部を指し示すのは先端に(これまた少し見難い)赤いポインターデイトを有する透明な日付針だ。この特殊なスケルトン針は雑誌クロノスの記事によれば切断面の仕上がりの関係でお馴染みのサファイアガラス製ではなくミネラルガラス製との事だ。

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さてここからはまるで手品?なので落ち着いて集中願いたい。先程の前日6日夕方4時(16時)のMIDWAY時間帯から、さらに反時計回りひたすら東に地球の自転方向に追い付け追い越せでプッシュを重ねると、1PUSHで17時Hawaii、2PUSHで18時ANCHORAGE・・8PUSHで0時B.AIRESで24時間リングの三日月マーク(深夜0時)が天辺に来て、あららっ!見事に日付は7日に進んだ。日付針は此処から15PUSH(15時間進む)はずっと7日を指し続ける。そしてその途中の12PUSH目で正午12時TOKYOとなる。見事に地球を一周して無事に振り出しに戻ったわけだ。下手くそな説明なので深く考えず次に進みませう。

なんせ約70点もの複雑なメカニズムが織りなすカラクリ的芸術なので詳しい構造説明はご容赦下さいナ。ともかく難しい事は考えずにアナタの到着地時間帯の記載都市名まで単純にぷっしゅ、プッシュ、PUSH・・・それでイイのだ。あとは時間も日付も5330にお任せナノダ。実は此処が凄い。考えなくてイイというパテックの一方通行逆進なしがエライ!大多数の他ブランドが採用する+ボタン(進む)&-ボタン(戻す)のダブルボタン方式はどっちを押すか頭に地球儀を描いた上で間違いなく操作する必要がある。時差ボケの時はもとより正気であっても結構厳しい。較べてパテックのONE WAY方式だとプッシュ回数が多くなったり、行き過ぎてもう一周分の追加プッシュというデメリットもあるが、間違えたり混乱してフリーズなんて事にならない。AWAYで泥酔して乗り込んだタクシーに「自宅(HOME)まで!」とさえお願いすれば、道順などの面倒臭い説明は不要なのである。爆睡zzzz無事ご帰還となる頼もしい便名がパテック フィリップ航空Ref.5330便なのである。

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時計の天辺12時位置に対してシティリングの日付変更線マークで後退する日付、24時間リング(時分針と連動)の深夜三日月マーク越えは日付前進。それならば上図の様にボタン1PUSHで両者が同時超えとなったらどうなる。AUKLAND時間帯で23時台(画像は23時半)状態で1プッシュすればMIDWAYタイムゾーンの深夜0時台(0時半)になるが、両リングの日付に関する前進と後退の両要因が打消しあって結果的に日付は変わらない。この状態(例えば天辺TOKYOの日本時間帯で午後8時半)でのぷっしゅ、プッシュ・・はひたすらむなしい。まるでボタン操作の耐久検査にしかならず、シオカラトンボの儚く透き通った羽根の様な芸術的日付針は打ち震える事さえしない。なおボタンの押し加減というか感触は従来のワールドタイムモデルとほぼ変わらずとても良く、耐久検査が苦になる事は無い。文字盤に隠されたメカニズムは水面下の白鳥の脚の様に複雑な仕事をしているはずなのに・・。他ブランドのワールドタイムで泣きたいくらい残念な感触を味わった事はございませんか?皆さん。 ついでに褒めておきたいのが日付早送り調整コレクターボタンの感触だ。たまたま良い個体に当たったのかは知れないが、過去触ったパテックの中でピカイチの心地よさ。スコッ、スコッ、スコッ、全く変な遊びが無くリニアなクリック感は『バターにナイフ』と評されるポルシェのマニュアルシフトゲートの恍惚感に近いとは大袈裟か。

書いている当人もしばしば混乱しながらの時間差旅行とはこの辺りでおさらばして、別角度からもこの傑作を見てゆきたい。
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ケース形状は従来のワールドタイムモデルとは異なる。かといって既視感の無い全くのおニューでも無い。横顔が酷似しているのが右側のRef.5212Aカラトラバ・ウィークリー・カレンダーだ。今春の新製品Ref.5224Rカラトラバ・トラベルタイム(とても個性的な24時間表示タイプ)もそのケース形状から同族と言えよう。いづれも個性的な顔は似ても似つかないけれど体形がそっくりな3兄弟の様だ。どうもティエリー・スターン社長が陣頭指揮を取るようになってから、このような新しいケースデザインへの挑戦が増えたように思える。1段の段付ラグからすっきり繋がるシンプルなドーム状のケース側面からの印象は、ほっこりと緩めのカジュアル。前作?の現代ワールドタイム第3世代Ref.5230凛々しく少々エッジの効き過ぎた?スーツ御用達ウォッチであった事を思えば、コーディネートの巾が広がって実にパテック的なゆるめのフォルムに仕上がっている。

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6月中旬に開催された" Watch Art Grand Exhibition東京2023"。この日本では初めての一大イベントで注目の的だったのが6点の『東京2023スペシャル・エディション』なる限定モデルだ。この中で個人的にじわじわとやられてしまったのが今回の5330だった。その特別な出自を嫌でも判らせる特別な装飾『PATEK PHILLIPE TOKYO』が施されたサファイアクリスタルバック。フロステッド仕上げによるグレーカラーの文字は、小ぶりなマイクロローター採用で銀色の受けや地板が広い背景となって目立ちにくいのだが、個人的にはこの控え目感は好もしい。でも開催年『2023』の表示が無いのは一体どうした事だろう。
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公式HPで確認可能な2019年秋開催のシンガポールでのグランド・エキシビションでリリースされた同様の限定モデル(画像左)にはしっかり年号が入っている。さらにほぼ同時期に落成した最新工場PP6の記念限定Ref.6007A-001(画像中央)ではフルローターの背景に白色転写プリント仕様の限定各表現が少々うるさいくらいだ。下方の『2019』の年号表示も勿論しっかり目立っている。この限定モデルは2020年4月に大々的なお披露目イベントを現地で開催し発表の予定だった。ところが2月からの急速な新型コロナ感染拡大でイベントはドタキャンとなり、6月にWEBにてバタバタと発表され、我々も実機を拝めぬままエクスクルーシブな販売をした経緯がある。新型コロナ禍によるこの未曾有の発表延期ショックが、開催時期が見通し辛くなってしまったTOKYOバージョンから敢えて年号を外した理由だったのだろうか。面白いのはパンデミックがまだまだ暴れまくっていた2021年12月に発表のノーチラス5711/1Aのティファニーコラボレーション限定(画像右)では年号が主役よろしくド真ん中に表示されている。これはパンデミックと相性の悪い集客イベントを伴わないリリースだったからなのか。こう見てゆくとパテックでは異例と言えそうな年号無し仕様は、人類を揺さぶった歴史が封じ込められた超稀少バージョンという見方が出来そうだ。2025年開催予定のミラノ限定の仕様が早くも気になるところだ。
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新宿の初見では、少々視認性に躊躇したのだが、プッシュ、PUSHで実用性抜群のワールドタイム新機構に感動してから惚れ込んだ一本。過去のグランド・エキシビション・スペシャル・エディションに於いてコンプリケーションのカテゴリ―絞りで、5330の様に斬新な新規機能を搭載したモデルが発表された記憶が無い。特殊な超絶グランド・コンプリケーション(2017ニューヨーク系譜のRef.5531、2019シンガポール系譜のRef.5303や東京Ref.5308等)ではなく、パテックファン全てが購入検討可能なベターゾーンからの提案が好印象だ。「えっ!日本市場の300人しかチャンスが無いのに・・」と嘆く事なかれ。きっと近いタイミングで、恐らく2024年の春?いや早ければ今秋とかにも新製品としてレギュラー追加が有りそうな予感がする。色目次第ではローズゴールド素材でのバリエーションも充分有りそうだ。待てよ!そうなると早晩Ref.5230Pは生産中止でレアモデルの殿堂入り確定なのか。レアハンド・クロワゾネ仕様の5330は一体いつ頃から投入されるのか? どこまでも興味の種が尽きないワールドタイムは、まるでパテックメゾンの屋台骨を支える重要な梁の様な存在と言えるのではないだろうか。

Ref.5331G-010

ケース径:40.0mm ケース厚:11.77mm(ガラス~ラグ)、11.57mm(ガラス~ガラス) 
ラグ×美錠幅:20×16mm 防水:3気圧
ケースバリエーション:WG
文字盤:真鍮、プラム・カラー、中央に手仕上げギョシェ装飾
ストラップ:ブリリアント(艶有り)ブラックアリゲーター、プラム・カラーの手縫い仕様
バックル:18金WGフォールドオーバークラスプ
価格:お問い合わせください

Caliber 240 HU C

自動巻日付指針付ワールドタイム
直径:30.5mm 厚み:4.58mm 部品点数:306個 石数:37個 
パワーリザーブ:最少38時間、最大48時間
テンプ:Gyromax® 髭ゼンマイ:Spiromax®(Silinvar®製)
振動数:21,600振動 ローター:22金マイクロローター反時計廻り片方向巻上(裏蓋側より)

文責・撮影:乾 画像修正:新田

諸事情で長期お休みを頂戴していたブログは、本人もビックリの約半年ぶりの記事公開となる。この間のパテック フィリップの話題と言えば6月中旬に新宿で開催された" Watch Art Grand Exhibition東京2023"に尽きる。2021年開催予定が新型コロナ禍で延期を余儀なくされたが、過去最大の規模で大盛況のうち成功裏に終了した。自分自身も週末2回に渡り延べ6日訪問したが、見尽くせた感を持てない程に質も量も凄かった。開催前からこの一大イベントをどのようにブログ紹介しようかと思い悩んでいたが、現実があまりにも壮大過ぎて構想の取っ掛かりが掴めず早々と断念してしまった。今後日本限定モデルなどの実機紹介の機会を得られれば出来れば撮像も含めてトライしてみたい。
さて今回ご紹介するのは"Watch Art Grand Exhibition東京2023"でも強烈なインパクトを放っていた40種のレア・ハンドクラフト群と遺伝子を同じくする特殊で希少なモデル永久カレンダー Ref.5160/500G-001。レア・ハンドクラフト技法の一つである彫金(エングレービング)が裏蓋に至るまで見事に施されたカタログ掲載モデル二つの内の一つである。もう1型としてRef.6002スカイムーン・トゥールビヨンというダブルフェースの超絶グランド・コンプリケーションがあり、ケースだけでなく針にも彫金が施されているが、やはりレア・ハンドクラフトを代表する七宝(クロワゾネやシャンルヴェ)技法との共演と言うべき装いを纏っており、手彫金技法単独のカタログ(定番)代表モデルは、現在5160が唯一と言って差支え無いと思う。
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5160で採用されている日付表示レトログラード形式の永久カレンダーをパテックは相当古くからラインナップしていた。最古かどうかは不明だがWrisitwatches(アラン・バンベリー共著)には1937年製手巻モデル(860 183)が紹介されている。ちなみにレトログラードとは一日から月末(30日や31日)まで針で一日づつ指し進め、月末から翌日(翌月1日)への切り替わりが目にも止まらぬスピードで瞬時に戻る機構を言う。この機構は日付や曜日などのカレンダー表示に限らず、時・分・秒など様々に多くのブランドで採用されている。レトログラード機構で知名度が高くその認知向上に最も貢献したのは1980年台から90年台にかけてチャールズ・ジェラルド・ジェンタ(ラグジュアリースポーツ生みの父)が自身のブランドでミッキーマウスをモチーフに製作した時計だと思う。レトログラードは見た目の面白さの反面、一般的に機械トラブルに見舞われる欠点が指摘されている。機械式クロノグラフのリセットやミニット・リピーターの打刻、はたまたデイトジャスト瞬時日送りも全てバネのダイナミックな力を使うために単純な歯車回転の時計運針とは次元の異なる機械的ストレスを抱えている。それゆえ極論を言えば壊れる覚悟はある程度必要なのだ。その為か堅実さと実用性を重んじるパテックでのレトログラード表示採用は非常に少ない。現行では前述の彫金カタログモデル2型に加えて永久カレンダー、ミニット・リピーターRef.5316の3型にすぎない。なお一ヶ月に一回だけで1年にたった12回しか瞬時帰針しないパテックの日付レトログラードモデルは壊れにくいと言えそうだ。かつて見かけた多針の秒運針レトログラード(0~20、20~40、40~60(0)秒を3本の針でリレー形式で担う)は休む事を知らずに常に落下リスクと背中合わせの空中ブランコのあやうさを感じた。

この時計の生い立ちに話を戻そう。手元資料でさかのぼるに1998年デビューのRef.5059がフルローター自動巻レトログラード永久カレンダー+オフィサーケースのルーツと思われる。その後2007年には現在のパテックを代表するフルローター自動巻エンジンCal.324にレトログラード永久カレンダーモジュールを組込んだRef.5159が発表された。このモデルをベースにエングレーブを駆使して製作されたレア・ハンドクラフトモデルが2016年から生産されている5160である。
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年代順に過去3モデルを並べてみる。まずは基本的な文字盤レイアウトが現行の5160に至るまで、ほぼ1世紀に渡って変わっていない事に驚く。多少突っ込んでみると最も古い左端の860 183だけ秒針が6時位置でのスモールセコンド配置の為にアワーマーカー表示が部分的に削られていている。また時分針と日付表示針それぞれにデザイン的なメリハリが弱くて視認性に物足りなさを感じてしまう。過去3モデルに共通しているのは日付のアラビア(算用)数字の主張が強い為か時刻(アワー)にローマンインデックスを採用しバランスを取っている点だ。現行の5160はこの流れに乗っからずアラビア数字のブレゲ書体を肉厚モリモリの植字で時刻を表示している。さらに文字盤の最外周部に5分刻みで表示されるミニットインデックスもアラビア数字。書体の使い分けは好き好きだと思うが、個人的にはアラビア数字一辺倒ながらも絶妙なデザインバランスを実現している5160が大変好もしく思う。従来通りのローマン使いだとケースの彫金との相乗効果?でクラシック過ぎる仕上がりになっていたかもしれない。尚、リープイヤー表示は日付インデックスと隣接している為なのかどのモデルもローマ数字でメリハリが効かされている。
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この時計の正面というのは文字盤側か裏蓋側なのかと混乱するぐらいに見惚れてしまう見事な手彫金。彫り込まれた谷部分がシャドウで暗く落ち込み、尾根というか元の平原部分が光ったハイライト状に写っている。しかし部分的にライティングをいじった2時位から6時位にかけての陰影は、全く逆転している。どちらが正しいとか良し悪しとかでなく、昼と夜、屋内と屋外で魅力的な顔を様々に持っている時計なのだ。興味深いのはジュネーブPPミュージアム所蔵の懐中時計から着想を得ている図案のモチーフである。植物由来の唐草文様に見えるが、水の流れが生み出す渦や波の様にも見える。自然界に普遍的に或るモチーフなので写実的でリアリティが有りそうだが、始まりや終わりや上下左右も無い点で抽象的なモチーフだと言える。刺青やタトゥーの図案として洋の東西を問わず非常に古くから用いられ親しまれてきた意匠にも通づるものがありそうだ。自分自身の体をキャンバスにする事は難しくとも愛用品にスピリチュアルな想いに通じる鎧を纏わせたい気持ちは大いに理解できる。

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折畳み式バックル部にはブランドを象徴する4つの百合の花を組み合わせたカラトラバ十字が彫り込まれている。玉ねぎ形状のリューズ中央には2つの勾玉が追いかけっこするタイチーマーク(太極図)が有り、精神的な想いがそこ此処に見られる。頑丈な作りの裏蓋開閉用のヒンジ部はなぜか彫金仕様ではない。ケースサイドとラグへの彫金紋様は狭い事もあってかアッサリとしている。
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個人的に意外なのがラグの裏側4ヶ所と12時・6時両方のラグに挟まれたケースサイド部分2か所は彫金が省かれている事だ。特にラグ部分はダイアル側と裏蓋側に潔よすぎる境界線を引いてスッパリと縁を切るように装飾が突然終わっている。大地震でぶった切られた無残な高速道路の記憶がフラッシュバックするのは私だけだろうか。着用時に見られにくいエリアであっても、オーナー自身の鑑賞の喜びが削がれる様で少し残念だ。

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ハンター仕様の裏蓋は10時辺りに爪状に設けられた出っ張りを引っぱって簡単に開けられる。内側は見慣れたCal.324の裏スケルトンでムーブメントに特別な彫金仕上げなされている訳では無い。でも普段隠されている物を抉じ開けて鑑賞するというアクションが特別であり、サファイヤガラス廻りの控えめな彫金とその外側に円周状ヘアラインサテン仕上げ面、開かれた裏蓋内側の完璧な鏡面仕上げと外周縁部のサテン、これら総ての絶妙なバランスが素晴らしい。初めて見る時は勿論だが、ベールを開ける度に感動を覚えられそうなオーナー特権がありそうだ。
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まさに鏡面!、歪が全く無く実際にミラーとして使用できるだろう。現行モデルでハンター構造の裏蓋仕様は5160の他にRef.5227が有り、裏蓋の内側は5160同様に見事なポリッシュ仕上げとされている。ただ異なるのは刻印が一切ない事だ。5160はポリッシュ仕上げの美しさを主張しつつ出自が控えめに外側円周状に刻印されている。リファレンス(5160/500)やケース固有番号(画像は修正加工有)が記されるパテックはごく一部のモデルを例外として大変珍しい。大半のパテックで裏スケルトン越しに読み取れるのは機械固有番号だ。面白いのは5160に共通するハンター構造を継承したと思われるカラトラバRef.5153や永久カレンダーRef.5159もほぼ同様の刻印が裏蓋内側になされていたが、その位置は中央寄りの特等席的ポジションで鏡面仕上げの美観を最優先に意識したものでは無い。残念ながら比較が容易な画像が無い点をご容赦願いたい。
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中央に裏蓋同様のモチーフが手彫金されている文字盤側についてもう少し。カタログや公式HP画像で見る限りブレゲ数字のアップリケインデックス、時分針、さらに先端が赤三角の日付指針は全てが、黒に限りなく近い濃いグレーに見える。秒針は上の左画像ではブラックアウトして黒っぽいが鏡面仕上げの銀色だ。それ以外は現物を何度じっくり見ても判然としない。右画像でインデックスはまず黒く着色されている様だが、秒針以外の3本針は銀色っぽく光って何とも判り辛いが恐らくインデックスと同色の黒で間違いないだろう。この謎解きは悩ましいが同時に楽しみでもある。パテックには同様の謎を持つ時計が結構多いので機会が有れば是非チャレンジして頂きたい。
カタログ掲載の定番として希少なレア・ハンドクラフトモデルは、ノーチラスの様に誰もが希望するオールマイティーな人気とは異なり、正真正銘の王道パテックコレクターにとっての超人気モデルである。名称通り"レア"なのでともかく生産個数が限られる。作らないのでは無く、作りたくても数作れない。ニッチな世界だけれど購入ハードルはスポーツモデルの比ではなく高い。勿論、店頭に販売用在庫が並んだ記憶もない。明確な基準は無いが、ともかく馴染の正規販売店でVIP顧客になる事から始まるとしか言いようが無い。でも人気のスポーツモデル購入プロセスにも共通するが、最終的な購入は"運と縁"の結果であって、決してそれだけを目的として、そこに至る手段として他モデルを付随的に購入されるのは本末転倒な気がする。バリエーション豊かに様々なパテックにほれ込んで収集した結果として気付いたらVIPになっていて、レアハンド自らが居心地の良い住処を求めて手元にやって来ていた。なんてゆうのが理想だ。

Ref.5160/500-001

ケース径:38mm ケース厚:11.79mm 
ラグ×美錠幅:20×16mm 防水:3気圧
ケースバリエーション:WGのみ
文字盤:18金文字盤、シルバー・オパーリン文字盤、ゴールド植字ブレゲ数字
ストラップ:マット(艶無し)ブラック手縫いアリゲーター
バックル:18金WGフォールドオーバークラスプ
手彫金:文字盤中央、ケース、ハンター構造の裏蓋、折畳みバックルにハンドエングレービング
価格:お問い合わせください

Caliber 324 S QR

自動巻レトログラード日付指針付永久カレンダー
直径:28mm 厚み:5.35mm 部品点数:361個 石数:30個 
パワーリザーブ:最少35時間-最大45時間
テンプ:ジャイロマックス 髭ゼンマイ:Spiromax®(Silinvar®製)
振動数:28,800振動 
ローター:21金センターフルローター反時計廻り片方向巻上(裏蓋側より)

PATEK PHILIPPE INTERNATONAL MAGAZINE Vol.Ⅱ No.01
Wristwatches Martin Huber & Alan Banbery
文責・撮影:乾
画像修正:新田



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まさかこのミノルタをブログ用に撮影する事になろうとは思わなかった。記憶に定かではないが祖父が存命だった1970年代頃、実家で愛用されていたファミリーカメラで、当時のミノルタはニコンやキャノンを上回る国産カメラ最高峰ブランドだった。現在は法人そのものが存続しておらず、ソニーにそのカメラ事業の遺伝子は受け継がれている。この35mm銀塩フィルムカメラが小学生だった私に写真の面白さを目覚めさせてくれたのだった。もう今は壊れてしまいガラクタに過ぎないが断捨離がかなわず今に至っている。
なぜこんなかび臭いぼろカメラを紹介するのかは、もうお判りであろう。今春パテックがリリースした新製品に採用され非常に大きな話題を巻き起こした文字盤のデザイン的ルーツとされたからだ。ザラザラでデコボコなまるで像の皮膚を思わせる黒いカメラボディを模したダイアルはパテックだけで無く他ブランドも含め全くの初見である。
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いやいや何とも斬新でダイナミックな面構えである。本来はカメラ本体をしっかり保持して、手振れを防ぐための滑り止め表面加工なのである。外装の為の専用仕上げを普段触れる事が出来ない内側のパーツである文字盤に施すという意外性が、今までに無かった不思議な魅力を生み出した。昨今のパテックが好んで採用しているアラビア数字フォントのインデックス、並びにシリンジなる聞きなれない表現の注射器形状の時分針もアナログ時代のカメライメージと妙にマッチしている。蓄光タイプの夜光塗料が施されたインデックスと時分針、転写プリントのブランドロゴとカレンダー日付、(恐らく?)焼付け塗装仕上げであろう秒針、これらすべての色が見事に統一されている。モニターの画像では分かりづらいが、その色目はヴィンテージコンセプトにふさわしい微妙な紫外線焼けを感じるエイジングカラーとなっている。渋くてにくい。
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先程、黒いカメラボディと書いたが、正確に真っ黒なのは凸凹仕様の最外周部のみであって、センター部の複雑なダークグレーから外側に向かってグラデーションしながら濃度を増して真っ黒へと変容している。このブラック・グラデーションと呼ばれる塗装職人の熟練の手技は、これまた昨今のパテックで多々見られる流行りの文字盤芸だ。尚、このグラデーションは文字盤に光が当てられた状態で正面から向き合うと最大の見え方となる。ところが暗めの室内で斜め45度辺りから見ると凹凸の無い平板で均一な黒い別人の顔を見せる。撮影し忘れたけど・・怪しく魅惑的な表情変化だ。一見すると新機軸で意表を突いた表面加工ばかりに眼がゆくが、シンプルでありながら深くて高度な技を駆使する文字盤へのこだわりはパテック伝統のお家芸だろう。
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何ともあまいフォーカス、何処にもピントが合っていない。ご容赦いただいて特徴的な横顔の紹介。ベゼル装飾としておなじみのクルー・ド・パリ(ミラミッド文様の繰返し)をケースサイドに使っているのは現行モデルではグランドマスター・チャイムRef.6300とワールドタイム・ミニット・リピーターRef.5531の超絶系グランドコンプリケーション2モデルのみ。今新作5226は時計機能としては3針カレンダーのいわゆるベーシックとかエントリーと言うべき入口的なモデルである。にもかかわらずブランドの最上位レベルの外装仕様が与えられている。特筆すべきはこの手作業のギョシェマシンによるクルー・ド・パリ装飾がケース外周に途切れなく全周に渡って施されている事だ。それが為にストラップを固定する4つのラグは特殊仕様としてケースバックと一体型で鍛造削り出しで作られている。この仕様でなつかしく思い出すのはクルー・ド・パリつながりのカラトラバの名作Ref.5119(生産中止)である。ただし同機では華奢なラグがケースバックにロウ付けされていた。
凝った造りの今作のケースは完全な新規設計で、クラシックな装飾が施されながらもとてもカジュアルな印象である。まったく新しい仕上げのダイアルやインデックスなどもカジュアル路線であり、デフォルトで装着されるヌバック仕上げのカーフストラップが一層そのイメージを高めている。また同梱されるファブリック柄を型押しした黒いカーフストラップは汚れが目立ちにくい点で個人的にはお勧めだ。
100年ぶりのパンデミックである新型コロナ下でビジネスシーンでのドレスコードが大きくカジュアル方向に振れた影響もあってか、腕時計デザインもスポーティーやカジュアルがより一層求められている様に思う。ラグジュアリースポーツの雄であるノーチラス等がその代表選手なのだが、オーセンティックでドレスアップ御用達であったカラトラバにも今作の様な提案がされるようになった。よくある事ながら今回紹介の5226も初見では、さほど自分自身の琴線に触れる時計では無かった。むしろ同じデザインコンセプトのダブルコンプリケーションである年次カレンダー・トラベルタイムRef.5326に完成度の高さを感じていた。でも個人的な諸事情で腕に負担の少ない軽量で、近頃仕事着にしている作務衣にも合うバタ臭過ぎない時計として5226は気になって来ている時計だ。でも結構なお値段以上に人気のハードルが高すぎて当分コレクションになる事は無さそうだ。最後に引きの画像で時計全体をご覧頂いて・・
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Ref.5226G-001
ケース径:40mm ケース厚:8.53mm ラグ×美錠幅:21×16mm 防水:3気圧
ケースバリエーション:、WGのみ 
文字盤:ブラック・グラデーションのテクスチャード・ラック・アントラサイト
インデックス:夜光付ゴールド植字アラビア数字
ストラップ:手縫いヌバック仕上げベージュ・カーフスキン(装着)、 手縫いエンボス加工ファブリック柄ブラック・カーフスキン(同梱) ピンバックル
価格:お問い合わせください

Caliber 26-330 S C
画像はパテック公式のものである。すっかり撮り忘れていた。このムーブメントは2019年初出のウィークリィー・カレンダーRef.5212でお目見えした。基幹自動巻エンジンCal.324に大改造を加えて、名称も刷新されて新型は無理でも新世代エンジンとは名乗れそうな画期的ムーブメントだ。判り易い2大特徴は、パテックがずっと採用に及び腰だったハック(時刻調整時秒針停止)機能の搭載、ならびにカレンダー早送り操作時における禁止時間帯の撤廃である。その他詳細は繰り返しになるので過去記事(後半部分)をご覧頂きたい。
この新世代エンジンは、従来のCal.324を搭載していたノーチラスやアクアノートのシンプルモデルに現在どんどん換装されているが、全くのニューモデルに(複雑機能の無い)ベースムーブメント状態で積まれるのは今回の5226が初めてだ。だから後ろ姿の撮影はマストだったのだ。でも27mmのムーブメントを40mmのケースで包むと裏ベゼルとガラス部分のバランスがチョッと厳しい。パテックの流儀でベゼル部への刻印も一切ないので余計だ。個人的には他ブランドも含めて、そろそろ何でもかんでも裏スケルトンは見直すべき時期だと思う。
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直径:27.0mm 厚み:3.3mm 部品点数:212個 石数:30個 受け:6枚
パワーリザーブ:最小35時間、最大45時間
テンプ:ジャイロマックス 髭ゼンマイ:Spiromax®(Silinvar®製)
振動数:28,800振動
ローター:21金ローター反時計廻り片方向巻上(裏蓋側より)
尚、ムーブについての過去関連記事はコチラから

文責 撮影:乾 画像修正:新田

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最初にお断りから、現物は上の画像の何十倍も素敵な芸術品だ。鏡面仕上げの時分針はわざと真っ黒(ブラックアウト)に写してパテックのロゴに重ねた。日本列島を始め中国・東南アジアをカバーするユーラシア大陸極東部と豪州大陸や島しょ部を出来るだけ露出したかったからだ。しかし創意工夫も鋭意努力も報われず何とも頂けない結果だ。でも今年発表の新製品のワールドタイム・クロワゾネが今年度早速入荷し、撮影出来た幸運を喜ばずにはいられない。地道にコツコツと(購入店の)浮気をせず、フラれてもフラれても求愛をし続けるドン・キホーテのようにいつかはクロワゾネと思い続けていただいた顧客様に感謝申し上げるよりない。相当登り応えのある秀峰である事には間違いないが、登っても登っても見えてこない山頂、或いは辿り着けないピークではけっして無いと思っている。
今作に連なる現代クロワゾネ文字盤ワールドタイムの始まりは2008年発表のRef.5131からで、2019年には後継モデルの5231がYG素材でリリースされた。その詳細は入荷のご縁があって2020年6月にブログアップしている。再読すると結構書き込んでいるし、画像も数段見栄えがして、自らの過去記事がトラウマになるなんて。はて?今更、何を綴ればよいのやら。
少しだけ歴史的なおさらいをすると・・パテックにおけるワールドタイムには結構長い休眠期間があった。記憶違いでなければ1966年から1999年までの三十数年間は生産された様子が無い。ワールドタイムと同系列上にあると個人的には思っているトラベルタイムにもほぼ重なる空白期間があった。同じような空白期間はミニット・リピーターにも有るが、二十数年(1958年頃~1981年)で少し短い。いづれも1969年セイコー・初代アストロンから始まったクォーツショック等によるスイス機械式時計受難の時期と重なる。ところが永久カレンダーとクロノグラフ、特にその競演たる永久カレンダー・クロノグラフには、生産量の減少はあったが明確な空白期間は見当たらない。これらの違いは何なのだろう。それぞれのコンプリケーション(複雑機能)に対する市場の需要度合いの違いでは無さそうだと思っている。
この20世紀後半の約40年間というのは世界大戦の荒廃から勝者も敗者も関わりなく復興発展し、グローバリゼーションが急速に伸展して、相対的に地球がどんどん小さくなった時期である。腕時計の実用性からすれば永久カレンダー・クロノグラフよりもGMT機能(ワールドタイムやトラベルタイム)こそがずっと求められたはずだ。これはパテックに限った話では無いと思うが、この機械式時計受難ひいてはスイス時計産業暗黒時代でも少数ながら腕時計愛好家は存在し、実用面では無く趣味的かつ審美的に選択されたのが永久カレンダー・クロノグラフだったのだろう。逆にミニット・リピーターは浮世離れが凄すぎたのかもしれない。それでも1980年代にはGMT系に先駆けてミニット・リピーターの再生産が始まっている。これは当時の経営トップであったフィリップ・スターン氏の戦略的な狼煙だったと思っている。機械式複雑時計などが壊滅的な状況下でこそ目立つハイエンドモデルの提案でブランドの孤高化を狙ったのだろう。まったく上手く説明出来ないが自分自身は腑に落ちているので・・
さてパテックがそれまでに無い完全な新規実用的カレンダー機能として年次カレンダーを発表したのが1996年。その後実用的なリバイバル機能として1997年にはトラベルタイムが、2000年にはやっとワールドタイムの現代版が発表された。1990年代からミレニアムを経て2010年くらいまではスイス機械式時計の復興期であり、各ブランドが20世紀前半に自らが確立していた機械式時計の技術レベルにキャッチアップに勤しんだ20年弱だった。一方で携帯電話の萌芽と発展、さらにはスマートフォンの誕生と普及時期ともほぼシンクロしているのが興味深い。アナログな時計本来の実用性が益々薄れていったのと相反して、一旦冬眠状態にあった機械式時計の様々な機能が見直され復活し充実した。なんか逆説的で皮肉っぽいがクォーツショックを乗り越えて復活出来た機械式時計に取って、そもそも携帯やスマホは共存するもので、もはや敵対したり置き換わったりするものでは無かったのだろう。恐らくアップルウオッチも同類であって、実用的側面を超越した存在価値を獲得した高価格帯の機械式時計の近未来は明るい・・・と個人的には確信している。

今回の撮影画像はどれもが眠くてシャキっと感がないのだけれど自業自得なのでしょうがない。でも他には無いから嫌でも使わざるを得ない。クロワゾネ(有線七宝)等のエナメル技法は滅多に拝める機会はない。だから僅かな機会が有れば、それはもう穴が開くほど観察をする。まずは肉眼とキズミ(ルーペ)で色々な角度の光を当てながら見る。さらに撮影した画像を拡大して見るのだが、いつも答えは同じで"実際の工房で一から十まで全作業工程をつぶさに見なければ本当のところは判らない!"という事だ。パテック社の公開資料やインターナショナルマガジンの記事、一般の様々なウンチクやら情報などは大変参考にはなってもどこまでも百聞であって、工房での一見には遥かに及ばないのだ。現在の自分自身のコンディションでは物理的にそれは難しいけれども、そもそも社外のエナメル職人が請け負って自身のアトリエで孤高(ナイショで?)に製作される事も多い特殊すぎる文字盤。その製作工程がそう簡単に誰でも見られるとも思えない。仮にPP社での内製化が進んでいたとしても全てをつぶさに見せてくれるとも思い難い。
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カメラによる撮像は時として肉眼で見る実像を上回る。正確には上回る様な気がするだけで、実際には肉眼には絶対にかなわないと思っている。それどころか時々誤解を生むような表現を呈する事もある。上画像はクロワゾネエナメル部分の表面感を捉える為に撮ったもの。手仕事ならではの焼けムラを狙ったものだ。それなりのムラは撮れたけれども、色々と問題がある。クロワゾネ部分の外周部分の細い金の土手?5時から7時辺りに汚れ状の青色の釉薬の塗りムラらしきものが見えるが原因不明の映り込みであり、現物ではありえない。また昼夜ディスクの夜間部分の地色も美しい濃青色に画像上は見えるが、実際には黒色である。ところが白い昼間部分に転写プリントされた数字は見た通りの青だ。ちなみにその外側のシティーリングの各都市名も青っぽく見えるが黒で正解。ダイアルの特殊な表情を追い求めたライティングが意図しない虚実混沌を生んでしまった。
しかしパテックのシリコン転写プリントの肉厚仕上がりにはいつも感心してしまう。上の画像からもそれは見て取れるが、"これは空飛ぶ絨毯か?"としか思えないのが下画像のPATEK PHILIPPE GENEVEロゴだ。真っ青な太平洋に純白の転写プリントの筏が浮かんでいるようにしか見えない。
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それぞれのアルファベット文字の下にくっきりと影が見える。単純に海を表現した青色釉薬が焼結した表面に直接転写印字しても影など出来るはずが無い。これはクロワゾネ七宝による彩色工程終了後に仕上げとしてフォンダンと呼ばれる透明釉薬の焼結と研磨をおこない分厚い透明な表面層を作り、その上からロゴを転写して作られた巧妙なマジックなのだ。カタログや公式HPの商品紹介画像でもこの部分は表現されていない。上の画像でもかなり拡大して初めて気づいた。パテックの七宝系文字盤をじっくり手に取って見る機会は我々もけっして多くないが、今後の大事な観察ポイントで間違いないだろう。尚、のっぺりした印象の表面感ながらオーソドックスなライティングをした下画像では、ほぼ忠実な色表現となっている。
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北海道が樺太サハリンと陸続き、本州も四国も九州も分裂前とは、有史以前の古地図ですか? 当たり前の事ながら大胆すぎるデフォルメがクロワゾネの表現では必須となる。勿論手作業による金線の輪郭も個体ごとに微妙に異なるだろう。緑色の平野部分から黄色さらには茶色の山地へと溶け合った釉薬のグラデーション表現も一点一点が焼き上がり次第であって、当の七宝職人(作家と言うべきか)さえもその想像には限界がありそうだ。
ところで今作の東南アジアとオセアニアのみにフォーカスしたモチーフは記憶の限り初見である。今やとんでもない落札額が当たり前になった1950年前後のアンティークなワールドタイム・クロワゾネ地図シリーズ。実に多様なエリアがモチーフにされてきた印象があったが、改めて色々繰ってみると実は手元の資料ではそんなに多彩では無さそうだ。
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①ユーラシア大陸とアフリカに加えてオセアニアという広域、③ヨーロッパ全域、④北米大陸、以上3エリアの個体が多いようだ。②南米大陸など他のバージョンもありそうだがあまり見かけない。そもそも当時生産された個体数が30年弱で約400個とされているので同じ個体を色んな資料で何度も見ている印象だ。興味深いのはこれらアンティーク時代には見掛けなかったエリアが現代ワールドタイム・クロワゾネには採用されている事だ。
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2008年発表の⑤Ref.5131Jは、過去見た事有りそうで記憶にない大西洋を中心に右にヨーロッパとアフリカ、左に南北アメリカが描かれた。翌2009年発表のWG素材バリエーションの⑥Ref.5131Gは往年のユーラシア、アフリカとオセアニアだったが、2015年の⑦RGのバージョンでは太平洋を挟んでアジア、オセアニアと南北アメリカ。2017年にPT素材の金属ブレスレット仕様で追加された⑧Ref.5131/1Pは意表を突く北極を中心に北米とユーラシアの両大陸北方が初めてモチーフとされた。そして最新の⑨Ref.5231でも大西洋を中心に右にヨーロッパとアフリカ、左に南北アメリカのモチーフがYG素材でまず発表された。だが今回紹介の⑩WG素材バリエーションでは東南アジア+オセアニアというお初のモチーフが選ばれた。日本国民としては日本列島が12時の直下という主役的な位置取りは心地よい。相対するオーストラリアのポジションも悪くないだろう。ただ中国は内陸部で切られていてかすかに微妙な印象だ。大層かもしれないが地政学的には少し課題が残る地図取りではないかと心配してしまう。台湾という島の存在も"目立っても、そうでなくても"気を揉みそうで居心地の悪さがある。ともかく地球上をどこでも好き放題に切り取れる平和な時代が続く事を祈らずにいられない。

レア・ハンドクラフトのテーマは、いつも苦労する事になる。タイムピースよりもアートピースの側面が強いからだろうか。書き手以上に読み手はさらにつらいのかもしれない。ワールドタイムのクロワゾネ地図シリーズもエリアのモチーフは見掛ける資料以上に実は多彩な様だ。先日パテック社の公式インスタグラムはメキシコエリアにフォーカスしたクロワゾネのアンティーク置き時計を紹介していた。このように全貌と言うものは掴みようが無い気がする。恐らく大半のパテックの関係者ですらそれは難しいのではないか。勿論地図シリーズ以外にも動植物や風景などバリエーションは一杯ある。うろ覚えだけれども・・ジュネーブのミュージアムにも大量に展示されていた記憶は無い。いつかどこかで嫌になるほどお目にかかれる機会というのは、たぶん無いのだろうなァ。

Ref.5231G-001
ケース径:38.5mm ケース厚:10.23mm 
ラグ×美錠幅:20×16mm 防水:3気圧
ケースバリエーション:WGのみ
文字盤:18金文字盤、クロワゾネ七宝エナメル(中央にオセアニア・東南アジア)
ストラップ:マット(艶無し)ネイビーブルー手縫いアリゲーター
バックル:18金WGフォールドオーバークラスプ
価格:お問い合わせください

Caliber 240 HU

直径:27.5mm 厚み:3.88mm 部品点数:239個 石数:33個 
パワーリザーブ:最低48時間
テンプ:ジャイロマックス 髭ゼンマイ:Spiromax®(Silinvar®製)
振動数:21,600振動 
ローター:22金マイクロローター反時計廻り片方向巻上(裏蓋側より)

PATEK PHILIPPE INTERNATONAL MAGAZINE Vol.Ⅱ No.01
Wristwatches Martin Huber & Alan Banbery
文責・撮影:乾






先頃生産中止が決定されたノーチラス・フライバック・クロノグラフ・トラベルタイムRef.5990のステンレスモデルは、2014年から長きに渡り生産されたロングセラーモデルだった。特に此処2年程前からは人気が急上昇して購入がドンドンと困難なモデルとなっていた。昨春にはローズゴールドの素材追加モデルが発表され、一年のランニングチェンジを経てバトンを譲った訳だ。
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この時計で印象的なのは何と言ってもグラマラスな厚みだ。ケース厚12.53mmはパテックの最厚モデルではないし、デカ厚トレンドがまだまだ巾を利かせている現時点で一般的に厚過ぎる時計とは言えないだろう。だが8mm台の薄いケースで装着感の良さをノーチラスに与えようとしたジェラルド・ジェンタの設計思想からすれば"結構厚いナァ"という話だ。パテックの時計作りは決して薄さ至上主義ではない。しかし装着感の良さを追求する点で、出来れば薄い方が望ましいと考えている。よってムーブメント設計も強度を保った上での薄さを求めている。厚さ話のついでに最新カタログ2020-2021で厚さランキング表(上位・下位の各5位)を作ってみた。全部をチェックした訳では無いので、たぶん?というええ加減な表ではある。そして実に見難く解り難い。
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切れ味の鈍い頭でアレコレと考えた結果、作った本人しかあまり利用価値の無さそうな表になった。品番の素材や枝番と基本キャリバーも後半部分をバッサリ省略した。自動巻Mとはマイクロローター搭載の略である。まあ折角作ったし、スタッフの協力も有ったので・・参考までに本稿末尾に全体の表も掲載しておく。因みに今回紹介の5990/1の12.53mmはケース厚14番目でコレクション全体では決して厚すぎる訳では無い。但し、ノーチラスの中では最厚である。上の表で意外なのは年次カレンダー・フライバック・クロノグラフRef.5905が第5位の厚みを持っている事で、多分にフルローター自動巻に垂直クラッチが組み合わさった構造の基本キャリバー CH 28-520の厚さ6.63mmに年次カレンダー・モジュールが乗っかるとこうなる訳だ。薄い方ではクオーツ搭載のレディスでは無く、機械式しかも自動巻を積んだメンズが薄さで1~3位を占めている事だ。さすがのキャリバー240、"極薄"と称されるだけの事は有る。
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上の画像で両者の厚みがデフォルメされている様に見えるが、比率は実寸比の3:1程度となっている。この両極の中に全コレクションの厚みが収まっている。今回の作表は素材違いや文字盤違い等のいわゆるコスメティックのチェンジモデルを無視した個人的基準でケース形状バリエーションを独断で84種とした。最新カタログ掲載モデル数が151点(懐中時計除く)なので、二つに一つは別のケースという事になって、パテックの多品種少量生産がうかがえる。生産効率は当然ながら非常に悪いだろう。そう考えればパテックの価格設定は決して高すぎるとは思えない。ただ、すみません。他ブランドを殆ど考察していません。手始めにAPの公式HPを見に行ったのですが、何と言うか疲れてしまいましたので・・
尚、個人的にケース厚9mm~12mm台は現代の時計として普通の厚みと考えていて、今回の考察の場合は84種中39種で約半分。薄さ際立つ8mm台以下が35種も有って、厚めな13mmアップがたった10種しかない。ちなみに世の中にはピアジェの様に3mm台と限界の薄さに挑戦するブランドもあるが、パテックは実用的な強度からか極端な薄型を作ってはいないけれど全般に薄く仕上げられている。ずっと気になって仕方ないのが電話での問い合わせや店頭商談の際に、皆さんケース径は気にされても、ケースの厚みを話題にする方が殆どおられない。でもサクッと見にいったロレックス・オメガ・リシャール等のHPで径は有るが、厚さ表示が見当たらない現状なら仕方の無いことかもしれない。ナンデヤネン?
ところで薄いケースは着け心地に貢献すると言われているが、必ずしもそうとは言えない気がする。幸運にも最薄ケースのゴールデン・エリプス(ディスコンの5.8mm厚Ref.3738)を愛用しているが、ケース径も小さめなので少しでも緩めに着用すると自由自在にスルスルとどこにでも、あっちこっちへと腕の廻りを散歩するのでしょっちゅう手首の上に戻してやる事になる。腕廻りの形状が特別仕様という事も無い。小型で薄型のエリプスに限らず腕時計はどれもこれも12時側に行きたがる。ブレス調整時に駒取りを工夫したり、皮ベルトの12時側と6時側を入れ替えたり、長さを別誂えしたりと様々に工夫する事二十数年になるが、納得できる回答は得られていない。個人的に言えば、トゥールビヨンやリピーターの様な超複雑機能よりも常に手首の上で理想のポジションを保ち続ける構造を開発して欲しいのだ。時計業界のノーベル賞ものだと思うのだが、どうだろうか。
この時計の強烈な印象はまだ他にもあって、「天地間違えてすみません!」という奴だ。本稿の5990は12時位置に6時側と同サイズのインダイアルが配されるのだが、恐らく3時位置に日付窓が無く6時側にブランドロゴが有る為なのか、天地がひっくり返っても違和感が無い。現実に何度かご納品時にうっかり逆向きで差し出す事が何度も有った。
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パテックには同様のダイアルレイアウトのモデルが現行でRef.6300グランドマスター・チャイムとRef.5235レギュレーター・タイプ年次カレンダーの2モデルある。どちらも同様に間違えそうな顔だが、ショーケース内の鎮座を拝むだけで触る機会さえ無いグランドマスター・チャイムへの心配は杞憂でしかない。年次カレンダーも危なそうだが、曜日と月(month)表示窓が10時と2時辺りに有るので大丈夫なのだ。文字盤デザインはかくもデリケートで難しいものである。その事を過去最高に強く教えてくれたのが5990だ。
そして多少ネガティブな事ながら、リセットプッシュボタンがチョッと曲者というのがある。このモデルのプッシュボタン形状が結構横長な為に引き起こされる現象で、ボタン中央をまっすぐ押さずに両側どちらかに片寄って押してしまうとクロノグラフ秒針が"バシッ!"と0位置にキッチリ戻らず、変な位置に"フワッ"とだらしなく止まる現象が稀に起きる。当店は仕入検品で何度か初期不良として返品をした苦い経験があるが、結局この現象はノーチラスのケースにCal.CH28-520系を搭載し、特徴的な長方形プッシュボタンを組み合わせた場合、少しだけデリケートに操作すべき注意事項であるが初期不良では無い事を学んだ。
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※上の画像で左二つがプッシュボタン押し方が多少デリケートなタイプ。
故にトラベルタイムを積まないシンプルクロノグラフバージョンのRef.5980でも注意すべき留意点となる。同じエンジンを積んでいるコンプリケーションカテゴリ―の年次カレンダー・クロノグラフRef.5961はプッシュボタン形状が大きく異なり、芯でしか押せないタイプなので全く心配なさそうだ。しかし派生モデルRef.5905のボタン形状は幅広なので注意が必要だ。ところがアクアノートのクロノグラフRef.5968も形状的にはいかにも危なそうで何度か試してみたが、ケースにプッシュボタンが少し埋もれる構造のお陰?なのか大丈夫そうだ。でも過去に販売したSSの5990でこの現象のご指摘を受けた事は皆無で、普通に使っていれば問題はないのでご心配なく、万が一遭遇しても決して慌てないで下さいというお話。

今回も時計そのものには殆ど触れず、結構ネガティブな辛口気味の紹介となった。でもラグジュアリースポーツジャンルを代表するノーチラスコレクションのダブルコンプリケーションがローズゴールドに滅茶苦茶映えるブルーカラーのダイアルでの登場は話題にならないはずがない。実に軽く1,000万円を超える価格にも関わらずこのモデルの人気は凄まじく中々新規のご納品が困難である。受注もどこまでお応え出来るのか・・まあ昨年後半からシリーズに関わらずパテックのメンズは品不足が激しい。入荷が決して悪いのではなく、ご購入希望が非常に増えている為だ。今年になってからはレディスモデルもかなり厳しくなっている。そんな状況下で世界を震撼させる紛争が勃発し"すわっ!入荷アブナイ"と心臓が止まりそうになったが、今のところパテックの日本向け物流は止まっていない。でもまたしても地震が東北を襲うし、ラグジュアリーブランドの異様とも言える好況感とは裏腹に世界も日本も実にきな臭い事になって来た。新製品発表直前の今は、どうかこれ以上何にも起こらない事を願うばかりである。


Ref.5990/1R-001
ノーチラス・トラベルタイム・クロノグラフ
ケース径:40.5mm(10-4時) ケース厚:12.53mm 防水:12気圧
ケースバリエーション:RGのみ
文字盤:ブルー・ソレイユ 夜行付ローズゴールド植字インデックス
ブレスレット:ノーチラス折畳み式バックル付きローズゴールド3連ブレス 
価格:お問い合わせください

Caliber CH 28-520 C FUS
トラベルタイム機構付きコラムホイール搭載フルローター自動巻フライバック・クロノグラフムーブメント
直径:31mm 厚み:6.95mm 部品点数:370個 石数:34個 
パワーリザーブ:最小45時間-最大55時間(クロノグラフ作動時とも)
テンプ:ジャイロマックス 髭ゼンマイ:Spiromax®(Silinvar®製)
振動数:28,800振動
ローター:21金ローター反時計廻り片方向巻上(裏蓋側より)

撮影、文責:乾

付表:品番別ケース厚一覧(非公式・我流) ※自動巻Mはマイクロローター搭載の意味case84.gif

5711_1a_014.png右手に障害が結構残っているので腕時計の各種操作がままならない。とは言っても自分の時計だけは、何とか無理やり左手も使ったりして時刻調整をしている。特別な箸で食事もゆっくり摂ったりしているわけで全く使えない事も無い。楽しく時に苦労もする実機時計の撮影もたぶん無理なのだろうと思っていたが、退院後取り敢えず愛用時計から試して、どうにか簡単なカットなら時計によっては何とか撮れそうかもとなった。
で、最初がパテック今年最大の話題作ステンレススチール製3針ノーチラスの緑文字盤の実機撮影という幸運から再出発する事になった。撮像の出来栄えは、「あチャ~!」ピントが少々甘かった。しかし小傷がほぼ無い素晴らしい個体コンディションのおかげで結構満足の絵が撮れた。当店直近にお住いのごく親しい顧客様のご愛用品を、ご厚意によって撮影協力頂いた賜物。本当にありがとうございました。ご購入当初は普通に着用されていたらしいが、最近は繁華街とかには着用がためらわれるらしい。そりゃそうだ!2次マーケットをググる度に"驚愕"をこえ"寒気"がしてくる。
ノーチラスはとても撮りやすい時計で助かるが、緑の色目の出方がカメラのモニターでは判然としなかった。幸いPCモニターではまずまずの再現が得られホッとした。ところが原稿を書きながらPP公式サイトの画像と較べると相当に色目の差が有る。だいぶ違う。どちらが正しいのか。いや、これは見え方の差であって、いずれも正しい気がする。公式サイトの画像は思いっきり太陽光が当った感じだ。正式な色名称のオリーブグリーンの表記通りで抹茶系の色目とも言える。しかしながら室内のやや暗めの光源下では今春生産中止になったブラックブルー同様に、非常にダークで若干青味を帯びた複雑かつ色気の或る緑色と化す。残念ながら起稿中の今現在手元には無いので現物の再確認が叶わない。
実はこの原稿を書き始めたのは11月の下旬頃だった。手指のせいで恐ろしく遅筆になった事、11月末頃から12月が思いのほかバタバタした事、しかもありがたい事にその殆どがパテック絡みの商いだった。そんなこんな理由付けも有るのだが、一体何を続けて書けば良いのかネタ切れが書き進められない大きな理由だった。
時計そのものはとうの昔に紹介済み。それ以降での5711がらみの大きなトピックスは、エンジンがCal.324 S Cからストップセコンド機構新規搭載を始め様々な大幅改良がなされたCal.26-330 S Cへ積み換えられた事だろう。この新ムーブメントは2019年新作のウィークリー・カレンダーRef.5212Aのベースキャリバーとして初めて搭載されたもので、これまた昨年度モデル紹介時に詳しく書き込んでいる。さて何を書き綴ればよいものか、思い悩みながらアレコレと言い訳の日々が過ぎ、このまま越年かと思いきや、"5711ラストイヤー"を締めくくるかの様に"GOOD BYE 5711"モデルですか?というティファニー・コラボ170本限定Ref.5711/1A-018などと言うとんでもない物が発表された。さらにその最初の1本がチャリティー目的のオークションとして、12月11日にティファニー本店所在地であるニューヨークで、オークションハウス:フィリップスにより、予想落札価格5万ドルの約130倍650万3500ドル(約7億3489万5500円、1ドル=113.4円、2021年12月11日現在)という驚愕の金額で落札されたのだ。ちなみにwebChronosの12月14日同18日26日の記事が詳しい。
本稿の書き出しは春本番に発表された"これでおしまいのはずだった5711"のグリーンダイアルであったが、実はおしまいでは無く、年末にさらにこれでもかのサプライズ爆弾が仕込まれていた訳で、これについては色々思うところ多々あって、全部なんもかんもひっくるめて5711話を書く事がラストイヤーの年の瀬に相応しいという事になってしまった。

5711_1A_018tf_b.png画像はPHILLIPSサイトのPressページから頂戴した。同サイトをさらに深く見てゆくと同日に限定では無い廃番になったノーマルの5711/1Aのブラック・ブルー(010)とシルバー・ホワイト(011※画像には表示無)もオークションに出品されていた。
20211211PH5711_3.pngnew-old-stockは辞書で新古品とある。いわゆる転売なのだろうが、その辺りの詮索は置いといて、誰が考えても安すぎるEstimateもほっといて、青と白が約28万ドルと約23万ドル(同上円換算、青3200万円弱、白2600万円弱)。また今回冒頭でご紹介の緑(枝番014)も初夏の頃だったかオークション実績の記憶が有って約5400万円だったはず。パテックのリファレンス毎の年産制限数は非公表ながら1,000本程度と想像していて、仮に014が最大の1,000本だとしてもティファニーダブルネーム(同018)170本の6倍には満たない。だが落札額は14倍弱となる。う~ん、直感的には018が高すぎ!と思った無理やり比較だが、チョッと待てよ。所有権が登録されたブランド固有の著名なカラーリングをダイアルに採用している事。さらには一旦これでおしまい?のパテック製品の最終ダブルネームで有る事。それらを考慮してゆくとこれは決して法外な馬鹿騒ぎハイパーインフレ落札では無いのかもしれない気がしてきた。
青(最終枝番010)は2006年~2020年の14年間で仮にフル生産されていれば最大14,000本、同一の考察で白(011)は2012年~2019年の最大7,000本と想像している。この2色は稀少度合いと落札価格が逆転しており、青人気の凄さを裏付けている。その青だが018の80倍以上生産された可能性を考えれば、約3,200万円という落札額がいかに凄まじいかが判る。あくまで個人的な結論ながら、一見信じ難い落札金額のティファニー限定018や、皆が度肝を抜かされた今春の緑014よりもノーマルの青010や白011の方が今現在は資産価値が有りそうにも見える。ただ将来的には稀少性に応じた価格に収れんして行くのではないだろうか。確かに2021年2月の生産中止発表で青010の2次マーケット価格は急上昇した。そりゃ生産打ち止めなので当然ではある。しかしそれにしても他のノーチラス等も含めて、今はあまりにも異常なプレミアが付き過ぎていると思う。間違いなく何かおかしい!
※上記の青・白ノーチラスの金額は、市中の2次マーケット価格は無視している。あくまでティファニーとのダブルネームノーチラスとの比較の為に12月11日落札額を採用した。
しかしそれにしてもパテックとティファニーの久々のコラボ、しかも超人気モデルのフィナーレとしての特別演出は何故なのだろう。確かにティファニーとパテックの蜜月と言うのは半端では無いのは良く解る。創業者の一人であるアントワーヌ・ノルベール・ド・パテックがニューヨークのティファニーを訪れたのが取引き開始3年後の1854年。それぞれの創業から15年、17年しかたっておらず、まだまだ誕生間も無く血気盛んなファウンダー同志が馬が合ってスタートしたパートナーシップだったと想像できる。ティファニーは1870年代には自社ブランドの時計事業をヨーロッパにも拡大すべく、微妙ながらパテック社のお膝元ジュネーブに時計工場を建設するが、わずか4年でこのプロジェクトは頓挫した。パテックはその際にも、その後始末に関わり手を差し伸べている。その名残(駄賃と言うべきか)が、今もジュネーブのパテック本店サロンに鎮座している巨大な金庫である。1900年代前半の米著名時計収集家のヘンリー・グレーブス・ジュニアもティファニーを通じての購入で重厚なコレクションを築いた。
ダブルネームについては昔はロレックス、ヴァシュロンコンスタンタン、オーディマピゲ等の様々な名門時計ブランドも含めて地域一番店等とのダブルネームが普通に有った。それだけ川下の小売店が力強く自らをブランディングしていた時代があったのだ。あぁ、何と羨ましい!今や小売店舗と著名時計ブランドとのダブルネームコラボは、皆無では無いにせよ耳にする事がほぼ無い。そんな背景からしても今回のパテック&ティファニーのコラボの稀少性は大きい訳だ。なぜその発表タイミングに違和感を感じるかと言うと、ティファニーは紆余曲折を経て2021年初めにルイ・ヴィトンを筆頭にした仏高級ブランドのコングロマリットであるLVMHグループに円換算1兆6千億円ほどで完全買収されている
からだ。同グループはウブロ・ゼニス・ブルガリ・タグホイヤー等を擁する一大時計ブランド群も保有しており、我々から見るとパテックの競合先であり、決してお友達の立場とは思えない。買収決定時には、今後のティファニー各店舗内でのパテック商品の取扱いはどうなるのだろう?と思ったほどだ。しかしよくよく考えてみると買収交渉中にはとてもダブルネームを出せる様な友好的買収劇では無く、双方が裁判沙汰に持ち込んだ泥沼仕合だった。
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HODINKEEの記事によればこのノーチラスの裏蓋のサファイヤクリスタル・バックには両社のパートナーシップを意味する幾つかの刻印がなされていて、その中の"1851-2021"部分の最後の"1"には"LVMH"と隠し文字?まで確認出来る画像が掲載されている。この解釈として同記事は、今後も変わる事の無いティファニーとのパートナーシップの証であるとしている。その通りであれば今後も節目のアニバーサリーイヤーには同様のダブルネームウオッチがリリースされても不思議は無い。でも本当にそんな事になるのだろうか。個人的には凄く違和感があって、今後のダブルネームは簡単には出して欲しくないのが本音だ。だいぶ前にニューヨークのティファニー本店を訪ねパテックの売り場を視察したが、色々な点でガッカリがあった。詳細は省くが他の米国内ティファニー店舗でのパテック販売に関しても興味深いお話を顧客様から聞く事があった。アメリカのリアル小売業全般の問題点の様な気もするが、ティファニーも経営的に大丈夫ですか?感はずっと持っていた。だからLVMHへの移行完了をもってパートナーシップ解消が決定したので、個人的には特別なダブルネームを170年連れ添ったベターハーフへの格別なる慰謝料!としたのだろうと解釈した。ティエリー・スターン社長の大盤振る舞い。スゴイ!と思ったのですが・・
それにしても買収企業名の隠し文字、それも"1"の数字に横書きでは無く、実に不思議な縦書きの4文字が妙に離れて記されているのが、全く隠し文字ではなくてどちらかと言うと妙に目立っている。これではまるで慰謝料の帯封に別れたパートナーの再婚相手のイニシャルを印刷しているようではないか。どうも今後の展開が読めなくなってきて、アレコレ探っていたら米ニュースメディアCNBCにティエリー・スターン社長の動画コメント付きの下記の記事が有った。
『パテック フィリップは、170人の幸運なバイヤーのために時計の「聖杯」を復活させました』
この記事を見て結論として思うのは、5711ティファニー・ブルー限定はダブルではなく限りなくトリプルネームだったのではないか。パテック社は2019年から米市場で正規販売店約160店舗を大胆に見直し、現在(2021/12/26)の公式サイトでは実に65店舗にまで絞り込んでいる。憶測ながらティエリー社長は最近のティファニーに微妙な印象を持っていて、実はアルノー家がファミリービジネスとして展開しているLVMH対して、ラグジュアリーメゾンとしてティファニーを傘下に収めてくれる優秀なホワイトナイトの様な印象を持ったのではないだろうか。もしそうであれば今後もダブルかトリプルかは知らないがコラボモデルの可能性は有るかもしれない。でも全米で95店舗もあるティファニーの内、パテックを扱っているのは今回の限定ダブルネームを売る3店舗(ニューヨーク本店、ビバリーヒルズ、サンフランシスコ)に加えてホノルルのロイヤルハワイアン店のたったの4店舗しかない。一方では大鉈を振いながら、スイス人がこんなに義理堅いとは知らなかった。
いずれにしてもノーチラス5711/1Aは完全に終わりだと確信した。まてよ、RGの3針5711/1Rはまだラインナップに踏み留まっているぞ。しかしもうすぐに年度切り換えの2月だ。生産終了発表もある。個人的な勝手予想は、一旦RGもドロップして数年の冷却期間を空けて、コロナも落ち着いたら後継機種Ref.6711とかが発表されればナァ、とか思う新年の今日この頃でございます。そう気が付けば年が明けての公開となってしまった。本年も長文になりがちな拙ブログですが、どうか宜しくお付き合い下さい。

一応備忘録代わりにスペックも
Ref.5711/1A-014
ケース径:40.0mm(10時ー4時方向) ケース厚:8.3mm
防水:12気圧
ケースバリエーション:SSの他にRG 
文字盤:オリーブグリーン・ソレイユ 夜光付ゴールド植字インデックス
Caliber 26-330 S C
自動巻ムーブメント センターセコンド、日付表示
直径:27mm 厚み:3.30mm 部品点数:212個 石数:30個
※ケーシング径:26.6mm
パワーリザーブ:最低35時間~最大45時間
テンプ:ジャイロマックス 髭ゼンマイ:Spiromax®(Silinvar®製)
振動数:28,800振動
ローター:21金ローター反時計廻り片方向巻上(裏蓋側より)

Ref.5711/1A-018
※ティファニー・コラボ限定は文字盤とケースバック・サファイヤクリスタルのみ上記と異なるという事で・・

余談ながら或るお客様からお聞きしたのが、ノーチラス・ティファニーブルーの高額落札を受けて、ロレックスのオイスターパーペチュアルSSのターコイズブルーダイアルの2次マーケット価格が異常に高騰しているというお話。確かに色々ググるとエライ事になっていました。コレはもう全く理由がわかりません。

文責、撮影:乾

今年は11月頭にオンリーウオッチのオークションが過去同様ジュネーブで開催される。オンリーウオッチとは難病であるデュシェンヌ型筋ジストロフィー症におかされた息子を持った父親が、その難病克服研究の資金を賄うべく、2005年以降の奇数年に開催している時計のチャリティーオークションである。各著名(ニッチもあるけど・・)ブランドが、一点物のユニークピースを出品し、落札額の99%がその難病研究プロジェクトに投じられるという一大イベントだ。
パテックはその常連であり、知る限り毎回最高落札額となっていて、貢献度合いNO.1である。ちなみに前回2019年度はグランドマスター・チャイムRef.6300のステンレスバージョンを出品し、2名の落札者が競り合って邦貨換算30数億円という記録的な価格で落札された。ちなみにカタログに掲載される同一モデルのWGはザックリ3億円なので、とんでもないプレミア価格だ。ちなみに今年のオンリーウオッチとしてパテックが用意したのはコチラの伝説的デスククロック。落札予想価格はCHF400,000(123.61円換算で49,444,000円)なので、今回は天井知らずの競り合いにはなり難そうな?玄人向けの選択をしてきた感がある。
そんなことより此処しばらく110円台で動きの少なかったスイスフランに対してえらい円安が進んでいた事にビックリした。現コロナ禍で空前のヒートアップとなっているパテックを筆頭とした高級時計の人気状況と併せて価格改定が有るかもしれない。
閑話休題。オークション向けの特殊モデルを新製品と言えるかは別として、今年の新製品は6月のグランド・コンプリケーションのミニット・リピーター4点迄で終了かと思っていたら、まさかのクロノグラフ3点が先月発表された。さすがに年度末(2022年1月末)まで3ヶ月を切って、さらに今後の新製品発表は無いと思われる。6月の4点についてはあまりにも超絶系だったので記事にしなかった。今回も全て広い意味でのコスメティックチェンジ(既存モデルの派生バージョン)なのでパスしようかと思ったが、1点だけ予想を遥かに上回るお問い合わせを頂いたステンレスモデルについて遅ればせながら雑談風に印象を述べたい。
5905_1A_001_8.png年次カレンダー搭載フライバック・クロノグラフRef5905の初出は2015年だが、2006年に発表されたRef.5960Pのマイナーチェンジを受けた後継機なので、個人的にはもう15年もたったのかという時の流れを感じざるを得ない。特に2014年から2018年迄の短期間に生産された5960/1Aが、最高にプレシャスな素材であるプラチナからパテックのコンプリケーションカテゴリ―では、滅多にラインナップされないステンレスへと驚愕の素材変更コスメチェンジモデルとして印象的で、今回は後釜SSモデルがトレンドカラーの緑を纏ってデジャブの様に再来してきた。これがファーストインプレッションである。
今年のグリーントレンドはチョッとどうしたの?と言うぐらいブランドを問わず多作である。先日、2年ぶりぐらいに大阪市内に買い物に行ったが、アパレルもカーキのオンパレードだった。これは果たしてコロナ禍癒しのヒーリンググリーンなのか。はたまたパンデミックと戦うミリタリーグリーンなのか。当店のイメージカラーもグリーンなのだが、個人的には少しゲップが込み上げてくるホウレン草を食べ過ぎたポパイの心境だ。今回紹介モデルの緑の色目について、良し悪しや好き嫌いの判断はモニターチェックのみなので実機待ちとする。
で、ここから辛口も混ざった個人評価となる。時計そのものはスッキリと言う意味では5905でも良いのだが、スチール素材が持つスポーティーな質感をより際立たせるならパワーリザーブとクロノグラフに同軸12時間計が加わった2針表示を持つ5961の顔で5960/1200A(/1Aは後述のブレス違い理由で使用不可っぽいので)なんぞと言うリファレンスにした方が個人的にはストンと言う感じだ。5905顔はSSにはチョッとエレガントなんですよ。そしてブレスレットが全く同じでは無いのだろうけれど、どう見てもアクアノートのブレスにしか見えない。以前の5960/1A系は5連ブレスで現行モデルではRef.5270/1R5204/1Rに採用されているタイプだった。これら一連の5連ブレス(仕様は微妙に異なっている)は、今回の3連中駒サテン仕上げのスポーティーなアクアノートタイプより、5連フルポリッシュ仕上げと言う点でもずっとエレガントだ。何が言いたいのかと言うと、ステンレスで敢えて5905にするならエレガントに優る5連ポリッシュブレスレットが良かったと思う。でもベストチョイスは5961の顔でオリーブグリーンカラーに3連のアクアノートタイプブレスレットならグッと締まった戦闘的な面構えのステンレスモデルになったのではないかと思う。
5905_1A_001_12.pngしかしである。そんな事はおかまいなしに"鉄"の人気は想像以上で、公式HP発表の1時間後に顧客から最初のお問い合わせ電話が入り、閉店までに追加でお二人、翌日は4人様、そしてその後もTo be continued・・・

今現在パテックとロレックスが共に異常人気である。2次マーケットで見る価格もうなぎのぼりであり尋常では無い。コロナ禍が原因でごく一部の高級な時計と車に、裕福層の行き場を失った手元資金が集中している為だと思われる。それらに共通するのは物として楽しめて、いつになっても資産価値が減らないという安心感だろう。これは勿論"転売ヤー"と呼ばれる人達を論外として、"ロイヤルカスタマー"が保有目的でコレクションする際の普通の心理だと思う。
だが突出している2ブランドには様々な共通点もあるが、決定的に大きな違いがある。それはラインナップの素材構成比率とそれに起因する生産数量が大きく異なっている事だ。ロレックスは年間生産数を公表していないが70万~100万本と世間では推測されている。そしてステンレスの構成比が圧倒的多数で、私見ながら半分以上ではないかと思っている。参考の為、久々にロレックス公式HPを覗いて、ゴールドコレクションの数を見たが28ページもあって凄いリファレンス数で数えるのをあきらめた。SSは一体どうなっているのだろう。5年程前まで当店でもロレックスを販売していたが、物凄くラインナップが膨らんでいる様で驚いた。ロレックスの平均単価が決して安いとは言わないがステンレス主体なので、18金が主体で年産10万本以下のパテックと較べて生産数で稼ぐ必要がある。勿論年商はロレックスが多いのだろうが、この本数を製造し続ければいずれは市場に溢れてくる可能性を感じる。実際、2000年頃と較べて市中での着用者を目にする事が非常に多くなった。
実用時計の王者ロレックスの複雑時計はスカイドゥエラーに搭載される年次カレンダー迄であり、一番人気はデイトナに積まれている自動巻クロノグラフだろう。シンプルな3針カレンダーを始めどのムーブメントも非常に耐久性が高く信頼もおけるが、製造個数が多い為にバリエーションを増やすのが難しく、特に手作業が必須となる超複雑機能時計の製造は困難だろう。パテックは真逆の理由で年産数を大きく増やせない。もし仮にステンレスモデル比率を増やせばゴールドに積むムーブメントが減って、年商に影響が出る事態になりかねない。これが超人気のノーチラスとアクアノートのSSモデルが、需要を大きく下回ってしか供給されない理由なのだろう。
ところで何となくこの新作時計の製造はあまり長くないような気がする。理由はダイアルカラーの特殊性で、例えば赤や黄色の文字盤はブライトリングなど他ブランドで過去に採用実績があるが売れ筋になって長らく継続するという事が無い。緑も数年前から幾つかのブランドで前のめりトレンドとして市場投入されてはいるが絶好調とは言い難い。個人的には定番化する色目では無く、刺し色感の側面が強い様に思う。その意味に於いて今すぐゲットして腕に巻くべき旬のモデルなのだろう。

Ref.5905/1A-001 年次カレンダー搭載フライバック・クロノグラフ

ケース径:42mm ケース厚:14.13mm ラグ×美錠幅:22×16mm 
防水:3気圧
ケースバリエーション:SS
文字盤:オリーブグリーン・ソレイユ ゴールド植字バーインデックス
ブレスレット:ステンレススチール仕様 両観音フォールドオーバークラスプ 

搭載されるキャリバーCal.CH 28-520は、それまで頑なに手巻きの水平クラッチに拘っていたパテックのクロノグラフ史を2006年に塗り替えたエポックメイキングなエンジンである。前年発表の完全自社クロノキャリバーCal.CHR 27-525は確かに最初の100%自社製造ではあったが、それまでの伝統的製造手法でコツコツと工房で少量生産される手作り的エンジンであり、搭載されるタイムピースも商品というより作品と呼ばれるのがふさわしいユニークピースばかりだ。対してCal.CH 28-520は、"シリーズ生産"と呼ばれる或る程度の工場量産をにらんだ商業的エンジンであり、パテック フィリップが新しいクロノグラフの歴史を刻み込むために満を持して誕生させた自信作だ。
パテックの自社クロノキャリバー3兄弟の価格は、その搭載機能や構成部品点数に比例せず、どれだけの手仕事が盛り込まれているかで決定される。金銭感覚抜群で働き者の次男CH 28-520 C(自動巻、垂直クラッチ、フライバック、部品点数327点)、次がクラシックだけどハイカラな3男坊のCH 29-535 PS(手巻き、水平クラッチ、部品点数269点)、そして金に糸目をつけない道楽な長男CHR 27-525 PS(手巻き、水平クラッチ、ラトラパンテ、部品点数252点)の順にお勘定は大変な事になってゆく。
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上記画像でローターで隠された部分は3枚の受けがあるが、この部分はどの派生キャリバーもほぼ変化が無い。それに対してテンプ左のPPシールの有る受け、さらに左の複雑なレバー類がレイアウトされた空間は派生キャリバー毎にけっこう異なる。必要なミッションに応じて搭載モジュールがダイアル側で単純にチェンジされるだけでなく裏蓋側の基幹ムーブメントへもアレコレと手が入れられている。

Caliber CH 28-520 QA 24H:年次カレンダー機構付きコラムホイール搭載フルローター自動巻フライバック・クロノグラフムーブメント

直径:33mm 厚み:7.68mm 部品点数:402個 石数:37個 受け:14枚 
パワーリザーブ:最低45時間-最長55時間(クロノグラフ作動時とも)
テンプ:ジャイロマックス 髭ゼンマイ:Spiromax®(Silinvar®製)
振動数:28,800振動
ローター:21金ローター反時計廻り片方向巻上(裏蓋側より) 

文責:乾
画像提供:パテック フィリップ

追記
リハビリを兼ねて?のPC操作なのでとにかく時間が掛かる。本稿も10月下旬から書き始めて推敲などしている内に公開が、11月も中旬となってしまった。そして公開前にONLY WATCHの落札結果記事を見つけてしまった。今年は最高落札をわざと外しにいったな、と思っていたパテック。でもやっぱり・・見事に裏切ってくれました。なんと落札予想額の19倍の950万スイスフラン(約11億7725万円、1スイスフラン=123.79円、2021年11月9日レート)、他ブランドも軒並み凄まじい落札のオンパレードだった。此処でも時計バブルは顕著なようだ。

"IN LINE"を辞書で引けば、一列とか一線となっている。さらに横一列等とは有っても"縦"的な表現は見当らない。2021新製品紹介第三弾は、パテックの腕時計としては初登場(他ブランドでも記憶に無いが・・)となるインライン永久カレンダーRef.5236P。見た目は渋くてコンサバ、地味と言う見方もあろう。しかし中身は非常に前衛的で革新的だ。

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新規で画期的な複雑機能を搭載するニューモデルは、昨今は過剰なまでにデコラティブな装飾表現でアピールするブランドが多い。3次元や複数のキャリッジを"これでもか!"と見せつけるトゥールビヨン等はその代表選手だ。保守派の代表格パテックと言えども、この手のトレンドに全く無縁では無く、"コソッと、シラッと"発表しているモデルもある。例えば2019年シンガポールでパテックが開催した"ウォッチアート・グランド・エグジビション"で現地VIP顧客向け限定モデルRef.5303R-010は、パテックらしからぬ"オープンアーキテクチャー(両面スケルトン仕様)にしてトゥールビヨン機構(裏面)とミニット・リピーターのハイライト部(ハンマー&ゴング)をこれでもか!と見せつけている。パテックにとって初めてでありながら一般的にはウルトラDとかE級の超大技を特別に協調してPRしなかった。尚、同モデルは購入不可能なシンガポール以外の顧客からの要望が強かったからか、昨年2021年夏にレギュラーモデル(と言っても購入ハードルは高いが)Ref.5303R-001が、コロナ禍もあってか粛々と発表された

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此処で話はさらに脱線して行くが、2019年のシンガポール限定モデルのリファレンス枝番が"010"で2020年の後追い定番のそれが"001"って・・・。後追い定番化が既定路線だったか否かは不明ながら、"001"が先行して開発され完成していた可能性を感じる。

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デジャヴ?この既視感?そうそうまだ有ったゾ!2017年秋にニューヨークで開催されたウォッチアート・グランド・エグジビションでは初出のグランド・コンプリケーション、ミニット・リピーター・ワールドタイムRef.5531Rが、マンハッタンの昼(010)夜(011)の顔をクロワゾネ(有線七宝)で文字盤装飾され現地向け限定モデル(たったの各5本)で発表された。そして翌年2018年春にバーゼルワールドでクロワゾネ・ダイヤル装飾部をレマン湖岸の風景に置き直した新製品Ref.5531R-001(文字盤表示改訂で現行012)が後追いリリースされた。それ以前の2014年のロンドンでは、その手の"最初はグー(001)では無くチョキ(010)"的なモデルなど無かった。毎回のように寄り道を書き連ね、アーカイブを遡り再確認し今頃やっと気付いた直近過去二回連続の超絶新機軸モデルの現地向け限定モデルの先出しリリース。こういう流れでいけば"THE WATCH ART GRAND EXHIBITION TOKYO 2022"の日本向け限定モデルに未知なる超複雑時計が、定番化(001)に先駆けてサプライズ提案(010・・)される可能性は大なのである。2022年東京のウォッチアート・グランド・エグジビションへの期待は高まるばかりなのである。

で、一体何の題材だったっけ?いや、何が書きたかったと言うと画期的なインラインでのカレンダー表示方式はオープンアーキテクチャーにしてインライン部分を横長長方形の窓枠で囲むと言う手もあったハズで、その手の表示方式なら嫌でも左右にメガネ状に分離された十位と一位の日付表示回転円盤のダイナミックな仕組みとパフォーマンスを愉しませる選択も有ったのになァ。

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もう一つの興味は、さてインライン形式の年次カレンダーを開発するのかどうか?コレはかなり否定的に見ている。そもそもパテックの年次カレンダーは、永久カレンダーモジュールの簡素化では無く、全く新規開発され1996年にデビューしている。そのデビュー時の顔は新機軸ムーブメントに呼応させて、それ以前のパテックアーカイブには全く見られない特徴的なV字型三つ目インダイヤルで新世代的パテックとしてデビューさせている。そして10年後の2006年に年次カレンダー第二世代の顔として採用されたのが、機械式時計全盛期の1900年台半ばに永久カレンダーと永久カレンダー・クロノグラフの殆どに用いられたダブルギッシェスタイルだ。文字盤中央の少し上に左右二つの窓を設け、左に曜日、右に月として日付は6時側にインダイヤル針表示と言うものである。かつてのブランドを代表するカレンダーフェイスを二の矢として投入された事は、当時パテックが如何に年次カレンダーに製品的にフォーカスしたかの証だと思う。背景には1980年代半ば以降のフィリップ・スターン現名誉会長が主導したパテックブランドの機械式複雑機能時計の復活活動の中で、恐らく偶然の結果として永久カレンダーにはダブルギッシェが採用されなかった。その事が年次カレンダー第二世代が由緒ある伝統のフェイスを纏えた理由ではなかろうか。それゆえ2017年新作としてダブルギッシェ・フェイスの永久カレンダーRef.5320発表には実は少なからずショックを受けた。このモデルは個人的にはコスパの良さを感じたし、実際販売面でも良いスタートを切ったモデルだった。以降、パテックは同じ顔を持つ年次と永久の両カレンダーモデルを併売してきた。

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実は此処んところがチョッピリ奥歯に何とか状態で引っ掛かり続けていた。現行の永久カレンダーのラインナップ(永久機能単一モデル)は極薄型自動巻Cal.240の長所を生かした針表示タイプ(Ref.532757407140)とフルローター自動巻Cal.324ベースではレトログラード日付表示タイプのRef.5160/500と前述のダブルギッシェRef.5320とあって、近年かなり整理されていた感があったところに、今回の見た目地味ながらも渋さ抜群のインライン永久カレンダー5236は投入された。大昔に大ヒットした国産スポーツ車の広告コピーに『羊の革を被った狼』と言うのが有ったが、外観は決して純正のスポーツカーでは無く、大半が4枚ドアのスポーティーな中型セダンに最新の脚と最強の心臓(エンジン)を搭載していた。但し、彼女の乗車拒否を防ぐ為?なのか、"赤頭巾ちゃん"の様な前述の"ドキッ!"とさせられたキャッチコピーとは裏腹にTVCMはいかつさとは無縁なほんわかロマンティック仕立てであったと記憶している。此処で「そう、そう、懐かしい・・」と頷いて頂けるご同輩年代層には、とあるパテック首脳陣いわく「一般的に視力の加齢からコンプリケーションはご卒業頂き、シンプルウォッチがベター・・」をアドバイスとしたい。勿論、発言者ご自身が同年代であるのは言うまでも無い。しかしながら今回のインライン形式のカレンダー表示なら我々世代でも、抜群の視認性で充分使えそうだ。話が二重に脱線してしまったが、個人的解釈としては今後パテックのダイヤルセンター窓表示系カレンダーモデルは、5320を除いて永久カレンダーはインライン、年次カレンダーは伝統のダブルギッシェと棲み分けるのでは無いだろうか。もしそうなれば5320の希少性がクローズアップされる可能性もある。

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さてプレスリリースによればこの新製品は、レギュレーター・レイアウトダイヤルの年次カレンダーRef.5235/50Rから幾つかの面でインスパイアされている。まず第一に全体的にエッジの効いた骨太かつシャープな男っぽいカラトラバシェイプのケース形状だ。これについては好き嫌い・・有るかもしれない。ダイヤルは此処ずっとパテックにお馴染みのブルーでセンターから外周に向けてブラックにグラデーションする人気の仕様ながら、凝っているのが5325/50同様に縦方向のサテン(筋目)仕上げを施してから塗装されている点で、記憶の限りではこの組合せ技は覚えが無い。シリコン転写プリントされた6時側スモールセコンド及びダイアル外周のレール状のミニットスケール(シュマン・ド・フェール)等も共通仕様。さらに大きな共通の遺伝子がムーブメント。元々5235/50Rのエンジンは個性的な専用設計で、極薄自動巻基幹ムーブメントCal.240以外で唯一マイクロローターを採用し、ムーブ心臓部のアンクルとガンギ車にはデビュー当時には試験的最先端素材であったシリコン素材を使用。さらに振動数が毎時23,040回(6.4振動、3.2Hz)という不可思議極まり無い挙動のテンプを与えられている。今回5236(やっとレファレンス番号に合点が・・)への搭載にあたっては、ベースムーブメントにも種々改造がなされ振動数は標準的なエイトビート(28,800振動)となっている。

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両者を並べて見比べるとブリッジ(受け)の数や形状が結構異なっている事が判る。最も注目すべきはマイクロローターの色目が永久カレンダーの5326Pは銀色で従来の22金ローターがアクセントカラーだったのが地板や受け同色で、これまた地味仕立て。22金より高比重のプラチナをローターに採用し、主ゼンマイの巻上げ効率を上げて複雑多様な新規カレンダー機構の駆動トルク向上を計ったのである。このプラチナ製と言うのもマイクロやフルのローター形状を問わず現行品ではパテック初(2017年ONLY WATCH 5208Tに搭載実績有)となる。ただ欲張りかも知れないが、新規改良ムーブメントのパワーリザーブが最大48時間とパテックの標準機より延ばせなかったのは、若干振動数を上げたにしても残念だ。さらに無茶な要求を言えば、カレンダーが漸次日送り式では無く小股の切れ上がった瞬時式になっていればインラインと言う表示の魅力は倍増していたであろう。そんな個人的な我が儘はともかく2019年に出願した3件のカレンダー関連の特許に加えて、同年から実機(Ref.5212ウィークリー・カレンダー等)搭載され始めた自動巻ムーブに於ける手動巻上げ時の負担を軽減する減速歯車も盛り込まれたCal.31-260 PS QLは凄く複雑なムーブである事は間違い無い。何しろ総部品点数503個というのはハンパでは無い。自動巻ベースキャリバー部分205個、インライン永久カレンダーモジュール部分が298個がその内訳だ。改良のベースエンジンとされたレギュレーター年次カレンダー5325のCal.31-260 REG QAの総点数が313個なのでザックリ年次カレンダー・モジュール部分は約100個で三分の一に過ぎない。先輩格であるマイクロローターの名キャリバー240に指針形式の永久モジュールを載せたパテックのド定番永久カレンダーRef.5327の部品総数はたった(それでも凄いが・・)275個。ダブルギッシェ永久カレンダー5320が367個。レトログラード日付表示の永久カレンダーRef.5160で361個・・・こう見てゆくと同一平面上にインラインで月と曜日に加えて日付を表示するのがどれだけ面倒くさい事かが良く解る。

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実は画像でインライン部を最初に見た時、少し残念な印象があった。それは日付の十の位と一の位の表示回転ディスクが左右に遠く離れた回転軸を持つ為に両者の間にわずかな逆エンタシス形状の隙間が妙に目立って気になってしまったのだ。画像で見る限り左側の曜日と日付及び右側の日付と月それぞれの隙間は構造上狭くて目立ち難い。さらにカレンダーと同色の白色系の隙間目隠しまで仕込まれて入る様に見える。ところが形状的により目立つ日付2桁を分ける隙間にはその手の目隠しは無さそうで、暗っぽく落ち込む為に妙に気になる印象だった。普通ならこの部分こそカモフラージュ優先度合いNo.1!のはずだし、技術的にも多分容易だろうに敢えて何もされていない。最初は不思議でしょうが無かったが、これはひょっとすると、押し付けがましく無くこの部分に無意識に視線を呼び寄せるパテックの高度な企みでは無いかと疑い始めた。そう考えると記事冒頭で触れたカレンダー各表示部に窓状の枠組み等を一切与えず、文字盤を直接土手状に面取り仕上するというシンプル極まり無い意匠を採用したのも意図的なものではないかと勝手に納得出来た。いわゆる"ビッグデイト(日付)"と呼ばれる時計が多くのブランドで造られているが、その殆どで十と一の位の表示部それぞれを囲う窓枠が設けられ仕切られている。その理由は両者の隙間を隠したい意図も有るが、両者を同一平面状にレイアウト出来るのが文字盤内で非常に限定的な位置しか無く、段差を付け部分的に重ねざるを得ない多くの場合では伊達メガネ的な窓枠が必然となる為だ。コレ、やっぱりパテックお得意のギミックなんだと思う。ただ後方二回転半ひねり・・レベルのウルトラQ技で、素人受けとは別次元で見た目とは裏腹にチョットやソッとでは模倣困難な孤高の技術的王者である事を再認識させてくれる恐るべきニューモデルのデビューだったようだ。

毎度の事ながら道草、寄り道激しく、遭難寸前の迷走となってしまった。今回は特に外ヅラからのネタが正直無さ過ぎて、来年夏(予定)に迫るTHE WATCH ART GRAND EXHIBITION TOKYO 2022と超絶系コンプリケーションの考察などして廻り道しているうちに"一見、変哲も無いモデルが実は・・"といういつもながらのパテックマジックの底無し沼に囚われてしまった。本稿はインラインカレンダー部以外を殆ど紹介していないが、そういう時計なのである。地味なインラインを主役にするという矛盾?から針もインデックス、ケース等のその他全てが主張しない脇役に徹しているので、敢えて何も書かなかった。只々、起稿前にはさほど無かった今の想いは「実機を手に取って、インラインに穴が開くまで見てみたい!」それだけで有る。

Ref.5236P-001
ケース径:41.3mm ケース厚:11.07mm 防水:3気圧
ケースバリエーション:PT
文字盤:ブラック・グラデーションのブルー、縦サテン仕上げ、ゴールド植字インデックス
裏蓋:サファイヤクリスタル・バックと通常のソリッド・ケースバックが共に付属
ストラップ:ブリリアント(艶有)・ネイビーブルーハンドステッチ・アリゲーター
バックル:PTフォールディング(Fold-over-clasp)
価格:お問い合わせください

Caliber 31-260 PS QL
直径:34mm 厚み:5.8mm 部品点数:503個 石数:55個
パワーリザーブ:最小38時間~最大48時間
テンプ:ジャイロマックス 髭ゼンマイ:Spiromax®(Silinvar®製)
振動数:28,800振動
ローター:PT製偏心マイクロローター反時計廻り片方向巻上(裏蓋側より)

文責:乾 画像:パテック フィリップ

最近、シンプルなメンズカラトラバが店頭に並ぶ事が無くなった。数年前までは考えられなかった現象だ。原因は幾つかある。まずシンプルカラトラバの"顔"と言うべき代表モデルRef.511951535296が2019年にごっそり生産中止になり、その後継モデルが発表されていない事で現在のカラトラバの選択肢は、同シリーズのマイルストーン的な手巻スモールセコンドの通称"クンロク"Ref.5196、または自動巻センターセコンド・カレンダーを裏蓋ハンターケースに搭載したRef.5227のたったの2モデル7本しかなく、ほぼ絶滅危惧種の感すらある。
ノーチラスとアクアノートの需給バランスの崩れ方も加速度的に酷くなっているが、呼応するようにパテック フィリップのブランド全体の価値そのものが上がってきている様に思われる。新型コロナ禍の様な社会不安が安全でしっかりした価値の裏付けを有す高級な時計や車に投資先を見失った手元資金が集中的に向かっているような気がする。パテックやロレックスのスポーツ系のモデル、フェラーリやポルシェの特に"役モノ"と言われる特別な車がその具体的な受け皿の様だ。
そして、最近増えて来たのが将来のノーチラスやアクアノート購入の為にパテックの購入実績が有った方が望ましいとの想定で、その取っ掛かりモデルとしてシンプルなカラトラバを希望される方が徐々に増えているのも店頭在庫を幻にしてゆく原因の一つだ。
個人的には2020年の新製品にはきっとシンプルな自動巻の3針カレンダーモデルRef.5296の後継機が用意されていたのではと予想していたが、新型コロナに水を差されて今春へと答え合わせは持ち越しとなってしまった。

そんなこんなで今やノーチ&アクアに次ぐレアシリーズとなったメンズカラトラバ。で本日のご紹介は過去にもローズゴールドでは紹介済みながら素材と文字盤の違いで"此処まで違うモデルに見えるんかい!"というパテックには時々見られる同床異夢?モデルのRef.5227G-010。
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画像ではこの時計文字盤の放つ艶っぽさは、残念ながら殆ど感じられない。それでも画像修正は相当やっていて単純な撮影だけではこの画像にはならない。この経験をすると雑誌やWEBでプロカメラマンが提供している画像が、どれほど工夫されて撮られて、いかほどに執念深い修正がなされているかが伺い知れる。
このダイアルは一般的なラッカー仕上げなのだけれどひょっとすると最近のパテックの本黒七宝文字盤よりツルピカ度合いは強いかもしれない。実物はそれほど魅力的なオーラを放っている。
実は5227のファーストインプレッションはあまり良いものでは無く、凝ったケースの形状と仕組みで積み上がった価格に割高感を感じていた。2013年初出の5227は現在も継続しているYG、RGに加えてシルバー系のダイアルのWGの3モデルでスタートした。2年後の2015年にWGに今回紹介の黒文字盤タイプが追加され、2019年のカラトラバ大量ディスコン発表時にシルバー系ダイアルWGも鬼籍に入ってしまった。
2015年の夏に当店で開催した『パテック フィリップ展』でその年にデビューしたWG黒文字盤の展示サンプルを見ていて、何とも言えない大人の色気の漂いにすっかり悩殺され、それまでの5227感が激変されてしまった。
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ケース形状は特徴的だ。逆ぞりのベゼルにケースサイドからラグにかけての大胆な掘り込み。これらはグランド・コンプリケーションやコンプリケーションのどちらかと言うと前衛的なモデルに好んで採用されるデザインで、見た目がこれほどシンプルな時計に施される事は珍しい。ただ見た目は"シュと!"していても実に巧妙なハンター構造が仕込まれていてダイアル正面からでは全くその存在が判らない。9時側ケースサイド(上画像)からは小さいインビジブル(見えない)ヒンジ(蝶番)を確認する事が出来る。尚、この時計は現社長のティエリー・スターンが開発を主導し、実父の現名誉会長のフィリップ・スターンが初めて見た時に"すぐにはハンター構造に気づけなかった"と言う逸話がある。
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見た目涼やかで、押出しも強くないが手間暇とコストがコッソリ、ゴッソリ掛かっていて、前衛的と言うよりも挑戦的でギミックが効いたいぶし銀の様な趣を持つ5227。現在のメンズパテックのカタログモデルは一部の例外を除いて殆どが裏スケルトン仕様となっている。それをわざわざ手を掛けてハンター仕様にするのは趣味性以外の何ものでもないが、高級機械式腕時計が今や趣味趣向、拘りに裏打ちされたステータスなアイテムなのだからこの遊び心はアリなのだ。しかし、カラトラバ同様にハンターケースモデルも激減していて今や永久カレンダーRef.5160/500との2モデルになってしまった。こちらも絶滅危惧種と言える。
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上の画像でリューズのすぐ右にハンターケースの裏蓋を開ける為の出っ張りがある。裏蓋の仕上げは数少ないノーマルケースバック仕様を採用するゴールデン・エリプスと同様に縦方向の筋目仕上げが施されている。逆に開いたケースバックの内側は刻印一つない完璧な鏡面仕上げでバニティミラーとして充分使用可能なクオリティーだ。
個人所有の愛用時計の素材バリエーションはPT、RG、YG、SS、チタンそして樹脂(カシオ)も・・何故かWGだけ欠けている。リシャールやウブロのサファイアクリスタルケースなんてのはとても手が届きませんが、WGなら5227Gが有力候補である事は間違いない。

Ref.5227G-010
ケース径:39mm ケース厚:9.24mm ラグ×美錠幅:19×16mm 防水:3気圧
ケースバリエーション:、WGの他にRGYG 
文字盤:ラック・ブラック ゴールド植字インデックス
ストラップ:ブリリアント(艶有)ブラックのハンドステッチ・アリゲーター
価格:お問い合わせください

Caliber 324 S C
直径:27.0mm 厚み:3.3mm 部品点数:213個 石数:29個 受け:6枚
パワーリザーブ:最小35時間~最大45時間
テンプ:ジャイロマックス 髭ゼンマイ:Spiromax®(Silinvar®製)
振動数:28,800振動
ローター:21金ローター反時計廻り片方向巻上(裏蓋側より)
尚、ムーブについての過去記事はコチラから

文責 撮影:乾 画像修正:藤本




決して前回記事の続編ではない。あまりにも蜘蛛の糸が短すぎたのか。一気に極楽浄土への扉の取っ手を掴んでしまった。6月20日にPPJに申請をして、七夕の7月7日に出荷された異例尽くしのカラトラバSS限定モデル。天国よりは近そうな天の川から来たにしても呆れるほど早い。モダンな顔した特別モデルにはワープ機能が備わっていた様だ。
当店に始めてやって来る時計は、検品前に先ず撮影をする。理由は汚れ(微細な埃)がほぼ無い最高のコンディションだからだ。前にも触れたが、PPJはかなり前から日本着荷時点の検品を取り止めている。理由は初期不良率が限りなくゼロであって、むしろ検品時にキズ等の瑕疵を発生させるリスクの方が優るからと聞いている。結果、スイスパテック社で出荷検品後に真空パックされたタイムピース達は国内30店舗の着荷時まで無菌?最低埃レベルが保たれている訳だ。
これは何を意味するかというと今回の様な限定モデルの場合、PPJのスタッフですらプロトサンプルではない最終形の販売用実機を生では見ていないと言う事になるはずだ。勿論、当店が国内第一号入荷では無いと思うので、もう既に何人かの正規販売員と強運のVIP顧客様がご覧になられている事はお断りしておく。
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前回のネット画像情報のみでの印象は、あくまでも個人的見解として少々懐疑的と表明した。しかし実機を前にしてこの予測は見事に裏切られてしまった。この時計の紹介はかなり難しい。その理由は後述してゆくが各部をパート毎に見てゆくと「はて?」と首を傾けざるを得ない思いが強い。ところが全体を総合的に見た時にバランスが取れていてデザインの完成度が高く感じさせられてしまう不可思議さが、パテックらしくないこの時計にはある。
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バックルは定番のピンバックルSSなので特に説明はない。文字盤やケース、ムーブメントを飛ばして脇役とも言えそうな画像を持ち出したのは、この限定モデルの最大の特徴と言えそうな風変わりなストラップを、ぐぐっと寄りで見て頂きたかったからだ。
textileとfabricという英語はいずれも繊維を意味するが、前者が加工前の素材を後者が加工後の製品状態を表わすと初めて知った。その伝でゆくとザックリと平織されたテキスタイルを加工してこのファブリック製のストラップは作られたとなる。誰もがそう思ってしまうだろう。でもこれは物凄く良く出来たgimmickだ。ギミックの日本語訳はしっくりする言葉があまり無く『仕掛け、トリック、からくり』等が検索されるが、個人的にもギミック以外に適当な表現が、エッシャーのだまし絵の様なこの型押しカーフストラップには見い出せない。カーフ表皮にアリゲーターの文様が型押しされたなんちゃってストラップは、とうの昔に市民権を得ているので、それはギミック(だまし)では無くフェイク(模倣、模造)と呼びたい。因みにRさんに多い(しょっちゅう見ている様な気がするが)決して見た事の無い時計はコピー(偽物)と言う。
言葉遊びはこの辺りで止して、画像上はまさかの型押し?(パテック的にはエンボス)と見える。実際に起稿しながら今一度金庫から現物を出して子細にキズミで再確認せざるを得なかった。画像より実機の方がだまされ感は若干弱いが、予備知識なしの初見では誰もが化かされてしまうくらい、このキツネは凄い。
しかしこの色目には既視感が有る。前世代のメモリーしか搭載されていないオツムゆえ引き出しの数も数える程しかないが、色目の既視感が直球過ぎて間髪置かずに、ブルージーン或いはヴェールボスフォールと呼ばれるエルメスがお得意にしている青系カーフレザーの近似色ではないかとの曲解に至る。さらに白く太目なステッチが1.5mm弱の巾で粗目に施されている為に、単純迷?解な頭の中はもうHERMÈS、HERMÈS・・となってしまった。_DSC00370.png

もうこうなると何でもかんでもブランディングせずに済まされなくなってしまう。まっ、チョッとブランディングの意味は取り違えているのだが・・で、これまた何処かで見た顔ではないか?いや、何処かで絶対見ているはずだ!となってしまう。どうです、見えてきましたか?そう、そうなんですよ、"L"で始まるブランドの"T"で始まるアレですョ。
ブランドとそのアイコン、パテックでは例えばノーチラス、ルイヴィトンだと例えばモノグラム、エルメスなら例えばバーキン、それらの事である。そしてそれらの所有スタイルは乱暴に言って、完全に2種族に分類される。実に判り易いメジャーなアイコン種族は、何を所有しており、その価値も出来るだけ沢山の人々に確実に認知される事を希望しているコスパ意識が高い方々で構成されている。数的には圧倒的にマイナーな少数民族であるアンチアイコン種族は真逆であって、非常にニッチな限られたごく少数の同類、極端な例では自分しかその価値が判らないという時計やカバンを好む複雑な思考回路を持っている方々と言えよう。筆者がいづれに属するかはご想像にお任せする。
閑話休題、文字盤の色についてもう少しだけ見てゆきたい。時計を横置きした画像と文字盤に迫った直上の画像で随分と色目の違いを感じる。これは完全にライティングの差でしか無い。このブルーカラーは一見爽やかで若々しさが強調された色目なのだが、快晴の太陽光や色温度の高い蛍光灯の下ではその本来持っている青色の特性をしっかり発揮する。ところが一方でホテルのロビーやレストラン等の色温度が低く低照度の下では少し妖しさを漂わせた艶っぽい藍色の顔がちらついてくる。お日様の似合う健康的な昼の顔だけでは無く、それなりに大人のお付き合いもさせて頂きますというから驚いた。個人的にはこの時計の最大の魅力ではないかと思う。まるでカメレオンの様な二面性を隠し持つ不思議なタイムピースだ。
話を少し脱線させるがこの限定モデル、そのままダウンサイジングしてレディスモデルに仕立てたら滅茶滅茶売れそうな気がする。ケース径35mmくらい、素材は18金WGでベゼルにダイアを纏わせてやる。物凄く良い感じに仕上がりそうだ。

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紛れもなく6000系のサイドビュー。厚さは9.07mm(サファイアクリスタル・ガラス~ケースバック)で2020春生産中止となった6006Gの8.86mmより僅か0.2mm程厚い。ところが搭載されるムーブメント厚は限定6007がセンターフルローターCal.324 S Cで3.3mm、6006GのマイクロローターCal.240 PS Cは3.43mmである。Cal.240は本来マイクロローターの恩恵でパテックを代表する極薄自動巻銘キャリバーで2針の素(す)の状態では2.53mmしか厚みが無いが、スモールセコンドやポインターデイト・カレンダー等の付加機能モジュールが盛り込むれて若干厚みが出ている。それにしても薄いムーブなのに、最終のケース厚が出る6007。理由として考えられるのは文字盤の違いか。6006はセンター3針✚オフセンターの小秒針の構成で、全くのフラットダイアルにインデックス等のディスプレイは全て薄く仕上がるシリコン転写プリント。対して限定6007はセンター3針ながら、ダイアルは再外周部に秒インデックス、その内側に厚みの出るアラビア数字アワーインデックスが植字され、さらに逆三角形のインデックスが細いレールに並べられたアワーサークルが来るダブルアワー表示が来て、さらにその内側文字盤センターにカーボン調の凸凹なテクスチャーが来る4つの同心円から構成されており、それぞれのサークルに微妙な高低差が見られる。この辺りに厚みの答えが有りそうだが、良くは判らない。
尚、時計本体重量は58gで標準的なピンバックル18金モデルよりも20~25gは軽い。昨年カラトラバ・ウィークリー・カレンダー5212AがSSの定番モデルでラインナップされてはいるが、パテックの非スポーツ系のSSモデルが稀な為、手に取った際に感じる驚かされる軽さのインパクトが、初見時に普通は優先する視覚を凌駕してしまう稀有なパテックだ。

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あちゃー!久々にやってしまいました。何とも締まりのない画像。原因はモチベーション不足。最近はおうちでしっかり寝るしかないので寝不足は関係ありません。
またぞろ個人の好悪を枕詞とお断りした上で、この後ろ姿は頂けません。まず裏スケじゃなくてノーマルバックにした方が好ましかった。この限定を手に出来る最上級顧客は誰もがCal.324のスケルトンバック仕様モデルを数本は持っているはずなので、白い特別装飾で中途半端に隠されてしまったムーブメントが可哀そうですらある。逆もまた真なりで21金製のフルローター始めムーブメント構成部品が、白い特別装飾を読み取り辛くしている。"一粒で二度美味しい"では無くて、二粒で互いの味を相殺してしまっている。私見ながらポリッシュ仕上げのSS製ノーマルケースバックを採用してもう少し控えめなサイズで梨地サテンフィニッシュによる刻印装飾あたりが妥当な選択だったように思える。さらに言えば顧客にとって普段それほどなじみの無い工場に起因した限定モデルなので、少々大振りなカラトラバ十字に変えて2006年のジュネーブ・サロン改装記念限定モデルのように建築物(PP6)をデフォルメしたイラストのエングレーブにしておいた方が良かったのではないか。
本日の重箱はスミがやたらと多い様で、さらに根掘り葉掘りは続く。一見この装飾は天地がキッチリ12時-6時に垂直を通してあるように見える。しかし6000系の裏蓋はスナッチ(スナップとも)では無くてスクリューバック方式の為に10角形は天地キッチリとはまずならない。それどころかメンテナンスで開閉を繰り返すたびに微妙にその位置はずれてしまう。実際この実機も特別装飾と10角形の垂線はシンクロしていない。さらに家政婦が見るが如く眼力を上げてゆくと、納品時点でほんの僅か時計回り方向に0.2度ほど装飾がずれている。この何ともイケてない装飾工程を想像するに
①一旦スクリューケースバック(裏蓋)をミドルケースに閉めてみる
②垂線を意識した何らかのマーキングを裏蓋に施してから一旦外す
③マーキングで位置決めした裏蓋の内側に装飾を転写?する
④再度、裏蓋を閉めて、マーキングを消して、終わり
ところが最後に閉め直す段で、微妙に増し締め気味になって時計回り側にズレが出たという想像だ。
パテックのスクリューケースバック構造は、ほぼ全てが日常生活防水に過ぎない。6000系リファレンスのケース構造に拘らなければ普通にスナッチ構造を採用していれば裏蓋装飾の垂直性は容易に達成できたはずだ。それともPP6繋がりで6000系採用だったのか?いづれにせよスクリューバックに拘るのであれば10角形と特別意匠の垂線の二者をキッチリ合わせて、敢えて45度位は斜めに閉められている方が私的にはスッキリする。
長くなるがもう一つ方法があって、王者パテック的にはどうかと思いつつも、ここはもうギミックついでに見た目スクリューバック裏蓋にして実は巧妙なスナッチにする手が有る。こうすれば意匠と10角形とミドルケースの全3者ての垂線がシンクロする。これなら時計通が初見して意表を突かれ、初心者には何の事やらさっぱり気付けない。究極のだまし絵タイムピースが完成していたはずだ。
attestation_c.gif"ATTESTATION"とは英語で『証書、証明‥』の意味。過去5年の当店パテック取扱いの中で唯一の限定モデルであったノーチラス発売40周年記念限定にも発行添付されてきた。でも書体が微妙に異なったり、ノーチの時は非常に特徴的で美しかったブルーダイアルに因んで、カラトラバ十字、品番やキャリバー名がシックでメタリックな濃青色で箔押しされていた。今回は全身が青を纏っているのに金色での箔押しとなっている。また前回は無かったジュネーブ・サロン(本店ブティック)イラストが薄く背景に敷かれている。なぜかここもPP6では無い。さらに今回はご購入者名前(画像はフェイク修正済)も印字されている。保証書のように連続画一的では無くて、不定期で間隔の開いてしまうアテステーションにはアレンジがなされるようである。

そろそろ、まとめにかかりたい。記事の大半が懐疑心と猜疑心のパレードようになってしまった。しかし、冒頭でも書いたように、この時計は部分で見てはいけない。さらに見方を誤ると超有名2大ブランドのハイブリッドウォッチの気配すら漂ってきてしまう。一度その先入観に捕らわれてしまうと拭い去る事が、困難かつ厄介で始末に悪い。ギミックフルでトレンドセッターブランドの既視感満載、パテックらしさほぼ皆無?作ちゃった感が凄すぎて、自分自身の持つパテックワールドの概念に収まらない、今日的で意欲的かつ挑戦的なヤバイ一本と言えそうだ。
撮影から起稿を通して、穴の開くほど実機を見倒した。「意外と思ったより良いじゃないか」「でもなんか違うナ」「コレクションとしては悪くないぞ、資産価値もタップリ有って」「でも、着用はこっぱずかしくて、チョッと・・」これだけ延々と自問自答を繰り返した時計も過去珍しい。やっぱりヤバイ一本だ。

Ref.6007A-001 ニュースリリース(日本語)
ケース径:40mm ケース厚:9.07mm(サファイアクリスタル・ガラス~ケースバック) 
※カラトラバ十字と《New Manufacture 2019》と装飾されたサファイアクリスタル・バック
ラグ巾:22mm 防水:3気圧
ケースバリエーション:SSのみ 
文字盤:真鍮製 ブルーグレー 中央にカーボン模様の浮出し装飾 夜光塗料塗布の18金植字アラビアインデックス
針:夜光塗料塗布の18金バトン形状の白ラッカー着色時分針 白塗装ブロンズ製秒針
ストラップ:ブルーグレー 織物模様がエンボス加工された装飾ステッチ入りカーフスキン


Caliber 324 S C.
センターローター自動巻 センター3針(時分秒) 3時位置
窓表示カレンダー
直径:27.0mm 厚み:3.3mm 部品点数:213個 石数:29個 受け:6枚

パワーリザーブ:最小35時間~最大45時間
テンプ:ジャイロマックス 髭ゼンマイ:Spiromax®(Silinvar®製) 髭持ち:可動式
振動数:28,800振動
ローター:21金ローター反時計廻り片方向巻上(裏蓋側より)
価格:お問い合わせください。

文責、撮影:乾 画像修正:藤本

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