パテック フィリップに夢中

パテック フィリップ正規取扱店「カサブランカ奈良」のブランド紹介ブログ

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ミニット・リピーターを分かり易く単純には言えないが、乱暴強引に言うなら"ゼンマイ仕掛けの物凄く精工なからくり人形か、複雑極まりないオルゴール"辺りになろうか。時計を運針する主ゼンマイとは別のリピーター機構専用のゼンマイを時計左側(9時側)側面に備えられたスライドレバーを慎重に下から上に操作して、現在時刻を高音と低音の二音階の組合せで表現するという代物である。
前編でも触れたが、時(Hour)は低音、四分の一時間(15分・Quarter)は高音と低音の連続音、分(Minute)は高音という構成だ。一番鳴る数が少なくって短いのは1時ジャストで、低音一回のみ。数が多く最長時間を要するのが、12時59分で低音12回・高低連続音3回(打刻数は6回)・高音14回となり総打刻数は32回にもなる。そして18秒以内に32回を打ち終えなくてはならないと言う自社ルールがあり、もったいぶった記事タイトルの言われは此処にある。僅か1分の違いで関東風の一本締め!、はたまた賑やかな三本締めすら上回る大太鼓と小太鼓のチョッとしたマーチングバンド風にすらなる。"地獄と天国"では例えが悪いが、特に人に聴いて貰う際には或る程度以上の鳴り数が欲しいのがオーナーの心理。多くの場合12時50分以降に時刻をセットする事が殆どだ。「シーンと」静まりかえる空間に電子音では絶対に表現不可能な暖かく味の或るアコースティックな2音階のシンフォニーが響いてゆく。そして大抵がアンコールリクエストの喝采を浴びて、ミニットは連続演奏を繰り返す羽目になり易い。しかし時計は運針しているのでクライマックスの12時59分が過ぎてさらに期待感が増せども、「ティン!」休養を要求するかの様な1時のワンゴングでコンサートは閉幕となる。
尚、ミニット・リピーター機構の保護の為に演奏と演奏の間には必ず30秒以上の休養のインターバルを取らなければならない。さらに言えば30秒のレストを遵守しても頻繁(どの程度か決まりは無いが・・)に鳴らし過ぎるのはご法度だ。日本の実例で納品初日に嬉しさのあまり演奏を繰り返しすぎて、ドック入りになったケースも有ったと聞いた。でも、その気持ちは実に良く解るナァ。
特に今回納品した5178G-001等は見た目が普通の時計過ぎるので、想像を超えた深淵なるシンフォニーを奏でるという意外性をついつい披露したくなる。痛いほど、そのお気持ち理解できる。でもストラディバリウスも一日中休みなしにこき使われてはご機嫌斜めになりかねない。ほどほどに節度を持って、グッと我慢してこらえて頂きたい。

さて同一の職人が手作りする木製のヴァイオリンの音色が全て微妙に異なる様に、素材が金属であっても同一品番のミニットも同じ音色にはまずならない。同じ18金ケース同士であってもイエロー・ローズ・ホワイトで微妙に音は異なるし、プラチナは誰が聞いても硬い音質となる。でもティエリー社長はプラチナを好んでいるし、フィリップ名誉会長は18金ローズゴールドがお好みで、結局のところ全ての個体で音は異なり、それは好みの世界となるが、購入に際して複数の個体を聴き比べて選ぶという事は出来ない。その為に全個体に対して非常に厳しいレベルでのティエリー・スターン社長の試聴テストがなされている訳だ。自身の視聴経験に限って言えば「これはチョッと・・」と言う個体は皆無で、複数モデルを同時に聴き比べる際に、ケースが小ぶりな婦人用なのに音量が豊かでビックリと言う様な意外性などはあっても、良し悪しと言う様なレベルで悩む様な個体はそもそも無く、あくまでも好みの強弱がどの位かだと思う。しかし、それも複数個のミニットを所有し試聴歴をかなり積んだ方という前提で有って、パテックのミニットを初めて購入する際に当てが外れて落胆し、後悔する事などあり得ない様に思う。尚、パテック公式HP内カタログページ下部の"チャイムを聴く"からネット経由で(なんちゃって)試聴も可能である。
なにゆえにパテックのミニット・リピーターがそれほど優秀なのか。それは前編でも触れた1900年代後半の極僅かの期間を例外として、創業当初から途切れる事なくミニット・リピーターを製造し続けてきた唯一と言ってよいヒストリーを持つブランドという事がベースになっている。その基盤の上に1980年代から現名誉会長フィリップ・スターンの大英断によって現代的な技術の開発や音質の管理手法の採用などを積み重ねる事で、他ブランドを寄せ付けない今日の重厚かつ孤高なミニット・リピーター王国が着実に作られた。

その技術革新の一例を挙げると、遠心ガバナーの開発採用がある。現代ミニット初号機であるキャリバー 89以前の従来型ミニット最大の課題をパテックは、リピーター打刻時にゴングの制御装置が発生する雑音に有るとした。想像して頂ける酷似音としては、現在でも一部のブランドで製造されているアラームウオッチの音である。具体的にはジャガー・ルクルトのメモボックスであり、歴代アメリカ大統領が好んだという逸話(具体的にどなたが愛用したかは未調査)の有るレビュー・トーメン(バルカンとのブランド名称も有ったりしたような・・)のクリケット(コオロギの英名)等がある。テキスト本によれば19世紀末に特許申請された無音の制御装置があり低知名度ブランドが低価格ミニットに採用していたが、装置自体がかさ張るという致命的な欠点があって、著名な高級ブランドでは採用される事が無かった。その為に長きに渡り、オークションに出品される無音のミニットは疑いの目で見られると言う奇妙な状況が有ったが、新機軸の無音化装置"遠心ガバナー"を搭載したミニット・リピーターの初出であったキャリバー 89が、1989年にその奇妙な概念を覆した。

ミニット・リピーター機構の説明が難解なのと同様に遠心ガバナーの説明も難しい。正直に言えば、完全に理解できていないのが本音だ。言えるのはゼンマイのパワーでゴングを叩くハンマーの打つ間隔をゼンマイトルクの減衰に関わらず一定に保つ無音の制御機構である。

6301P_001_13.jpg上画像は2020年新作のRef.6301Pの画像を参考に拝借、右側の2つのおたまじゃくしが追いかけっこしているようなのが遠心ガバナー。従来のミニット・リピーターではカラトラバ十字の装飾で隠されていたが、この最新作では存分にその動きを見ることができる。
(個人的には微妙と思いながらも)判り易い例としてはフィギュアスケートのスピンの演技が挙げられる。スピンの最初にスケーターは両手を優雅に伸ばしてゆったりと回転を始めるが、徐々に両腕が折り畳まれるにつれて回転速度が上がってゆく。最後はチョッピリ可哀そうな程に窮屈に両腕を体に密着させたり、頭の真上でこれでもかと密着させて突き上げ体をともかく棒状にする事で、常人なら目が廻って転倒確実な駒廻しさながらの高速回転に加速して行くがなぜかニッコリと微笑んで突如ピタリとストップしスピン演技は終了する。全スケーターが微笑むかは知らない。羽生結弦選手がどうかも知らない。しかし間違いなく一度もサボらず浅田真央ちゃんは微笑んでくれた。見る側からは最高回転時にパワフルさを感じるが、実際には緩やかにスピンし始める時の回転トルクが最大であり、その後にスケーター自身は追加のトルクを加える事は不可能なので、氷と空気の摩擦で減ずる回転トルクを両腕を縮める事で回転中心軸にウェイトを集中させ慣性モーメントを減らして回転速度を調達している仕組みなのだ。だから縮め切って回転が落ち始める直前に"ニコッ、パッ!と"急ブレーキを掛けるわけだ。う~ん、書いていてやっぱり判り易いとは言えず難解ではある。ええぃ!ともかく作動中のミニット・リピーターの中では浅田真央ちゃんや羽生結弦選手がともかく頑張ってスピンをしまくっているので、くれぐれも無理をさせずに労わってやって欲しいわけですョ。

パテックが購入者に出荷する全てのミニットのサウンドは単に録音されるだけでは無く、様々な観点から計測され記録される。或るものは数値化されて記録される。このサウンドデーターの保存は、分解掃除等のメンテナンス目的でスイス・パテック社にドック入りした際に初出荷時のリピーター音を出来うる限り忠実に再現する為に必要不可欠な工程となっている。
この随分と科学的な手法も現代版ミニット・リピーターの開発設計が進められた1980年代にローザンヌ連邦工科大学(スイスの全時計ブランド御用達ではないかと思われるほど他との協業を聞かない)との共同研究の成果であり、ずっと以前(1960年代より前)のコオロギが頑張っていたアンティークな個体には音の再現性は求めようもない。しかし、ティエリーが19歳でパテックに入社したばかりの頃からミニット・リピーターの試聴訓練はフィリップから相伝され始め、一人前となってからは親子で、そして今現在はティエリー・スターン社長がその任を背負っている。この出荷前試聴テスト自体も科学的な音の管理手法の進化と共にブラッシュアップしている様で、しっかり科学的なふるいにパスした個体のみ試聴すれば良いという事なのだろう。但し、最も重要なのは科学的なサポートは1989年以降の現代的な生産に多大に寄与してきたのは確かだが、その微妙に過ぎる音色を調整出来るのは経験豊かな一握りの職人の耳と手の技で有って将来もロボットが取って代わる事は無さそうだし、どこまでも最終判定はアナログな人間の耳によって良否が決定され続けてゆくのだろう。否、それ以外に決定方法は無いという事だろう。パテックがミニットに於いて大切にしているのが"ぬくもりのある音"だが、確かにぬくもりを創り出したり判定するのは機械には不可能だろう。

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さてテキスト本からの抜粋ダイジェストのつもりで書き始めた本稿だが、覚悟していた奥深さの質・量ともに半端ではない。例えばスライドピースの操作感一つとってもスターンファミリーが理想にしている"バターを切る様な柔らかさ"とはポルシェのマニュアルシフトフィールで有名な"バターにナイフ!"との共鳴を感じ、一流は一流と相通じるのだなァ。という具合にアレを書けば次にコレにも触れずにはおられず、正直際限が無い。もっと言えばテキスト本でさえもミニットの全てを書き切れているわけでは無いだろう。知れば知るほど底なしの井戸の様に興味が湧き、魅了される時計を超えた存在。それがパテックのミニット・リピーターだと言う事を書き進む程に知らされた。到底この交響曲は第二楽章では終わりそうに無く『未完成』へとタイトル変更止む無しとなりそうだ。すみません。やっぱりこれ以上はMinute Repeaterをご一読いただくのをお勧めいたします。かと言って読み切るのは案外簡単で、面白いゆえに疲れも無いと言う何とも不思議な書物です。でも深い・・

なんでこんなにミニット・リピーターは解説困難なのだろう。きっとそれは単なる時計という時を正確に刻めば良いという世界だけでは無く、音楽同様に音の芸術域に立ち入って行かねばならないからだろう。似た経験はレア・ハンドクラフトの一つエナメル装飾でも感じた絵画同様のアート領域の説明が困難を極めたのと同質だ。ただ必要な時を音で知らせるだけなら確かに時計の延長でしかないが、芸術的な音そのものを主役として聴き取る楽しみが主目的となっているリピーター系鳴り物は、レア・ハンドクラフトとひっくるめてタイムピースと呼ぶよりアートピースと呼ぶのが相応しいと思う。そう考えればゴッホやフェルメール、琳派や北斎を文字で表現説明する事と同じく無理がありそうな事に納得できる。

自らは手の届かぬ憧れのグランド・コンプリケーションであるミニットの実機納品が起稿動機なので本来はRef.5178そのものをもっとクローズアップせねばならないが、やはり実際に納品立ち合いが出来ず、撮影は勿論、触れる事すら叶わなかった為なのか、詳細が書けません。不器用な事この上ない。ご勘弁。ご容赦。本稿は単なるPPミニットの触りになってしまった。でも、そんなに遠く無いいつの日か奈良でご対面する事が出来れば、『再挑戦、実機編5178G』有るかなァ。一応スペックだけはいつも通りに・・

Ref.5178G-001
ケース径:40mm ケース厚:10.53mm 防水:非防水(湿気・埃にのみ対処)
ケースバリエーション:WG
文字盤:クリーム色七宝文字盤、ゴールド植字ブレゲ数字
裏蓋:サファイヤクリスタル・バックと通常のケースバックが共に付属
ストラップ:ブリリアント・チョコレート・ブラウンのハンドステッチ・アリゲーター・バンド
バックル:折り畳み式バックル
価格:お問い合わせください

Caliber R 27 PS
直径:28mm 厚み:5.05mm 部品点数:342個 石数:39個
パワーリザーブ:最小43時間~最大48時間
テンプ:ジャイロマックス 髭ゼンマイ:Spiromax®(Silinvar®製)
振動数:21,600振動
ローター:22金偏心マイクロローター反時計廻り片方向巻上(裏蓋側より)

文責:乾 画像:パテック フィリップ
『Minute Repeater』Jean Philippe Arm, Tomas Lips 共著 2012年『邦題:ミニット・リピーター』小金井良夫 翻訳

本人にその気が無くとも、毎回あたかも時計やパテックのオーソリティーのごとく書き連ねているブログ。しかし何度もお断りしているが、いずれについても生まれ落ちた"家業"という縁もあって、三十路を過ぎてから聞きかじりと読みかじりで知識の断片をアレやコレやツギハギをしてようやく何とか起稿しているに過ぎない。画像だけは下手の横好きで思いっきり自己流の撮影でオリジナリティを加味してきたが、今春からは己の不徳の致すところでソレも儘ならない状況となってしまった。"カンヌキ、オシドリ、鼓クルマ、ガンギ、遊星車・・・"なんぞと言う機械式時計ムーブメントの様々な部品名称も知ってはいるが、その働きとポジショニングは、怪しい限りであって時計師との会話はネイティブとは程遠い。当店(株式法人なので当社?)の創業者祖父も継承者実父も商いの人であって技術は齧る事すら無かった。しかしその祖父の配偶者であった祖母の末弟(私の大叔父)は時計師の道を歩み、戦前大阪市内に有った祖父の時計屋(個人商店時代)の彩光の良い最上階で活躍するスイス風に言えばキャビノチェだった。この人は、当時の超高級品である腕時計をアッセンブルする実にハイカラな職人であった。最晩年は何のえにしか当店至近で独り住まいをされ数年前に90歳近くで他界された。その引退生活ぶりが独居老人の寂寥感とは無縁で"孤高の孤独"を日々見事にお洒落に楽しみ、縁深き筋からの依頼であれば分解掃除を80歳過ぎまで引き受けておられた。お連れ合いを早くに亡くされたが、ご子息等の誘いにも甘えず・・正にダンディズムがかくしゃくと歩いていると言った風で、男やもめの人生終盤は斯くあるべし!と思わずにいられぬ憧憬すべき血縁者だった。今思えばご自宅の工房で分解掃除のイロハをなぜ手ほどきして貰わなかったのか、心残りでならない。
何でこんな個人的な昔話を持ち出したのかと言うと、前回記事までの今年の新製品紹介を一旦中断して、ずっと引っかかっていた今春納品をした当店初の超複雑タイムピースの紹介を先にしたくなったからである。タイトルからもお分かりのように今回は機械式時計の頂点のひとつであるミニット・リピーターの納品実績を踏まえた紹介となる。いわゆる音鳴り系時計の仕組みを完璧にわかりやすく説明をすると言うのは至難の業である。これは複雑機械式時計に精通したトップ技術者であってもその難しさは同じであろう。にも関わらず時計技術者の端くれでもない自分が、後述するテキストに全面的に頼りながら書き進める事を冒頭にお断りすべきだと思ったからである。それにしてもいつもながら長文の前触れになってしまった。

ミニット・リピーターが機械式時計の頂点の一つで有る事は論を待たないが、唯一無二で有るか否か?については、好き嫌い?も含めて諸説有りそうだ。個人的な立ち位置からの購入可能性の有無確認をする以前に、価格的に購入検討の限度額を潔くかつ即決で諦めがつくレベルで超越している為に妙な安心感?が有る。しかし販売に関しては「いつの日にかきっと・・」という"夢"では無く、あくまで"目標"と定めていた。パテック取り扱い開始から5年弱で受注し1年と少しで入荷納品。勿論、購入履歴等々の発注ハードルは存在するし、納期も今回は比較的早目かと思われる。しかしその受注プロセスの詳細は、判り易く明確なものでは無い。非常に極端な言い方をすれば、発注は可能で有ってもスイスパテック社が受注出来るか否かが我々は勿論、パテック フィリップ ジャパンにも決定権は無い。但し、過去の経験的に絶対に無理そうな注文(極端な例としてご購入履歴が無いとか)は当店では独自の判断でお受けしていない。ヒョットしたらイケるかも以上で取り敢えず発注を出すも「残念ですが・・」もしくは運が良くても「キャンセル待ち」と成ることが多い。キャンセル待ちとは、今現在の生産枠では見通しが立たないがスイス本社の受注待ちリスト末尾に記録され、文字通りキャンセルが出るか、先約者の納品が進んで、生産枠に見通しが立てば正式受注に移行する可能性があると理解している。尚、正式受注となった場合は目安としてのザックリした納期が提示される。以上がミニット・リピーター発注購入の基本的な流れとなるが、後述する様に年間の生産数が非常に少なく、経営トップ自ら(ティエリー社長)の出荷検品の厳しさが有り、いわゆるシリーズ生産とは全く異なる次元のプロセスを経る為に、納期も価格(日々変動する為替レートや原材料価格の為)も予定と未定が常にスムージー状態で有る。
でも、我々の「いつの日にかきっと・・」は何処までも販売に関してだが、皆様には発注購入を「いつかはきっと・・」として頂きたい。特殊で好き嫌いも有るけれども、腕時計蒐集を生涯の嗜みとされるのであれば、最高峰時計ブランドである"パテックのミニット"所有はこれ以上は無いチャレンジングで判り易い"目標"では無かろうか。ただし登山家に於けるエベレスト登頂が一応"上がり"でもうそれ以上となると、難度の高い未登攀ルートであったり無酸素単独行登山と言う様な冒険的山行になるが、時計蒐集に於いてのミニット・リピーターは少し違う様に最近は思っている。その"最近"とは立ち会えては居なかったが、今春に初ミニットを納品してからだ。いや、さらに想い起こせば一年以上前の受注時は現場で担当販売員として様々な見聞きを自ら体験したからかも知れない。誤解をしっかりと恐れて(恐れずはとても無理)言えば「最初のミニットはこのあたりにしておこうか」ぐらいの感覚を普通に持てる蒐集家の為にミニット・リピーターというコレクションは存在するという様な感覚か。現行ミニットのスターティングプライスモデルはRef.5078でザックリと言っても税込4,500万円程度はする。ちなみにミニットの様なパテックの時価(POR;Price on request)モデルは、驚くなかれ実はバーゲンプライスなのである。詳細はご勘弁頂くが、価格設定が定価モデルと異なって、実は商売上の旨味はあまり無い。仮に定価設定がなされた場合は為替リスク等回避からさらに高額になるだろう。まあ分母となる金額が金額なので其れなりのプロフィットは勿論有るが、儲け以上にPORを販売出来た事の達成感や満足感が個人的にはずっと大きい。念の為に言えばPORは決して販売店では無く、作り手の事情故に取らざるを得ない価格システムなのである。ちなみに最終の販売価格は、スイスでの製品出荷準備完了時の為替などにより決定される。また販売店への納品も定価モデルと異なり、配送では無く納品時の初期不良を確認出来るPPJスタッフが持参して立ち会う事になっている。今回はコロナ禍という特殊事情とお客様都合も有って、当店スタッフが上京し東京のPPJオフィスにて製品確認後にご納品という形を取らせて貰った。

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冒頭で前述した様に納品実機に触れる事も、見る事さえして居ないので、具体的な時計の紹介は実に書き難いのだが今回納品した当該モデルは、Ref.5178G−001。ミニット・リピーター機能のみを単独で搭載するシンプルウォッチで有る事に加えて、好き嫌いは別にして現行ミニット・リピーターコレクションで唯一のカセドラル・ゴング(後述)を採用した"鳴り"の解り易さを最も追求しているモデルだ。文字盤のクリームがかった優しい色目の本七宝仕上げについては、何らかの音質的影響を与えているかもしれないが、プラス要因になっているという事は無いと思われる。このモデルにはRef.5078という一回り小さくクラシック・ゴング(後述)を搭載した弟的なモデルがあって、現行のミニットコレクションでは価格的にエントリーモデルとなる。この兄弟モデルの違いは、ハンマー(撞木)で打たれるゴング(鐘)の違いだけと言っても良く、5178のカセドラルが5078のクラシックタイプの倍(一重と二重の差)の長さが有り、打音の際に独特な残響(音の余韻)を奏でる。日常的にミニットを試聴するパテック社オーナーのフィリップ、ティエリー父子はクラシック・ゴングが好みの様だが、次回はいつ聴けることやらという凡人の身にとっては、独僧が突く小振りで著名な鐘の音色が如何に素晴らしくとも、17名もの僧侶が盛大に突く豪快な知恩院の巨大な梵鐘の方が、年にたった一度ゆえに感動を覚え易いのだ。このクラスの時計についてコスパを論ずる意味は不明だが、5178はミニットとしてはエントリープライスゾーンに有りながら、判り易い感動的なカセドラル・ゴングを堪能出来、さらには複合機能が付加されていない為に音質的には価格的上級機種をほぼ確実に上回るはずで有る。絶対に上回ると断定出来ないのは、試聴経験の質と量が残念ながら少な過ぎるからと、併載される複雑機構によってケース内の部品密度が増しても絶対に音質低下要因に成るとは言い切れない(たぶん?)からだ。という事で5178はミニット受注初心者"乾"が購入検討中の皆様に自信を持ってお勧めしたいコスパ抜群(普通にマンション買えそうですが・・)のミニット・リピーター入門機である。
さて、ミニット・リピーターの歴史的やら機械的な紹介を何処までするかは実に悩ましい。でも、たった一行で済ませると言う手品も有る。
『Minute Repeater』Jean Philippe Arm, Tomas Lips 共著 2012年『邦題:ミニット・リピーター』小金井良夫 翻訳

20210820181621817_0001.pngこの本は名著です。ミニット・リピーターに少しでも興味のある方には是非ともご一読をお薦めしたい。個人的には十読はいかないが五読以上はしている。当店2階PPコーナー奥の書棚にその蔵書は有るのだが、日本の多湿な気候に滅法弱い合皮素材の装丁はもうボロボロだ。パテックは多数の書籍を発行しているが、何回読んでもこの本は最高に面白い一冊で、何より読み易い。本の後半半分強は年表や主要モデルが掲載された資料部分だが、前半は現名誉会長フィリップと現社長ティエリー両者へのインタビュースタイルの読み物となっている。何度でも読めるし、その度毎に発見がある。とても平易な文章なのにミニットへの興味が尽きる事無く湧き出てくる何とも不思議な文献なのだ。尚、当店では時計在庫は無理なので、この名著の在庫だけは店頭にご用意し、税込9,468円で販売している。尚、お近くの正規販売店経由でも購入相談は可能だろう。

以上で一般論は終わって実機紹介に進んでも良いのだけれど、思いっきり端折ってヒストリーとメカニズムを一応紹介。リピーター機構そのものの歴史は相当古く17世紀末迄遡る。その詳細は省くが、当初用いられていた青銅の鐘では無い現在の様な細長い環状のゴングで小型化と同時に音量の確保を実現したのは、かの有名なアブラアン・ルイ・ブレゲである。時計という山はどのルートから登っても何処かでほとんどこの"ブレゲ尾根"ルートをたどる事になり、改めてその偉大な足跡に脱帽するしか無い。また19世紀末迄のミニットはほぼ懐中時計であったが、オーソドックスな2ゴング仕様の場合、時を低音、クォーターを高低音の組合せ、最後の分は高音と言う表現手法が、不文律として腕時計主流の現代まで受け継がれている事。この2点に関しては個人的に驚異的な事だと思っている。そしてパテックに顧客リストが残る最初のリピーター(15分打刻の懐中時計で、他社エボーシュ仕上げ)が製作・販売されたのは創業年1839年9月と非常に早い。同年5月の創業後19個目の時計とある。初のミニット・リピーターの完成は1845年。同年にはグランドソヌリとプティットソヌリ搭載懐中時計も早々と製作された。その後の60年間で懐中時計としてのリピーターには永久カレンダーを始め様々な複雑機構が組み込まれ熟成発展した。腕時計搭載化の萌芽も早く、1896年にはミニット・リピーター搭載の婦人用ペンダント・ウォッチを製作できるまでムーブメント小型化に成功していた。1906年からは当時北米での重要得意先であったティファニーへの完成ムーブメントでの供給がなされ、1925年からはパテックブランドとして定番コレクション化がなされた。チョッと待てよ!1916年に婦人用ながらパテック社によるプラチナ製ケース&ブレス完成品リピーター腕時計・・我々パテック販売員には割と良く刷り込まれた?逸話が抜けているが、この有名な腕時計は5分リピーターであって、ミニット・リピーターでは無いのでお間違いなく。また定番化の1年前の1924年にはクルーズコントロールの発明(1945年)で知られた盲目の米国人エンジニア"ラルフR.・ティートゥー"の注文によりプラチナ製クッションケースのミニット・リピーターが製作され、翌年1925年に販売されている。現在この個体はパテック フィリップ・ミュージアムに所蔵されている。このラルフ何某氏はWikipediaでも探せぬ無名の人だが、皆様がクルーズコントロールのお世話になる際には憧れのミニットに想いを馳せるのも一興ではなかろうか。この頃から1960年以前(書籍中程の年表では1958年のRef.2524/2と2534迄)はパテック社のみならずミニット・リピーターは数ブランドで製作されていた。この中には永久カレンダー等との複合コンプリケーション・ウォッチの製作実績も有るが、腕時計として複合機能ミニットは極めてまれであった。ただ懐中時計におけるリピーターウォッチでの複雑機能のてんこ盛り化は1900年台前半に進み、パテックに於いてはスターン兄弟が経営権継承後の1933年に米国人著名コレクターのヘンリー・グレーブス・ジュニアに納入した通称"グレーブス・ウォッチ"(1999年に当時のオークションレコードの1,600万強スイスフランで落札記録有り)に昇華・代表される。

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ただ現代も含めてミニット・リピーターはどの時代にも生産数は非常に少ない。そして「灯りのない時代には・・」とか「オペラやコンサートの会場は暗くて・・」とか「ああだ!、こうだ!、こんな説もあるぞ・・」と散々リピーター誕生秘話は数々有るのだけれど、あくまでも個人的にはどれもこれもが、眉唾或いはこじ付けっぽくって、きっと最初はオタクっぽい天才時計職人が、かつて実用時計の代表であった教会の鐘の音を何とか携帯出来ないものかという崇高かつ壮大な遊び心をときめかせ、それに膝を打ったどこぞのパトロンがバックアップして・・辺りのシナリオを疑って本稿をしたためている。

さて、前述の年表では1958年から24年後の1982年Ref.3615迄ミニット・リピーターの製作は途切れている。ほぼ真ん中の1969年にはSEIKOが世界初のクォーツ市販モデルが発表され、複雑な機械式時計がお呼びで無いどころか、スイスの名門時計ブランドの存続が危うくなり、破綻や売却が相次いだスイス機械式時計の大暗黒時代だった。勿論、パテック社もその影響を受けたが、1968年には当時トレンドであった薄型時計のゴールデン・エリプス。そして1976年には現代に続く画期的で全く新しい腕時計コンセプト"ラグジュアリー・スポーツ"の金字塔ノーチラスシリーズを開発リリース。相次ぐヒットモデルが独立したファミリービジネスの牙城を守った。

そして、時代は1980年台。主役はフィリップ・スターン現名誉会長(1993年社長就任ながらも当時既に実質的経営トップ)。1970年台に瞬く間に大量生産で低価格化が進んだクォーツ・ウォッチは大衆の実用的な生活必需品として広く普及した。さらに日常使いの腕時計の主要素材もそれまでの18金やプラチナ等のプレシャスメタルから安価で丈夫なステンレスへと置き換わった。その一方で死に絶えてしまうかと思われた職人技に裏打ちされた複雑機能や美術工芸品的な希少性のある高級なタイムピース需要の復権の萌芽を、フィリップは世界の各市場から嗅ぎ取っていた。彼は先ずパテック社に運良くストックされていたミニット・リピーターのエボーシュ(ベースムーブメント)を当時まだ現役だった修復部門の時計師達に託し、過去の技術保全をはかった。と同時にその修復技術の継承と同時並行で将来のより近代的な複雑時計製作の為の設計・開発部門を隣接して開設した。前者のレストアのスペシャリスト達はフィリップ・スターンの為にパテック最後のジュー渓谷エボーシュによる伝統的製作手法による最期の2つのミニット・リピーターを組み上げた。そして後者新規部門は来るべきブランド創業150周年を記念し、世界一複雑な時計はどちら?とされた1900年パリ万博に出品された《ルロワ01》とパテック社が1933年グレーブス・ジュニアに販売した"グレーブス・ウォッチ"両者の頂上対決に決着をつける目的でキャリバー89と言う、とてつも無いポケットウォッチが開発・製作された。150周年の記念限定モデルの詳細は省くが、キャリバー89の複雑機能と新規開発された製作ノウハウを踏まえ同時発表されたミニット・リピーター2モデル(Ref.3974,3979)は、その後の今日に連なる現代的ミニット隆盛の原器として重要な足跡を残した。非常にわかり良い例をあげると、それまでのミニットのキャリバーに固有名称は無く、単に13```(リーニュ)とサイズ表示でしか無かった。ジュー渓谷からの供給エボーシュの宿命なのだろう。しかしキャリバー89以降の自社開発の再現性を重視した現代ミニットのキャリバーはR 27を命名始祖として、次にR TO 27・・と一連の合理的名称発展化を辿ってゆく。その後2000年迄はシンプル又は永久カレンダーとの複合モデルがリリースされた。ミレニアムイヤーの2000年には懐中時計のスターキャリバー2000が5ゴングでのウェストミンスター・チャイムを実現し、腕時計では2001年に当時最高に複雑なダブルフェース・ウォッチのスカイムーン・トゥールビヨンRef.5002に初のカセドラルゴングを搭載して発表した。

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今現在に於ける最高に複雑なミニット機能付き腕時計はブランド創業175周年発表のRef.5175(現行カタログRef.6300)である。1989年以降のパテックのミニットコレクション説明は割愛するが、次回にダイジェストで紹介予定の時計機構と合わせて、それらの全貌を知れば知る程にパテック社のミニット・リピーターが他ブランドと比較すべき対象とは言い難い全く別次元の世界観を形成している事を思い知らされる。まあ、何度もでしつこい様ですが詳しくは名著"Minute Repeater"をぜひご覧ください。

本稿は、複数回にするつもりは全く無かった。ミニット・リピーターの歴史もごくアッサリとなぞるだけのつもりが、いつもの悪い癖で書き出せば、アレもコレもと書かずにおられず、何とも自身の断捨離下手を露呈するばかりの長文になってしまった。結局、時計機構そのものと起稿のキッカケであったRef.5178の詳細については次回とさせて頂く事になってしまった。お赦しアレ!
その結果、タイトル中の"18秒"は時計機構に関わる話題なので、内容説明が後日のお楽しみとなり「一体何の事やねん!」となってしまった。でも「そんな事は聞かなくても知っていますョ」と言うお方は、既にかなりのミニット通でいらっしゃいますね。

文責:乾

画像:パテック フィリップ

『Minute Repeater』Jean Philippe Arm, Tomas Lips 共著 2012年『邦題:ミニット・リピーター』小金井良夫 翻訳

パテックの何が売りたいって?聞かれれば、"永久カレンダー搭載手巻クロノグラフ"と"ミニット・リピーター"が個人的には一・二番だ。天文時計の"セレスティアル"や"スカイムーン・トゥールビヨン"も凄い時計なのだけれど愛用する年次カレンダーの月齢さえもテキトーにしか付き合っていないし、昨年末の"ふたご座流星群"や"土星と木星の大接近"も睡魔と寒さにあっさりスルー。天文系は奥が深すぎて入口の扉のノブにさえ手が掛けられない。
レア・ハンドクラフト群も勿論パテックの顔ではあるが美術・工芸品の趣が強いし、意匠毎の好き嫌いも各人各様あり過ぎる。時計道なる主流とは別の道を歩んでいる偉大過ぎる傍流だと思っている。
主流にはさらに、超絶コレクションのグランドマスター・チャイムやトゥールビヨンとミニットの合わせ技や、クロノグラフと永久カレンダーとミニットなんて組み合わせも或るわけだが、過去のアーカイブの分厚さで冒頭の二つが同ブランドの金字塔だと思っている。さらに言えば2015年6月の当店パテックコーナー開設以来、まだ販売が叶っていないながら、近未来的に商売が出来そうな可能性が有りそうなのもこれらであって、さらなる超絶系は販売出来るという予感が今現在は湧きそうにもない。
ところがこの両者にも格の違いがあって、永久カレンダー搭載クロノグラフには定価設定が有って販売用の店頭在庫品としてごく稀にご覧頂ける事もある。それに対してミニット・リピーターは時価の扱いで、厚みのある既存パテックコレクターからの発注をスイスのパテック社が審査し、ほぼ受注生産にて納品されるので店頭に売り物が並ぶ事は無い。ゆえに実機編記事は当店がミニットを受注・納品しなければ書きようが無い。今般機会を得て前者の実機編を綴るチャンスがやってきた。2020年は新型コロナ禍に明け暮れたぶっそうな年だったが、新年早々お年玉よろしく願ってもない幸運がやってきた。
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パテック社が永久カレンダー搭載クロノグラフを最初に発売したのが、スターン兄弟時代である1941年発表のRef.1518で、ムーブメントはバルジュー社製エボーシュを当時パテック社と強固な関係にあったヴィクトラン・ピゲ社が徹底的にチューニングしたもので、そのケース径は35mmしかなかった。現役の5270用自社ムーブメント径が32mmなので機械内部のパーツ密度は当時の方が高かった可能性がある。閏年や昼夜表示が当時は無かった事を差し引いても凄い技術力があったのだろう。現代と較べて工作機械や設備がかなり劣っていた環境で人的な技は上回っていたのかもしれない。
1518の総生産数は281個とされていて、1944年製のSSモデルが11,002,000スイスフランという腕時計落札の世界記録を2016年11月に達成している。このSSモデルは確認されている個体がたったの4個しかない稀少性が当時の日本円(同年平均レート110.39円)にして12億1450万円(ホンマかいな!)というとてつもない高額レコードを生み出したのだ。
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さてさて超人気モデルのノーチラスSS3針5711/1Aは今現在でこそとんでもないプレミア価格が2次マーケットで闊歩しているが、1リファレンス最大年産数1,000本以下というパテック社の社内ルールから推し量って、2006年デビューから14年間で恐らく1万本以上は生産されていると想像すれば、将来のアンティークとしての市場価値は非常に疑わしい気がする。個人的には生産数が限られるプラチナ製の今回の紹介モデル系統を購入したいが、先立つものが無いのと、同じベースキャリバー搭載でプラチナケース製の"素"の手巻クロノグラフを清水の舞台やら、東大寺二月堂などから10回ぐらい飛び降りて愛機にした経緯が有るので、多少持ち重なるという言い訳にて無理やり封印・納得する次第。
皆さん!子供・孫の為なら絶対コッチですよ。そしてゲットしたら一日も早い生産中止を祈る事です。愛機のプラチナクロノRef.5170Pはたった2年でディスコン、あぁ万歳!

閑話休題、アンリ・スターン時代初期の1951年にモデルチェンジしたRef.2499が同じくバルジュー製ムーブメントでリリースされた。生産数は349個。ケース径は37.5mmで、有名な落札記録は1987年製プラチナ素材の現存2点もので、長らくギタリストのエリック・クラプトン氏が愛用していた個体で2012年11月に3,443,000スイスフラン(同年平均レート85円で2億9265万円程)で高額落札されている。尚、残る1点はジュネーブのパテック フィリップ・ミュージアムに所蔵されている。
現名誉会長フィリップ・スターン時代の1986年にはRef.3970がヌーヴェル・レマニア製ムーブメント CH 27-70 Qを搭載してケース径36mmで発表された。2004年迄製造されたが、生産数等の公表はされていない様だ。
2004年にはティエリー・スターンのマネジメントで後継機Ref.5970がムーブメント継続で発表された。ケース径は時代を映して少し大ぶりな40mmとされた。ティエリーが社長就任した2009年にはレマニア社からのムーブメント供給問題もあって同モデルは5年というやや短命で生産中止となった。
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2011年クロノグラフムーブメントの完全自社開発生産プロジェクトの総仕上げとして自社クロノグラフムーブメント第3段の手巻CH 29-535 PS Q搭載のRef.5270がケース径41mmWG素材で発表され現在に至っている。
スイス機械式時計の暗黒時代(1960年頃~1990年頃あくまで自説・・)にあっても生産数量を絞りながらもパテック社は永久カレンダー搭載クロノグラフというグランド・コンプリケーションを作り続けた。ところがミニット・リピーターやワールドタイム、トラベルタイム等の現行ラインの人気シリーズの生産記録がこの期間には殆ど見当たらない。個人的には細々ではあっても途切れずに生産が継続されつづけた事が、パテックにおける永久カレンダー搭載クロノグラフの位置付けを別格なものにしていると思っている。やっぱり、ほっ!欲しい!
2499はケースデザインや文字盤によって世代交代が有り、前述の1518と併せて両方で僅か630個しかない個体群に蘊蓄や夢やロマンなどが詰まった一大世界がある様だ。パテック フィリップ・マガジンの人気ページであるオークションニュースで出場回数が最も多いのがこの2モデルでは無いだろうか。たぶん一番追いかけられているアンティークパテックである様に思える。最初はこの両モデルについて詳細に調べ上げて書き連ねようと思ったが、アンティークやヴィンテージは門外漢なので上記の様な世俗的で気になるトピックスのみをご紹介し、以下は実機を子細に見てゆきたい。尚、永久カレンダー搭載クロノグラフの参考資料(2499以降)としてWeb Chronosの記事が面白い。
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好きな時計の撮影は何故か上手く撮れると言うジンクスは時として崩れる。実機からはオーラの様な凄みが放たれているが画像には全くそれが写し込めていない。特に文字盤カラーのヴィンテージローズっぽい色目がどうにも写ってくれない。現物はもっと発色があってオレンジとサーモンピンクの中間の様な絶妙な色目。因みにPPの公式カタログではダイアルカラーをゴールデン・オパーリンとしているが個人的にはけっこう違和感が有る。その他にも後述するが現物と違うのではないか、と思わせる色絡みの記述が少し有って、ひょっとして撮影した実機が微妙な仕様変更を受けているのかと疑ってしまった。尚、5270のデビュー当時2011年頃のダイアル外周部は外から秒インデックス、分インデックスの2重レール表示サークルだったが、現在は画像の様に秒と分サークルの間にタキメーターが入って3重のサークルとなっている。その為6時位置の日付表示サークルの視認性を確保するために分サークルとタキメーターサークルの一部が削られ、3時から9時までの植字インデックスも非常に小型化された結果、独特の進化を遂げた顔になった。また閏年と昼夜の表示をそれぞれ独立した窓表示とし視認性を向上させているが、これについては後程ムーブメントと絡めて説明したい。
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18金WG製の針と植字のインデックスは、ひとつ前の文字盤全体画像では全てマット調の黒仕立て・・に見える。とこらが直上画像では針に関しては全てがシルバーカラーの鏡面仕上げの様にも見える。公式カタログには確かに針表記としてBlackened leaf-shaped in white goldとあるのでPPJに確認をしたが、全針がブラック処理でありカタログ記載通りの仕様だった。実機を今一度見直したが、見れば見る程まるで白黒判然とせぬミステリアスで magic handとでも呼びたくなってしまった。また4・5時のピラミッド状の極小インデックスの左側面はシルバーっぽく見えるがこれも照明の反射によるものだ。この豆粒の様な小さいブラックインデックスはサイズ的には視認性が悪いが、ゴールデン・オパーリンの独特な文字盤カラーには非常に映えている。
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今回の撮像で一番ましなカットが上の一枚。伝統の逆ぞり(コンケーブ)ベゼルは初代の1518でも採用されている個体があり、2499ではお約束になっていたデザイン。段付きのラグも2499からの流れ。肩パッドの様なウイングレットラグはティエリー監修の5970からの採用。今回の撮影で初めて気づいたのがケースサイドの凸状の段仕様だ。四ヶ所のラグで分断されるがケース全周に渡って施されている。過去どのモデルからの意匠なのか知りたかったが、適当な参考画像が無く不明である。しかしいづれの特徴的意匠もパテックの永久カレンダー搭載クロノグラフのアイコン的デザインであり、ダイヤルの表現が仮に酷似していても他ブランドと見間違う事は無いだろう。
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段付きケースサイドの6時側にはプラチナ製パテックの証である一粒ダイアモンドが埋め込まれている。他モデルに比べて少し大ぶりな気がするが多分気のせいだろう。左側のおへそはムーンフェイズ調整用ボタン。
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背中姿の写りもショボいナァ。ほぼ全身が鏡面仕上げの中でクロノグラフのプッシュボタンの下面(上面も)のサテンフィニッシュが実に良いアクセントなのだが残念な画像からは伝わって来ません。
パテックはクロノグラフ・ムーブメントの自社化に際して、古典的なキャリングアーム(手巻と相性の良い水平クラッチ方式)の芸術的ともいえる見た目の美しさはそのままに数々の工夫を凝らして非常に進化した中身の濃いムーブメントを設計した。例を挙げるとスケルトン面の左半ばにある黒く円盤状のパテックのクロノグラフに特徴的なコラムホイールシャポー(帽子)の偏芯化。またクロノグラフ関連歯車の形状を一般的な三角歯からウルフティース(狼歯)と呼ばれるより噛み合いの良い形状にしたり、その歯数を増やして針飛びの影響を低減させている。また一般的な永久カレンダー機構では、うるう年の2月29日表示の為に4年で一周する48ヶ月カムが組込まれているが、この自社キャリバーでは1年で一周する12ヶ月カムにうるう年調整用の突起を設ける事で2月29日を表示している。
そんなこんな各種新設計がダイアル下部にスペースを生み出し、自社ムーブ以前のモデルでは3時と9時のインダイアルに同軸の針表示としていた閏年表示と24時間表示を4時半と7時半に独立した小窓表示にして、視認性を格段に向上させている。尚、窓表示化によって24時間表示は2色(白と)の昼夜表示に変更されている。
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カレンダー調整用のファンクション・ペンシルの金属部分はPTでは無くWG製。パテックのグランド・コンプリケーションカテゴリーに属す裏スケルトンモデル全て付属するソリッドなノーマルケース・バックは5270Pでは25グラム。ところで25グラムは、昨今のプラチナ地金買取価格は1グラム3,700円前後なので9万円強となる。ちなみに金は6,800円前後なので「なぜプラチナ製時計の方が高いのだ?」と言う疑問が湧く。ところで水は1㎤で1g、24金なら19.32g、プラチナ21.45g、銀10.5g、銅8.5g。この比重だけを較べると同じ体積の時計ケースの原材料費としては金の方が高くなりそうだが、時計の素材としての金は18金なので25%は銅や銀等の低比重の金属が混ざっていて、その比重は15~16g(合金比率で変化する)とされている。残念ながら18金の価格と言うのが良く解らないので乱暴だが6,800×75%=5,100円とし、18金の比重を仮に15.5gとすれば、プラチナは比重比で21.45÷15.5=約1.38倍、価格比では逆に3700÷5100=約0.73倍となる。両者を掛けて1.38×0.73=約1.0となるが実際には25%の銀や銅等の素材代が加わるのでプラチナケースの原材料代は少し18金よりは安価に思われる。ではなぜプラチナ時計は同モデル18金素材よりも高いのか。咋秋に発表された5270の18金YGモデルと較べて本作は約17%弱高額だ。これには両者の加工の難易度が大きく影響していると思われる。18金は非常に扱いが容易だが、プラチナは叩く(鍛造)、切る(切削)、磨く(研磨・仕上げ)と何をするのもやり辛くコストがかかる素材だ。
ところで思いついて手元の2000年のカタログで当時の永久カレンダー搭載クロノグラフRef.3970の両素材の価格比較をするとプラチナが約14%高額だった。そして当時の年平均プラチナ相場はグラムあたり1,963円。純金はたったの1,014円。前述の乱暴な18金換算で75%掛けなら760円。プラチナは約2.6倍もしていた事になる。つじつまが合わない話だ。これでは3970時代は圧倒的にプラチナがお得だった事になってしまう。いやはや困った事になってしまった。迷宮に入り込んで頭を抱えているのは「おまえだけだ!」という話かもしれないが・・
そこで5270Pの総重量を計ってみた。ソリッドの裏蓋も含めて153g。この中にはムーブメントやストラップ、上下のサファイアクリスタル等のケースとバックル以外の重量も含まれるので実際の素材の重さはもっと少ないはずだ。そもそも3970と5270の重さが違う。それらの誤差や様々な無茶を承知で両者を無理やり比較してみた。

名称未設定-1.gif繰り返しになるが、上図は相当に無理があると断ったうえで細かい金額はともかく四捨五入して2千万円クラスの超複雑腕時計の原材料費は、時代による相場変動が有ろうが上代の5%未満かもという事だ。ちなみに表の右端Rhは通常プラチナ製時計やジュエリーの表面にメッキされる白色金属のロジウムの価格。従来はWG製品にもメッキされる事が常であったが、昨今はメッキ無しで良好な白色にWGを仕上げるブランドが増えて来た。ちなみにパテックも大半のWGモデルでロジウムメッキを現在は施していない。このロジウム元々高価な金属だが最近高騰が著しい。非常に産出量が少なく、殆どが車両エンジンの排ガス処理の触媒として利用されている様だ。
実に乱暴な原材料費の分析だが、他素材に較べてプラチナモデルは生産数がかなり少なく、素材特性上の加工費が想像以上なのだろう。高騰するロジウムをメッキする手間も費用もかかるし、小粒ながら6時位置のケースサイドにはダイアも埋め込まねばならぬし・・
少しプラチナウォッチの値付け解析が長くなり、無理やり納得した部分も有るがともかく昔も今も貴重で高価な"パンドラの箱!"という事にしておこう。
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ケース厚は12.4mm。ベースキャリバー CH 29-535 PSの5.35mmに僅か1.65mmしかない永久カレンダー・モジュールを乗せてムーブ厚合計は7mmに仕上がっている。さてこのサイズ感は他ブランドと比較してどうだろうか。

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手巻かつ現行モデルに限って探してみたが、上記以外オーデマピゲやブレゲ等にもありそうだったが見当たらなかった。サイズ的には各ブランドよく似たものだがムーブ径はヴァシュロンに譲るが、その他はパテックが微妙に優っている。ランゲにはパワーリザーブが搭載されるが、24時間表示ないし昼夜表示はパテックしか採用していない。尚、画像も含め検索結果ではほぼパテックの独壇場で、このジャンルに於いての王者の位置付けは盤石である。
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プラチナ製のフォールドオーバークラスプ。カラトラバ十字部分を押さえて装着するが、真上からまっすぐ下に押すのではなく若干斜め(画像では右から左側の方向)に押すのが正解。敢えてまっすぐにしていないのは、カラトラバ十字のロウ付け部4ヶ所が真上からの圧力での抜け落ちる事を予防する為である。尚、斜め度合いにはかなり個体差が有る。同形式のクラスプをご愛用のオーナー様はご参考頂ければ幸いである。
手巻永久カレンダー搭載クロノグラフは1941年のシリーズ生産初代から様々な素材で生産されているが、18金の王道であるイエローゴールドが当然主流であった。5270に於いてはWG、RG、PTの順で発表され主流YGを欠いていたが昨2020年秋に待望のYG素材モデルが追加されたのは喜ばしいニュースだ。

Ref.5270P-001
ケース径:41mm ケース厚:12.4mm ラグ×美錠幅:21×16mm 
防水:3気圧
ケースバリエーション:PTRGYG
文字盤:ゴールデン・オパーリン ブラック仕上げ18金WG植字アラビアインデックス
裏蓋: サファイヤクリスタル・バック(工場出荷時)と通常のソリッド・ケースバックが付属
針:ブラック仕上げの18金WG時分針
ストラップ:シャイニ―(艶有)・チョコレートブラウン手縫い・アリゲーター 
バックル:PTフォールデイング(Fold-over-clasp)
価格:お問い合わせください

Caliber CH 29-535 PS Q:手巻永久カレンダー搭載クロノグラフ
直径:32mm 厚み:7mm 部品点数:456個 石数:33個
パワーリザーブ:最大65時間(クロノグラフ非作動時)最小55時間
テンプ:ジャイロマックス 髭ゼンマイ:ブレゲ巻上ヒゲ
振動数:28,800振動
※古典的なブレゲ巻上げ髭ゼンマイは、現代パテックでは採用が非常に少なく稀少な仕様。単なるノスタルジックかもしれないが、何となく保有する楽しみが有る様な・・ターボじゃなくてキャブレター仕様の自然吸気と言えば良いのか。

PATEK PHILIPPE INTERNATONAL MAGAZINE Vol.Ⅱ No.05 Vol.Ⅲ No.8 Vol.Ⅳ No.03,05
COLLECTING PATEK PHILIPPE WRIST WATCHES Vol.Ⅱ(Osvaldo Patrizzi他)
文責、撮影:乾 画像修正:藤本


バーゼルからは3月26日の火曜日に帰国した。現地3泊4日だが実際には3泊2日?とした方が正しい弾丸ツアー。使い慣れたキャリアKLMでアムステルダム経由バーゼル空港への往路は、オンラインチェックイン時にわずか5万数千円でビジネスにアップグレードで楽々だった。復路も大いに期待したが、これが叶わず昨年末に予約済みのEXIT ROW SHEET(非常口横の離着陸時に客室常務員とお見合いする特別席)。関空からの帰りは、数年前から恒例にしている帰国報告を兼ねた墓参りで大阪市内の菩提寺にワンバウンド。さらに帰路途中の「うなぎの豊川(東花園駅近の本店の方)」で特上うな重を頂き思いっきり″和"モードに切り替えて店に戻った。

予想はしていたが留守中にあっちコッチから、メールや電話で「あのモデルは予約できるか?」「こっちはどうやねん?」かしましくも嬉しいお声がかりを多数頂戴していた。帰国当日は時差ボケひど過ぎで返信しきれず、翌日は定休日ながら出社する羽目になった。ここの処のパテック人気は本当に"うなぎ登り!!"有難いかぎりだ。
長すぎる前置きはこの程度にして、バーゼル訪問記も後日として、とにかくニューモデルをご紹介。

メンズ:時計10型+カフリンクス1型

グランドコンプリケーション

Ref.6300G-010 グランドマスター・チャイム  レア ハンドクラフト


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今年2月に生産中止発表された(黒文字盤)のニューカラーの青文字盤仕様。この手の超絶系やレアハンドクラフトは展示はされているが我々もガラス越しに鑑賞するだけで商談室で手にする事は無い。帰国後6300G新色の画像を取っていない事に気付いたがもう遅いのでPPの提供画像。サボっとるナァ!
ところで下のスペックを書くために調べていたら意外にもこの腕時計がコレクション最厚ではなかった。Ref.6002Gスカイムーン・トゥールビヨンが17.35mmでチャンピンだった。

Ref.6300G-010
ケース径:47.7mm ケース厚:16.07mm 反転機構搭載(リバーシブルウオッチ) 非防水
ケースバリエーション:WGのみ
時刻側文字盤:ブルー・オパーリン ゴールド植字ブレゲ数字インデックス
センターに手仕上げのギヨシェ装飾(クルー・ド・パリ) 
カレンダー側文字盤:ブルー・オパーリン
両面共に18金製文字盤
ストラップ:ブリリアント・ネイビーブルー・アリゲーター
バックル:フォールドオーバー
価格:定価設定はありませんので少しお時間を頂きますが、目安についてはお問い合わせください

Caliber 300 GS AL 36-750 QIS FUS IRM
直径:37mm 厚み:10.7mm 部品点数:1366個 石数:108個
パワーリザーブ:時計機構72時間 チャイム機構30時間
テンプ:ジャイロマックス 髭ゼンマイ:Spiromax®(Silinvar®製)
振動数:25,200振動 手巻きさらに詳細なスペックについては公式HPにて

Ref.5078G-010 ミニットリピーター レアハンドクラフト

5078G_010_600.png※画像はパテックブースのウインドウディスプレイをガラス越しにiPhone7で撮影。撮影環境としては厳しい!
2005年からのロングセラーミニットに新顔が追加された。文字盤は黒本七宝(エナメル加工)をした上からレーザー加工で紋様が浅く刻まれている。過去にこの手法は記憶に無い。あくまで個人的にはあまり好きではないが、簡単には発注のできない激レアモデルである事には間違いない。

なぜか昨年までは無かったRare Handcraftsの表記がカタログに記載されるようになったが、上記2点は人の手でギョーシェマシンやレーザー加工具を操っているとはいえ、純粋な手彫りでは無いし、見た目もレアハンドと言うには個人的に多少違和感が有る。本来のレアハンドは全てがユニークピースのはずで、焼きムラや色ムラ、そして彫りムラ・・とムラッ気が有ってこそな気がする。それぐらいクロワゾネやハンドエングレーブには人の手によるぬくもりが宿っていて、ガラス越しであってもビンビンとそれが伝わって来る。至福のひと時を年に一度味わえる幸せがバーゼル詣の楽しみの一つだ。

Ref.5078G-010
ケース径:38mm ケース厚:110.18mm 非防水
ケースバリエーション:WGのみ
裏蓋:サファイアクリスタルバック ※ノーマルケースバック付属
文字盤:マット仕上げと光沢仕上げの本黒七宝 ゴールド植字 18金製文字盤
ストラップ:ブリリアント・ブラック・アリゲーター
バックル:フォールドオーバー
価格:定価設定はありませんが、少しお時間を頂き目安については問い合わせいたします

Caliber R 27 PS
直径:28mm 厚み:5.05mm 部品点数:342個 石数:39個
パワーリザーブ:最低43-最長48時間
テンプ:ジャイロマックス 髭ゼンマイ:Spiromax®(Silinvar®製)
振動数:21,600振動 
ローター:22金マイクロローター反時計廻り片方向巻上(裏蓋側より)


Ref.5520P-010 アラーム・トラベルタイム
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現行モデルでアラームウオッチは今回黒から青に文字盤チェンジしたグランドマスター・チャイムRef.6300だけである。ここに2番目のアラームウオッチとしてトラベルタイム機構とドッキングさせた非常に実用性の高いタイムピースが完成した。近い将来に実機を撮影したり、記事を作成する可能性が無いとは言わないが簡単では無い気がする。その点では昨年のノーチラス永久カレンダーとは人気の質は異なるだろう。今、書いておかねば・・
この時計で最も感心したのがセーフティ機構と言うか、取扱いでそんなにデリケートにならなくても良い点だ。超絶グランドコンプリのグランドマスター・チャイムは操作上で13のしてはいけないお約束があって、説明する側も聞く側も結構大変らしい。アラームのセットだって15分後とかは無理で最短でも30分以上はあとの時間しかセット不可能だ。まあサイズからしても実際に使用するというよりコレクションして愛でるお宝であろう。それに対してGMT機能+アラームというのは旅のお供としては相性抜群の組合せだ。
言わずもがなデザインは2015年ホワイトゴールドで初出し、昨年ローズゴールドが追加された人気モデルRef.5524に瓜二つだが、ニューモデルに特徴的な4本の角?を説明しよう。時計に向かって左側2本は従来のトラベルタイム操作用プッシュボタン。右側の上はアラームONとOFFをプッシュの度に切り替えて、ON時には12時下の小さ目のベルマーク窓が白くなる。OFFは黒でベルは見えない。このプッシュボタンにもトラベルプッシュ同様に誤作動防止の為に90度回転ロックシステムが採用されている。
文字盤上部にあるチョッと小ぶりなダブルギッシェ窓には特許申請中のアラームセット時間がデジタル表示される。4時位置のリュウズは時計回りでアラーム用ゼンマイを反時計回りで時計本体用のゼンマイを巻き上げる。さらに一段引きでアラームを15分刻みでセットするが、昼夜の判断はダブルギッシェ直下のこれまた小ぶりな●窓が白で昼、夜間はトラベルタイム丸窓同色の紺色となる。尚昼夜は朝と夕いづれも6時で切り替わる。驚く事にこのアラームセットは、例えば1時14分に一分後の1時15分のセットが可能。実際にはセットにもたつくだろうから数分前のセットが現実的だろう。時刻変更と組み合わせて使えばグランドマスター・チャイムには出来ないカップヌードルの3分待ちにだって使える優れものである。防水性もパテックの鳴り物系時計としてはパテック初の3気圧を獲得している。
この鳴り物アラームには時計ケース内側を一周するクラッシックゴングが通常のリピーターの様にムーブ側では無く、ケース側に取り付けられる事で、密閉度の高い防水ケースよる音質の劣化が防がれている。音質はミニットリピーターの2種類の音源の高音側のハンマーがセットされていて35秒から最大40秒間(個体差が有る)でほぼ2秒当たり5回の割でチャイムを打つ。音はゼンマイのトルク変化にかかわらず等間隔で鳴らされる。これはパテックがミニットリピーターで磨き上げてきた遠心ガバナー(フィギュアスケートのスピンで両手を体に密着させるほどに高回転になるのと同原理)技術によるものだ。加えて言えば、高回転するガバナーはどうしても空気摩擦で雑音を発するが、パテックはこれを独自の技術で究極に排除する事で澄み渡ったリピート音を獲得している。この点において他ブランドを圧倒的に凌駕している。と、個人的に思っている。
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※上下画像はいづれもパテックブース外周りの全ムーブメント(圧巻)展示コーナーで搭載するキャリバーNo.をセレクトすると10秒程度流れるデモ動画(下参照)から


通常のシンプルなミニット リピーター ムーブメントの構成部品が大体300個強に対して、Ref.5520のそれは574個というとんでもない構成部品で作り上げられている。それでいて兄弟モデルとも言えるアビエーションスタイルのRef.5524カラトラバ・トラベルタイム(42mm径、10.78mm厚、部品総数294個)とに比較してわずかに大きく収めてきたパテックの技術陣は凄い。採用ケース素材がプラチナでありながらミニットリピーターのエントリーモデルを結構下回る価格がPOR(Price on request)ではなく定価設定されている事も驚異的で、「いつかはパテックの鳴り物を」という方は是非とも検討に値するであろう今年の絶品モデル。

Ref.5520P-010
ケース径:42.2mm ケース厚:11.6mm 防水性:3気圧
ケースバリエーション:PTのみ
裏蓋:サファイアクリスタル・バック ※ノーマルケースバック付属
文字盤:エボニーブラック・ソレイユ 蓄光塗料塗布ゴールド植字アラビアインデックス
ストラップ:マット・ブラック・カーフスキン
バックル:クレヴィス・プロング・ピンバックル
価格:お問い合わせください

Caliber AL 30-660 S C FUS
直径:31mm 厚み:6.6mm 部品点数:574個 石数:52個
パワーリザーブ:最少42時間 最大52時間
テンプ:ジャイロマックス 髭ゼンマイ:Spiromax®(Silinvar®製)
振動数:28,800振動
ローター:21金センターローター反時計廻り片方向巻上(裏蓋側より)

最初は一回で新作をすべて紹介と思っていたが、グランドコンプリケーションだけでふらふらになっとりますので、次回はコンプリケーションからとしたいが、さて一体何回で終われるのやら・・

撮影、文責:乾













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ノーチラスの撮影はいつも簡単。ほんとに早い。ケースとブレスにサテン仕上げが多くて映り込みが非常に少ない。文字盤も微妙にマット調の仕上がりなので何も工夫せずともしっとりと美しく写ってくれる。上の画像も下の少し寄り気味にしてダイアルのグラデーションを少し表現したカットも埃の除去以外は、全く画像修正をしていない。もちろん時計そのものが抜群に美しく、素晴らしいブルーカラーがあってこそなのは言うまでもない。ちなみに画像中央下部の青い奇妙な映り込みはバックルの保護シール。

パテック社の期初は2月からなので今期の初荷が、待ちに待ったノーチラスの永久カレンダーだったのは何とも喜ばしい。本来は昨年のニューモデルなので、前期末の1月末までに入荷予定だった。しかし入荷状況が非常に悪いとはPPJからは聞いていたので、ご注文者様にもしばしのご辛抱をお願いしていた。結果的には10日程度の納期遅れでの入荷となった。
ところが残り物には副が有るようで、このたったの数日の遅れには小さなサプライズが付いてきた。チョッと此処には書けないが、店頭でならお相手次第ではお話出来るかも。
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このモデルの遺伝子は3年前のノーチラス発売40周年に当たる2016年に記念限定でリリースされた2モデル。すなわちWG素材でジャンボサイズが採用されたフライバッククロノグラフRef5976Gとノーマルサイズでプラチナ素材の3針モデルRef.5711/1Pの両モデルと全く同一な文字盤色となっている。上の画像では人気のSSノーチラス5711と5712のブラックブルーダイアル程ではないがブルーの濃淡がハイライトとシャドウに浮いて出ており魅惑的な表情を見せている。
さて複雑機能を備えている事とWGでの同一素材という点で今回の永久カレンダーモデルは、3年前の限定クロノグラフモデルにより近しいと言える。しかしながら決定的に違うのはそのケースサイズである。クロノグラフはセンターローター自動巻機構と垂直クラッチ方式でクロノグラフへトルクを伝達するスタイルが採用された厚み(6.63mm)のあるCal.CH28-520が搭載された。結果ケースの厚みも12.16mmとノーチラスでは最厚に近い厚みが有った。さらに定番のクロノグラフ5980系が機能付きノーチラスの主要サイズである40.5mmに収まっているのに、敢えて44mmというジャンボサイズにアップサイジングされた。かくして312グラムという筋トレにも使えそうなヘビー級の時計が出来上がった。これに対して5740はグランドコンプリケーションにもかかわらず40mm径というシンプル系ノーチラスと同サイズが採用された。さらに驚くのはその厚みで、シリーズ最薄モデルの3針5711にたった0.12mm加えただけの8.42mmに仕上げられている。これは従来の永久カレンダーモデルにも多用されている極薄ベースキャリバーCal.240の貢献が大きい。この22金のマイクロローター方式の名キャリバーの設計は1977年にまで遡り、40年以上もパテックコレクションの主要エンジンとして現役バリバリである。パテックムーブメントには本当に長寿命のものが多い。

このCal.240ベースの永久カレンダームーブは通常ケースサイドにあるコレクターと呼ばれるプッシュボタンで各カレンダーの調整を行う。下図の左が従来のラウンドケースの永久カレンダー。四か所にプッシュボタンA~Dがあるが、C,Dのボタンは曜日と日付ディスクの直近にあってアクセスが非常に良さそうだ。A,Bは対応する日付と月・閏年ディスクから離れてはいるがプッシュボタンを押す方向はムーブメント内側に向かっている。
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右のノーチラスケースではその独特なケース形状から9時位置の曜日調整のCボタン以外の三つのボタンは、ブレスレットの付け根付近にリプレースされている。さらにBボタンの矢印のようにあくまでプッシュ方向はケース面に垂直にせざるを得ないのでムーブメントの外縁辺りしかアクセスしえない。パテックはこれを解決するために直線的にディスクへ直接アクセスするのではなく、途中で方向転換する為の特殊な伝達機構を設けてこの問題を解決したようだ。恐らくこのニューモデルの納期が、遅れ気味になったのはこの調整部分の作りこみに手間と時間を取られたのではないかと思っている。
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左が9時側、右がリューズ側のケースサイドビュー。コレクタープッシュボタン位置とケースとブレスレットの薄さに注目。3針モデルの5711/1Aと見た目に違いが無い。ちなみに同じベースキャリバーCal.240にパワーリザーブとムーンフェイズを乗せた人気モデルの"5712通称プチコン"のケース厚は8.52mm。カムやらレバーやらメカメカしい大道具が詰め込まれたモジュールが組み込まれた永久カレンダーの方が僅かながら0.1mmケース上で薄く仕上がっているのが凄い。さらに言えば現行のパテックフィリップ永久カレンダーラインナップで最薄モデルである。今年生産中止が発表されたクッションケースのRef.5940の8.48mmがそれまでのチャンピオンだったが、僅かながらそれを凌いでいる。スポーティなスタイリングや防水仕様から何となく骨太で厚みもありそうな印象をノーチラスは漂わせているが、ジェンタ考案の耳付き構造ケースは薄いムーブを究極に追い込んで包み込んでしまうようだ。
さて、一昨年(たぶん)迄はパテックの永久カレンダーには通常モデルのコレクションボックスではない少し大きめのワインダー内蔵タイプのボックスが用意されていた。昨年度からはこのボックス型ではない専用の独立したワインダー(SELF-WINDER CYLINDER)が用意されるようになった。
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交流電源ではなく単4リチウム/アルカリ電池を4本内蔵しておりその寿命は2500時間。フルローター自動巻キャリバー324ベースの永久カレンダーでは一日当たり960回転でおよそ2年で電池交換。巻き上げ効率で多少劣るマイクロローターのCal.240とR27ベースの場合は1日に1440回転となっているので、記載は無いが一年半という事になるのか。尚、出荷段階のデフォルト設定は1440回転で、本体のスイッチはスタートのオンオフだけしかできない。324ベースキャリバー用の960回転への設定変更は、スマートフォンにAPPまたはグーグルプレイから"PP Cilinder"のアプリをダウンロードし、ブルートゥースを介して操作することになる。個人的には何で此処だけ急にデジタルチックにするのかが不可解である。単純に切り替えスイッチ一個で済ませば良いのに・・まあ個人所有のスマホには既にアプリはダウンロード済みではあります。いやいや、永久カレンダーは持っていません。あくまでお客様サポート用です。

今回はご購入のお客様のご了解を得て、実機撮影が叶い記事も書けた。本当に感謝しております。ありがとうございました。
尚、かなりの高額商品にも関わらず顧客様のウエイティングがそこそこ有って、ご新規様の新たなご予約は困難な状況です。ご販売を必ずしもお約束出来ないご登録は店頭でのみ受けております。悪しからずご了承ください。

Ref.5740/1Gー001 自動巻永久カレンダー
ケース径:40mm ケース厚:8.42mm(永久カレンダーラインナップ中最薄、2019年2月時点) 
防水:60m 重量:205g
ケースバリエーション:WGのみ 
文字盤: ブルー サンバースト 蓄光塗料塗布のゴールド植字インデックス
バックル:ニュータイプ両観音クラスプ
裏蓋:サファイアクリスタルバック ※ノーマルケースバックは付属しません。
付属:セルフ-ワインダー シリンダ―(自動巻き上げ機)
価格:お問い合わせください

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肉眼だと
並べなければステンレスとの色目の違いが解りづらいが、画像撮影すると結構な黄味を帯びていることがわかる。個人的にはステンレスやプラチナのピュアな銀色と違って温かみがある色だと思っている。永久カレンダー機構は総て文字盤側に組まれているので、スケルトンバックから望むのはCal.240の見慣れた後ろ姿だ。

Caliber 240 Q 

直径:27.5mm 厚み:3.88mm 部品点数:275個 石数:27個 受けの枚数:8枚
パワーリザーブ:最低38-最長48時間
テンプ:ジャイロマックス 髭ゼンマイ:Spiromax®(Silinvar®製)
振動数:21,600振動 
ローター:22金マイクロローター反時計廻り片方向巻上(裏蓋側より)

撮影、文責:乾

インスタグラムアカウントinstagram作成しました。投稿はかなりゆっくりですが・・

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昨年の2016年にパテックは永久カレンダーの代表的モデルを大胆にチェンジした。37.2mm径のRef.5140(上画像)の18金モデル(プラチナ除く)を全て生産終了し、その後継機として1.8mmサイズアップさせたRef.5327(下画像)を発表。スッキリでシンプルな印象の前作に対して、時分針は武骨目なドーフィンから少し色気を感じるリーフハンドになり、アワーインデックスはバーからブレゲアラビックに変更され、ミニットインデックスも少し大振りになって受けるイメージはかなり変わった。特にホワイトゴールドバージョンは前作のあっさりしたシルバーから昨今流行りの青文字盤と同色の青ストラップの採用で完全に別物の新しい時計になっている。
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ケースサイドは現代パテックの最先端デザインが採用されている。すなわちラグにかけての横っ面の大きなえぐり込みとベゼルの逆ぞりである。このデザイン特徴がこの時計の方向性を示しており、パテックを代表する顔でもある永久カレンダーにも現代流の新しい解釈がなされたように思う。サイズの微妙なアップについてはトレンド的に少し遅い気がする方もいらっしゃるかもしれないが、元の37.2mmが充分に小さいので39mmに大き過ぎ感は全くない。厚みもバランスを取るためか約1mm弱厚くなった。
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搭載エンジンは極薄自動巻きマイクロローターのCal.240に永久モジュールを組み込んだ前作Ref.5410と全く同じである。今年40周年を迎えたこの偉大なムーブメントは、ワールドタイムや超絶クラスのセレスティアルにまで本当に幅広く長きに渡って使われている。例年バーゼルのパテックブースで展示される希少なハンドクラフトとして展示されているクロワゾネなどの装飾文字盤モデル(2針カラトラバクンロクタイプ)もほぼ全てこの極薄キャリバーが積まれている。恐らく様々な装飾による文字盤の厚みがクリア出来て秒針も不要なので最適なエンジンなのだろう。

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Ref.5140Gー001 自動巻永久カレンダー
ケース径:39.0mm ケース厚:9.71mm ラグ×美錠幅:19×16mm 
防水:3気圧
ケースバリエーション:WGRGYG 
文字盤: ロイヤルブルー サンバースト ゴールド植字ブレゲ数字インデックス
ストラップ:シャイニー(艶有)ネイビーブルーアリゲーター
バックル:フォールデイング(Fold-over-clasp)
価格:税別 9,520,000円(税込 10,281,600円)2017年8月現在

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Caliber 240 Q 

直径:27.5mm 厚み:3.88mm 部品点数:275個 石数:27個 受けの枚数:8枚
パワーリザーブ:最低38-最長48時間
テンプ:ジャイロマックス 髭ゼンマイ:Spiromax®(Silinvar®製)
振動数:21,600振動 
ローター:22金マイクロローター反時計廻り片方向巻上(裏蓋側より)

PATEK PHILIPPE 公式ページ 

文責:乾

在庫についてはお問い合わせください。



パテック フィリップの公式ホームページがリニューアルされた。ジャパンからの説明によれば1997年にスタートした公式ページは5回の更新がなされ今回がバージョン6。よりスマートフォン寄りで、製品をより魅力的に見せながらお気に入りモデルが検索しやすくなっている。でも残念なのは歴史が詳細な年表スタイルから非常に完結で解りやすい2本の動画(しかも英語字幕)になったことでブログ作成の参考にはしづらくなってしまった。こんな事なら全部ダウンロードしておくべきだった。幸いなことに個々の商品ページのアドレスは変更が無く過去記事のリンク切れにならなくて済んだ。でも技術解説などで一部リンクが当て外れにはなっているようだが全部は未チェック。確かに見やすくなり誰にでも取りつきやすくなった半面、突っ込んだコンテンツが少し整理されてカジュアルになった印象だ。
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さて本日のご紹介は本年新作の中でも人気急上昇の永久カレンダーRef.5320G-001。パテックのシンプル系永久カレンダー(クロノグラフ等の追加機能無し)の代表作は極薄自動巻キャリバー240ベースの三つ目タイプ。そしてフルローター自動巻キャリバー324にレトログレードデイトを組み合わせたタイプの二つ。5320Gはこのいづれでもない新規の顔ながらダブルギッシェの年次カレンダーRef.5396にはソックリ。でも年次カレンダーが無かった1960年までの機械式時計黄金時代におけるパテックの永久カレンダーと言えばこの顔に決まっていた(下画像Ref.1526)。だから凄く既視感があるしリリースにも″コンテンポラリー・ビンテージ・スタイル"と表現されている。ただ当時は無かった7時半にある昼夜表示窓や4時半のうるう年表示の便利機能が盛り込まれている。
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そしてこの新製品の特長的なラグは1945年製作のRef.2405(下画像)が参考にされた。
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ポリッシャー泣かせの3次元なラグ形状である。
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立体的なボックス型のサファイアクリスタルは文字盤周辺に全くひずみが見られない。現代ならではの高度な加工がなされたクリスタルを特殊な手法でケースにはめ込む事で完璧な視認性を確保したと聞いた。アラビアインデックスもいにしえのRef.1526同様に立体的かつ正対書体の植字タイプで蓄光塗料を塗り込んで実用性を高めている。暖か味のあるクリーム色文字盤はラッカー仕様ながら記憶にない新色で今年の新作ミニットリピーターRef.50785178のエナメル仕様のクリームと酷似している。インデックスを含めダイアルはビンテージ感を非常に意識したカラーリングとなっている。

さて、このモデルの最大の魅力はその価格設定ではないかと思う。税別902万円(税込9,741,600円)はパテック永久カレンダー中で最もこなれた価格である。現行モデルではRef.5139Gの税別926万円より20万以上お求めやすい。共通のCal.324ベースのレトログラード永久Ref.5496Rが約20万高の税別927万なのだけれどもオーソドックスなクンロクケース。それに対して5320の凝ったラグを持つケースは横から見ても充分に高級感があるし文字盤・サファイアクリスタルも完成度が高い。少々不思議なこの値付け、そりゃ人気モデルになりますよ!
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Ref.5320Gー001 自動巻永久カレンダー
ケース径:40mm ケース厚:11.13mm ラグ×美錠幅:20×16mm 
防水:3気圧
ケースバリエーション:WGのみ 
文字盤: クリーム ラッカー 蓄光塗料塗布ゴールド植字インデックス
ストラップ:シャイニー(艶有)チョコレートブラウンアリゲーター
バックル:フォールデイング(Fold-over-clasp)
価格:税別 9,020,000円(税込 9,741,600円)2017年8月現在

Caliber 324 S Q

直径:32mm 厚み:4.97mm 部品点数:367個 石数:29個
パワーリザーブ:最低35時間~最大45時間
テンプ:ジャイロマックス 髭ゼンマイ:Spiromax®(Silinvar®製)
振動数:28,800振動
ローター:21金ローター反時計廻り片方向巻上(裏蓋側より)

パテック社の製品リリース
PATEK PHILIPPE 公式ページ

文責:乾



店頭に中々在庫が持てないグランドコンプリケーションクラス。皆さんご存知だとは思うけれど時価(価格表でPrice on request表示のもの)となっているモデルは100%客注対応でほぼ受注生産に近く、サンプルすら日本には常備されていない。価格設定されているモデルでも生産数が極端に少なくて人気の高い数モデルについては、ある程度の購買実績を積み上げて、手続きを経ないと購入できない。例えばワールドタイムクロワゾネモデルRef.5131や永久カレンダースプリットセコンドクロノグラフRef.5204などがそれにあたり、もちろん在庫することは不可能だ。これら特別なタイムピースは撮影のチャンスもまず無いし、手に取ってじっくり見る事すら叶わないので、掘り下げたご紹介も難しい。このように閉鎖的とも見える現在の販売手法には批判的なご意見もあるが、あくまで個人的とお断りして色んな意味で″仕方がない"と思う部分と下駄履き絶対お断りというメゾン系ブランドが時計業界に一つ位はあっても良いように思っている。
結局グラコンで在庫したり紹介出来たりするのは永久カレンダーか今回紹介の永久カレンダークロノグラフあたりに限られてしまう。それでも前者が1,000万円前後、後者は約1800万円なので気軽にストックは出来る代物ではない。今回も展示会にやってきたサンプルをドタバタと撮影した。
以前にも書いたがパテックを代表する顔はたくさんあるが、手巻きの永久カレンダークロノグラフもその一つだと思う。パテック フィリップ マガジン各号のオークションニュースでは常連のように出品が多い。

まずシリーズ生産された最初の永久カレンダークロノグラフモデルは1941年~1951年(たぶん?)に281個製作されたRef.1518。画像は1943年製作のタイムピースで極めて希少性が高くイエローゴールドの時計としてのオークションレコードCHF6,259,000(=約7億千3百万円余り)で2010年にジュネーブで落札されている。
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ちなみに昨年11月に腕時計の世界最高落札価格は更新されている。これまたRef.1518(下)で、わずか4個体しか確認されていないステンレススチール製である。価格はCHF11,002,000(約12億5400万円余り)ヴィンテージウオッチの価値においては、希少性が材質や機能性をしばしば凌駕するようだ。尚、それまでのレコードホルダーはやはりパテック。ただしヴィンテージではなく2015年にオンリーウォッチ・チャリティー・オークションの為に1点製作されたやはりステンレス仕様のRef.5016Aだった。パテックだけがパテックを超えてゆく状態はいつまで続くのやら・・
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1951年以降は1518と同じレマニアのキャリバー13'''を搭載したRef.2499が登場した。インデックスはアラビア数字からバーになり、6時のカレンダーサークルが力強く大き目になった。2499は85年まで34年間の長きにわたって製作された。生産終了時には記念のプラチナ仕様が2個だけ1987年に製作され、1989年にパテック フィリップ創業150周年にオークション出品された。当時の落札価格がCHF24万(=約2,736万円)だったが2012年に14倍の価格CHF344万(=3億9千万円強)で落札されたのは著名なロックギタリストのエリック・クラプトンが長期間所有していたからである。尚、残るもう一つのプラチナモデルはパテック社のミュージアムピースとして収蔵されている。

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1986年からはレマニアの新しいクロノグラフキャリバーCH27-70系を採用したRef.3970がスタートした。それまでのCal.13'''と異なりうるう年表示と24時間表示がインダイアルに追加された。そんなに古いものではないのに画像が荒くて恐縮です。
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Ref.3970は18年間のロングセラーの後、2004年に後継機種Ref.5970にバトンを渡す。キャリバーCH27-70Qはヌーベルレマニアエボーシュの最後のエンジンとしてそのまま引き継がれたが、ケース形状についてはクラシカルとモダンの融合への挑戦がなされた。まずウイングレットと呼ばれる翼を模した段差付きのラグ形状は1942年発表のRef.1561からインスパイアされたとある。またクロノグラフプッシャー形状も華奢なラウンドから1518時代に採用が多かった少し武骨で大振りなスクエアボタンとなった。ボタン上下面のサテン仕上げが実に渋い。それらとは裏腹に内反りしたベゼルは知る限り2000年代になってからチャレンジングなモデルに共通して採用されている現代パテックの特徴的なデザインである。
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そして2011年、今回紹介のRef. 5270がようやく登場となる。このモデルチェンジではウイングレットラグやコンケーブベゼル等のケースデザインが5970からほぼ継承されたが、エンジンはパテック初の完全自社設計製造のマニュファクチュール度100%の新開発手巻きクロノグラフCal.CH29-535をベースとして永久カレンダーモジュールが組み込まれて搭載された。新キャリバーはポストレマニア時代を背負う自社開発クロノキャリバー3部作の最終発表の集大成キャリバーとして高い完成度を有していると思われる。エンジン変更に伴って文字盤には若干の変更が加えらている。3時と9時のインダイアルがセンター針と横一線ではなくて少し6時側方向に下がった事で、4時のインデックスが歴代モデルで採用されていた短めのバーからピラミッドになった。うるう年が3時の指針から4時半の小窓の数字表示となり、24時間表示も9時の指針表示では無く単純な昼夜表示として7時半の小ぶりな窓表示に置き換えられた。結果的にインダイアルがすっきりし、視認性が格段に向上した。
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現行のRef.5270の詳細。まずウイングレットラグ。サンプルなので小キズや埃はご勘弁と言う事で・・
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サイドは当然それなりの貫禄。と言っても12.4mmはマザーキャリバーCH29-535PSを積んだRef. 5170(10.9mm厚)に加えること1.5mmで、ムーブメントの厚さ比較でも1.65mm差となっている。ただラグも含めてグラマラスなケースデザインからは数字以上の存在感を受ける。
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スクリュー(捻じ込み)構造のトランスペアレンシイのケースバックからは機械式時計一番の男前?正統派手巻きクロノグラフが堪能できる。各プッシャーと連動して正確無比に動作するレバー類のパフォーマンスは見飽きる事が無い。
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ご多聞に漏れずRef. 2499時代に迎えたスイス機械式時計暗黒時代1960年~80年代前半にはかなり生産数が絞られたようだが、1941年以来絶えることなく生産され続けているパテックの永久カレンダークロノグラフ。日常的に愛用されるシンプルな時刻表示機能に特化した腕時計がその時々の時代背景で様々な表情の流行り廃りを経験するのとは対照的に、贅沢かつ趣味性が強く蒐集指向もある為なのか殆ど顔が変わらずに脈々と作り続けられている永久カレンダークロノはやっぱり安心してお勧めできるパテック フィリップの代表格だと思う。

Ref.5270R-001

ケース径:41mm ケース厚:12.4mm ラグ×美錠幅:21×16mm 
防水:3気圧
ケースバリエーション:RGのみ
文字盤:シルバーリィ オパーリン、ゴールド植字バーインデックス
ストラップ:手縫いマット(艶無)・ダークブラウン・アリゲーター 
バックル:フォールデイング(Fold-over-clasp)
価格:税別 17,920,000円(税込 19,353,600円)2017年8月現在

Caliber CH 29-535 PS Q:手巻クロノグラフ永久カレンダームーブメント
瞬時運針式30分計、昼夜表示、コラムホイール搭載
直径:32mm 厚み:7mm 部品点数:456個 石数:33個 
パワーリザーブ:最低65時間(クロノグラフ非作動時)クロノグラフ作動中は58時間
テンプ:ジャイロマックス 髭ゼンマイ:ブレゲ巻上ヒゲ
振動数:28,800振動

PATEK PHILIPPE 公式ページ 

2017年9月12日現在 ご予約対応となります。

文責:乾

Patek Philippe Internaional Magazine Vol.Ⅱ No.5 P.66 VolⅢ No.3 P.68 No.8 P.70 Vol.Ⅳ No.3 P.68
Wristwataches Martin Huber & Alan Banbery P.305

時計選びで最も重要なのは、見かけだと思っている。そして人から見られた時の見え感も大事ながら自分自身で見る腕元上での見え方が何よりも大事だと思う。十年、二十年と見続けても惚れ惚れする見かけが維持されていると想像出来るかにかかっている。もちろん昨今、幾多のブランドから"今の一瞬"を切り取った尖がったトレンディなタイムピースも発表されている。たった数年後でさえ陳腐化するリスクと背中合わせで腕にする勇気・豪気が無ければ絶対に手が出せない飛び道具。車に例えればランボルギーニかブガッティ。良くも悪くも刹那を生きる潔さがたまらない魅力なんだろうと思う。
パテック フィリップは対極にある。これは良し悪しでなくブランドはそれぞれの哲学を貫こうとしているだけだ。ただパテックが他ブランドと比べた時に高次元でそれを実現できている最大の理由は"メゾン"であることに尽きる。それも形だけの傀儡メゾンではなく100%自己ファミリー資本というバックボーンが無ければ実現不可能だろう。

今回の紹介モデルはパテックを代表する機能である永久カレンダー。既に同じ機械を搭載したRef.5940J、Ref.5140Pを紹介済みなので画像中心のご紹介。で、なんでしつこくこのモデルか?単純に見かけ。さすがに容易に買える価格帯ではないのだが、個人的には現行パテック永久ラインナップにあって一押しの男前モデル。2番目は2016新作として発表されたRef.5140P-017。ただし気を付けないといけないのはデザインに多少の緩さがあるのがパテックの良さ、それがT,P,O,をあまり選ばず着けられる長所に繋がっている。
ところが時計は男前になればなるほどドレスコードが正装に寄りがちで巾も狭くなって来る。特徴的な"Clous de Paris"(クルドパリ 仏語 意:パリの爪または鋲釘、英語表現では"hobnail pattern(ホブネイルパターン)"で靴底用の鋲釘文様のベゼル装飾を有するファミリー(Ref.5116、5119、5120)には全てその傾向があるのだが、なぜか特にこのRef.5139に強く感じてしまう。三つ目玉のコンプリ顔なのでドレス系と言うよりゼンマイ系でジャケパンぐらいは許して貰いたいが、シックかつドレッシイな濃色系スーツと合わせて夕刻以降のデートや会食にお供をさせたい一本だ。時計の格からしてスーツは最低でエルメネジルド ゼニア、本来はジョルジョ アルマーニかブリオーニクラスを合わせるのかナァ!
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銘キャリバーCal.240に組み込まれた永久カレンダーモジュールは現代パテックの黄金コンビで、ともかく薄い仕上がりを実現している。
ちょうど9時位置には曜日調整ボタンがある。
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そして12時側には左から月(閏年サイクルも含めて)調整ボタン、右側は日付調整となる。
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反対の6時側センターのボタンでムーンフェイズ(月齢)を調整する。
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以前にも書いたが欧米での大振りモデルへの要望から、今年は長らく永久カレンダーの主役定番モデルであったRef.5140(径37.2mm)がプラチナ以外全て生産中止になり、少し大ぶりな後継定番としてRef.5327(径39.0mm)が発表された。Ref.5139はその中間の38mm径で、個人的にはこのサイズ感が大層気に入っている。尚価格はRef.5140G(生産中止)と同じで新作Ref.5327Gより税別で30万弱お手頃となっている。
初出は2008年に白文字盤でデビューしたが、1年で生産中止となり現行の黒ダイアルに切り替わって既に7年はロングセラーな二枚目モデルである。

Ref.5139Gー010 自動巻永久カレンダー
ケース径:38.0mm ケース厚:8.7mm ラグ×美錠幅:20×16mm 
防水:3気圧
ケースバリエーション:WGのみ 
文字盤: ブラック ラッカー ゴールド植字インデックス
ストラップ:シャイニー(艶有)ブラックアリゲーター
バックル:フォールデイング(Fold-over-clasp)
価格:税別 9,540,000円(税込 10,303,200円)2015年7月現在

Caliber 240 Q 

直径:27.5mm 厚み:3.88mm 部品点数:275個 石数:27個 受けの枚数:8枚
パワーリザーブ:最低38-最長48時間
テンプ:ジャイロマックス 髭ゼンマイ:Spiromax®(Silinvar®製)
振動数:21,600振動 
ローター:22金マイクロローター反時計廻り片方向巻上(裏蓋側より)
尚、スピロマックス等のパテック フィリップの革新的素材についてはコチラから
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上が1985年製、下は41年後のCal.240。一見殆ど変化無し、原設計完成度の高さに脱帽!
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PATEK PHILIPPE 公式ページ 

文責:乾

2016年8月5日現在
Ref.5139G-010 店頭在庫有ります
(パテック フィリップ在庫管理担当 岡田)

『第一回パテック フィリップ展』のご案内
お盆真最中8月11日(木・山の日)~15日(月)に当店初の『パテック フィリップ展』を開催いたします。
展示会期間中の土日13日14日の両日午後2時から「パテックフィリップに夢中」と題してライブトークイベントを実施いたします。正規輸入元のパテック フィリップ ジャパンからの特別ゲストを迎えて、突っ込みどころ満載のパテック フィリップの謎に乾はじめ当店スタッフががぶり寄ってゆきます。参加ご希望の場合は席(※本音は寄集めの椅子の都合で)に限りがありますので案内状送付希望を下記からいただき申し込み用紙にお名前等ご記入の上、FAX・お電話にてお申込み下さい。
また今年度の新製品はパテック社の方針で展示が出来ません。ただ事前予約いただければ個別にご紹介が可能です。詳しくはコチラ『パテック フィリップ展』からご覧ください。

永久カレンダーはパテック フィリップの定番商品である。まあ他にも定番は一杯有りすぎるが・・
昨今は年次カレンダーがその人気の高まりと共にカレンダー系看板商品の座を脅かそうとしている。そんな中で2016年の今年、永久カレンダーラインナップに大胆な見直しが行われた。
主力のラウンドケースRef.5140とクッションケースのRef.5940で5型整理、1型追加。日付がレトログラードするセンターセコンドタイプ6型の内、2型が文字盤変更や素材変更を受けた。ニューフェースとして少し大ぶりでモダンなラウンドケースのRef.5327が3色発表され、昨年14型あった永久カレンダー(他の複雑機構が無い)は、選手交代しながら今年度13モデルとなった。他の高級ブランドでは一番多いAPでも7モデル、バシュロンやブレゲ等それ以外では数モデルしか無い。パテックの充実ぶりは突出している。
バーゼル商談時のヒアリングでは欧米は新しい39mm径の新型5327が人気で、日本は逆に小ぶりな従来の37.2mmのRef.5140及び5940の大量ディスコンが惜しまれ、貴重なプラチナモデルの追加ダイアルが好評だったらしい。確かにチャコールグレーサンバーストと命名された新文字盤には得も言われぬ魅力を感じた。

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しかし、首の皮一枚で残留した上のRef.5140P-013エボニーブラックのダイヤモデルには捨てがたい魅力がある。まずパテックはレディスも含めてコレクション全体でダイヤインデックスが殆ど無い。メンズに限れば2型(52975298)あるがどちらもベゼルがダイヤであり、純粋なインデックスダイヤのみは、意外な事に2014年発表のこのモデルだけである。
で、この10個のプリンセスダイヤと12時位置のバゲットダイヤ2個のお値段がジェムセット代含めて、計算上でたったの税込216,000円なのである。パテックのダイヤモンドはクラリティーがIF(インターナリィフローレス:内部無傷)以上でカラーはG以上、カットもベリーグッド以上に厳選されているので、これはお買い得と言わざるを得ない。小ぶりなケース直径は女性の腕にも充分乗っかるだろう。

永久カレンダーに関しては既に一度Ref.5940で取り上げ、その輝かしい生い立ち始め一通り紹介済みであるので、本稿ではその際紹介が手薄であった1930年代から現代に至る中での記念碑的タイムピースに関して文字盤デザインを切り口として見てゆきたい。
まず最初が1937年発表のRef.96(No.860 182:下画像)は日付が一箇月でレトログラードする機構を備えており現行の永久ラインナップにも多数この顔があるが、クンロクの系譜に連なるRef.5496(2011年にプラチナで発表)がその遺伝子を最も強く受け継いでいる。
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そしてパテックの永久カレンダー腕時計史上の最も代表的な顔であるダブルギッシェスタイルの元祖が1941年誕生のRef.1526(下画像)である。このモデルはパテックで初めて"シリーズ生産"された永久カレンダーでもある。この顔は後述の1985年に永久カレンダーの新時代を切り開く事になるRef.3940が登場するまで、クォーツショックによるスイス機械式時計の暗黒時代をも乗り越えて40年以上も採用され続けるアイコニックフェースとなった。その貴重なデザイン遺伝子は実用カレンダーの大黒柱である年次カレンダーのRef.5396に脈々と息づいている。尚、初代Ref.1526はブレゲ数字ではない正対書体のアラビア数字インデックスが12,2,4,8,10時に植字されており、今年5396にブレゲインデックスで文字盤追加されたRGWGの原点とも取れるが、両者の印象はかなり異なる。
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スイスの高級機械式時計復活の狼煙とも言える極薄型自動巻き永久カレンダーが1985年発表のRef.3940である。搭載キャリバーは1977年にわずか6ヶ月で開発された22金偏心マイクロローター採用のベースムーブ厚2.53mmのCal.240。
ダイアルデザインはクラシックテイストながら意外にも過去のアーカイブに依らない全く新しいオリジナルフェースが与えられた。すなわち3時位置に同軸で月と閏年、9時に同軸の曜日と24時間表示、そして6時位置には日付に加えて月齢がまとめられた三つ目玉のレイアウト。キャリバーの特性上5時のオフセット位置にしか配置出来ない秒針は省略された。
ところでチューリッヒのブランドブティックが立ち並ぶショッピングストリート"バーンホーフシュトラーセ(駅前通り)"には1760年創業の老舗時計店の"BEYER"がある。同店は1985年に創業225年(実に中途半端なアニバーサリー)の記念限定としてRef.3940の初出荷分25ピースをダブルネームに加えてパテックでは極めて稀な限定シリアルが文字盤にプリントされたユニークピースを販売している(Mov.No.770001-770025)。ちなみにNo.1(下画像)はチューリッヒの同店地下にある時計博物館に展示されている。このミュージアムは時計好きとりわけパテック愛好家には実に楽しい施設である。またコンパクトなスペースに日時計や水時計といった原始的タイムピースから機械式時計はもちろん現代の電気的時計まで順を追って展示されており初心者も楽しめるので同地を訪れられる際には是非覗かれる事をお勧めする。
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脱線から話を戻す。20年の長きに渡って製造されたRef.3940も2006年に現行のRef.5140へと移行された。ケース径は37.2mmと1.2mm拡大されたがダイアルデザインはほぼ踏襲された。これ以降Cal.240+永久カレンダーの組み合わせで派生兄弟姉妹モデルとしてクルドパリRef.5139(2008年)、クッション5940とレディス7140(共に2012年)がラインナップされた。今やパテックを代表するこの顔は今年新たにRef.5327が発表されたことから見て、鉄板顔として永久?に継続されそうだ。
昨今、有名無名を問わずETA社のエボーシュ供給制限対策、或いはそれに乗じたかのドサクサ作戦感もある自称マニュファクチュールの乱立で、様々な新しいムーブメントの百出状況にある。そんな中パテックは手巻Cal.215と極薄自動巻Cal.240に1985年から40年以上の熟成を重ねており、ダイアルデザインも本当に長寿命である。保有コレクションを陳腐化させないこのポリシーが王道であるが、歴史と重厚すぎるブランドのアーカイブを有するパテックの様なメゾンでなければその実現は困難だ。
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パテックのプラチナモデルはWGや時にはSSと見分けがつくように通常ケースの6時位置に小粒なラウンドダイヤモンドが埋められている。6時側の理由は着用しているオーナーからは視認出来ても対面する相手には見せないという奥ゆかしい紳士的な配慮からだ。ところが上画像の様にこの永久プラチナでは6時位置にムーンフェイズ調整コレクターが有ってダイヤが見当たらない。
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お恥ずかしい事に撮影するまで気付かなかったが、ケース12時側のセンターにダイア、その左には日付、右には月の各調整コレクターが配置されている。まあ文字盤のダイアを隠せないのでどちら側でも良いのだろうが・・・
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そして薄さが際立つ9時側ケースサイドセンターには曜日調整コレクターが陣取っている。

Ref.5140Pー013 自動巻永久カレンダー
ケース径:37.2mm ケース厚:8.8mm ラグ×美錠幅:19×16mm 
防水:3気圧
ケースバリエーション:PTのみ(別文字盤有) 
文字盤: エボニー ブラック サンバースト 2個のバゲットカットと10個のプリンセスカットのダイヤモンドインデックス
ストラップ:シャイニー(艶有)ブラックアリゲーター
バックル:フォールデイング(Fold-over-clasp)
裏蓋:サファイアクリスタルバックにて出荷 ノーマルケースバック付属
価格:税別 12,100,000円(税込 13,068,000円)2015年7月現在

Caliber 240 Q 

直径:27.5mm 厚み:3.88mm 部品点数:275個 石数:27個 受けの枚数:8枚
パワーリザーブ:最低38-最長48時間
テンプ:ジャイロマックス 髭ゼンマイ:Spiromax®(Silinvar®製)
振動数:21,600振動 
ローター:22金マイクロローター反時計廻り片方向巻上(裏蓋側より)
尚、スピロマックス等のパテック フィリップの革新的素材についてはコチラから
cal.240-1985.jpg
上が1985年製、下は41年後のCal.240。一見殆ど変化無し、原設計完成度の高さに脱帽!
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ビブロ実測値(精度・振り角・ビートエラー)
文字盤上:+6~+9 298°~305° 0.0
 3時下:-3~+1 252°~263° 0.1

PATEK PHILIPPE 公式ページ 

文責:乾

Patek Philippe Internaional Magazine VolⅢ No.1 及び12
PATEK PHILIPPE GENEVE(M.HUBER & A. BANBERY)P.281、283、292、294

『第一回パテック フィリップ展』のご案内
だいぶ先になりますが今夏のお盆真最中8月11日(木・山の日)~15日(月)に当店初の『パテック フィリップ展』を実施いたします。カサブランカ流の"何か"が違う展示会イベントに出来ないかと日々無い知恵をしぼっております。是非ご期待下さい。詳細等が詰まりましたら順次ご案内申し上げます。

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